シナリオ2 運命の林 1
登場人物紹介:今回のエピソードに関わる者達。
ユキヒロ:主人公。地球から召喚された転移者にして冒険者ギルドマスター。
ディア(ディアスポラ):人造人間の少女。ギルドの従業員。
――冒険者ギルド本部裏口――
ユキヒロとディアが朝のロードワークから戻ると、受付嬢の一人が羊皮紙を持ってきた。
「マスター、助っ人の申請です」
礼を言って受け取り、ユキヒロはざっと目を通す。
申請したパーティは【戦乙女の聖槍】。メンバーは3人。請けた依頼は近郊の村からの【近所の林にゴブリンがうろついていたので追い出してくれ】という物だった。
「ドラゴンの次がゴブリンとはなぁ」
「助っ人が必要なら強弱は無関係です」
ちぐはぐ感を覚えるユキヒロにディアが釘を刺す。
――受付ホール――
テーブルの一つでユキヒロは【戦乙女の聖槍】と面会した。
「あなたがギルドマスターのユキヒロね! 私がリーダー・ヒルドよ!」
元気はつらつそう言うのは、長い金髪に青い瞳の少女。大きな槍を傍らに立てかけ、羽飾りのついた兜を被っている女戦士だった――ビキニアーマーの。
「魔術師のロータです。よろしくお願いします」
少しおどおどしながら三角帽子にローブ姿の、メガネをかけた少女が頭を下げる。
「盗賊。ソグン」
フードマントの少女が顔をそむけ気味に小さな声で呟いた。
それが終わるや、女戦士のヒルドが勢いよく立ち上がる。
「自己紹介は終わったわね。じゃあゴブリンどもを全滅させに行くわよ!」
威勢の良さに気圧されながらもユキヒロは告げる。
「一応、出かける前の確認はしたいけど……」
「?」
「いや、買い物忘れがないかとか、行動の予定とか」
わけがわからないという顔を見せるヒルドに、ユキヒロは不安になりながらも説明する。
するとヒルドはドンと胸を叩き、傍らの大きな槍を握った。
「装備はバッチリよ! この聖槍タマエグルは+2クラスの魔法の武器、鎧も同等級なんだから!」
魔法の武具には大まかなランクがある。
+1と呼ばれるのが通常の武具を強化した物で、市場で買えるのは概ねこれだ。
+2になると大都市でもそうは見当たらない希少品であり、相場など有って無いような値段。
+3以上は金銭取引などまず無理であり、国宝級に指定される物さえある。
そして性能は数字に概ね比例すると考えて良い。
だからユキヒロが驚愕するのも当然の事だった。
「それはえらく上級の装備だね!?」
するとヒルドは「ハッ!」と気づいたように、槍をまた傍らにおいて咳払いした。
「まぁ……肝心なのは腕よね」
(自分から自慢しておいて、話を逸らしたがってる?)
府に落ちなかったが一応気を遣い、ユキヒロは話を戻した。
「じゃあ回復アイテムの数と道具類を再確認しようか」
「回復は神官戦士の私に任せて!」
再び胸を叩くヒルド。ただの女戦士では無かったのだ。
だがユキヒロは念を押す。
「その回復担当が倒れたりした時のための非常用もあるだろ?」
「倒れる気はないけど?」
「その気がある人はまずいないよね!? 少々の回復アイテムは万が一のため用意しよう?」
当然のように言うヒルドに、ユキヒロは思わず語気が強くなった。
すると横でじっと見ていた魔術師のロータが目を見張って感心する。
「常に非常時の事を考えているのね……流石はプロ」
「君達もお金を貰う以上はプロだからね!?」
ユキヒロは思わず語気が強くなった。
どこかおかしさを感じ、ユキヒロはテーブルの横で見ていたディアに訊く。
「ディア子! この子達の経歴は?」
バインダーの書類を見るディア。
「全員冒険者ランク2。今回が初仕事です」
冒険者の腕前を明確にするためにランク付けをするのは冒険者ギルドではよくある制度だ。
金銀銅やABCなどの表記が一般的だが、この国では1~15の数字で等級付けしている。
1や2は新人が技量に応じて与えられる等級。こなした仕事の数や倒したモンスターのレベルで3以上に上がってゆき、11以上は一応定められているがまず付けられない。
Lサイズも含めたドラゴン退治をこなした事で、ユキヒロや前回の同行者はランク10に認定されていた。これを超えるとなると、ネームドクラスの魔物討伐や国家存亡の危機を救うなどの偉業が必要になってくるのだ。
そのランクが明らかになってもヒルドの自信は揺らがない。
「この日に備えて自主トレはしてきたわ!」
ランク10のユキヒロに眩暈を起こさせる、たいしたお嬢さんであった。
それでも頑張って説明するユキヒロ。
「とりあえず道具類も一式は用意しようか」
「?」
わけがわからないという顔を見せるヒルドに、ユキヒロは不安になりながらも説明する。
「ロープとか照明器具、毛布や収納袋、小型のナイフに金槌、非常食も欲しいね」
すると横でじっと見ていた魔術師のロータが目を見張って感心する。
「そんなリストがすらすら出てくるなんて……流石はベテラン」
「本当に何も用意ないの!?」
彼女の反応で大まかに察するユキヒロ。
結果から記せば、大まかどころか全くその通りだった。
(神官戦士ヒルド)
今度は駆け出しパーティのお世話をする話だ。




