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43 ミリシアのお願い

魔族領で資料を編纂していた、ハナージャ、マズル、レキストの三人は一通りの仕事を終えた。さて、そんな作業をしていた部屋での事。


次は人間側の領域で潜入でも任せられるのかなと考えていたところ、全く違う任務が与えられたのである。


それは、資料の編纂からの発展、それらをもとにした魔族の文化、産業、娯楽、学問、などの発展に対する計画立案と実行である。


そうした発展については勇者コルトより、まずは模倣し、自分たちになじむようアレンジしていくのがよい、という助言もあったとのことだった。


「ねぇ、これってどうするの?」


「真似ればいいとあるから、一つずつ真似てみるしかないんじゃないか……」


「なんかすごく難しい指令だな」


三人は、手の付けようがない、どうしていいか分からない、そんな感触を得た。


人間側の領域に調査しに行ったのもなかなか手探りだったが、これはさらに規模が大きい。なんてったって、一個人が計画的にどうこうして本来できるものではないのがほとんどだからだ。


「まず、貨幣の流通が先ね」


「なるほど、全ての土台だ、物々交換では限界がある」


「そうするとお金の計算、つまり算術や、いずれ文字の読み書きか?」


そう、魔王レイズガット指揮の元、全体主義的にこれまで発展してきて、貨幣という存在が今までなかった。産業を発展させるなら、自由を与える必要があり、そのためには貨幣が必要になると考えたのである。


そして、お金のやり取りするうえで計算能力は欠かせない。皆が最低限お金をやり取りできるくらいは、計算ができなければならない。


「気が遠くなる話ね……」


#


ミリシアの自室に呼ばれコルトこと星庭神成は、ミリシアの自動化の成果を確認していた。


「おぉ、だいぶ放置できるようになったな」


「そうでしょ。なんとなく全自動という考え方が分かってきた気がする」


ミリシアのパソコンの画面では何も触ってないのにゲームが動かされていた。まぁ、本当はこういうのダメなんだけどね。


編成なども自動で切り替わるようになっており、画面から文字の解析にも踏み込んでいるのだろうか。詳細はともかく、かなりよい。しいて言うなら、自動化中は他のことにパソコンを使えないことである。バックグラウンド再生みたいにできず、パソコンの本物のマウスカーソルなどを動かしてしまっているのだが、目的はそこではないので良いと思う。


「じゃっ、後は妖精をどう使うかに進めそう?」


「うん、でもそれについて相談があるの」


「なになに?」


「魔族領側で、私もメルポポの里みたいなのを作ってみたいの」


「なる……ほど……」


神成はいきなりだと危ないんじゃないかと考える。やるとしたら、いろいろ事前に伝えないと危険だ……勝手に妖精が動いてハチャメチャ爆発事故とかになったら目も当てられない。それはそれとして……


「まず、魔族量まで妖精は届くのか?」


「まだ無理なんだけどぉ」


と、ミリシアは甘えた声で瞳をウルウルさせたようにして訴えかけてくる。どこで覚えたんだそう言うの。いや、あぁ、マンガとかアニメか。


「レイズガットの許可だっているだろ」


「そう魔王様の許可がいるのぉ」


あいかわらずの甘えた声である。


「距離はどうにかしてやれる」


「本当!」


「だがな、俺は頼めばなんでもデデーンと解決してくれる便利未来ロボットでもないんだ」


「ただでは動かぬと申されますか」


「報酬があっても嫌なんだけどな」


「そこをなんとかっ」


「せめて報酬を提示してくれ、それから考える」


「もし魔族が文化的に発展したら、戦争以外に目が行くようになって、文化を元に人間側と交流するよい材料になるかも」


「無くはないが、あまり期待ができない」


「その心は」


「半分はいい、半分足りないんだ。そもそも、人間側が魔族と話し合う雰囲気が全くないから、魔族にその気ができても厳しいだろ」


「そんなぁ……私の幸せ学園計画が……」


「何をやろうとしてるんだ。ともかく、別に、協力してもいいんだけど、なんかね」


「私はコルト様の事をずっと信じておりますし、コルト様が煩わしいと感じるものは率先して排除いたしますよ」


うん、ちょっと暴走して怖いことになりそうだけど、代わりに何とかしてくれるのか……よくよく考えたら、同じ異能力もってるんだから、俺が解決しなきゃいけないことも、ミリシアが解決できるようにできるわけだよな、おう、なるほど。


