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64 新たなる一ページ

魔族領の各地では、妖精たちが設置した大きなスクリーンに不気味な黒い光が映し出され、次々に映像が投影され始めた。これは魔王レイズガットの特命によるものであり、魔族たちは何が始まるのかと興味津々に集まってきた。広場や市場、道場など、ありとあらゆる場所でスクリーンが展開され、群衆がざわめきながら視線を固定する。


「なんだ? 新しい指令か?」


「魔王様直々の発表ってことは、相当重要なことに違いないぞ……」


そういったささやきが飛び交う中、映像は静かに幕を開けた。


真っ暗な夜空の下、一人の少女が佇む姿が映し出される。次の瞬間、彼女を中心に放たれる黒い灼熱の炎が、まるで怒れる龍のごとくうねりながら都市を覆い尽くす。たちまち、国全体がその灼熱に飲み込まれ、建物が次々と崩れ落ち、人々の悲鳴が闇の中に消えていく。街全体がまるで紙のように燃え、石畳が溶け、金属すらもぐにゃりと曲がる様子に、観衆の表情はしだいに硬直していった。


最初は歓声が上がっていた。


「見ろよ! 人間どもが燃えてやがる!」


「最高だ! やっぱり魔王様だ!」


だが、映像が進むにつれ、その歓声は静まり、笑っていた顔も徐々に引きつり始める。


「……おい、あれ、本当に全部滅ぼすつもりか?」


「冗談だろ……まさか、国一つがこんなに簡単に……」


映像がクライマックスに達し、少女の黒い炎が国全体を呑み込んだ瞬間、スクリーンに映し出されたのは、焼け焦げた大地だけが広がる無残な光景だった。


その後、妖精たちが冷静に告げた。


「映像の少女は召喚された勇者、アオツキでございます。今のところ彼女が魔王軍と戦う予定はありませんが、この力がどこに向けられるかは定かではありません」


魔族たちは言葉を失った。体中に冷たい汗が流れるのを感じながら、自分たちの敵がいかに恐ろしい存在であるかを初めて実感する瞬間だった。


魔族たちは理解した。魔王様がなぜ、防備を固めたのかを。


そうして、魔王レイズガットは、内部でくすぶっていた、もっと侵略すべきだ、という派閥の考えをねじ伏せたのである。


#


コルトこと星庭神成(ほしにわ のあ)とミリシアと妖精一体は、魔王レイズガットと会議室で会談をはじめた。


「今回来てもらったのは、以前、コルトより要望されていた件、部下より有望なアイデアが出てな。それを伝えたいと思う」


「おぉ、それは楽しみだ」


「うむ。といって、こちらはコルトよ、貴様の力の全てを知らぬ。ミリシアの様子を見たうえでの推測、と考えてくれ」


「もちろん」


それでも神成はほんの少し期待せずにはいられなかった。口元が緩む。


「村人に、自覚できず、自分では行使もできないそんな能力があったとしよう。まずはそう、それで定期的に雨が降るというな」


「ふむふむ」


「さらに、その能力は、他者にも風邪のように伝播し一つの能力のようにふるまうとする。するとどうだ、村人がおる限り定期的に雨は降るのではないか?」


それを聞き、イメージしきれた神成は、感動のあまりにガッツポーズをとって、頭の中で思考が加速した。さぁ、どうやって具体化しようか。


「なるほど、いいアイデアだ」


「いけそうか」


「いけそうってもんじゃない、会心のアイデアだ」


「気に入ってもらえてよかった。ところで、ミリシアよ、文化発展への功績に褒美を与えたい、何かあるか」


ミリシアは驚き、嬉しく思いつつ困惑した。いきなり言われても、難しいのだ。目線を上にあげて考える。


「そうですね……」


「なに、また以前のように思いついたら言ってくれて構わぬ」


ミリシアは向き直って言う。


「わかりました」


そしてざっくりと人間側、魔族の領域の話をした後、会談は終わった。


神成は、こりゃ、ゲームを作ってる場合じゃないなと考えていた。


#


世界は黒い炎の事件で揺れ、メルポポは様々な国々と交易を結び、メルポポ書店の設置を進めていった。さらに、新聞用の活版印刷の設備の提供もはじまったのである。


この印刷装置および技術の提供は、金銭的には安めに設定されつつも、メルポポ側からその紙面一ページを自由に使わせて欲しい、という条件がついたのである。


そうして、各所で日常や各国の話題が紙媒体で一日に新聞一冊、というペースで販売されていきはじめた。そこにはキルクス王国消滅についても触れていることもあるし、近くのパン屋さんの紹介だったり、領主についてだったり、いろいろであるが、新聞というものも徐々に人々に受け入れられ始めていく。


紙やインクなどの量産体制が整いきらないため、まだしばらくは、皆が買うもの、とはならないが、さらに世界は変わりつつあった。


列車もイリノ町からさらに大都市へと延長され、次の町まで接続が完了し、さらに単線から複線になり、鉄道も拡大していった。そうしたことは、キルクス消滅が影を落とす一方、大衆にとって希望になることで、さらにそれが新聞という形で広がっていくのであった。


