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63 選択を見つめて

ミリシアは、自室で蒼月采蓮 (あおつき あやね) を調べていた。複数の物知り妖精や執事、投影の妖精などを作り、調査、コルト様の懸念点の洗い出し、対応策の検討をまとめさせ、確認して調整を繰り返し、彼女の過去である元の世界でのことも含め分析していた。


それは、ミリシアがコルト様の過去を調べた経験を足場にし、ムルププを立ち上げるときの会議や運営についての試行錯誤も活かして実行されたのである。


今、室内ではいくつものスクリーンが妖精によって投影され、采蓮がキルクス王国を滅ぼしたときの映像、采蓮が恋人に振られたときの映像、采蓮が孤立してひっそり教室にたたずんでいる映像などが映し出されている。


「なかなか、根が深そうね」


「はい、力があるがゆえに挫折にも至らず、かといってその力を己の物と認識できず、蒼月様は自身を無価値なものだとみなしておられます」


と、執事の妖精は真剣な声で応えた。


ミリシアは全ての情報は確認済みである。メルポポの騒ぎ、妖精と人間の対立、それに巻き込まれたアオツキ、そして土砂崩れやキルクス崩壊とその後のアオツキの不安、そして彼女の過去もふくめて。


アオツキが召喚で授かった能力は、吸収であるが、性格には依存吸収(パラサイトドレイン)だ。彼女の誰かにすがりたい、頼りたい、自分には何もない、誰かに自分の存在価値を担保して欲しい、そうした依存心が能力の根源になっていた。


これは、コルト様が、働きたくない、と妖精を願ったのに似ている。与えられる能力というのは、当人の奥底にある希望や心理が反映されるのだろう。


コルト様には、フォローしておいて、と言われたが、簡単なものでは無いなぁと感じる。


おいおい、なにをそんなにしょぼくれてるんだい、元気だしなよ、世の中いつかいいことあるさ、と声をかけて終わるようなものではないのだ。


問題の根本は依存である。自分で自分の価値を決められない、認められない、だから人に頼るわけだ。


では、小さな成功体験でそれが変わるかというとそうもいかない。彼女の成功体験はすべて、与えられた力に依存するものであり、だから、それによる成功を彼女は自身の成功だと認識できないのである。


道場や飲食店で彼女が頑張って楽しそうにしていたのは、自身の力が振るえて楽しいのではなく、居心地のいい場所によりかかれて気分が落ち着くからであった。場所に依存していた。


メルポポもそうだ。


アオツキは、自分が大切な場所に、どこかからも分からぬ、誰かに銃を突きつけられている、そんなことがあるんじゃないか、どうしたらいい、そう怯えている。


一番スッキリする対応としては、彼女の依存心を変えていく、自立へ導くことである。場当たり的に不安の種をなくしても長期的には意味はないだろう。


コルト様は人間側の被害拡大については気にしていなかった。つまり、彼女の能力をさらに封じてしまったらよいというものではない。彼女をフォローしてくれだった。


そして、彼女の師匠ブライも、寄り添う、理解を示すという形にとどまっていることが映像などから分かった。


依存心に寄り添うだけでは、解決はしない。


そうしてミリシアは、対策について、妖精達と検討会議を開始した。


#


メルポポ、初夏、夏の日差しも暑い中、道場の訓練が終わったころ、ミリシアは道場に訪問し、アオツキを誘った。


ミリシアは宿を交流区で借りていて、そこへとアオツキを連れていく途中の道で、


「コルトさんと一緒にいた方ですよね?」


「はい、遠くの場所で一緒に住まわせていただいてます。私はミリシアと言います」


「と、ということは、その奥さんですか?」


「いえいえ、結婚していませんよ」


と、ミリシアは指輪をはめてないぞ、と手を彼女に見せた。これが通じるのはコルト様の世界を知らなければ分からないが、アオツキには通じるだろうと思って。


「では、その、大人な関係のご友人ですか!」


妙に、采蓮は興奮していた。


そういう反応から、ミリシアは、こういうところはごく普通の少女コミックをたしなむ女の子なのだなと感じた。


「いえいえ、そう言うのでもないですよ」


そうして、軽く雑談をしながら、宿の部屋に入り、小さな机を囲んで、お茶を出してミリシアは話はじめる。


「アオツキさんは今、メルポポがまた危機にさらされるのではと不安で仕方ありませんね」


「そうですね」


「その不安の根本原因は、危機があるかもという不安症もありますが、もっと別のところにあるんです」


「不安症?」


「はい、ついつい物事を悪く考えてしまう気質ですね。だからこそ、丁寧にモノづくりをしたり、あれこれ考えて工夫をする良い面もありますが。それゆえに、精神的に参ってしまう、わりと日本人に多いみたいですよ」


