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45 もっと道場

ミリシアの妖精想造の力は星庭神成によって、神成の半分程度まで引き上げられることとなった。


ミリシアは自室で、魔王領の妖精の里計画を考えている。


なんとも、それは嬉しいことだ。自分がコルト様にいろいろ教えて頂いた、アニメやゲーム、そういったことから垣間見たコルト様の世界の文化、娯楽、その他いろいろ、そうした事の中で好きになった、いいと感じた夢を、まさに故郷に、理想郷を作り上げられるのだとしたら、何とも楽しいことだろう。そう、魔族の皆に伝えたかった、こんなに楽しいことがあるんだよと。それが、できるというのなら、やっていいとなったのだ、とても嬉しいことだし、これからどうなっていくかワクワクする。


そしてミリシアは神成の教えによって、一人で考えないということを学んだ。


そう、妖精に考えさせているのである。秘書の妖精、文化の妖精、娯楽の妖精、学校の妖精、などなどをつくり相談させ、今、報告書をまとめさせている。ときおり、方向性の確認で秘書が相談して来つつ、たたき台の報告書がだされて確認しいろいろ指示してと、状況を進めていった。


妖精の里を作るにあたって、危険性を下げるための方法を神成からミリシアに伝授され、そのうえで、この妖精会議によってブラシュアップされていっている。方向性とやりたいことを示せば、確認作業ははさまりども、どんどん回っていくというのは自動化のたまものだ。


こうして、作り上げる魔族領妖精区は、メルポポにあやかりムルププという名にした。


また、魔王様の側近とも連絡できる連絡役の妖精を配置し、向こう側とも調整が進んでいる。


さぁ、魔族文化大革命のときである!


#


蒼月采蓮(あおつき あやね)の新しい朝がはじまった。


メルポポ道場の朝の走り込みのあとも、各自に師匠と同じように見て指示をする、ということが促され、それはたどたどしくスタートした。


「あいつの腕の振り方、こういう感じなのを、こうだな、少しでいい直すよう指導してやってくれ」


師匠は、門下生のダメな動きを再現し、そのごある特定の場所だけ直った動きを見せてくれた。うん、すごくわかりやすい指示でございます。ですけどね。


私はその門下生のところにとぼとぼと歩いていった。


「その、動きがね、こうできる?」


「こうですか?」


「えっと、ここと、こことここの筋肉の動かし方をとりあえず意識して」


あれ?なんとなく、どう指摘していいか、わかった。


そして門下生は動くと、うん、意識できてる。


「そうそう、意識できてるから、そこの動きをこう」


と、手本を見せる。


「はい」


そうして、少し変わりつつあったので、いったん師匠のところに戻った。


「こんなかんじでしょうか?」


「あぁ、十分すぎる成果だ。魔術や料理のときと、また同じ感じだったか?」


「あっ、はい」


「なるほど、それじゃ今度は」


ということで、順調に朝の稽古は終わり、少し休憩してお昼の料理に取り掛かった。日本のように毎日違うものを食べる食文化ではないので、昨日と同じである。


メルポポ道場は今のところ木剣を使っているが、皆は得意なこと、できれば伸ばしたい別の武器があるとのこと。師匠は、剣だけでなく、それぞれに合わせて教える方針で、槍を想定した棒や、斧を想定した木の斧みたいな、そういう小道具の準備をポトフさんが中心に進めているそうである。ポトフさんは事務的なこと、その日の報告書や名簿作り、戸締りなどを行っている。


今日も食道のテーブルにフォフォフォっと浮遊の能力で配膳していき、お昼は和やかに進んだ。


そして、お昼、とうとう試練の時がやってきてしまった。


「アオツキ、昨日と同じだが、半分、六人面倒見てやってくれるか?」


おぉ、やはりきた、でも全員じゃなくてよかった。ありがとう師匠。でも、できるか分からないんですよ師匠。とはいうものの、受けるしかない。


「はい」


「よし」


こうして、半分に分けられ、場所も半々で、一人ずつ私は師匠の真似をして手合わせを開始した。


「はじめよっか」


「お願いします!」


とにかくはじめてみた。はじめるしかなかった。しかし、はじめてみるとタタッとやりとりしながら、手加減は非常に苦手だったけれど、やっていくと、上手くできてしまった。


「また、左手がへんだよ」


「すいません」


「ううん。また、同じ動きのちょっと前から」


そう、やりはじめてみると案外できてしまった。これも?神様はいったい、私に何をさせるつもりで能力を与えたのだろう?でも、ありがとう、おかげで私、師匠のお手伝いができる!