でもな、人の心って移ろうからな。ミリシアはいつか俺のようなダメ人間の元から離れ巣立っていってしまうときが来るかもしれない。


「どうしたんです?」


「ちょっと待って」


最悪のケースとして、ミリシアに裏切られて殺されるんだとしても、それならそれでいいか。人間いつか死ぬわけだし。


この世界に来るまでの年月はただ苦しみ続けて何で生きているのかわからない状態だった。そんな地獄で生き続けるくらいだったら、短くてもいいから幸せに暮らして、自由に暮らして、好き勝手に暮らして、そうして死にたい。安楽死の理屈にちょっと近いのか。


極端に言うと、十年楽して生きられるなら、十年後に死んでも、そんな発想。さすがに極端だけどね。


今すぐ死にたいって話じゃなくて、苦労のある長生きにほとほと嫌気がさしてる、そんな感じか。


そうだとすると……なんかやり残してることあったっけ。あったらとっくに妖精で叶えてるんじゃないか。まぁ、ゲームはまだ作り終えてないけど、なんか違う気がする。


「ミリシア、俺が嫌いなことってなんだ?」


「働くこと、お願いされること、期待されることです」


「よろしい。それを重々理解し行動してくれるなら、汝に力を授けようではないかっ」


「もちろんです」


こうして、コルトはミリシアに多くの力を与えることとし、魔王レイズガットにミリシアの妖精の里の件で相談することにしたのである。


#


蒼月采蓮(あおつき あやね)は、訓練していた時のいつもの服で道場へと向かっていた。今日は集まった生徒候補を選別する日で、その補佐をすることになっている。


まずは師匠の補佐のお仕事第一回目である。


なお、これらはちゃんとしたお仕事ということになるそうでハルド銀貨という通貨が受け取れるのだとか。ちょっと楽しみであるし、アルバイトもしたことはなかったので不安もある。補佐については、全部ではなく、あと一人いるらしい。まだ会ったことはない。


訓練場に入ると、三十人ほど集まっていた。師匠はまだ来ていない。皆ぎょっと私を見ている。ちょっと怖い。


すると一人の細身の獣耳やしっぽの生えた男性が近づいて話しかけてきた。


「すいませんアオツキさんですよね。僕はポトフと言います。事務方を担当させていただきます」


「はっはい、アオツキです……その、よろしく」


うん、なんだか、温和そうな人?なんだけど、どうしても初めての人は緊張するな。そうでなくとも、話すのって苦手だし……


「はい、もうしばらく時間はありますので、奥に入って師匠をお待ちしましょう」


「はい」


ポトフさん、なんだかとっても美味しそうな名前のこの人は、猫っぽい獣耳だ。メルポポは雑多に人が集まってるので、そういう人は少し見かけたことはあったが、話したのは初である。ザ・ファンタジーだ。妖精さんのほうがよっぽどファンタジーだが、最初に出会った存在が不思議過ぎたので、ずいぶん、この世界のありよう自体にはわりと驚かなくなっている。


