キリングマン
ブラックな表現あり。
結構思うままに書いたのでかなり読みにくいと思います。
昔、この世界は戦争が絶えなかった。毎日毎日誰かが戦って、誰かを殺して、誰かが殺されて、誰かが悲しみ、誰かが憎しみ、誰かが怒り、誰かが狂い、誰かが哀しみ、誰かが憐れみ、誰かが救いを求め、誰かが絶望し、誰かが希望を無くしていた。そんな時代があった。
その人は牧師だった。その人は優しく、慈愛に溢れた人で、毎日世界が平和に、人々が争いを止める事を祈った。
毎日祈った。
来る日も来る日も毎日祈った。
晴れの日も雨の日も祈った。
怪我をしても病気になっても祈った。
平和になりますように、人々が憎しみを忘れますようにと。
きっとその祈りは天に届くと信じて祈った。
毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日…………。
だけど、彼の祈りが届くことはなかった。
ある日の朝、彼の顔には仮面が付いていた。
笑ってるような怒ってるような泣いてるような、奇妙な表情の仮面を付けていた。
彼の手には一振りの剣が握られていた。
細身で両刃で刀身から柄まで、光一つ反射しない黒で染められた剣が握られていた。
彼はその剣でまず自分の親を殺した。続いて一番の友を殺した。続いてその友の家族を殺した。続いて別の友を殺した。続いてその別の友の親を殺した。また別の友を殺した。その家族を殺した。また別の友を殺した。その家族を殺した。そうして友とその家族をすべて殺すと次は顔馴染みの店の店主を殺していった。ついでにそれらの店の店員を殺していった。ついでにそれらの者の家族を殺した。それが終わると自分の教会に祈りに来たことのある人達を殺した。それが終わるとその人達の家族を殺した。それが終わると会う度に挨拶を交わした人達を殺した。それが終わるとその人達の家族を殺した。それが終わるとただの顔見知りの人達を殺した。それが終わるとその人達の家族を殺した。それが終わると全く接した事ない人達を殺した。
そうして彼は自分が住む街の人々のほとんどを殺して、日が沈む頃に街から消えた。
その数日後、彼は戦場に姿を現わした。
銃弾飛び交う戦場の中心に浮かび上がるように姿を現わした。
彼を見た兵士達は皆驚愕してその動きを止めた。
突如として現れた彼に戸惑った。
しかし、直ぐに一人の兵士が彼に向かって銃を撃った。
戦場という場で、極度の緊張と疲労の状態にあった兵士は、突如現れた彼にいい知れぬ恐怖を感じ、彼を撃った。
それを皮切りに兵士達は次々と彼に銃弾を撃ち込んだ。
何発、何十発、何百発と。
彼はその衝撃に体を揺らした。だが、倒れる事は無く、それどころか無数の銃弾を浴びているにもかかわらず、全く動じる事無く平然としていた。
その様に今度は全ての兵士達が恐怖した。
彼はそんな兵士達に向けて歩みを始めた。当然兵士達は銃を撃ち続けた。効果は無いに等しかった。
そのまま、兵士達に歩み寄ると、一番近くの者から殺し始めた。そんな彼になお怯まず銃を撃つ者がいた。殺した。わき目も振らず逃げる者がいた。殺した。奇声を上げて突撃してくる者がいた。殺した。ただがたがたと恐怖に震え立ちすくむ者がいた。殺した。助けを乞う者がいた。殺した。天に祈る者がいた。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した殺した。殺した殺した殺した殺した。殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した。
そうして、戦争を行なう兵士をほとんど殺した彼は日が沈むと戦場から消えた。
そこの戦争は続ける事が出来なくなったので無くなった。
その後彼は色々な戦場に現れた。終わりが見えない戦場。一方的な戦場。最新兵器が飛び交う戦場。化学兵器がばらまかれた戦場。戦争が始まったばかりの戦場。戦争が終わりそうだった戦場。
そのどれもに突然現れ、兵士を、時には戦争に巻き込まれた人々を、殺していった。
当然それらの戦場にいた兵士は抵抗した。けれども彼には何も効かなかった。銃弾を撃ち込んでも剣で斬りつけても斧で断ちきろうとしても炎で焼こうとしても爆発で吹き飛ばそうとしてもガスで毒殺しようとしても、何も効かなかった。傷一つ付かなかった。何事も無く殺していった。そのうちにそこにいた人間を殺し尽くして、戦争を終わらせて、日が沈むと消えた。
そして、世界から戦争が無くなった。
