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シナリオ0 旗揚げ 2

タイトル通りの事がやっと始まる。

――都市ダイクレー――



 先日まで魔王軍に包囲され陥落寸前だったダイクレー市は、上を下への騒ぎの只中にあった。

 もはやここまでと全住民が観念していたのに急に魔王軍が逃げ去り、直後に人類勝利・魔王軍壊滅の吉報が届いたのである。全住民が舞い上がるのも当然の事。

 しかし戦場の只中にあったので、死傷者は数知れず、破壊された家屋物品は無数、近郊の農地はほぼ全滅。都市機能の大半は機能しなくなっており、失業者は佃煮にしても余るほど。日常生活を送るだけでも大変な有様なのだ。

 地獄の中で急に春に来られた街。それがダイクレーだった。



――商店街の大通り――



 石畳が半壊した道を巨大ロボ……ケイオス・ウォリアーが歩く。それは人の気配の無い建物の庭に入り、膝をついた。その鳩尾当たりの装甲が開き、ユキヒロが縄梯子で降りてきた。

 彼は真っすぐ建物に向かい、片方が外れたスイングドアを潜る。


「ごめんください」


 返事は無い。

 溜息一つ、ユキヒロは奥に入った。イムブック冒険者ギルド・ダイクレー支部の中へ。



 この世界にも冒険者ギルドはある。規模も運営も各地でまちまちではあるが。

 イムブック国の冒険者ギルドは様々な商工業ギルドの連合が運営する民間組織で、本部を首都に置き、他の都市に支部を出していた。

 しかしここダイクレー支部は、魔王軍の侵攻に対して国軍に全面的に協力した結果、支部長を始めとする有力なメンバーが軒並み討ち死にし、事実上壊滅してしまったのである。この都市が持ち堪えた一因になったので意味のある犠牲だが、このままでは当分再開できないと判断された。

 よって責任を取る形で、しばらく国が運営する事になったのである。そのために新支部長に任命されたのがユキヒロというわけだ。



(誰もいない……本部から他の職員が派遣されてくるまで待つしかないかな)


 荒れ果てた建物の中でもう一度溜息をつくユキヒロ。しかし――


「うおっ!?」


 不意の事に驚く。片隅に倒れている人影があったのだ。

 緑の髪の少女だ。この世界でも初めて見る機械の鎧を纏い、頭にはヘッドホンのような装備をつけ、傍らにはライフル銃が転がっている。


(行き倒れ?)


 訝しむユキヒロの前で、少女は目をあけた。緑色の瞳でユキヒロを見つめる。


「あなたは魔王軍ですか?」


 静かに訊いてくる少女。


「あ、いえ、違います」


 慌てて否定するユキヒロ。


「そうですか。ではお逃げください」


 そう言うと少女はまたゴロリと横たわった。


「ちょ、ちょっと!? 君は一体誰だ?」


 慌ててユキヒロが尋ねると、少女はまた身を起こした。


「ギルドマスターの所有するサボディオイド、名はディアスポラ。最後に受けた指令はこの支部に魔王軍が攻め込んで来たら力の限り撃退せよ、という物です。エネルギー節約のため、来るまでは眠らせてもらいます」


 そう言ってまた寝転ぼうとする。


「たんま、たんま!」


 ユキヒロは慌てて少女――ディアスポラの手を引っ張った。



――かくかくしかじか――



「なるほど。この街の次のギルドマスターはあなたなのですね」


 ユキヒロの説明を聞き、ディアスポラは納得したようだった。

 またユキヒロも彼女が何者かを教えてもらえた。


 サボディオイド……この世界の魔術と錬金術とバイオテクノロジーで造られた人造人間。用途に応じた能力・技能を持ち、主人をサポートする存在だという。

 ディアスポラはこのギルドの前マスターに仕え、職員の一人として働いていたというのだ。


「俺を手伝ってくれるならありがたいけど……」


 ユキヒロは彼女にそう言ってみた。だが人造人間の所有権を移す方法など知らないので、相手の意思に任せるしかない。

 果たしてディアスポラは?


「ではそうしましょう。魔王軍が壊滅したなら指令の実行は不可能になりましたし、前主人が戻ってこないなら次の指令も出ませんしね」


 淡々とそう言った。


「わ、割と平気なんだな」


 ユキヒロは動じる様子の無いディアスポラに驚くが、彼女は小さく頷く。


「まぁサボディオイドもピンキリでして。高価な高性能機なら人間並みの感情もありますが、私はお求め易さが売りの廉価品ですから、感情面が不十分でも仕方ないですね。ご不満ならお金をかければいつでも性能は強化できますよ」

(自分で言うの、平気なんだ……)


 自ら安物を主張するディアスポラにユキヒロはまた驚くばかりだ。本人の言う通り、感情面が欠けているのだろう。



 その時……ヨタヨタと何かが建物内に入って来た。

 見れば子汚い犬である。貧相な面構えによれよれの毛並みの、老いた野良犬だった。

 人がいるのにその犬は平気で入ってくる。そしてそれを見て、床に座っていたディアスポラが急に立ち上がった。


「タロ! 生きていたのね! タロオォオォ……!」


 涙と鼻水を流し放題、ディアスポラは子汚い犬に駆け寄ってひしと抱き締める。そんな彼女の腕の中で、犬は「むふーん」と何一つ可愛くない声を漏らした。


「ええ……主人や他の職員がいなくなっても平気なのに、犬にはそれなのか……」


 思わず呟いたユキヒロを、ディアスポラはキッときつい目で見上げる。


「新主人は犬猫が嫌いですか!」

「どっちと言うわけでも……えっ猫もいるの?」


 思わず聞き返したユキヒロだが、ディアスポラはハッと気づく。


「そうです! ミイも探さないと!」

「あの、ギルドの仕事……」

「その一つ目が迷子のマスコット探しなのです!」


 おずおずと聞くユキヒロに対し、歯を剥き出しにして訴えるディアスポラ。


「感情、欠けてるんじゃなかったのか……」

「欠けているという事は有る部分は有るという事です!」


 犬猫好きに驚くユキヒロに対し、目をギラつかせて訴えるディアスポラ。

 その腕の中で、駄犬は長い胴をぶらぶらさせていた。


 その日のうちに猫は見つかったので、ギルドの仕事は翌日から再開できた。

 結果オーライ。



(ディアスポラ・戦闘用装備)

挿絵(By みてみん)

動物好きに悪い奴はいないと動物好きは言うので今回登場したキャラクターは良い奴の筈なんだ。

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