69 迎賓館での紹介と
ブライは呼ばれた迎賓館の前まで来ていた。いつも通りの装いだ。なんとも、俺が入るのは場違いだな、と思うが、諦めてドワーフの門番に伝える。
「わかりました、少々お待ちください」
そうして、確認した門番が案内役の人を連れて戻ってきた。
「お待ちしておりましたブライ様、どうぞこちらへ」
そうして案内される。まったく、しきたりやら、どういう流れなのか、全く予想がつかない。他の貴族の来客に備えたものなのだろう、空間にゆとりをもった豪勢な作りで、柱なども細かい装飾が施されていたり、絵画なども飾られている。そういえば、一時期アオツキが絵を描いていたな。
一室に通されると、クラリスともう一人の女性が並んで立っていた。クラリスは道場に来るときの装いに近く、もう一人の女性は、メガネをかけた事務仕事をするような服装だ。
「ようこそお越しくださいました」
「招いてもらって、なんだ、ありがとうございます」
「ふふ、紹介します、私の秘書、ルシア・フェインです」
「どうぞ、よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく頼む」
「それでは、座りましょう」
席に着くと、飲み物と、簡単な食べ物やお菓子が運ばれてきた。
「ルシアは、大都市エレッツからずっと、わたくしをサポートしてくれていますの」
「えぇ、クラリス様の無茶には何度も付き合わされましたわ」
「あら」
「つまり、今回も無茶を任されたってことになるのか?」
「はいそうです。クラリス様に、何としても口説き落とせと言われてしまいました。ご自身でなさればいいのに」
と、いたずらっぽくルシアは、クラリスを見る。
「あらあら、ルシアはブライ様が気に入りませんでしたか」
「ぱっと見て人を判断できたら苦労はしません」
「はは、当然だな」
「でしょう」
「そうでした、道場の規模拡大に伴って、事務方の追加募集もされてましたよね」
「あぁ、一人な」
「ぜひ、ルシアはどうでしょうか?」
「彼女のここでの仕事はどうなるんだ?」
「道場は昼過ぎまででしょう、夜頑張っていただきます」
「ほら、こんな感じなんですよ」
と、ルシアは困った顔をしている。表情がコロコロ変わる。
「はははは、では試しに任せてみて、ダメだったらクビにしてもかまわないか」
「はい、かまいませんわ」
「ぜひ、すぐにクビにしてくださいね」
そうして、ルシアと顔合わせが終わり、事務方になってもらうことになった。
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魔族領のアイドルライブは順調に進み、今、地方でも臨時会場を作りコンサートが開かれていた。
「イエーイ、みんな楽しんでるー!」
「「「ココちゃん!ココちゃん!ココちゃん」」」
いわゆる、ライブツアーが開催されたのである。今は、人間たちの領土に近い場所で作られている町で、公演中なのである。
決闘以外の娯楽を知らなかった魔族たちにとって、それは衝撃的なもので、会場は満員御礼、見えないけど、そとで音だけでもと来ている人たちがいる。
壁を作っていた魔族たちもこの知らせを聞いてやってきており、作りかけの町の交通はパンクしていた。
メルポポ書店でのマンガも娯楽として広まってはいる。しかし、音と見た目の派手な演出で魅せるライブパフォーマンスに、大衆は魅了されてしまったのである。
町の高い場所から、ミリシアはそれをながめていた。
「うーん、ちょっとやりすぎちゃいましたかね。てへ」
それに応えるのは秘書の養成だ。
「頻繁に開催すると問題が出てくるでしょうが、今回は良いと思われます。これを機に、各町に会場を作ろうという欲求を高め、建設に踏み切ってもらえばいいかと」
「うんうん、なんでも自分たちで全部はできないしね」
ミリシアは考えていた、せっかくなのだ、映像を投影して、人間たちにも見てもらうのはどうだろうかと。
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砂漠のサナムーン王国は国民へは魔族を国内に引き入れていることは公表していない。秘密裏に首都サナサの瘴気研究所で、魔族たちと共に実験がなされた。
実験用に確保した瘴気の近くで、魔族が瘴気の魔術を使うと、瘴気は霧散して消えたのである。
「これはすごい。本当にマナの一種だったとは」
感動した研究員の手は、これまでの瘴気の実験の結果、手が異形の形に変化していた。
「これでよかったのか」
たいしたことをしてないぞ、魔族の一人は言う。
「はい、我々にはまねできません」
こうして、瘴気が確かにマナであり、魔族の協力をえられれば、瘴気を薄めていけそうだという算段が付いたのである。
その後、サナムーン王国は、魔族との友好条約を締結。公表したのである。それは、多くの人々を驚愕させるものだった。
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蒼月采蓮の家で夜、パーティーが開かれていた。これまで、ブライの家でやっていた食事会の会場を移し、道場の人達や魔術訓練所の人達などを呼んでの、どんちゃん騒ぎである。
采蓮が能力を駆使して料理をし、サフィーが配膳している。
魔術訓練所の先生や生徒が参加していることで、また、一味違ったものになっているうえ、道場の人達にとっては、師匠であるブライがいない、というのも羽目を外す要因となっており、以前より盛り上がっている。
それはそうだ、師匠ブライがいると、言いにくいことだってあるのだろう。師匠についていろんな話や意見が飛び交っている。これまでにない光景が、采蓮には嬉しかった。
そういえば、私は皆からどう思われてるんだろうな。
食事会に来てくれている、という点では、嫌われているわけではないだろう。ん?私を嫌っているレイナもいるけど、どういうこと?
