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48 ムルププの学校始動

分裂したマゼス王国の南側、魔王軍と接するバトス国では何としても魔王軍の北上を防がんとする志の高い兵や冒険者達がわずかばかりであるものの、冬の空の下で鍛錬に励んでいる。


ここに残るような、やってくるような人間は、もうそうそういない。国民もずいぶん流出し、現在はルジャーナ聖教の支援でなんとか食料や物資が維持できているに過ぎない。もう自給自足はできていなかった。


ルジャーナ聖教の騎士も加えて、わずかばかりの戦力である。以前のように進撃されればひとたまりもないだろう。


北側の、マゼス新生王国やダルス国は知らぬ存ぜぬである。マゼス新生王国にはもはや求心力が無くなり、瓦解しつつあり頼りにならない。ダルス国は自身の国が守れれば良いと援軍の要請は断られている。


そんなバトス国に変身して潜り込んでいる魔族の調査隊ゼッゲンは、客の少ない飲食店で味気ない食事にうんざりしていた。


ゼッケンは、なんでここまで弱っているのに魔王様は攻め込もうとせず、守りを固めはじめたのかわからなかった。ちょいとつつけば陥落するだろうに。


まぁ、さらに北となってくると瘴気もずいぶん薄くなるが、だからと言って飼いならしている魔獣の軍勢が弱くなるわけでもない。防衛なんて気にせず、突き進んで人間達を滅ぼしてしまえば、守ることも気にする必要もなくなるというのに、一体全体どうしたものか。


おかしくなったのは、都市エンシュラティアへほとんどの兵を下がらせたあの時期から変わっていった気がする。何があったのか。何かあったのだ、必ず。


と言って、それを聞き出せる立場にはなかった。


確かに、人間側には恐るべし力を持つ者もいることは事実のようだ。ここでは神の息吹などと言われている、前線の魔獣が一掃された事件があった。それは、これ以上進むな、という人間側の脅しなのだろうか。だが、だったら、この国の惨状はなんだ。俺達は守れる力があるぞ、などという空気は微塵もない。人間達は一枚岩ではないから、バトス国は知らず、となるとそこに支援しているルジャーナ聖教も知らない勢力に、神の息吹を起こした勢力がいるのだろう。


どんな魔術、弓や砲撃にも射程はある。城壁を一歩引いて建てているのは、神の息吹の射程が届かないぎりぎりに建てている、そう言うことなのか。


俺たちのように人間側の調査をしているのはもしかすると、その勢力の特定が最終的な目的かもしれないな。ただ、そうしたことは大々的に公表してもよさそうなのに、隠しているのはどういうことだ。


分からない、分からないことだらけだ。


#


魔族領妖精区ムルププの子供用の学校は運用を開始された。ミリシアはそれを自室で状況をスクリーンに投影させてながめていた。コルト様曰く、正しい観測をしたいなら、観測者というものすら影響を与えかねない、なるべく離れてみたほうがいいと。


たしかに、見られているとやりにくいというのは分かるので、それに倣うことにした。決して現地に行くのが面倒だからではないよ。


ひとまずは子供二十人、学生服を着てそれぞれの授業がはじまった。のだが、全然席につかず静かにしない。学級崩壊である。初日、学校の説明と、教材の配布が行われて行っているのだが、まったくもってあのいわゆる小学校とか中学校とかアニメで見た風景と違う雑踏とした情景が広がっちゃってる。なんで?


今日は授業はないけど、これ大丈夫かな……


あぁ、ダメだっ、いすを持ち上げて遊んではいけません、ちょっと机を動かしちゃダメですって、イスの上に立ってバランスとって遊ばないでください危ないですから!


何が悪いんだろう……


なお、配布している教材は、メルポポの活版印刷技術をこちらに流用させてもらって作ったもので、今日配ったのは読み書きと算数の本の二種類だ。


そんな悲惨な状況を愕然と眺めた後、ミリシアはリビングでコルトこと星庭神成(ほしにわ のあ)と昼ごはんを食べていた。


「ねぇ、何が悪かったかなぁ」


「時間がかかるだけじゃないか」


「時間?」


「そうそう、もともとそういう文化がないんだ、皆で静かに習い事を、というね。武術の道場とかもなかったんだろ」


「ないですね」


「つまり、誰もかれもそういう風景を知らない、ということだよな」


「ふむ」


「どう振舞えばいいか予備知識がない、見たことがない、大人だってしていない。大人しい子も、騒いでいる子がいたら騒ぎたくなるしね」


「コルト様、お知恵を、どうか御慈悲を」


「そもそもミリシアは何で学校を知ったんだ?」


「それは、アニメです」


「そういうこと。今回の場合マンガでもいいんじゃない」


「なるほど、ありがとうございます」


「いえいえ、これに懲りず励みたまえ」


#


蒼月采蓮(あおつき あやね)は、朝の走り込みの帰りに交流区にあるメルポポ書店を探して立ち寄ってみた。昨日ナルド銅貨を受け取ってから、生きたくてたまらなかったのである。


書店は、サイズとしては狭いコンビニ、狭めの薬局とかそんな感じだろうか。中に入り、さてさて、マンガコーナーはどこですかー。


あったー、よし、さてはて少女コミックは……アレ?そもそも、一種類、シリーズ一つしかない。えぇーーーーなんということだ。マンガといえば、いろいろ、いろいろあるじゃない、学園青春モノ、大人な恋愛モノ、美男子、ギャグやコメディ、サスペンス、歴史モノなど、なーんにもない。ないのぅ、期待していたのに……


