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44 道場のはじまり

剣士ブライは、門下生の選別を終えて解散させたのち、事務室で名簿をながめていた。


カーリン、青髪の剣術は未熟で体もまだ出来上がっていない青年、それはアオツキが気になるといった人物だ。


安直に最も強い人を選択するかと思ったが、妙なところを選んできた。ぱっとしない青年である。アオツキとの試験でも、良い感じはまったくなかった。アオツキが、好みで判断するかというと、まっすぐすぎるその性格から、違うようにも思う。


アオツキがなぜ選んだのか、そういうところも理論だてて分析していくこともブライの仕事であった。きっと何かあるはずなのだ。アオツキは剣術においては俺が見えてない領域も見えている。難しいな、自分より能力のある部下を持つというのは。こっちが評価できない領域の物差しを持っているからな。


他、バルドは式典のトーナメントにも出ていた、騎士としての経験、肉体もしっかりしている。いい人材といったところ。


レイナという金髪で短髪、筋肉質な体格のいい獣人の女性、幼少期から厳しい訓練を受けてきており、逸材といったところ。


他にもまだまだたくさんいる。


今後道場のメンバーは、交流区や居住区の自警団になるか、関わってくることが想定されている。そうしたことで、それにふさわしい者という条件も加えられている。


今回はそこまで、粗暴で乱暴でどうしようもないのはいなかったがな。いたらいたで、アオツキがどう反応したか、気になるところだ。


これから本格的にメルポポ道場ははじまっていく。まずは、アオツキにどこまで任せられるか、だな。


#


リーディア商業連合国の大都市に出店しているメルポポ書店は軌道に乗り、人でにぎわっていた。


武術関連書であれば『武の歴史』、『武術基礎シリーズ ~』、『武術人物大全』が人気である。武術を志す者はもちろん、憧れたり夢見る人達、子供から大人までと意外に幅広く手に取られている。


魔術関連書であれば『ググでも分かる魔術 はじめて編』、『魔術のできること辞典』、『契約魔術と精霊』が人気だ。なんとなく読むだけでも魔術が使えるようになった気がして楽しい娯楽的側面と、実際に有用である側面があり手に取られている。


歴史関連書であれば『リーディア商業連合の歴史』、『六日でわかる世界の歴史』、『エストンディア王国のすべて』が人気だ。リーディアの国全体についてと、人間側のここ百年ほどの歴史のざっくりしたまとめ、リーディアの一部が元王国であった時の成り立ちから崩壊までをまとめたもので、自分たちのルーツを知る手軽な本として手に取られている。


他の実用書としては『冒険者の装備とサバイバル術』、『音楽ピアノあいうえお』、『リーディア料理の書』が人気だ。ピアノは庶民は持てないので貴族やお金持ちの人々がこぞって買っている。リーディアの各村の郷土料理や共通料理のレシピや料理の基本をまとめたりもしていて、料理人やそれを目指す人、家で家事をする人に大人気である。


その他に『マナセラピー療法』『星座占い』『哲学 ムズダバの弁解』『宗教大全』『こんな上官は嫌だ』なども人気で、まだまだこれから種類を増やしていけそうではある。ただ、それは経済的な安定や庶民に余裕というものが必要である。いまはまだ、難民と瘴気の問題を抱えつつもリーディアは余裕のある状態であった。


もちろんマンガも続々と売れていっている。


また、そうしたことで、合言葉で買える商品は、専用の別の書店としてトヨトミ書店という小さな本屋さんを設置することになった。紳士の方々に多数のご要望をいただき、取り扱う本の種類は四種類に増えている。


これからは大都市を中心に活版印刷機をメルポポは販売予定で、各所で人間達の手で新聞が作れるように土台作りに動いているところだ。


書店についてではないが、メルポポ道場式典の投影スクリーンについては苦情が届いていた。人が多くなりすぎいろいろ混乱させてしまったところもあったのだ。もちろん、事前に各所に連絡、許可はとっていたが、次回からは通路の確保か特別に場所を作るかなど、検討が必要とのことだ。


