インターミッション2 新たな剣 2
主人公が新たな武器を手に入れるパワーアップ回だ。
――ギルド裏庭の片隅――
両断された巻藁がいくつも転がる。切り口は鮮やか、藁にも芯の竹にも乱れは見えない。
それら全て、ユキヒロが魔剣レイクドーターでの試し切りに使った物だった。
剣を手にするユキヒロの側に粒子が集まったかと思うと、長い銀髪と碧眼をもつレイの姿になる。彼女は胸をはった。
「どうよ! これが一般商店お断りな魔剣の威力よ」
曇りなき刀身を見つめて頷くユキヒロ。
「なるほど。切れ味もさる事ながら、長さと重さのバランスもいい」
「でしょでしょ! なんせ由緒正しい剣の一族だもの」
とても嬉しそうに頷くレイ。
その言葉にユキヒロは驚いた。
「剣に一族とかあるんだ」
レイは得意げに語りだす。
「古代伝説に、真の王が岩から引き抜き、泉の乙女が魔力を注いだ剣があるわ。聖剣の代表格でもある王者の剣だからいくつもレプリカが造られたわけ。もちろん見かけを真似ただけじゃなく、元祖に近づけようと製作者が力の限り魔力を籠めた。その一ふりがこの私、レイクドーターなの」
それを聞き、傍らで見ていたディアが訊ねた。
「何か特別な能力はあります? 振りかざすと呪文が発動するとか」
「そんなありふれた物じゃないわよ」
チッチッチ、と指をふりふり自信満々に言うレイ。
ユキヒロとディアは期待して身を乗り出し気味になる。
そんな二人にレイは勝ち誇った笑みを見せた。
「意思を持つ剣、いわゆるインテリジェンス・ソード。その上こうして分身体まで造れるのよ! まさにスペシャル!」
乗り出し気味だった姿勢が直立に戻り、互いに顔を見合わせるユキヒロとディア。明らかに戸惑い、何をどう言えばいいのかわからない様子でちらちらとレイを横目で見る。
「何その反応?」
何か言いたげだが言わない二人の態度に、レイが苛々と訊ねた。
「攻撃呪文で敵を倒せるとかじゃないんだ……」
「敵を倒すなら私で斬ればいいでしょ!」
微妙にがっかりした様子のユキヒロにレイが叫ぶ。
ユキヒロが地球でプレイしたRPGには、アイテムとして使うと竜巻やら落雷やらを呼んで敵を薙ぎ払える最強剣があった。そのせいで意識のズレが起こったようだ。
「どうせ出すなら戦闘用の召喚獣の方が役に立ちますね」
「だから剣なんだって! 戦うなら剣で斬れって! お仕えする女の子が出る方が嬉しいでしょう!?」
どこか白けたディアの反応にレイが叫ぶ。
二人の横でそれを聞いたユキヒロは「むう」と唸った。
「でも俺にはもうディア子がいるしなあ」
視線を逸らしつつも、ディアの表情が僅かに緩んだ。
一方、レイは地団太を踏んで怒鳴り散らす。
「あーあーあー! ああ言えばこう言う! あんたらの口は文句を吐くためにあるわけ!? この魔剣が明らかに役立つ事がわかんない?」
割とどうでもよさそうに、ディアが首を縦にふった。
「わかります。とてもわかります」
「え?」
目を丸くして動きを止めるレイ。
無論、ディアは落ち着きの無い子を大人しくさせるために適当な事を言ったわけではない。
淡々と自分の理解した魔剣の価値を口をにした。
「折れた剣の代わりに今ある魔剣を使えば武器購入費用はゼロで済みますね」
ユキヒロは「ハッ!」と気付いた。
「そうか。俺には強い盾が必要だけど、それには相応の金が要る。資金はそちらに回したい……」
ユキヒロはぐっと拳を握り、ディアは無表情でパチパチと手を叩く。
「流石だぜ魔剣レイクドーター!」
「流石ですね魔剣レイクドーター」
レイの額に今までで最も多数の血管が浮いた。今にもキレそうにピクピクと蠢く。
こうしてユキヒロは新たな剣を確保した。
まぁユキヒロの私物ではないので、冒険者ギルドから借りている形だが。
RPGにおいて無料で確実に拾えて実用に足る性能の武器って、最強じゃなくても攻略面で評価されるよな。
そう考えながら書いた回でもある。




