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65 感染する能力ってこと

コルトこと星庭神成(ほしにわ のあ)は、自室で実験を繰り返していた。魔王レイズガットからもらったアイデアを昇華するための下地作りである。


仮想シミュレートの妖精を作り出し、現実に影響を与えない世界を作って、そこに仮想の村を作って実験を開始していく。その様子が、いくつものスクリーンで立体投影され、三倍速で実行されていた。


なかなかにいい調子だった。


あのアイデアは、ウィルスソフトとそれが自発的に連携して一つの何かを為す、というようなものだ。


村人という存在に妖精村保持能力をウィルスとして感染させるのである。村人はその感染に気づかないし、その能力を触ることもできない。


妖精村保持能力は、自動的に感染者のこの能力を勝手に最大レベルまで引き上げ、妖精の保持数、領域制限、能力枠を拡大する。さらに、妖精を作って村を形成、そのうえで、妖精達は他の村人にも妖精村保持能力を感染させ、能力は強調するようにふるまえばいい。


少し視点を変えるなら、寄生生物、といってもいい。


人間に、能力として寄生し、存在し続ける存在としての妖精、それができるかどうかだ。


どういうふうに妖精村保持能力というのを構成すればよいか、ということと、副作用の確認、また、妖精村保持能力がちゃんと他のその能力とどうやって協調させるのか、などいくつか課題がある。


しかし、何もとっかかりがなかったこの、俺が死んでも妖精を残したいな、という難題を解決する鍵が目の前にあるのなら、まぁ、やるしかないでしょ。


それも開発者魂をくすぐるような内容であるならなおさらだ。


最終的には、俺が死んだ後、その村の拡張や縮小などをどういうふうに権限を委譲させればいいか、俺抜きでうまく進めるにはどうしたらいいか、というところが課題になるだろう。


おぉっ、めっちゃ面白い。いいよ、本当にいいアイデアだったよ。


と、神成は興奮しながら実験に邁進していた。


#


星庭神成とミリシアはリビングで一緒に晩御飯を食べていた。最近はミリシアが不在になる日も多くなった。メルポポにもたびたび出向いてくれているようなので、なんだか神成は蒼月のフォローを任せたのは少し悪いことをしたかなとも思った。忙しそうに映ったのである。


「忙しそうだけど、無理してないか?」


「問題ありませんよコルト様。あ、もしかして、ワ・タ・シがいなくて寂しいですか?」


と、ザ・萌えキャラみたいな感じで言ってくるので、心配のし過ぎだったかな、と安心した。


「いや、そうではない、フォローを任せちゃって重荷になってたらあれだなと思って」


「大変だったらちゃんと言わせていただきます。ご安心ください」


「だったらいい。それはそうと、魔王さんのアイデアがなかなかいい感じで、現実味を帯びてきたよ」


「あぁ、例のコルト様が死んでも、というやつですか?」


「そうそう」


「自分が死んだ後のことって、考える必要あるんですかね。なんでしょう、お葬式みたいなものも、死んだ人のため、というより、残された人のため、みたいな風習なんでしょ?」


「ま、人生っていうスタンスで考えるとそうなんだが、会社員とかプロジェクトとか、そいう単位で考えたほうが分かり易いかもな。例えば、一つの大きなプロジェクト、開発をしていたとする。その時、俺が仕事し続けないと、居続けないとちゃんと回らないより、抜けても何とかなる状態の方が健全だし、安全だろ」


「どういうメリットがあるんです?」


「他のことができるし、放置して遊ぶことができる」


「なるほど」


「その延長線上の考え方で、かつ、こういう開発に挑む感じはなんか楽しい」


「生き生きされているようで何よりです。こちらは、アオツキさんはゆっくりとですが安定して来てますし、コルト様の世界の知識がある方なので、交流は続けようと思っています」


「なるほど、どんな話をしてるんだ?」


「掛け算の順番の大切さ、みたいな話です」


神成は、怪訝そうな目で、ミリシアを見る。


「純粋な少女に、いったい何の話を吹き込んでいるんだ」


「えへへへ」


さて、諸君、掛け算に順番があるかどうかについて、少しふれておこう。三かける四、それは逆に四かける三にしても十二である。そう順番を入れ替えても変わらない。これが中学までの数学の話だ。


しかし、実は変わるものがある。行列である。行列は空間的なものも扱えるのでそれで例えよう。北を向いていたとする。まず時計回りに九十度回転する、そのご十メートル前進すると、東に十メートル進んでいる。さてはて、この順番が逆になると、十メートル進んでから、時計回りに九十度回転するので結果は、北に十メートル進んでしまうのだ。結果が変わっている。


これはゲーム制作だと三次元の立体の描画などに利用される基本的な考えだったりする。


まぁ、ミリシアがいってた順序は、全く違う意味なんだろうけどね。


ミリシアが楽しいなら、いいか、いいのか?


