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週刊誌

フローライト第十五話

利成が結婚していたことや、子供が死産したことが週刊誌に載った。利成は何も言わなかったけれど、たまたまコンビニに行った時に週刊誌の見出しを見て気がついた。その週刊誌も一緒に購入してアトリエに戻った。


ネットで検索すると山ほど利成のことが出てきた。どうしていままで気がつかなかったのだろう。自分の疎さにうんざりした。


それに合わせてこのアトリエのマンションの前にも記者が現れるようになった。死産だったけど出産は出産で明希の身体はまだ本調子ではなかった。それを心配した利成が言った。


「明希、少しの間実家に戻っていたらどうだろう?」


「・・・ん・・・」


うつむいて曖昧に頷くと、利成が明希が買ってきた週刊誌に気づいた。そしてそれをめくって自分の記事を読んでいる。そこには利成が結婚していたことと子供が死産したことの他に、二人が幼馴染だったことまで載っていた。


「明希のお父さんにも謝りに行かなきゃ」


週刊誌をテーブルに置くと利成が言った。


「そんなのいいよ」


「いや、迷惑かけちゃってるから」


 


身の回りのものだけ持って利成の車に送られて実家に戻った。また父と父の妻と一緒に暮らすのは嫌だったけれど仕方がなかった。あのアトリエにいたら利成に迷惑がかかるのだ。


父と利成が二人で話していた。義理の母親も父の隣で利成の話を聞いている。話が終ると元自分の部屋にいた明希のところに利成が来た。


「明希、じゃあ戻るね」


それを聞いて寂しくて涙が浮かんだ。すると利成が明希を抱きしめてきた。


「大丈夫だから・・・すぐまた迎えに来る。明希は身体早く治るように無理しないようにね」


「うん・・・早く来てね」


涙が溢れた。不安でしょうがなかった。


「うん」


利成が口づけてきてからまた明希の身体を抱きしめた。


 


すぐと利成は言ったけれど、なかなか明希はあのアトリエに戻れなかった。利成が結婚していたことがそんなに大変なことなのだろうか?父は「もう、利成君と別れろ」と言ってきた。


「言い方は悪いが、子供もダメになったんだし、ちょうど頃合いだろう?」と父がすこし険しい顔でそう言った。


明希は利成と別れたくなかったが、自分のせいで利成に迷惑がかかっているならそれも嫌だった。夜ベッドに一人になった時、お腹に赤ちゃんがいた頃を思い出して泣いた。ひとりぼっちだと思った。


実家に戻って三か月も経った頃、家で仕事をしていたらラインが来た。明希は最近は家での勤務を再開していた。


<久しぶり、元気?ていうか大丈夫?>


それは翔太からだった。どのくらいぶりだろう。


<元気といえば元気。翔太は?>


<元気だよ。テレビやネットみたよ。すっかり明希も有名人だね。体調大丈夫?>


<大丈夫>


テレビ?テレビまでに出てたとは知らなかった。翔太は今別なバンドでギターをしながら作曲をしていると言う。


<天城みたいに売れてないけどね>


そうラインがきた後、<電話していい?>と聞かれた。


<いいよ>と答えるとすぐに電話が鳴って「明希、大丈夫?」と懐かしい声が聞こえた。


「大丈夫・・・」


ほんとはあまり大丈夫だとも言えなかったけれど・・・。


「今はあの家?」


「ううん、実家にいる」


「え?そうなんだ。何で?」


「んー・・・色々あって・・・」


「そっか。仕事は?」


「家でやってる」


「そうなんだ・・・」


そこでちょっと会話が途切れた。


「もう今年も終わるね」と翔太が先に口を開いた。


ほんとにそうだった。本当だったら今頃子供もいて利成と三人でいれたかもしれないのに・・・。そう思うと涙が出て来た。


「・・・そうだね・・・」


「ちょっとだけ会えない?」


「・・・いいけど・・・」


「外には出れるの?」


「出れるけど・・・あんまり遠くは行けない」


「俺のうち来る?」


「えっ?翔太の?」


「うん、俺今一人で暮らしてるから。車もあるから迎えに行くよ」


「・・・でも・・・」


翔太と二人きりは少し怖かったし、ダメなんじゃないかと思った。


それを察したのか翔太が「何にもしないよ」と少し笑った。


「ん・・・」


それでも迷っていると翔太が言った。


「前の時は酔ってて・・・ほんとごめん・・・」


「ううん・・・それはもういいよ」


「じゃあ、迎えに行くから」


翔太が明日でも迎えに行くと言って電話を切った。


 


