インターミッション2 新たな剣 1
このパートも日常回というヤツだ。
――ギルドの食堂――
ユキヒロが朝食をとりに食堂へ入ると、ウェイトレスの一人が小走りで寄ってきた。
「流石にそろそろ理解できるでしょ。自分に相応しい剣を持つ必要をね」
意味がわからず、ユキヒロは相手をまじまじと見つめる。
長い銀髪に青い瞳の、気の強そうな少女である。その顔にはこちらへの不満がありありと浮かんでいた。
しかし見覚えの無い娘である。
「君は?」
「ウェイトレスですね」
犬・猫・小竜に餌をやっていたディアがいつの間にか横に来ていた。
見知らぬ娘は苛々と言い放つ。
「なんでウェイトレスやらされてるのかわからないけどね!」
「ちょっと待って。そもそも君は誰だ?」
困惑するユキヒロに娘は強い口調で名乗った。
「魔剣レイクドーターの分身体よ」
娘が何を言っているのか一瞬わからなかったが、以前の依頼で報酬として貰った魔剣の事を思い出した。それが人間の姿に変身したか、アバターのような物を造り出したというのか。
ユキヒロはディアに訊く。
「あの剣にそんな能力が?」
「そんな嘘をつく理由のある人はいなさそうですし、本当なんじゃないですか」
どうでも良さそうにディアが言うので、ユキヒロは改めて自称魔剣の分身へ話しかけた。
「そうか……ならレイクドーターの分身だと仮定して、君は仮称レイ子という事にしよう。ではレイ子、君はなぜ出て来たんだ? ウェイトレスをやるためか?」
「そんなわけないし、そのネーミングセンスは何? それにここに出てきてユキヒロを待ってたら制服を渡してウェイトレスをやらせたのはそこの人造人間娘でしょうが!」
腹立ちも露わに自称分身――ユキヒロ命名・レイはディアを指さす。
それでもどうでもよさそうなディア。
「食堂の開店前から居るから従業員かと思っただけです。否定せずに働いてましたし」
「つっ立っているだけだと邪魔ってあんたが言ったじゃない!」
レイはますますいきり立つ。
それが既に入っている客の目をひいている事に気づき、ユキヒロはちょっと慌てて促した。
「わかった、落ち着こう、お客もいるんだ。話は事務所で」
――ギルド事務所――
レイを改めて椅子に座らせ、ユキヒロはディアを傍らにその対面に座る。
「それで君が剣の分身だとして、俺に何を要求するんだ?」
「私を倉庫に入れてないで使えって事よ! 強力な魔剣を手に入れて、普通放置する?」
レイの言う通り、レイクドーターは+2クラスの稀に見る剣である。
鑑定結果を聞いたユキヒロもそれは知っていた。しかし――
「レイクドーターはギルドの備品だからなあ……俺が装備するために買ったわけじゃないんだ」
「じゃあその備品はいつどんな時に使うのよ! 剣は飾って嬉しいコレクションじゃないのよ、有ったら使わなきゃでしょ!」
不満ありありのレイ。
横からディアが一言。
「観賞用として飾る人も普通にいますが」
「観賞用の剣を魔力で鍛えて威力増強するわけないでしょうが!」
レイの額に青筋がいくつも浮かんだ。
マスクメロンのようなツラになった娘を前に、それでもユキヒロは考える。
「うーん……あの魔剣を俺が……」
「は? 使ってた剣が折れたんでしょ? じゃあ装備の新調でしょ? 私以上の剣なんてこの辺りに無いわよ? 何を買うつもりだったの?」
まくしたてるレイ。
それへのユキヒロの答えは。
「強い盾を」
「はああぁぁ!?」
怒りながらもレイは驚愕。
考えながらぽつぽつと話すユキヒロ。
「だってなあ……剣が折れたのは防御に使った時だろ? なら強化するべきは防御面だと考えるべきだろ。今まではなんとなく片手両手兼用サイズの剣一刀流で戦ってたけど、これを機に片手剣と盾の攻守バランス型装備にしようかと思うんだ」
「魔法も攻撃+回復+その他少々ですし、新主人はとことんバランス型でいく気ですね。方向性違いの特化型でパーティーを組むのが定石なのに」
微妙に否定的な事を言うディア。
しかしユキヒロは難しい顔をする。
「俺は固定メンバーとパーティを組むわけじゃないからなあ」
そしてふと気づいたように、レイへ訊いた。
「今からでも実は盾だった事にならない?」
「なるわけあるか!」
もちろんレイは怒鳴った。
「なら分身のあなたを盾にして戦うというのはどうでしょう?」
「やめんか! 分身体の強度は常人並だわ!」
ディアの質問にもレイは怒鳴った。
「ああもうしょうもない事ばっかり四の五のと! いいからいっぺん使ってみなさいよ! 盾は適当なのを武具屋で購入して! 次の依頼で魔剣レイクドーターをふるうのよ! いいわね?」
烈火の勢いでレイが言いつける。
「……」
しかしユキヒロは顎に手を当てて悩んでいた。
それがさらにレイを怒らせる。
「なんでこんな簡単な話に難色しめすのよ!」
「いや、仕事を剣の試し切りの場にするのはどうかな、と……」
ユキヒロの呟きはレイを歯軋りさせた。させはしたが、新たに提案もさせた。
「わかったわよ! じゃあ今から剣の特訓! 使うのはレイクドーター! いいわね?」
ユキヒロは溜息一つ。
「仕方ないか」
ディアはどうでもよさそうに。
「仕方ありませんね」
いよいよレイは真っ赤な顔してガニ股で立ち上がった。
「なんで仕方なくなのよ!?」
こうして新たな剣の特訓が始まる。
(魔剣レイクドーター分身体)
剣から女の子が生えてくるようにしてみたが、これ世間様では何番煎じぐらいなんだろうな。