男の人の心をつかむには胃袋を、なんて話があったが、男女関係ないのかもしれない。確かに、美味しいものを食べて、皆でワイワイやれるのは楽しいし、そうしていくうちに、打ち解けていくものもあるのだろうか。
「アオツキさんも食べましょうよ!」
私は、振り返って応える。
「はい、一通り、終わりました」
今日は試しに、ピザっぽい物を作ってみたのだが、さてはて結果は、と見てみると、おぉ、好評のようでずいぶんお皿から減っているし、みんなおいしそうに食べている。
「この料理美味しいですね、どこの料理なんです?」
「どこだったかな、たぶん東の方」
と、適当に答える。そうそう、よくあるじゃないか、ゲームとかの中世ファンタジーに東の遠い地で刀なる武器を扱う国があったり。そんな感じにしておく。
「そういえばこの前から道場に来ていたルシアさんいいですよね」
「そうそう、いいよなぁ。明るくフレンドリーな雰囲気がいい」
「なんだぁ、私じゃ厳めしいってかぁ」
レイアは冗談交じりに言う。
そんな感じで盛り上がり、魔術訓練所の先生が小さな魔術を披露したりと、にぎやかだ。
「アオツキ様はどんな人が好みなんです?」
「私? うーん、お話とかお願いとかいろいろ聞いてくれる人かな」
「お話はともかく、お願いってどういうのです?」
なんだろう、今だと難しい気がする。だいたいのことは自分でできてしまう。もちろん、相談とかはするにしても、お願いって、昔はいろいろしてたな。そう、昔は。今では、私ができないことの多くは、他の人も難しい。王様や領主さんだと、そのへんはまた違ってくるとは思うけれど、それでも限界がある。どう答えたものか。
「うーん」
顔と目線を上げて考えるも、いい回答は思い浮かばない。
ふと、魔術訓練所の女性の先生が言った。
「そこはお金でしょ、貢がせるべし」
「ひぇー、怖っ」
「ははははは」
そうして、その日の夜は盛り上がった。それにしても、私はいったい何を願うんだろうね。永遠の愛とか、かな?