次の日の夜に翔太が迎えに来た。父はまだ仕事でいなかったので、義理の母に出かけると言って出た。この母は何も言わない。どこにいくのとも、いつ帰るのかとも・・・。


「久しぶり」と助手席に乗り込むと翔太が言った。


「ん・・・久しぶり・・・」


シートベルトを締めながら答えた。


「明希はあんまり変わらないね」


「ん、まあ・・・」


翔太の家は四階建てのアパートの三階部分の一室だった。中に入ると居間とキッチンともう一つ奥に部屋があった。


「狭いけど、どうぞ」と翔太が言う。


「翔太は一人なの?」


床に座りながら聞いた。翔太ならきっと新しい彼女がいるんじゃないかと思った。


「一人って?一人暮らしかってこと?」


「うん・・・その彼女とかは?」


「いないよ」


「そうなの?」


「うん。明希、何飲む?身体はもういいの?」


「うん、大丈夫。お茶でいい」


「そう?じゃあ、暖かいの入れるね」


もう師走時、翔太の部屋は少し寒い気がした。そう思ったら翔太が「寒くない?ちょっと暖房大きくするね」と言った。翔太は昔からすごく気づく人なのだ。


お茶を飲みながら今までのことを少し話した。翔太はバンドと作曲とアルバイトで何とかやってるという。


「ほんとはバイトやめたいんだけどね。バンドもなかなかね、天城みたく売れればいいんだけど」と翔太が笑った。


「翔太のバンドってネットで見れる?」


「うん、見る?」と翔太がスマホを開いた。


「はい」と翔太のスマホを渡された。


四人組のバンドでボーカルは女性だった。


「翔太は歌わないの?」


「うん、たまにライブでは歌うけど、メインは彼女だよ」


「そうなんだ」


「天城はもうバンドはやめてるんだろ?」


「うん、そうみたい」


「明希は○○(バンド名)はまだ好きなの?」


「うん、好きだよ」


「そっか。・・・明希のユーチューブ、あれからたまに聴いてたよ」


「えっ・・・ほんと?」


(ほんとに?恥ずかしい・・・)


「うん、最近は全然やらなくなったんだね」


「うん・・・そんな気持ちになれなくて・・・」


「そっか・・・色々あったもんな」


翔太がそこで黙った。ほんと色々あったな・・・と明希も思った。翔太と付き合っていた時は楽しかった。あのトラウマを除いては・・・。


暫し思い出にふけってしまう。高校の時の思い出やその後初めて行った旅行・・・。


(でもあの後からやっぱり少しずつダメになっていった・・・)


ぼんやりしていたら翔太がいつのまにか明希の隣に来ていて肩を抱かれた。


「明希、もう俺のこと嫌い?」


「・・・翔太のことは好きだよ」


「・・・俺も明希のこと好きだよ」


「ん、ありがと・・・」


「天城とは別れんの?」


そんなことを聞かれてびっくりする。


「えっ?何で?」


「ネットで見たよ。離婚の危機って」


(え・・・?)


「そんなこと書いてあった?」


「うん・・・」


(そんな・・・そんなの知らない・・・利成は何も言ってなかった)


「別れるなら俺とつきあって」


翔太が言った。


「・・・別れないよ・・・」


(でも・・・利成がそう思っていたら?)