そうして二つに班分けした結果、この訓練は一時間という前回の半分ですんだ。そう言うのを計算しての人数だったのかな。


ひとまず、無事に道場の、師匠の補佐ができそうでよかった。


#


キルクス王国はホルーズオ大臣の指示の下でメルポポ妖精の悪評作戦がなされ、国内に順調に広がっていった。


メルポポの妖精は、魔獣を実は対峙などしておらず、魔王軍に差し渡して兵にしているにすぎず、それでお金を集めるという極悪非道を行っているのだ、といった塩梅の悪評である。


つまり、魔王の使徒である、そんな感じで広がっていった。


これは魔王軍の策略で、魔王の進軍が止まっているのも、人間側の内部を掌握し、切り崩すためなのだとかなんとか。


知らぬ人にとって見れば、ありそうな話、に聞こえるのだろう。


キルクス国内では妖精を見かけたら衛兵に通報するように、とまで進んでいる。本格的に排斥しはじめたのである。


その影響は周辺諸国にも若干及んだ。もしかしたら、その話は本当ではないのか、と。


ただ、周辺諸国は、メルポポと交渉を有利に進めたい思惑もあり、公式見解としてそれらはデマである、と宣言した。


とはいっても、影響される人は出てくる。


されど、ことリーディア商業連合国はメルポポ書店や、さきの式典やそのスクリーンの件などで、妖精は身近な存在になっていて非常に身近で、むしろ、なぜ、そんな悪評を広めるのか、という声も上がるほどだ。


そうして、キルクス王国は妖精を拒んだことで、魔獣に対する問題が拡大している。他の諸国はメルポポの妖精に依頼することで、かなり軽減し、情勢は落ち着いてきたのである。


キルクス王国一人負け、ということになってきつつあったのだ。


#


メルポポ道場の式典が終わり道場の徒弟の募集が開始されると、バルドはすぐさま応募した。そう、このためにメルポポに来ていたのだから。トーナメントに出場したのは、流されてのものだった。


トーナメントも妖精戦も強い人ばかりだった。デンの圧倒的な格闘能力はもちろん、道場の師匠となる剣士ブライも妖精を相手にかかんに挑んでいた。さらに、そんなブライすらも超える存在としてアオツキという少女の圧倒的な二刀流を超えたなにかは、ちゃんと認識できぬままに勝負が終わってしまったのだ。世界は広いとおもった。僕でもなれるだろうか、さすがにあの領域は何か天武の才を感じてしまう。農夫の家系の一般人には及ばない領域だろう。


それでも、もっと強くなって、誰かを守れる存在になりたいとそう思う。


ほどなくして徒弟の試験日が決まる。当日、朝起きて、いつもの運動をする。騎士団に入っていてからのトレーニングは日課になっていた。簡単な食事を食べて、顔を何度も洗った。緊張している。そう、どんな試験かというのもあるし、失敗できないなと思うとね。騎士団に入るときも緊張していた気がする。


とにかく、腹をくくっておもむいた。


試験会場にたどりつくと、大勢の人が待っていた。ポトフという獣人が事務的な手続きをしていて、名前などを聞かれて師範であるブライを待っていた。


すると、なんとあの少女アオツキがやってきたのだ。それには驚愕した。まさか、徒弟になるような人じゃないよな、と思っていたらポトフが駆け寄っていく。うっすら聞こえる話でどうやら彼女は師範の補佐をする人なのだという。つまり、師範の次に偉い範士(はんし)にあたるのだろう。すごい豪勢な人材だと思った。妖精を倒した人からも習えるかもしれない、ということに、さらに、もっと徒弟になって習いたいという思いが強くなる。


