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38 メルポポ道場式典、トーナメント戦のはじまり

メルポポ道場開催式トーナメント第一回戦の準備が整い、あらわれた二人は距離を置いて木剣を構えあった。模擬戦ということで、それぞれ鎧は来ておらず動きやすい格好をしている。


「それではご紹介しましょう、北側は筋骨隆々、どんな魔獣も頭を潰して一捻りのハンマー使いのゲルグ選手!南側はリーディア国騎士、馬術に秀でた槍使いマルティス選手!トーナメントは武器は木剣、格闘あり、場外負けあり、十秒倒れていたら負け、降参もありでございます」


会場の観客は大いににぎわっている。さぁ、これからはじまるぞと。メルポポ各所で見ている人達も固唾をのんで待ちわびている。さぁ、誰が勝つのか負けるのか。大都市のスクリーンは今回が初めての実施ということもあり、人はまばらである。


「それでは、はじめっ!」


その合図で、対峙していた二人は動き出した。


体格のいいゲルグは、やや小さく不釣り合いな木剣ではあるが、そんなものはパワーで押し切ってしまえばよいと豪快冗談からのまっすぐな一撃を急接近して繰り出そうとする。


応じるマルティスは受け流すか一瞬考えたが、圧倒的な威力に流しきれないと判断し相手に合わせる形で前身、受けるそぶりを見せたところを真横にとんで回避してその姿勢から一撃を放つ。


空振りしたゲルグは、その勢いのまま巨体に似合わず前転しながら距離をとってマルティスの剣がかすりつつ体をねじって相対しなおした。


この最初のやりとりに、観客は拍手喝采だ。


一泊おいて、戦いは続く。基本はゲルグが驚異的な一撃をねらい、マルティスはそれを対処してのカウンターだが、ゲルグの巨体に似合わぬ俊敏な動きで決めきらない。そんなやり取りが繰り返されつつ、たまに、マルティスのカウンターに連撃がまじりゲルグがかわし切れずに手傷を追ったり、ゲルグが素早く動いた突きの連撃をマルティスは二発ほど受けるなどし、激戦は繰り広げられていく。


会場はその熱い戦いに歓喜し声援を送っていた。司会者ディーニックも盛り上げる。


どちらも負傷し、そろそろ決着をつけたい、そう思うのはどちらも同じ思いだっただろう。ゲルグはやはり今度こそはと渾身の一撃を込めて猛突撃を放つ。それを、マルティスは大きく下がって待ち構える。さぁ、どうなるか、マルティスにゲルグの大きく振りかぶった一撃が放たれんとするまさにその時、スッッと前に出たマルティスは剣を捨ててゲルグの振り下ろした腕をつかみ百八十度反転しながら後方へ、投げ飛ばしたのである。


「ゲルグ選手じょーーーーーーがい!勝者はマルティス選手!」


観客たちは大いに盛り上がり拍手をした。


全貌を一見するとマルティスはじりじりと外側に追いつめられている、そんな風でもあった、だが、実は逆なのだった。この瞬間を狙っていたのである。


こうして第一試合は終了した。


#


コルトこと星庭神成とミリシアは執事の妖精に促されて、シアタールームでメルポポ道場の開催式を見ていた。


「おー、面白いことになってるな」


「コルト様が考えたのですか?」


「いやいや、妖精達と周囲の人たちの自主的なものだよ。俺は何もしちゃいない」


「さすがコルト様です」


神成はなぜ褒められているのかわからなかった。


そうして、第二試合がはじまる。


「それではご紹介しましょう、北側は冒険者として活躍するは二十年、歴戦の戦士デオドルア選手!南側は看板を背負ってやってきた獣甲流格闘術の期待の星デン選手!さぁ、それでは試合はじめっ!」


デオドルアは斧を得意とするが、剣もいける、戦場にある武器なら何でも使うのが冒険者だ。ゆっくりと距離を縮め様子をうかがう。デンも同じように木剣を構え少しずつ近づいていく。