人々に、本を読むことが楽しいもので、手軽なもので、人生を豊かにすると伝わっていくことで、きっといろんなことが変わっていくだろう。


魔王領のメルポポ書店もゆっくりと軌道に乗っている。ただ、魔王領は物々交換である、通貨の計画はありメルポポとしては期待しているのだった。


#


コルトこと星庭神成は、ミリシアと妖精を連れての、魔王レイズガットと会談がはじまった。レイズガットはいつも通り側近を二人連れている。


「今回は、俺からの要望だ、ミリシアも関係がある話でな」


「うむ、ミリシアが粗相でもしたか」


レイズガットは全く見当違いな心配をしていた。彼からすると、コルトから敵視されるのは非常にまずい。


「ちがうちがう、人間側に妖精の里としてメルポポを作っているのは知っていたよな」


「あぁ、自治をさせていると」


「ミリシアにも妖精を作る能力を使えるようにしたんだが、せっかくなのでちゃんと使ってみたい、魔王領側にメルポポみたいな妖精の自治区を作りたいんだ」


「なっ」


レイズガットは開いた口がふさがらなかった。いろいろ衝撃的すぎる話だからだ。そもそも、ミリシアが妖精を作る能力をつかえるように"した"とはなんだ、え、ミリシアもコルトのように、妖精を使っていろいろできる、そういうことなのか。え、どういうことだ、コルトはミリシアに自分の力を分けたのか、何故コルトにとってそんなリスクのあることをする、まずそこが分からないし、妖精の自治区をこちらに作るだと、何を企んでいる!?


「ミリシアが持つ力はどういうものかと、使えるようにした理由、それと妖精の自治区を作りたいという理由を示してくれ」


そこで、妖精が代わりに語り始めた。


「ミリシア様はコルト様と同じ妖精想造の能力、勇者の力を持っています。コルト様が伝授されました。能力全てが同等の力には至っていませんが、それも可能とお考え下さい」


「う、うむ」


レイズガットはさらに驚愕した、何がどうなっている。これでは勇者が増えたようなものだ。いや、魔族だからいいのか、ちがう、まず、コルトはいったい何を考えている。自分と同じ力を持つ存在を脅威と考えないのか、コルトはいったい何を考えている。恐ろしくないのか。それは、赤の他人に自分を殺せる凶器を渡すことに等しい。器の大きさの違い、なのか。いったいなんなのだ……


魔王レイズガットは、勇者の力を与えたというコルトの意図をはかりかねていた。


「ミリシア様の発案で、魔族側に文化、娯楽、学校そういったものを発展させる起点として、ミリシア様の能力で妖精の里を作りたいのです」


レイズガットは、これについては腑に落ちた。なるほど、今我らが直面している問題でもある。良いチャンスなのかもしれん。


「独自の自治を認めよということか?」


「いえ、文化、娯楽、学校などの妖精が作る施設、サービスの設置や運営の許可をいただきたいのです。メルポポ書店を他の分野で発展したもの、でしょうか」


「我らの文化、娯楽、学校の発展、これを軸とするということで許可しよう。それと、いろいろコルトには聞きたいこともある」


「どうした」


「貴様は何を考えてミリシアに力を与えた、怖くはないのか?」


「言いたいことは分かる。だが、俺は仕事を任されたくない、同じ力を持っている存在がいて、代わりに対応してくれるっていうなら大賛成だ」


「なるほど、ミリシアを信用してくれておること感謝する」


「それはおかしいが、まぁいいか」


「ミリシア、しっかりやっているようで、元気でいるようでなりよりだ」


「魔王様、ありがとうございます、全身全霊を尽くして魔族の発展にもご協力させていただきます」


「うむ、第一はコルトのことでよい」


レイズガットはコルトの器の広さ、そして人を信頼しきれる力について精神的な強さを感じていた。同じ力を持つ存在は、脅威や嫉妬の対象になろうに、引き込んでしまえる、そういう胆力があるコルトは、武力とは全く異なる方向で、世界を変える力を持っているのかもしれない。強大な武力を持ちながら、異なる方向で、世界に働きかけようとするその姿勢は、魔族には全く縁のないあり方だと感じた。