翔太が黙っている。明希はどんどん不安になって来て、利成に今すぐ聞きたい衝動にかられた。


「翔太、今日はもう帰る」


そう言って翔太から離れた。


「・・・じゃあ、送るよ」


翔太もそう言って立ち上がった。


 


翔太に家の前まで送ってもらって部屋に戻ると、もう夜の十時近かった。利成が帰っているかわからなかったけどラインをしてみた。


<お疲れ様。今日は遅い?遅くてもいいから話したいんだけど>


そうラインを入れておいた。


ずっと利成の帰りを待っているうちにうとうとしてしまった。なので夜中の一時頃電話が鳴ってびっくりして跳ね起きた。


「も、もしもし?」


「明希?どうした?何かあった?」


利成の優しい声・・・。離婚の危機なんて嘘だよね?


「あの・・・利成と私・・・」


そこで言葉が続かなくなった。


「何?」


「その・・・離婚ってほんと?」


怖かったけどやっと言った。言ったら涙が出て来た。


「離婚って?誰のこと?」


「私と利成・・・」


「え?俺と明希?何でそんな話・・・離婚なんてしないよ」


「ほんとに?」


少しホッとした。


「そんなこと誰が言ったの?」


「その・・・翔太が・・・」


「翔太?」


利成がちょっと黙ってから続けた。


「翔太って夏目?」


「うん・・・今日ちょっとだけ会って・・・ネットで離婚の危機って書いてあるって言われて・・・」


「・・・そう。夏目とはまだつながってたの?」


(あ・・・)と思った。利成の口調が少し咎めるような口調に聞こえたからだ。


「その・・・急にラインがきて・・・でも、今日初めてだよ。つながってたわけじゃないから」


「そう。それでネットの話し、夏目がしたんだね」


「うん・・・」


利成がちょっと黙った。明希はどうしようと思った。やっぱりいつまでも元カレとつながってるなんておかしいよね・・・。


「明希、明日そっちに行くよ」


「え?ここに?」


「うん、最近忙しくてなかなか行けてなかったし・・・連絡も毎日できなくてごめん」


「そんなのいいよ。忙しいんだから」


「そっちに行ってちゃんと話すよ。これからどうするか」


「これから?」


また少し不安になる。これからって・・・何かあるのだろうか。


「もちろん離婚なんて絶対ないから安心して」


利成がそう言ったので、また少しホッとする。


「うん・・・」


「じゃあ、行く時連絡するね。おやすみ」


「おやすみなさい」


 


次の日の夜、利成が明希の実家に来た。利成の顔を何週間ぶりに見たら泣きそうになった。利成が玄関に迎えに出た明希を見て、靴を脱いでからすぐに 義理の母もいるのに その場で抱きしめてくれた。そして「ごめんね、なかなか来れなくて」と言った。


二人で二階に上がって明希の部屋に入った。二人で向かい合わせに床の絨毯の上に座った。


「明希、あそこ引っ越すことにしたよ」


「え?あのアトリエ?」


「うん、新しいマンション買ったから」


「えっ?!」と驚いた。


「買ったの?」


「うん、ごめん、明希に相談しないで勝手に決めて」


「ううん、そんなのいいけど・・・」


「仕事とそのことでバタバタしてて、すっかり明希のこと迎えに来るの遅くなっちゃったよ」


「ううん・・・利成は忙しんだから仕方ないよ」


「そんなことないよ。身体はどう?」


「もう大丈夫だよ」


「そう。良かった」


明希が笑顔をつくると、利成が明希のところまできて抱きしめてきた。利成の温もりにものすごく安心した。


「明日迎えに来るから、準備しておいて」


あきは驚いて利成の顔を見た。


「ほんとは年明けにでも迎えに来ようと思ってたんだけど、明希のこと不安にさせてるみたいだから早めたよ。新しいマンションまだぐちゃぐちゃだけど来てくれる?」


それを聞いて涙が出て来た。利成はいつでも自分のことを考えてくれているのだ。


「うん・・・」と言って利成に抱きついた。ようやくまた利成と暮らせると思うと嬉しかった。


 

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