じわじわと距離が近づき、さぁいつどちらの攻撃が繰り出されるのか、観客たちは見守っていた。


ふと、唐突にデンは木剣を投擲しデオドルアの頭が狙われた。デオドルアは油断なくそれを適切に払い落とすが、そのとき、彼の視界は一瞬自身の木剣で遮られる。木剣を振り下ろしたとき彼にとって目の前にいたデンが消えている、そう思った瞬間、腹に思い一撃をうけデオドルアは意識を失い倒れた。


「デン選手勝利!あざやかにデオドルア選手の腹に一撃が入りましたー!さすが、獣甲流の次の頭首と目されるだけはあります!」


参加者であるブライは、観客より少し近くでその一連の流れを懐かしく見ていた。彼も、同じような手で、獣甲流にはやり込められた経験がある。剣や武器というのは格闘と比べれば間合いがあり、威力も載せやすく、斬撃などいいことずくめである。ただし、体の小回りについてと、その武器自体が視界を遮ることがあるのである。獣甲流は、自身の技だけでなく、そうした他の武術の長短も研究し、発展してきた流派であるのだ。


第二試合も無事終了した。


#


これまでの試合を見ながら、第三試合の選手となった剣士ドルッツォは緊張と共にやっと来たかと心を燃え滾らせていた。


彼は剣を使う、そういう意味では木剣は武器の長さなどはそこまで違いがなく、他の武器を使う者たちと比べて有利ではある。しかし、不利であった。彼は純粋な剣術ではなく、得意とするのは魔術を併用した戦い方であり、今回のトーナメントでは封じられている。妖精戦は別なので、そこにたどり着くまでは、真の実力は出せないのである。まぁ、それは誰しも同じ条件かもしれないと思った。


雷を剣に帯させ、風を使った移動補助によって戦場を稲妻がかけるように切り裂いていくのが彼の戦い方である。


第三試合の準備がはじまり、彼は北側の指定された場所へとゆっくり進んでいく。情報通り、相手は女性の剣士だ。やっかいなのは、彼女は魔術を使わず剣術と軽やかな身体能力で相手をほんろうし戦うタイプである。つまり、彼女としては戦いやすい戦場ということになる。それを不公平だとは思わない。ただ、どうするかだ。戦場に公平さなどそもそもない。


長い呼吸をし油断なく相手を見、剣を構える。周囲の声援は俺の名前もあれば、彼女ジュリアの名前も聞こえてくる。どちらも期待されているのだなと感じつつ、その周囲の声は集中の外へとゆっくり押しやるように意識した。


「それではご紹介しましょう、北側は雷剣による一撃は魔獣を両断する剣士ドルッツォ!南側は女性剣士、軽やかなステップでどんな一撃も避けてしまうジュリア選手!さぁ、それでは試合はじめっ!」


合図とともに、ジュリアは大きく跳躍、大胆にも素早くそのまま切り込んでくるのを、冷静にその一撃を俺は受け止めた。カーンという音と衝撃が周囲に響き、ドルッツォはその力を込めて相手の剣をはじきにかかったが、ジュリアは軽くいなしてしゃがんだと思ったら顎を狙っての突きが飛んでくる。ドルッツォはさっき押し込むときに地面を固く踏み込んでしまったせいで、上手く後ろへ飛ぶことはできないと判断し、左へと転げまわりながら距離をとって片膝をついて構えなおす。


ドルッツォに体制を立て直せまいとジュリアは猛攻の刺突の連撃を、ドルッツォはいくつか剣でさばくも、肩や腕にそれぞれ一撃をもらってしまう。くっそ、対人戦にも慣れてやがる。


得意技を封じられて不利とはいえ、そう簡単に負けるつもりもなければ、勝つつもりだ。


「うぉおおお!」


叫ぶドルッツォは、致命傷を喰らわなければ他は受けても良いと判断し、ジュリアの刺突撃を左手で強引に受け、彼女の腹に一撃をいれた。とっさに彼女が距離をとる間に、ドルッツォは立ち上がり片手で剣を構えると、ジュリアは両手を挙げた。


