66 メルポポに明かりがともる
メルポポの交流区と第二交流区の道には鉄の柱が等間隔に並べられている。高さは五メートルほど、上部には何かしらの加工がなされているようで、夕方、妖精達はその最終調整をしていた。
馬車の往来と歩道もそろった大通りに、各所小道の脇の下には太い線が埋め込まれており、そちらも妖精やリーディア商業連合国の研究員が何やら計器を見て確認している。
準備が整ったのか、一人の研究員が腕を使ったジェスチャーで、よし、のサインを出すと、テンテンテンテテテテテテといっきに鉄の柱の上部が光り、周囲を明るく照らしたのである。マルガナ波というものを伝達する太い線をつかい、さらに、マルガナ波を光に変換する、そうしたこの世界の仕組みが徐々に解明され、電灯のようなものが完成したのだ。
その光景を見た人々は、夕方にもかかわらず明るい、祭りでもないのにと、衝撃や感動を感じていた。
商店もずいぶんと増え、品ぞろえも増えていた。定番の服だけではなく、幅広く、女性用だったり男性用のお店から、冒険者向けと様々だ。武器や防具、装飾品に関してもそうで、雑貨店も増えている。飲食店もさらに増え、レックのお店のように大きな店に移ったところもあった。
そうしてくれば、販売するための物を作る場所、鍛冶屋、洋服を作る場所、その素材を作る場所、雑貨を作る職人たち、とそうした施設も増えている。
そうした人々が住めるように、大小さまざまな家、平屋、集合の住居など、交流区全体は大きくなっていた。
畑も開拓がすすみ、夏用の作物が植えられ始めた。
そうしたことから商人中心だった場所とはうってかわり、町と言えるほどに冒険者、行商人、工作人、建築士、衛兵、貴族、などなど様々な人が行きかうようになっていた。
「この明かりがありゃ、どんなに夜遅くなっても帰れるから、とことん飲めるぜ」
などと、騒いでいる人たちもいる。
蒼月采蓮は、そんな光景を見てて微笑ましく思う。よりよく発展していくのが嬉しい。まだ、またあの時のようなことが起こったら、という不安はあるけれど、この街のように少しずつ、自分も変わっていけたらいいなと思った。
異世界に来て、電灯がみれるなんて不思議なものだと思う。妖精の村長さんが転生者なのだから当然なのかもしれないけれど、よくもまぁ、と思う。自分だったら、こんなふうにはできそうにない。
交差点ごとにはさらに高さのある柱が立っており、おそらく信号になる予定だろうと思われた。信号で止まる馬車、というのも、なんとも珍妙だなと思う。
いったい何をしようか、私はいったい何者になれるのか、なりたいのかまだよく分からない。
どうしても、やっぱり誰かに決めてほしいし、誰かを頼っていたいなとも思う。でも、それで、宝物がまた手から零れ落ちてしまうのは嫌だ。
ふと思った、音楽を聴きたいなと。酒場で奏でているようなものではなく、いわゆる、日本でよく聞いていた、音楽を。
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コルトこと星庭神成 (ほしにわ のあ) は、自室の実験で深く深く考えていた。壁にぶつかったのである。
自動的に一つの能力のように個々の能力が協調する、という仕組みが難しいのである。そもそも、他の同じ能力、わかりやすくウィルスと言い換えれば、同じウィルスを観測できなければ協調できない。
ウィルスネットワークのような、そんなものを構築しなければならないわけだが、こういった方面は畑違いであった。
インターネット、というものがそもそもそうしたネットワークの構築だったと思うので確認しているが、込み入った話は簡単に分かるものではない。
他に、ブロックチェーンという仮想通過の土台を利用する、という手もあるかもしれない。ただ、それももともとインターネットのネットワークありきであった。
ネットワークというと、一か所が親になってそこから個々に伝達するという方式と、それぞれ輪っかになるようにつながる方式、インターネットのように個々がうまく受け渡して全体を作る方式などがある。うん、この辺は本当によくわからない。
一つ目は、親の不在や親が複数という異常事態が起きやすい、その分、設計が簡単な仕組みである。トップダウン、リーダーがいて部下がいる、リーダーに負担がかかりやすい、そんな感じだ。
二つ目は、回覧板、次の人に情報を渡していき一巡すれば良いを繰り返す。ただし、途中で断線することがあり、その時のネットワークの再構築の問題がある。
三つ目は、負担が分散され、冗長性があり、断線のしにくいメリットがあるものの、仕組みが難しそうなのである。
いやぁ、ちゃんと勉強しておけばよかった。
すこし粘ったら、妖精さんにいろいろ頑張ってもらおうか。
こうして、神成は、死後に妖精を残すための技術開発を進めていたのである。