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メルポポ道場の昼、ルシアはみんなの稽古を、メモをとりながら見ていた。
道場といえば一つの流派、一つの武器についてとなることが多いと思うのだが、ここでは、多種多様な武器での訓練がなされている。話には聞いていたが、見ると圧倒された。
木剣を振るっているものもいれば、棒術、本物の剣や槍、斧、短剣、弓までも。そんな手広くやれば破綻してしまいかねないそれを、師匠ブライ、そして範士アオツキは的確に対応して手合わせをそれぞれに合わせて行い、かつ、教えているのである。
木剣や金属のぶつかる音から、威勢のいい「であっ!」といった掛け声まで、いろんな声が聞こえてくる。
さっきのアオツキさんの料理も美味しかったなと思う。まるで料理人だ、というか、たしか二日ほどは飲食店で厨房を任されてもいるのだったか。
この道場の危険性は、ブライとアオツキという人材にかなり依存していることである。二人がいるからこそこのやり方が成立していると言っていい。つまり、二人が不在になっても、この道場を回していくにはどうしたらいいか、それが可能なのか、考える必要がある。
そこで、分からないなりにも、それぞれが使っている武器、流派、得意不得意、目指している方向について、個人ごとにまとめた書類を作っていっている途中である。そのために、メモを取っているわけだ。鎧を着ている人もいるし、そうした実践まで考えてるのか、など。それは、誰かに引き継ぎを行うための資料作り、といってもいい。休憩時間などに、各自に聞いて回ったりもしている。
ただしこれでは足りない。そもそも、引き継げる存在がいないのだ。
「今日はそこまでっ!」
ブライの終了の合図とともに、稽古は終わった。
その後、私は事務室でブライにお茶を出して話をする。
「おつかれさまです」
「あぁ、少しは慣れたか、いろいろ見ていたようだが」
「はい、引き継ぎがしやすいよう各自の資料をまとめつつ、そして、大きい問題がありますね」
「引き継ぎ? 俺が辞めるとしても二年以上先だ、気が早くないか」
「組織というのは、人材に頼り切っていると、ブライさんが病気で倒れたりしたときに対応できません。代役をスムーズに立てられるような仕組みは必要です」
「なるほど。いつ、いかなる時も剣士は剣を離すことなかれ、というやつか」
「そうです。ただ、代役というのが難しいですね。今後、ブライさんもアオツキさんもどうされるのか、という問題もありますし、お二人の力あっての今の在り方が成立しています」
「つまり、さっきと同じ、仕組みではなく人材で成立している。それも簡単に転がっている人材ではない、のが問題なわけだな」
「道場の規模を大きくできるようにとも考えるなら、やはり、課題になってきますよね」
「技量の高い者が、技量の低い者を教え導く、という考えでは、限界があるんだと思っているし、そうでない道がある、と考えている」
「どういうことですか?」
「技術を自分で伸ばす方法を教える、その伸ばす場所を提供する、そうした在り方はどうかと考えている。俺は元々、道場に通っていたわけでもない無手勝流で、実践や道場破りを繰り返して、自分で勝手に成長してきた。その方法論が見いだせれば、それを伝えて、あとは各自が考えたことを試して、鍛えて、挑戦していけばいい。もちろん、技術の高い人がいるにこしたことはないが、そうした道場があってもいいと思っている」
「わりと先まで考えていらっしゃるんですね」
「そういう性分じゃなかったんだがな。あと、アオツキが辞めてもいいように、とも思ってる。もっと他の場所を見て回ってもいいんじゃないかってな。なら、アオツキが居なくてもやっていける体制は考えとかないとってな」
「アオツキさんは、メルポポのことが好きそうですけれど?」
「そうだな。だからこそ、他の場所のいいところ、って言うのも知らないと、考える視野が狭くなるだろう。いざというとき、他の場所でもやっていける、そんな自信があったほうが気楽に生きれるだろ。といって、家を買っちまったんだよな」
「上手くいきませんね」
「まったくだ」
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朝、メルポポ道場の募集の採用試験がはじまった。総勢五十三人が集まっている。以前よりも増えたし、前回挑んだ人も何人かいる。
レイナにも協力してもらい、実技試験は、レイナとアオツキによって、木剣での手合わせが並行して開始され、順番に進んでいくのをブライは真剣な表情で見ていた。ポトフやルシアは、応募者の整理や、道具の用意、片付けをしていく。
打ち合わせ通り、レイナもなんとか、相手の力を引き出しきるよう頑張ってくれている。剣術に関してだからか手加減もうまい。
アオツキは前回と異なり、ハイペースで相手の実力を引き出し高いところでそれを維持させ、持久力を確認していた。
実技試験が終わった後、アオツキとレイナから、参考に一人、気になる人を聞いておく。ここは前回通りだ。
その後、俺とルシアで面談、ポトフは案内、という形で進んでいく。
一旦、昼食の休憩として、アオツキの料理が振舞われると、それはそれで大いに盛り上がった。アオツキは有名人だな。
昼ごはんの後、しばらくして面談が終わり、応募者はいったん解散、アカツキとレイナもここで帰ってもらって、俺とルシア、ポトフで合否の検討会となった。
今後、長い先のことも考える必要があり、検討会は夜遅くまで続いた。