#


夏、暑い日差しの昼、師匠ブライを中心に道場のメンバーは稽古をしていた。ブライは自警団に、月火の夜に武術の指導を、門下生の数人は自警団への協力という流れになり、道場にもメルポポや、交流区の運営から資金の支援が行われることが確定した。まだ、少し足りないので、そろそろ追加の門下生募集を行おう、という流れになっている。事務方も一人増やす予定である。


自警団には、ザイフ、レイナ、カーリンと他数人が参加している。バルドはもともと農家の生まれだったこともあり、そちらで仕事を受けたいようだ。自警団に参加している門下生は、道場の授業料は免除となる。


コルトが連れていた女性、ミリシアだったかがアオツキにあいに来て以降だろうか、ずいぶんアオツキの不安も和らいだように思う。建築の仕事も一日におさえ、休みを作るようにしたようだしな。今では、やれることがありすぎて悩んでいるようでもあった。


魔術の訓練所も作ろう、と計画されているようで、アオツキはそちらに興味があるようだった。といって、他も捨てがたく、建築が落ち着いたら、そちらに一日さきたいとか、夜だけでもできないかな、など考えているようでもある。


冒険者ギルドも設置が決まった。この辺は、次の領主が手早く対応しているらしい。女性の領主様とのこと。まだ到着してはいない。


さらに、妖精信仰の教会が建てられはじめている。ひとまず仮ということで小さな教会で、あとあと大きなものを総本山として建てたいとかそんな話だ。ルジャーナ聖教はさすがに、メルポポとは距離を取りたいのか教会を建てる、という話は聞かない。むしろ、今、ルジャーナ聖教内部はごたついていてそれどころではないとか。


ザイフは不得手だった武器の扱いに慣れつつある。特に、棒術が相性がいいようだ。最近は、アオツキに並んで他の門下生の稽古も任せたいと感じている。あともう少しか。


レイナは、アオツキとは相変わらずである。他の武器を扱ったことで、剣術の幅が広がっていっている。


バルドは、やはり槍を中心とした長物が得意で成長している。重い鎧を着ての実践も行っているのが特徴だ。


カーリンは、技術も体格もよくなっているが、自警団の仕事に苦労しているようだ。まだまだ、荒事はそこまで得意ではない。


ただ、土砂崩れなどの騒ぎで二名、道場、交流区を去っている。すべてが順調というわけでもない。そういう点もふまえて、門下生の募集でもあった。


「今日はここまで!」


「「ありがとうございました」」


力尽きたものは、ざっと床に座り込んだり倒れこんだ。はは、まぁ、今日も一生懸命だったな。


さらに変化としては、ようやく宿暮らしからの卒業が決まった。居住区で小さな家が一軒、手に入ったのである。


「師匠、今日はいい?」


アオツキが聞いてきた。あぁ、俺の家で、皆でワイワイ飲み食いしようというのである。料理はアオツキが担当だ。そんなもんだから人は集まる集まる。


「あぁ、いいぞ」


「ありがとうございます」


まったく、いつのまにかまた、にぎやかな生活になったもんだよな。


#


暑い昼、クラリス・ヴァンフォードは、大都市エレッツを出発し、メルポポへ向かう。街道は整備され切っていないがたがた揺れる馬車に揺られていた。


東エストンディア領を治めるヴァンフォード家の次女クラリスは、不安を抱きながらも、気を引き締め、と言いつつまだまだ先であるため落ち着こうとしてを繰り返していた。


なかなか自分でも、無茶をしてしまった、ようにも思う。あの時、威勢よく私が行く、と言い放ったものの、心は今乗っている馬車のようにずっと揺さぶられ続けている。


クラリスは、キルクス消滅の件について、メルポポの妖精達の制御下にない存在というのを聞いている。それでいて、雰囲気的にはメルポポに刃が向くのを警戒している節があり、関連はあるのだと思われた。とはいえ、そんな一つ間違えば、国が亡びる、という場所の領主をやるというのだ、ふふ、なんとも、見栄を張ったものだと思う。


ただ、結局は誰かがやらないといけないことで、能力のない他人に任せて失敗してリーディアが滅んでしまうくらいなら、自分でやったほうがいいのかもしれない。


東エストンディア領はまだ難民の問題が片付いていないので、やり残したことがあるが、もう、任せるしかない。春になって、さらに難民が増えたのだ。マゼス王国の混乱はまだまだ尾を引いている。まぁ、これでキルクス王国の中心が滅ぼされてさらにキルクスからも難民が、だったら、またそれはそれで酷い状態になったが、もはやキルクスからは難民も来ないほどなのであるからして恐ろしい。


メルポポ書店の本や新聞、その他の情報から、妖精が人間に対して友好的である、という話はずっと聞こえてきている。


マンガも少し確認したが、妖精と人間の友好を描こうという意図が見え隠れしていた。単純に武力をふるうだけの存在なら、あのような対応は必要ない。つまり、会話は成り立つし、基本的に友好的なのだと思いたい。


できることは、最大限、メルポポの人間側の区画を適切に統治する、これに尽きる。


しかし、メルポポは今や周辺国だけでなく、どこの国も注目する場所となっていた。イリノ町ではそうした影響で混乱していると聞く。そう考えると、そう簡単にうまく事が運ぶとも思えない。


そもそも、妖精たちは何を望んでいるのだろう。


まずはそこからだろうか。


馬車あいかわらずがたがたと揺れていた。


せめて、メルポポでは、安定してことが進んでくれればいいのだけれど。

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