それから彼は至るところに現れた。
そして、殺した。
男も女も、老人も子供も、金持ちも貧乏人も、警官も泥棒も、病人も怪我人も、善悪に関係無く、平等に平等に、大量に大量に、人々に恐怖と戦慄と悲鳴と死を与えていった。
そんな彼を誰かが呼んだ。
キリングマンと呼んだ。
幼稚で陳腐なその名前は、月日が経つうちにいつの間にか彼の呼び名として定着していった。
そうしてキリングマンが現れて月日が経った。
世界からは悲しみも怒りも狂気も哀しみも絶望も全てが消えていった。
代わりに諦めと虚無感が広がっていった。
口を揃えて誰もが謳う。
キリングマンからは逃げられない。
キリングマンからは逃げられない。
誰も誰も逃げられない。
誰も誰も逃げられない。
キリングマンからは逃げられない。
キリングマンからは逃げられない。
誰も誰も逃げられない。
誰も誰も逃げられない。
世界からは悲しみも怒りも狂気も哀しみも絶望も全てが消えていった。
でも、一つだけ消えなかった人達がいた。
憎しみが消えなかった人達がいた。
憎しみを溜め込んで溜め込んで溜め込んだ人達がいた。
その人達の憎しみは諦められる事も無くなる事もなかった。
大事な大事な伴侶を、恋人を、親を、兄弟を、友を、殺された。
その恨み募った憎しみは、ただただ肥大していった。
この憎しみは奴を殺すまで、せめて奴に刻み付けるまで、死んでも消えるものではない。
その人達は待った。今か今かと待った。キリングマンが自分の目の前に現れる日を。
ある日、ある街にキリングマンが現れた。
そこにはキリングマンを憎しむ青年がいた。
青年の手には包丁が握られていた。家にあった包丁だった。キリングマンが現れるまで肌身放さず持っていたものだ。
青年はキリングマンを見るや身震いをした。ただ一点あった憎しみから様々な感情が溢れ出たからだ。
青年は叫びながら彼に突進した。何の策も無くただの突進をした。ただただキリングマンの体に包丁を突き刺すために、憎しみを刻むために。
しかしキリングマンは青年が突進してきても微動だにしなかった。
結果、キリングマンの腹に包丁が突き刺さった。同時に小さなヒビがキリングマンの仮面に走った。
包丁が突き刺さる瞬間、突き刺さった感触を感じた瞬間、憎しみを刻み付けた瞬間、青年は笑みを浮かべた。
その笑みを浮かべた青年の首は、そのまま地面に落ちた。キリングマンが斬り落としたから。
しかし、その首はやり遂げた表情をしていた。
その日、キリングマンは青年以外誰も殺すことなく姿を消した。
またある日、ある街にキリングマンが現れた。
そこにはキリングマンを憎む壮年の男がいた。
手には斧が握られていた。木こりである男の仕事道具だった。
男はキリングマンの肩口に斧を振り下ろした。
キリングマンは動こうとしなかった。
斧はキリングマンの肩に深々と食い込んだ。
キリングマンの仮面に小さなヒビが走った。
キリングマンは男を頭から真っ二つにした。
ただその死に際は満足そうな顔していた。
キリングマンは壮年の男以外誰も殺すことなく姿を消した。
またある日、ある街にキリングマンが現れた。
キリングマンを憎む少女がいた。
手にはナイフが握られていた。
少女はキリングマンの胸にナイフを突き刺した。
キリングマンの仮面に小さなヒビが走った。
キリングマンは横凪ぎに少女の胴を斬った。
その死に顔は安らかだった。
キリングマンは少女以外誰も殺すことなく姿を消した。
ある街にキリングマンが現れた。
キリングマンを憎む老人がいた。手には鉈が握られていた。
老人は鉈をキリングマンの横腹に食い込ませた。キリングマンの仮面にヒビが走った。
キリングマンは老人の心臓に剣を突き刺した。
老人は悔いの無い表情をして死んだ。
キリングマンは老人以外誰も殺すことなく姿を消した。
キリングマンを憎む者がいて、その誰もがキリングマンに憎しみを刻み、その誰もが悔い無く安らかに殺されていく。
その度、キリングマンは負う筈の無い傷を負い、その仮面にはヒビが走った。
不思議な事に彼らが殺された街では、他の住人は何故か誰一人として殺されなかった。
誰かは言う、彼らは英雄だと。
誰かは言う、彼らは生贄だと。
今やキリングマンは誰もがボロボロだと思える状態だった。
憎しみという傷が刻まれ、その傷は一つとして癒える事なかった。
その傷を刻まれる度、仮面にヒビが走り、今では砕けないのが不思議な程、ヒビ割れていた。
もうすぐキリングマンは消え去るのではないか?