他にないか、必死で探すも、後は実用書や歴史書とかそういうのだ。


そんなふうに絶望していると小人族の男性の店員さんに声をかけられた。


「何か探してるの」


うん、でも、さすがに聞きづらいよ。聞けないよ。


「いえ、その」


しかたがないので、諦めて、売っている一種類のマンガを一式買って、自室に戻った。うん、残念だ。転生した人は男性なのかなぁ……ありうる。


自室に戻り、タオルで体をふいて、さぁ、まぁしかたない、ある物をまずは楽しむか……期待していただけに残念だけど、とマンガを手に取った。


ふむふむ、なになに大きな木が枯れてる、世界樹というのかな、妖精が空を飛んでいってて、勇者をふむふむ。


なんだかんだ言いながら、久しぶりのマンガは楽しかった。この世界に来て娯楽というものがなかったから、ささやかながらでも嬉しい。


内容は、子供向け、平易なことばで紡がれる冒険ファンタジーといった感じで、剣と魔法と妖精と、といった雰囲気だ。なぜか妖精は小さな人間風ではなく、メルポポの妖精みたいにちょっとコミカルな造形なのが気になった。悲壮感ただようはずの冒頭のシーンに、マスコットキャラクター的な可愛い存在が飛んでいると、まぁ、女の子のアクションもののアニメってでもそんな雰囲気だっけ。あちらは現代で、不思議な妖精と出会って変身バトルするやつ。まぁ、いいか。


しかしそうなると、やっぱり妖精の村長さんが気になる。きっと、この世界に妖精になって転生した人にちがいない。


#


冬の真っただ中に入り、メルポポの交流区の人間用居住区の建設は中断していた。


ここに来てからは建設現場で働いていたバルドも、道場が休みであるが、やれることがなく、宿でのんびりと本を読んでいた。


メルポポ書店で売っている『武術基礎シリーズ』の剣術についてである。彼の宿には、このシリーズの本がだいたいそろっている。


バルドは基礎については十分知っているつもりでいたが、なかなかどうして歯抜けがあって、こういう基本もあったのだと驚かされたのが最初に手に取った槍術のもので、そうしてひとしきり勉強しなおしてみようと思ったのである。絵でポーズも描いてあり、わかりやすい。


実践や応用も欲しいところだが、歯抜けになった状態ではどうかと思って、ひとまず、基礎についてちゃんと把握しておこうと思って、何度も読み返しているのだ。


『ググでも分かる魔術 はじめて編』を手に取って、魔術も練習してみたが、一朝一夕ではいかないらしく、いったん諦めていた。しばらく頑張っても、小さな土が作れるくらいだった。石にもならない。


どうやら、魔術というのは使うマナによって精神も影響されるらしい。そしてまた、多くの場合は精神的な特性が扱いやすいマナに関わってくるのだとか。エルフなどの種族は例外だそうだ。


もし、不得意な系統を扱いたいのであれば、精霊と契約して使う契約魔術を使うのが近道だとか。ただ、精霊は瘴気に弱い、そのため魔獣や魔王軍と戦うのは向かないなど、いろいろと知ることができた。


ふぅ、本を閉じて、一呼吸、暖かいお湯を飲む。


山岳地帯の冬は冷える。


今後のことを考えると、春頃からは、道場の休みの日にはなるべく建設の手伝いの仕事に入りたい。メルポポはこれから大きくなる、そんな話で、春になれば、どんどん開拓と建設が進むだろうという話だ。農作業の仕事があったらよかったのだけど、今のところなさそうだ。山岳地帯でも、麦、じゃがいも、キャベツなど、そういったものは育つはずだけど交易での入手に頼っているようだった。


しばらくは道場に通うつもりだから、お金はまだまだ残っているけど、安定した仕事を見つけないと。


#


ルージェ村に移り住んだマチのお爺ちゃんは、ゆっくりと飲食店へと歩いて行った。


周囲とどこからか、子供たちのにぎやかな声が聞こえる。冬でも子供たちは元気で実に平和だ。


飲食店にはいるとやぱっり、お酒をちょろっと頼む。これが楽しみになってしまった。王都マゼウムが無くなり、マチに買いに行ってもらっていたお薬も買えなくなって、なんとも人生の楽しみが減ってしまった。実に残念、ヒザがかゆくてたまらん。


そんなことをしていると、村長のジョウツォさんがやってきた。たまに一緒にちびちび飲んでいる。


「早く春が来るといいんですけどね」


「ほっほ、気がついたら来とる、そんなもんじゃ」


「武術訓練の指導、お願いしますよ」


「わかっとる。春になったらのぉ」


「春になればいろいろまた、変わっていくでしょうね」


「うむ、人も動けるようになるしな、また大勢の移動がはじまるのぉ」


「戻る気はないんですか?」


「王都マゼウムは瘴気に覆われてしもうた、向こう三十年、もっとかの、戻らん、帰りようもない」


「いえいえ、故郷のほうですよ」


「おぉ、そっちか、うむ、あの国の連中はダメじゃ。だが、マゼス王国の連中もダメじゃったがの、もうそういうのはのぅ」


「なんとなくわかる気がします。力があってもひっそり暮らしたい、そういう人を知っていますので」


「うむうむ、力があるからと頑張ってもな、いいようにこき使われるのがオチじゃからのぉ」

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