表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/27

シナリオ2 運命の林 3

登場人物紹介:今回のエピソードに関わる者達。


ユキヒロ:主人公。地球から召喚された転移者にして冒険者ギルドマスター。

デメキン:ボウエンギョそっくりの小さな竜。冒険中は主人公の肩にいる。

ヒルド:神官戦士。元気で威勢のいい少女。駆け出し冒険者パーティ【戦乙女の聖槍】リーダー。

ロータ:魔術師。内気な少女。【戦乙女の聖槍】所属。

ソグン:盗賊。物静かな少女。【戦乙女の聖槍】所属。


用語解説

ケイオス・ウォリアー:この世界に普及している、魔法仕掛けの巨大ロボ。

 今まで黙っていたソグンが急に顔をあげた。


「敵!」


 直後、前方の茂みから飛び出すいくつもの影!

 この林に住み着いた野犬の群れだった。そいつらが餌を求めて人でも襲うのは地球と同じである。


「いくわよ!」


 威勢よく叫んでヒルドが槍を繰り出す。新米とはいえ彼女に臆した様子は全く無かった。初めての戦闘で全く物怖じしないというのはある種の才能である。

 そして槍の穂先は粘土かのように野犬の体を貫いた。皮も骨もあるというのに、流石魔法の武具というべき威力。


 その横で別の野犬を引き受けるのはソグン。彼女もいつもどおりの冷静な表情を崩さず、的確に動く。

 盗賊ではあるが軽戦士の訓練もしているようで、野犬の牙を素早く退いて避け、短刀を奮って相手に切り傷を負わせる。


 一人慌てているのが魔術師のロータだった。焦りながら杖を掲げ、たどたどしく詠唱する。


「ち、『地の領域、第一の段位。硬き不可視の力場が生じる。力場は鎧となり盾となる』――アーマーシールド!」


 全身を守る防護強化の呪文。それを彼女は次々と前衛の二人にかけた。


(なるほど。前衛二人を付与魔術で強化しつつ戦う連携か。自主訓練していたというのは本当なんだな。ゴブリンのモンスターランクは2……評価値は互角だけど、同数なら、彼女達が確実に勝つだろう)


【戦乙女の聖槍】を見直しながら、ユキヒロは跳びかかってくる野犬を次々と斬り捨てた。一閃ごとに一頭の断末魔があがる。


 多少の手傷は負ったものの、戦闘は危なげなく勝利に終わった。

 回復魔法で傷を治し、ヒルドは意外そうに野犬の屍を見下ろす。


「ゴブリン以外に襲われるなんて。森にも色んな生き物がいるのね」

(いや、当然だろう)


 ユキヒロが脳内で突っ込んでいる間に、ロータは本を取り出しパラパラと捲りだした。


「素材、素材……野犬は、と」


 どうやら収集できる素材の書かれた本らしい。三人は屍を切り刻む事に嫌悪感を表しながらも、ぎこちない手つきで野犬を解体していく。ユキヒロもそれを手伝った。

 作業が一通り終わった所で……


「これ。犬の食べ残しかな」


 盗賊の鋭敏な感覚で、野犬の飛び出してきた茂みに肉の塊を見つけるソグン。

 ユキヒロも覗いてみたが、気になる事に気づいた。肉のブツ切りが散らばせてあるように見えるのだ。


「屍も無い所に、刃物で切り取ったような肉……これはゴブリンが意図的に動物をおびき寄せるための物かな」

「?」

「ここら辺で人間と遭遇したから、ゴブリンは後で冒険者が来る事を予想していたのかもしれない」


 理解できずに首を傾げるヒルドに説明するユキヒロ。

 すると後ろで聞いていた魔術師のロータが目を見張って感心する。


「そこまで読むなんて……流石マスター」


 ユキヒロは額を抑えたが、ゴブリンにも知能がある事を失念する冒険者はそれなりにいるので、この場は収めておく事にした。


「ゴブリンの足跡があるかもしれない。探してくれる?」


 気を取り直してユキヒロはソグンに訊く。

 するとソグンは側を指さした。


「あるよ」


 既に探していたのか、これも感覚の鋭さで見つけ出したのか。



――森の奥、川沿い上流――



 足跡を辿ると大きな崖に行きついた。その崖にくっ付けて木製の小さな砦が建てられている。


「こんな物を造るなんて……」


 木陰から伺いながら驚くヒルド。

 ユキヒロは砦を観察した。見張り櫓の上に、あくびをするゴブリンの姿が一つ。砦の周囲は十メートルほどひらけた空間になっている。


「気づかれずに近づくのは困難だな。でもこの奥に引っ込んでいるなら、ケイオス・ウォリアーを持って来て潰す事もできる。村へ引き返そうか」


 だがヒルドは不満を露わにする。


「ここまで来て乗り込まないの? 見張りを魔法と飛び道具で倒して入ればいいじゃない。ケイオス・ウォリアーで来ても、裏口があったらそこから逃げて隠れるかもしれないわ」


 ヒルドの意見をユキヒロは黙って考えた。


(一理ある。パーティリーダーの彼女がせっかく考えた意見だ。俺はあくまで助っ人だしな)

「わかった。そうしよう」


 ユキヒロの言葉にヒルドはぱあっと顔を輝かせる。自分の意見が上級者に認められて嬉しいのだ。



 見張りゴブリンは退屈してあくびを頻繁にしており隙だらけだった。そこへ放たれる、二つの投げナイフと二発の射撃魔法。

 ヒルドのナイフは外れたが、ソグンのナイフとロータの熱線、ユキヒロの光弾は命中した。ゴブリンは声をあげる事もできず絶命する。

 見張り台の中へ倒れるゴブリンを見てヒルドは呟いた。


「マスターの呪文だけで倒せたような? 胸のあたりが丸ごと吹っ飛んだけど……」

「け、結果論よりも最善手を尽くす事を考えよう」


 ちょっとバツの悪いユキヒロの後ろで、魔術師のロータが目を見張って感心する。


「奢らず協力の大切さを忘れないなんて……流石はマスター」


 四人は砦の入り口へ走る。


(小さな砦だから数は少なそうだ。崖に洞窟でもあれば別だけど……)


 砦が崖にくっつけて建てられている事が、ユキヒロに少しの不安を与えていた。




(盗賊ソグン)

挿絵(By みてみん)

新米冒険者達も能力値的に不足しているわけではない、という回。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