リーディア商業連合国は、メルポポを重要な場所とさだめ、交流区の人間側の代表を領主として貴族を一人据え置こうと考えていた。これからの発展を考えると政治的にも力のある存在が治めている、という形をとらなければ、イリノ町のように混乱しかねないし、妖精との調整や交流区を安全に統治するうえでも必要だろうと判断された。


方針は決まったがリーディアのトップ会談は荒れた。誰が行くか、決まらないのである。


それは、我こそがやってやるぞ、と競っているのではない。どうぞどうぞ、どうぞどうぞ、と押し付けあっているのだ。


というのも、かなり重大な責任が伴うからである。何といっても、場合によっては妖精達を刺激すると、国が滅ぶ、そう滅ぶのだ。いや、そんな大任誰も任されたくないよね。


そんな会議を後ろから見ていたクラリス・ヴァンフォード、ヴァンフォード家の令嬢は、及び腰の皆を制するように立ち上がって言った。


「でしたら、わたくしが行きますわ」


凛とした声は会議場を包み、拍手がしだいに大きくなっていく。


一方、彼女の父は頭を抱えていたが。才気あふれる彼女を、秘書として連れてきていたのだが、まさか、こんなことになろうとは。


領地を任せられるというのは名誉で誇らしく、良いことではあるが、今回ばかりは違う、魔王のような危険を腹に抱えた場所に娘をやるなどと、と思いつつも、彼女の強情さはよく知っていた。


こうして、メルポポの人間側の領主候補が決まり、妖精達との調整の段階へと進むのだった。


#


メルポポ交流区、店長レックは新しい建物でのお店の準備をメニと、蒼月采蓮(あおつき あやね)とで進めていた。そう、広くなった厨房と、広い客席、采蓮のために、場所を移したのである。


なお、このころには采蓮は、日曜はお休みの日とするようになっていた。建築の人達に伝えると惜しまれながら、今まで大変だっただろうありがとう、とお礼を言われた。


その選択は、まだ本当に正しいのか分からない。でも、そうした。まずは、選択にフォーカスすることを意識していこうとしている。


短期的にはもっと私が手伝ったほうが工事は進むのかもしれない。でも、皆と一緒に作っていくものでもあるよねとミリシアさんはそんなふうなことも言っていた。彼女とはあれから何度か会って話している。第二交流区の家を一軒購入し、定期的にいるのでたまにおじゃまして雑談をしたりマンガを読ませてもらったりしている。たまにいないし、どこからどうやって来ているかは分からないけれど、きっと何かあるのだろうと思う。それに、この世界で、元の世界の話ができたのは嬉しかった。


レック飲食店は新装開店、仕込みもできて掃除も万全、お店の前ではすでに行列ができており、メニさんが列を整理している。


さぁ、采蓮にとって新しい一歩がはじまった。


#


砂漠のサナムーン王国はメルポポからの食糧や物資の緊急支援、そして魔獣の討伐により状況はずいぶん改善した。国王も少し人心地ついたが、瘴気に首都サナサが覆われており、依然として予断を許さない状況であった。


そんなおり、妖精達から、国王と側近、瘴気研究に携わっていた者は秘伝の話を聞かされたのである。


それは研究室の一室で発表された。


妖精から告げられたのは次のとおりだ。


古の時代、千年以上も前、まだ魔王たちの種族、魔族は存在していなかったのだという。そのときも、やはり瘴気が問題になった。古の技術で、瘴気を押しやることはできたが、それは結局地中深くに眠ってしまい、逆に暴発、あっという間に世界に瘴気が広がる大惨事になった。そこで、人間、エルフ、ドワーフ、その他の種族の知恵を結集して新しい人類、瘴気を克服した種族を創るという計画が発足した。


それは見事成功した。それが魔族である。また、瘴気とはマナの一種であり、使うと暴走の性質があるとのこと。つまり、魔族とは瘴気というマナを使える種族であった。


最初は良かった、魔族と共に協力して世界は正常になりつつあった。しかし、上手くはいかなかった。人間たちの中に瘴気による強い魔術が使える魔族を恐れ排斥したいという気持ちと、魔族たちの中には人間たちを劣等種と見くびる者たちがいた。それは両方の問題であり、そうして、両者はいがみ合ってしまった。そうしてお互いに排斥しあうようになったのがはじまりであると。


そして、ここで重要なのは、瘴気がマナであるならば、それを消費すれば、とうぜん瘴気は薄まるのである。


つまり、魔族の協力を得られれば、瘴気の問題は解決できるのではないか、ということが示されたのであった。


この理屈には、これまでの研究と符合するところもあった。瘴気の運搬については、マナと同様の方法だったのである。また、魔族は瘴気の濃い場所からやってくるし、驚異的な強さを持っていた。


だからと言って、そう簡単に魔族側に協力を打診できるような状況ではない。そもそも国交がないのである。


こうして、サナムーン王国は、特殊任務部隊を組み、魔族との接触を試み始めたのである。

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