「元の世界の話は、久しぶり。ミリシアさんは知っているんですか?」


「はい、知っていますよ、ゲームやマンガ、アニメ、映画、小説とかもろもろ」


「私、続きを読みたいマンガがあるんです」


「ふむ、では、これからの話を前向きに聞いていただければ、できる範囲で取り寄せましょう」


それは、不安とは別に、采蓮にとっては楽しいことだった。それもまた本、マンガというものへの依存でもあったのだ。つまり、別の依存先をまずは提示した。


「アオツキさんの不安は、私はこういう存在だ、それでいいんだ、何が悪い、とできないことです。つい、誰かに定めてほしくなっていませんか?」


「はい。ダメですか?」


「そうして、人を頼り、たくさん頼っていった結果、頼られることがしんどくなった人達はあなたのもとを去ったのではないですか」


「そう……ですね」


それは、采蓮にとって、思い出したくない、でも、思い出してしまう辛い記憶だった。


「いまのアオツキさんは、頼るというよりは、やりすぎることになっています。そうすると、同じようにメルポポもアオツキさんの思うところではなくなってしまうかもしれません」


「どういうこと」


「アオツキさんは何でもできるじゃないですか。たとえそれが与えられた力だとしても。でも、このままだと、メルポポの人間さん達はアオツキさんに甘えてしまって、自立できなくなります。今の道場の皆さんはアオツキさんに頼りっきりですか?」


「ううん、違う」


「それが、何でも頼る、頼りない人たちになってしまったらどうです?」


「嫌です。変わっちゃうのは嫌」


「でしょ。ですから、そうならないためにも、まず、私はこういう存在だ、それでいいんだ、何が悪い、とできるようにならないといけないんです」


采蓮は目線を下に向け、少し考えて、そして頭を上げた。


「でも、どうすればいいか分からない」


「はい、難しいので、ゆっくりでいいです、私も少しずつアドバイスしますので、与えられた力についての考え方を変えていきましょう」


「考え方?」


「アオツキさんは、与えられた力は、ズルをして手に入れたもの、それを使うだけの自分に、何の価値もないと考えてしまっているのだと思うのですがどうでしょう」


「はい、そうですね」


「結局は、力をどう使うか、どう行動したかは結局はアオツキさんの判断だった、というのを意識して欲しいんです」


「私の判断……」


「そうです。例え力があっても、それを振るわないことってありませんか、そう、お金を貸してくださいと言われたら、アオツキさんは誰にでもお金を貸します?」


「ううん、人は選ぶ」


「そう、そして、お金のあるなしに限らず、力のあるなしに限らず選択したのはアオツキさんなんですよ。メルポポを救った、その力自体はアオツキさんは与えられただけかもしれません。ですが、使うと判断して、頑張ったのは、一生懸命になって何とかしようと思った心はアオツキさんのもので誇っていいことなんです」


「判断と気持ちは、私の物って言うこと?」


「そうですよ。少しずつでいいです。判断し行動したのはアオツキさんだ、ということを意識して、考えていってください」


「わかった。やってみる」


「では、本題はおわったのですが、お好きな漫画は何ですか?」


「えっとね――」


その後、二人は美少女コミックの話題で盛り上がったのである。


#


アオツキとの話も終わったミリシアはメルポポの宿で夜景を見ていた。さらに、建設や開拓は進んでいた。その半分はアオツキによるものである。


ミリシアとしては、他の女の子のフォローだなんてと、はじめはやや不満があった。コルト様を独占したかったのである。もっと私だけを見てほしかったが、まぁ、任されるということは、半分は直接しっかり対応されないということだろうとも考えた。


アオツキのことを調べていくと、なんとも不憫で不器用だなと思った。学校生活はもっと華やかなものだと思っていたので、それはわりとコルト様も青春を謳歌されていたので、高校では一人寂しくぼっち、というのは不憫に思ったのである。


そして、いろいろ頑張って伝えたところ、なんと、いい感じに話せる女子オタクであることが分かった。オタク友達ゲット、やったー!


しかしどうやら彼女はまだ、美男子と美男子の禁断の先を知らないようである。ふふふ、ふふふふふ。


そう、私が教えねば、布教せねばなるまい。薔薇の花園のすばらしさというものを!


#


あくる日、メルポポの昼、蒼月采蓮は、道場で皆の稽古に付き合っていた。ガッザクッっと、誤って武器での傷を負ってしまった門下生にかけよって魔術で治療を施す。


ふと思う、反射的にやってしまってるこれも、このまえミリシアさんに言われた、判断としていいのだろうか。


力があっても、そんなことは知らないと無視もできるのかもしれない。でも、わたしはそうは思わなかった。そうしてその結果、皆、さらに稽古にたくさん打ち込めるのである。


力を使ったとしても、この結末を導いたのは私の判断である、そう思って、いいのだろうか。


周囲では、金属や木剣のぶつかる音が聞こえるし、私も、木剣で相対しているカーリンと相対していた。彼を選んだのはそう言えば、私だった。


彼が今ここにいるのは私の選択なのだろうか。


青髪の青年カーリンはすこし体つきが良くなってきたところである。ただ、剣術に関してはなかなかに筋が良いし、他の武器にもなじんできていた。逸材であった。


全てが私の選択ではないにしろ、私が選択したことで、私のその力が、今を形作ることにつながったのだとしたら、それはほんの少し嬉しく、誇らしい。

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