今のキリングマンを見た者は誰もがそう思った。
もうすぐこの悪夢が終わる、そんな希望が世界を巡っていった。
そして、その日はやってきた。
キリングマンは街に現れた。
そこはキリングマンの、キリングマンになってしまった牧師の街だった。
彼の目の前にいたのは槍のように尖った鉄杭を持つ一人の男だった。
男はこの街で奇跡的に生き残った人間の一人だった。
男の眼は憎しみに染まっていた。けれども今までのキリングマンに憎しみを刻んでいった者達とは違っていた。迷いがあった。憂いがあった。
男はキリングマンになってしまった牧師の弟であった。
男は兄の名を呼び、問いをかけた。
何故、貴方はこんなことをしたのか。
何故、両親を殺したのか。
何故、あの時私を目の前にして見逃したのか。
しかし、どの問いにもキリングマンは反応しなかった。
そして男は思った。恐らくこれは兄ではないのだろうと。既に兄の魂は無く、得体の知れない邪悪な何かが兄の体を人形のように操っているのだろうと。これが兄でないのなら、私は迷いなく、憂いなくこれに憎しみを刻み付けられると。
男は鉄杭を握る力を強め、キリングマンに飛び掛かり、キリングマンの心臓に、その鉄杭を突き刺した。
それと同時にキリングマンの仮面にヒビが走り、そのヒビをきっかけに、ついにその仮面が砕け散った。 男はその仮面の下の顔を見て、鉄杭から思わず手を放した。
その仮面の下の、牧師の顔は微笑みを浮かべていた。
それは全ての重荷から解き放たれような、
それは全ての苦しみから解き放たれような、
それは神の慈愛を一身に受けたような、
安らかな微笑みだった。
男は混乱した、困惑した、混迷した。何故にそんな顔をするのだと。お前は兄ではないのではなかったのかと。
そんな男に牧師は微笑みを崩さず言葉を紡いだ。だが、その言葉は音となって男に届くことはなかった。そのまま牧師の体は砂のように崩れて風に飛ばされ、後には牧師に突き刺さっていた鉄杭が残るのみだった。
キリングマンが消え去った事は瞬く間に世界に広まった。
キリングマンを消し去った男に、世界に平和をもたらした男に、世界は賞賛と感謝を捧げた。
だが、男はそれになんの感慨もわかなかった。空虚な気持ちが心に満ちていた。
世界が平和に満ちてから幾日が過ぎた後、男は兄である牧師の教会に来ていた。
自分のこの気持ちに何か決着がつくようなが気がして。
もう誰も来ることのないだろう埃を被った教会に来れば兄の気持ちがわかるような気がして。
男は考えた。自分の行いについて、兄の行いについて。
私がいったい何をしたのだろうか。客観的に考えれば確かに私は世界を救ったのだろう。だからこそ、世界の人々は私に感謝をした。しかし、実際にやった事といえば兄を殺しただけなのだ。あの優しい兄を、常に世界の平和を願った兄を。確かに兄は人々を殺していった。どうしようもない悪だ。だけど、それならあの微笑みはなんだったのだ。あの安堵の顔はなんだったのだ。やはり兄は何かに操られていたのか。それとも――いや、あるはずがない。兄は毎日平和を望んでいた。人々の平和を望んでいた。そんな人があんなことを自らする筈が無い。なら、何故――
男は考えた。何日も考えた。考えて考えて考えて考えた。そして男は唐突に理解した。兄が何故キリングマンになったのかを、キリングマンの存在理由を、死に際に自分に向けようとした言葉を、その言葉の意味を、理解してしまった。
男の心の空虚な気持ちは晴れた。代わりに膨大な哀しみが心に溢れた。男は静かに涙を流した。
男はキリングマンの消え去った場所に向かった。
そこにはキリングマンに突き刺した鉄杭が今もあった。
男はそれを拾うとその矛先を自らの胸にあてがい、そして―――
同じ単語を繰り返すのは狂った感じが出て好きです。元は成田良悟さんの作品から。(他の作家さんでもやってる方はいると思いますが)
でも二回はくどいですね。気に入ってるのでそのままにしましたが。
後相変わらずボキャブラリー少ない&進歩がないですね。
解答編?っぽいの、ってか別シチュエーションの一人称版を書くので一応連載形式にしました。話はほとんど一緒の予定。……書くかな。




