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インターミッション1 特訓 2

日常回はあんまり話数を多くしない方向でいく。

――共同特訓開始から一週間――



 その日も断崖絶壁を渡り、ユキヒロとエンクは洞窟内外を往復しての模擬戦闘を始めた。

 暗闇の中で木刀を打ち合わせる合間にエンクが呟く。


「俺の修業にちゃんとついて来れるようになったな」

「はい」


 頷くユキヒロ。

 滝壺での座禅も断崖絶壁での疾走も視界が不自由な戦闘も、すっかり慣れた事は自覚していた。そこに至るまでの過程で、己の中を巡り流れるエネルギーの動きのような物がある事も。

 だからだろう、予感があった。


(第二段階へ移る、とかかな)


 いつも通り、ある程度戦った所で洞窟の外へ出る。暗闇に慣れた目が陽光で眩み、動く事に難儀して当然の状態。

 そこで模擬戦闘を続ける二人。その動きと激しさは世間でいう「模擬、練習」の範疇では無いのだが……

 それでも木刀で打ち合いながら、ユキヒロは奥歯を噛んでいた。


(速い! 重い! こっちからは通らない! シンンプルに、強い……!)


 相手の急所へできる限り強く打ち込む。相手の打撃を受け止めて弾く。ただそれだけの事を最速で繰り返す。その動きが昔マンガで解説を読んだ「現実の剣技」にどこか近いのは、人間のサイズと体型で剣を使うと行きつく所が同じだからだろうか。

 しかしそれにしても、その日のエンクは激しかった。荒々しいわけではなく、今までは感じていた「ユキヒロをケガさせないように」という加減が全く無い。


(それだけ認められてるって事だよな!)


 ユキヒロもいつも以上に全力で打ち合う。

 そのさなか――


(来る!)


 見えない。だが直感で体が動いた。繰り出された一閃を、ユキヒロは本能と反射で受け止めていた。

 だが意識の外でやった事だからか、次の動きに繋がらない。受け止めた姿勢のまま、ユキヒロは踏ん張ったまま立ち尽くしていた。

 エンクが木刀をおろす。「ふう」と溜息一つ、汗を拭った。


「俺と一緒にやるのは今日まででいいだろう」

「え?」


 戸惑うユキヒロ。

 エンクは空を見上げた。その長髪がそよ風に揺れる。


「俺に食らいつく事で俺に近い所までは上がったようだ。だが人に合ったやり方という物があるからな。元々、異界流(ケイオス)の上げ方に正解などという物は無い。自己の向上とともに上昇していく物……道は人の数だけある」

「そういう物ですか」


 わかったようなそうでないような感じに、ユキヒロの戸惑いは消えない。

 そんなユキヒロを見てエンクは微かに笑った。


「まぁ少しは自信を持っていい。俺の光速剣を防いだのだからな。それができる奴はこの世界にも一握りしかおらん筈だ」

「え?」


 予想外の事を言われて戸惑うユキヒロ。

 エンクは空を見上げた。


「だが天狗にはなるなよ。俺の知るだけで、俺と同格の聖勇士(パラディン)は二人いる。俺はその二人と組み、壊滅前のヘイゴー連合国で最強部隊を名乗っていた」

「えっ!?」


 驚くユキヒロ。

 魔王軍に壊滅させられる前、ヘイゴー連合国はこの大陸三大国家の一つだったはず。エンクは思った以上に名のある聖勇士(パラディン)だったらしい。


「だがその三人がかりでも、魔王軍最後の四天王に敗れた」

「ええっ!?」

「その四天王を倒したのが勇者パーティの()()だ」

「えええっ!?」

「そいつを含めて勇者パーティはケイオス・ウォリアーに乗り込み8機、母艦2隻。それでも魔王相手の最終決戦はギリギリの辛勝。生死も行方も不明になった奴もいる」

「ええええっ!?」


 驚き続けたユキヒロは思わず考える。


(戦わずに済んで良かった……)


 誰も責める事はできまい。


「色んな奴が召喚される世界だからな。誰か一人を無敵にしてくれるほどの依怙贔屓は無い」


 そう言うエンクは、なぜかせいせいしたような顔で笑っていた。



――翌日――



「あれ? いつの間に……」


 ギルドの受付ホールを見渡し、ユキヒロは困惑する。

 何人もの冒険者がテーブルや受付にいるし、依頼の掲示板もメンバー募集の掲示板も両方に複数の張り紙が出ていたのだ。

 大盛況には程遠くとも、既に人材と仕事が集まり始めている。

 驚くユキヒロの横にディアが来る。


「竜退治の依頼成功が宣伝になったようですね。まぁ成功をアピールした張り紙を建物の前の看板に張り出しておきましたが」


 高レベルの依頼を成功させた事はギルドの評価や信用に直結するのだ。そういう意味では最初に来た依頼が高難度だった事も悪い事ばかりではない。

 ホールを見渡し、ユキヒロは訊いた。


「ディア子。エンクさんはどうしてる?」


 ホールにも食堂にも見当たらないのだ。


「一人でできる依頼を受注して朝一番に出かけました。行商人の護衛隊に加わるんで、いつ戻るかわかりません。戻ってこないかもしれません」

「そっか」


 ディアに教えられ、ユキヒロは――ほんの少し寂しそうに――ほほ笑んだ。

 ホールから事務室に入り、ユキヒロは溜息一つ。


「なんか一人だとサボりがちになるなあ」


 昨日までならエンクとともにギルドを出る頃だ。

 すると腰が棒でぐいぐい押される。

 振り向けば、ディアが日本の中高生の女子体操着みたいな服装で立っていた。


(この世界にこんな服装あったんだ……)


 驚くユキヒロは見る。

 ディアの手には竹刀、首には紐を通した笛。頭には「精進」と書かれた旭日ハチマキ。肩には小竜。


「山とまでは言いませんが、市内を走るぐらいなら私がケツを叩いてさしあげます」

「……わかったよ」


 これも彼女なりに手伝ってくれているのだと考え、ユキヒロはジョギングに出かける事にした。

なおディア子はジョギングする主人公の後ろをギルドの馬に乗ってついてくるもよう。

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