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クラリス・ヴァンフォードは、進むほどに道が舗装され、イリノ町からは街道は非常に広く、レンガが奇麗に平坦にならべられていた。列車が並走して時折見せる姿に、衝撃を覚える。人が馬車の席よりも大きな箱に乗って輸送されている、そんな景色は見たことがなかった。
メルポポの交流区に入るとさらに圧巻の、まっすぐに計画されて作られた道をもとにした街並みである。それは、これまで大都市エレッツでの都市開発にも関わってきたゆえに、その能力の高さを感じざるを得なかった。
そう、武力だけではない、技術、都市設計、あらゆるものが町というにはおかしい領域でなされていることに舌を巻いたのである。それを主導した妖精の村長とこれから会うというのだから、緊張もする。
第二交流区には広場や、領主用の館、客を招く場所も建てられており、まずは館に向かって荷物を下ろし着替え、お茶を飲み、気分を落ち着ける。
やがて、側近一名と近衛兵一名をつれて、メルポポの内部区へと向かう。
内部区は、質素な石造りの建物であった。やや殺風景、花壇などの装飾も少ない場所を進み、会議室にはいると一人の妖精が待っていた。
「ようこそメルポポへ、クラリス様。歓迎いたします」
「よろしくお願いします。村長さん、お名前はないのでしたね」
「はい、我々は基本的に固有名を持ちませんゆえ。このたびは顔合わせでございます、ごゆるりとしていただければと」
妖精の村長はそう言うと、他の妖精が、お菓子やお茶を運んできた。
「ありがとうございます。町はずいぶん発展してにぎやかですのね」
「えぇ、多くの方々に興味を持っていただきまして、少し恐縮しております」
「道の整備、区画などの計画、いずれも感服いたしましたわ」
「ありがとうございます。まだ実用化しておりませんが、自動車のある暮らしをイメージしております」
「馬車とは違うのですか?」
「はい、馬の代わりを魔導エンジンがになう、もう少しコンパクトなものでございます」
「本もそうですが、妖精さんのアイデア、技術力には驚くばかりです」
「いえいえ、我々だけでは結局は宝の持ち腐れです。それに、警備や道場、各所、実際に街を発展させていらっしゃる中心は我々ではございません」
「ところで、キルクスを襲った脅威についてなのですが」
「はい」
「すぐにまた何か、ということはあるのでしょうか」
「今のところメルポポは平穏です。すぐに、ということはないと思われますが、我々が決められるものではありません」
「そうですね。火種を運んでくるものがいれば、ということですよね」
「そうでございます」
その後、いくつかの話をした後、最初の会談は終了となった。
クラリスは、温厚な相手であると同時に、知略もめぐる相手だと感じた。謙遜はしつつも、距離をとるところはとるというか、そういう空気感である。雰囲気に合わず抜け目がないのかもしれない。
外を出ればもう夕方である。夕方でも暑苦しいが、街は不思議な街灯が立ち並んで明るく照らされている。
いったい、どれほどの存在を相手にしているのか。町は明るくにぎやかな反面、どこか、馴染めない、落ち着かない気持ちだった。
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蒼月采蓮 (あおつき あやね) は、自室でメルポポ魔術訓練所の教員採用試験に向けて準備を進めていた。
魔術訓練所は、週一日の授業からでもできる。もう準備のために建築の仕事はやめており、土曜日をあてようと考えていた。細かいことはおって相談である。
何かあっても、街の人達ができることが増えていれば、それだけ安心できる。だから、やってみたいと考えてたのである。まだ、どちらかというと先生をやる年齢ではないけれど、もうすでに道場では先生をやっているし。
採用試験は、筆記と実技、それぞれ、概要は掲示板に示されていた。残念ながら筆記の過去問はないので、どのように出題されるかは分からない。
とはいえ、自分ならどうするかな、と問題を作ってみたところ、スラスラスラーっと書けてしまったのである。おそらく、与えられた力だろう。いくつかパターンを考えどんな風に出題傾向があるのかが分かれば、あとは学生の本文である試験勉強だ。采蓮にとっては、それは造作もないことだった。一人でやることだからこそ、得意分野でもあった。懐かしいなと思いつつ、メルポポ書店の本の内容から出題範囲に当たりそうなのをピックアップして、紙にまとめていく。
実技は、得意な系統を二つほど披露するというもので、あるていどこちらにどうするか決める余地があった。実技といっても、測定というよりは、アイドルの選考でその場で歌ってみる、みたいな感じだろうか。よく分からないけれど。
町の発展や安全、というのを考えると、一人の力というのは、なかなかに小さいのだなとも感じたりもした。
どんなに、武術、魔術など大きな力を持っていても、平和というのをつくるのは困難で、だからこそ、一人一人の選択が大切なのかもしれない。