アオツキ様はさっと木剣を浮かせて、手元に引き寄せてしまった。さらに感動した。普段から、何気ない日常でも訓練されているのだ。


ほどなくして、師範ブライがやってくる。すると、順に各自、アオツキ様と手合わせするという流れになった。


カカンカンと、一人、また一人と、手合わせは進んでいく。どんどんと緊張してきた。どうしよう、失敗して全く剣を打ち合わせることもできずに終わってしまったら。どんどん終わっていくけれど、皆は食いついていっているみたいだ。すごく長く続く人もいる。一瞬で終わったらいやだな。


とうとう僕の番がまわってきた。気合を込めて進んだ。


「はじめっ!」


師匠ブライの合図でアオツキ様との手合わせがはじまった。


緊張して動けないでいると、彼女から、さっと下から振り上げるとてもかわしやすくも、受けやすくもある一振りがなされたのを僕は木剣で受ける。すると、彼女は間髪入れずにまた、受けやすい次を、という形でしだいに僕は防ぐのになれていったところ、彼女が少しゆっくり何もしない間のようなものがあって、そこで僕は切り込んでみた。それを、彼女は受けて、また次という流れで、なんとかできている気がした。


そうした攻防はしばらく続くかと思えたが、どんどんと激しくなっていく。対応しきれず、構えが崩れることが何度かあって、最後には、ズンと首筋に木剣を当てられて止まってしまった。


そして、僕の番は終了した。全力は出したと思う。けれど、よくわからない。


残りの人達が手合わせを受け終わると、師匠ブライは、アオツキ様に一人よさそうなひとを示してみろ、と言われた。一人ということは、もっともよい人が選ばれるのだろうか。たぶん僕はそんなことはないけれど、アオツキ様は、僕達をひどくにらみつけていた。なんだか、怖い。目で心臓が射抜かれる、そんな気がしたのだ。


彼女は、青髪の青年を指名した。さすがに、自分のことでいっぱいいっぱいだったので彼がどうだったかはよく分からない。けれど、何かあったのだろう。


その後、師匠ブライとの面談となり、僕の番が回ってきた。


「まずは座ってください」


と、ポトフさんに案内され、事務室で師匠ブライとポトフさんと僕とでの面談がはじまった。


「簡単な経歴をまず話せるか」


「はい、農夫の家系で元リーディア騎士団所属のバルドです」


「ほう、どうして辞めたんだ」


「僕は轟雷仙ヴォルテクスの噂の元となったと思われる大魔獣討伐に参加し、己の無力さを痛感し、もっと強くなりたいと」


「ヴォルテクスを見たのか」


「僕が分かったのは何かが急に接近した事、そして大魔獣を雷撃が多い倒してしまっただけで、どういう存在か僕もふくめて分かるものはいません」


「なるほど。では、徒弟の応募理由を聞こう」


「魔獣に脅かされる今、友を守るためには、さらなる力が必要と感じ、己の武を高めたく」


「そうか、使いたい武器、得意な武器それぞれなんだ」


「どちらも槍です」


「もし槍より斧のほうが得意だと指摘され、そちらをのばせと言われたらどうする」


「従います」


「その理由は」


「守る強さが欲しいからです」


「何か質問はあるか」


「ブライ様はどうして道場をおつくりになったのですか?」


「俺は妖精と戦ってみたかった、その条件がここの師匠になること、ということになったんだ」


「では、とうとうご自身の流派を作られるという噂は違ったのですか」


「そうだ。それに、俺はそれぞれに合ったものを教えるつもりだ」


「それは大変ありがたいです」


「よし、ここまでとしよう」


「ありがとうございました」


こうして、面談は終わった。


その後、徒弟として合格が決まり、門下生となった。


道場の訓練では、個々人に応じた指導がなされる。アオツキ様は、料理も作られまた、それが非常においしい。お店を出さないのがおかしいほどだ。さらに、師匠もアオツキ様もどちらもわかりやすく教えて下さる。こんなとても恵まれた環境にいれることを、幸運だと感じた。

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