ポトフさんがすでに木剣をここまで持って来て何本も用意している。


奥に入って、ちょっと待つのが手持無沙汰だったので山積みの木剣から能力でふわっっと一本取り出して手に取ると、周囲は感嘆としていた。


「おぉ、あれがアオツキ様の力か」


「見たのは初めてだ」


「すげぇー、俺もできるようになるかな」


と、ちょっとにぎやかにさせてしまったようで、申し訳なく思う。


魔術とかあるんだから、そこまで不思議なことなのかな……


しばらくして、師匠ことブライがやって来て、全体を一望する。


「だいぶ多いな。ま、順番にやるか、アオツキ、一人ずつ能力を引き出す感じで相手していってくれ」


「はい」


応えてみたものの、引き出すか、うーん。と思いつつ、道場の真ん中に進んでいく。たぶん、私は手加減して相手の本気をぎりぎりまで出させるってことだと思う。相手が十の能力に対して、私がいきなり二十とかだして、測かれなかったらダメ、五で判断して、それがいけたら六みたいにやって、十をやってそれは行けるけど十一はダメでした、みたいな。すごくざっくり表現すると剣術用の身体測定かな。


「師匠、誰からでもいいの?」


「いいぞ」


ほいっと能力で木剣を左前の人の手元に浮遊させた。ぎょっとしながらその人は恐る恐る握った。


「お願いします」


と、木剣を渡した相手に向かっていう。


「お、お願いします」


おぉ、相手も緊張しているようだ。私も緊張している。木剣を握ると少し落ち着くけど、師匠の期待に応えなきゃ。


「はじめっ!」


師匠が合図をいってくれた。とても助かる。


相手は意を決して走って振りかぶってきた。


「おぉぉ!」


ちょうどいい感じに拮抗するくらいに頑張って剣を合わせてみる。カンとかち合うとすこしさがって様子を見つつ、想定通りの次の攻撃を同じくあわせて、ちょっと次は優しめにこちらから攻めてっと。


打ち合っていくと、相手は調子が出てきたようで、それにあわせる、けれど、これすごく難しい。難しいよ師匠。


さらに続けていくと、ふと相手がスキをみせる、かるく打ち込もうと試みつつ、相手はやっぱり対応できなさそうなのでやめてちょっと横にステップを踏む。そうしたことを繰り返して、どんどん相手の動きが荒くなってきたのでざっと下がって師匠を見ていう。


「もういい?」


「十分だ、次!」


そんな流れで、二十八人を相手に頑張った。頑張った。途中から緊張は無くなったけど、これすごく難しいんだよ。精神が凄くすり減るイメージだ。


「アオツキ、よさそうな人を一人示してみてくれ、参考にする」


え、ちょっと待って師匠、覚えてないよほとんど。全身全霊必死にやってたので、全然記憶はないけど、うーん。ひとまず、皆を眺めながら頑張って思い出そうとする。


顔をみると、なんとなく少しは覚えているみたいだった。じーっと皆を見回すと、なんだか、皆怯えはじめたきがするけど、気にしている余裕はない。


だいぶ時間をかけた人もいるし、持久力はなかったけど攻める姿勢は凄い人もいる。でも、なぜか妙にひっかかる、気になる人がいた。その人は、まだまだ未熟で持久力も全然ないけれど、なぜか、選択肢の中にチラチラする人がいた。それはもう、直感みたいなものかもしれない。そして、私はそれに従った。


「いいかは分からないけど、青髪のこの人、気になる」


「わかった」


それが正しかったのか、私は知りたくて師匠の顔色をうかがったが、まったくわからなかった。期待を裏切ってないか心配だ。どうなんだろう。


「後は俺とポトフでやる、順番に俺と面談だ。アオツキはここにいて休みながら監督、外から変な人が来ないか見といてくれ」


「はい」


そうして、しばらくすると解散となり大変な一日は終わった。あれは凄く疲れる。


採用されたのは十三人、ちょっと不吉な数だ。その一人には私の指名した青髪の人も残っていた。ずいぶんバッサリ減らしたようにも感じるし、合格率四十パーセントくらいだったら、そこそこ門戸は広いようにも感じた。今後そうとは限らないけれど。


学校の勉強とは、なんか違う感じだなと思った。何が違うんだろう。

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