こうして、無事、ミリシアがつくる妖精の里について許可が下りたのである。


#


メルポポ道場ははじまった。朝の走り込みと体力づくりと道場内で型などの簡単な稽古、昼食の後、道場内で個人個人に指示する稽古、という流れになった。


今はお昼前、蒼月采蓮(あおつき あやね)はトトトトと料理を作っていた、門下生は朝の稽古が終わり休んでいる。


今日はまず師匠が俺のやることを見ておけと言っていたので、そういう点では楽だ。ただ、見ておけ、ということは、あの時のようにきっとまた、見てたよね、と授業の最後に小テスト、みたいなことがあるような気がして気が抜けない。


それはそうと、料理は何故か得意になっていたので好きだった。あぁ、作っていて楽しい、十六人分の食事といっても、なんとも慣れたようにできてしまう。いや凄い、転移ボーナス様々である。この世界でたくましく生きていけるように神様が下さったのだとしたら、とてもありがたい、感謝だ。


そんなアオツキの姿を門下生の数人がのぞいていて、驚愕していた。なんといっても、剣の腕だけではなく、料理まで、しかもふつうに大きな飲食店の厨房をやっていましたといった手慣れた感じでさらにおいしそうなにおいがしてきてよだれが出てしまう。


采蓮は気づいていたが、無害ならいいかと放置して、ボゥ、ジュッ、コトコトとつぎつぎと浮遊の能力も使って手際よく料理を進めていく。


盛り付けも終わり、食道に料理を次々と配膳していく。もちろん、浮遊の能力で。


「「「いただきます」」」


そんな挨拶と共に、お昼の食事をみんなで食べた。ここに来てから、ずっと一人で食べていたから、何か嬉しい。しかも、私の作った料理をおいしそうに食べてくれているというのがいい。神様、料理スキルを身につけさせてくれてありがとう。


みんなが予想以上に料理を褒めてくれるものだから、にやにやと顔がとろけてしまう。


休憩をはさんだ後、稽古が再開された。


朝は、木剣や棒を使った振る、型を構える、など人にあわせて内容を変えて、繰り返しの訓練をさせていた。師匠は全体をみながら、適時、声をかけ、動きのおかしいところや直し方、よくする方法などを伝えたり、たまに、その動きはどうできていてよかった、なんてほめたりもしていた。全体を見ながら、なかなか大変じゃないだろうか。そう個人個人を見て教えるという意味では十三人はかなり多い気がする。でも、学校みたいに集団へ、画一した、誰かに合わせたわけではない教え方とも違う。家庭教師とか個別指導だっけ、そういう塾みたいな雰囲気があるけど、その先生って一度にこんなに教えるもんだったかなと感じていた。


昼は、一人一人と師匠が、直接手合わせ指導していった。手合わせしてない門下生は、吸収できるものがないか、よく見ておくようにと師匠が最初に告げていた。なるほど。


手合わせをしながら、変な癖を見つけたら、そこを治すように、何度か集中して練習して、またもどる、なんてこともあった。癖の治しは朝の稽古で、とのこと。一人十分くらいだろうか、それでも全員となると二時間ちょっとかかる。


見ておけと言われたけど、なんだろう嫌な予感がする、師匠、いやな予感がします。その、これを私にやれと言わないよね?ね?


「ありがとうございました!」


「よし、次!」


えー、その、人に教えることなんてしたことないし、まして剣術だし、いつの間にか身についてたものだし、いやぁ、えぇ、うーん。と悩みながら、師匠の真似ができるようによく見るのだった。


道場は広いので、その後、二人一組で、小さいばしょでお互いに手合わせをすることになった。テーマはいろんな実力の人との対峙のしかたを覚えるとのことだ。


門下生は十三人なので、二人一組だと一人足りない。私がそこに収まった。私は、門下生の選別のときに近い感じで応対した。これ、すごく難しいんだー。


師匠は体を休めつつ全体を見ていて、たまに、指示を飛ばしていた。皆の名前をもう覚えている、さすが師匠!


「よし、今日は終わりだ」


「「「ありがとうございました」」」


さぁ、今日のことを見たうえで、明日は試験だ、何かをやることになる、きっとお昼のアレだ、アレに違いない、師匠、さすがに無茶です、経験ないです、無理ですよ。


と、彼女は心の中で嘆きながらも、明日は勝手にやって来るのだった。

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