「降参よ」


「ジュリア選手降参!ドルッツォ選手の勝利です。粘り粘って肉を切り骨を断ったドルッツォ選手でしたーーーー!」


二人は握手を交わし、それぞれ、妖精の治療班の元へと向かった。


「まったく、あんたは勇ましくてかわいげがねぇなぁ」


「どっちがよ。私はあなたみたいな判断できないわ。痛めつけるのはいいけど、痛いのは嫌だもの」


ひとまず、勝利できたことにドルッツォは安堵していた。なんとしても、妖精戦まで勝ち、妖精と雷剣での本気の勝負をしてみたいからだ。


#


会場はこれまでの戦いで大盛り上がりだ。さて、ゲルグ、デオドルア、ジュリアが優勝すると賭けていた人々はくっそぉーと無念の意気消沈である。中には大金をつぎ込んだ人もいて、これからしばらく一日一食だぁ、なんて絶望している人もいた。式典は大いに盛り上がっている。


敗北したゲオルグは、参加者側の隅にしゃがみこんで、やってしまったと落ち込んでいた。見事にやられた、と言えばそうだが、戦場を把握できていなかったのだ。持久戦に持ち込めば勝てた可能性が高い。まだまだ体力も残っていればそこまでの負傷はしていなかった。それだけに悔しい。


一方マルティスは勝利を喜びはしたが、二試合目を見て頭が冷えたのだ。そう、次の彼の相手は獣甲流格闘術のデン、それは圧倒的な強さだったのだ、どう戦ったらいいか見当もつかない。おそらく、戦術においても相手の方が幅が広そうで、一試合目の時のようにはいかないだろうと思った。彼は周囲の湧きたつ熱気とは反対に心を落ち着けることに専念した。


ドルッツォは妖精に傷をいやしてもらい、次のことを考えていた。彼の次の相手は第四試合の勝者である。もちろん、事前に聞いていることもあるが、自分の目で確認し見定めておきたい。


交流区の飲食店で見ている人たちも盛り上がっており、それぞれの戦いの感想を言い合っている。やはり、圧倒的だった優勝はデンではないかとか、どの攻防が気に入ったとか、俺だったらあの時はこうするだとか、皆好き勝手に言っている。酒を飲みながら、次の第四試合はまだかまだかと待ち望んでいるのだった。


リーディア商業連合国の大都市で投影されているスクリーンを見る人もどんどんと増えてきた。人が増え、いったいなんだなんだと集まってきたことと、集まっている人たちの一喜一憂や声援が周囲の人を呼び込んでいっているのである。


コルトこと星庭神成とミリシアはシアタールームでポップコーンを食べながら引き続き観戦していた。


「まるで竜見伝の部党大会みたいね」


「そうだな、迫力があっておもしろいよね」


「コルト様も出場すればよかったのに」


「嫌だよ、有名になったら、きっとめんどくさいことになる」


「コルト様らしいわ」


ところ変わって参加者側で見ていたブライは緊張しているアオツキに声をかけた。


「まだ先だ、まずは息をゆっくり吐き切れ」


蒼月采蓮(あおつき あやね)は言われたように息をはきだし、そして吸い込む。


「アオツキ、今見た範囲では誰が勝つと思う?」


「格闘家の人かな……」


「アオツキは賢いな、なぜそう思う?」


「相手の動きも考えて動いてると思う。それをやりきれてるのはあの人だけ」


「そうだ、良い見立てだ。指導するうえでは、何ができているかどうかも見極める力がいる、道場の補佐でも期待している」


「うん」


采蓮は不思議な思いだった、どういう感情なのか分からない。ただ『期待している』という言葉に、未知の感覚を感じているのだった。


さて、第四試合がはじまろうとしていた。

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