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36 やりたいこと

ミリシアは一人自室で自動化のプログラミング開発をしていた。


まだまだ、完全ではないが遠征という定期的に部隊を指定してどこの場所に行くかを指定すると一定時間がたつと物資を調達してくれることの一部が自動化できた。


それは、資材の量を見て、ではなく固定だ。満杯になっても勝手にやってしまうが、かなり前進したように思う。うん、らくちんらくちん。


そうした経験をへて、ミリシアはなんとなく自分とコルトの妖精想造の使い方の違いが分りつつあった。


ミリシアがこれまでやっていたことは『ご飯を作って』という、言ったら即応答があって結果が一つ返ってくる、そういうものだった。


イメージできていなかったのは二つある。『こういう状況になったらこれ勝手にやって』という自動応答だ。そして『毎日ご飯を作って』のような永続する形もイメージできていなかった。


条件がそろってたら自動的にやる仕組みと、安定してこれやっといてという仕組み、なるほど、そういうことを実感しつつあった。


たとえば、遠征からキャラクターが返ってくると通知で帰ってきているぞとマークがでている。そのマークが出ていたら、遠征の結果の画面をみて、次の遠征の指示を出すまでをやらせるというのは、条件が揃ったら自動的に、というやつである。


場合によっては、条件が揃ったらだけでも、永続する形になることも、近づくこともある。


遠征の場合、通知がないところからはスタートしないので、遠征中かの確認をゲーム起動時にやる、みたいなこともできそうである。まだそこまではしていない。


ミリシアは、コルトの過去、どんな仕事をしていたかも知っているので、なるほど、その方面の考え方もベースにあるのだろうと推察した。


彼の過去、とくに召喚される直前あたりの様子を、投影の妖精を使って再現して覗き見たりもしたので、なかなか大変な人生だったんだな、だからああも仕事というのに拒絶反応があるのかと理解していた。


今のコルトがやっている自動化でいうと、『家の掃除を任せた』とか『ルージェ村や俺の周辺の事はまかせたぜ執事』といったものだ。なるほどなと思う。


それは、いかに丸投げし、いかに自分でやらないか、であった。


といって、上手くシステムを作らなければ暴走したりこんがらがったりするようだ。


たとえば戦艦セレクションでも、通常の自分で操作しているときに、遠征完了の通知が来たら、どっちを優先するかは、事前に取り決めていないと勝手に遠征対応がすすめられたり、一度に複数の条件がそろって自動化が衝突し、操作がおかしくなることもあった。


いろいろと学ぶことはまだまだたくさんありそうである。


#


キルクス王国はリーディアの西にある小国、ある執務室でホルーズオ大臣はまたも苦虫をかみつぶしていた。


それは、メルポポとの二回目の交渉に失敗したのである。キルクスの特産物も持ち込み、こちらの物品の有用性を掲げたのであるが失敗した。


頭に血が上ったホルーズオは徹底抗戦を宣言する。


「こうなったら、メルポポのチンチク妖精に目にもの見せてやるわ!」


まず、技術収奪のための調査および物品の回収部隊を向かわせること、そして、メルポポの妖精は悪しき妖精であるという醜聞を広めるよう諜報部隊を潜り込ませたり、キルクス王国全体での妖精に対する印象を悪くさせるよう進めることにした。


軍事的ではないにしろ、商業、情報の部分でメルポポの妖精を陥れてやろうと考えたのである。


キルクス王国の各所の掲示版ではある張り紙が張られた『人を襲う妖精』と。


#


蒼月采蓮(あおつき あやね)は妖精に連れられて、交流区の空き地へと連れられてきた。そこでは見たことのある男性が真剣に剣を振っていた。


「ブライさん、補佐のアオツキ様をつれてきましたのでご紹介します」


振り向いた、ブライは愕然とした。なんと、手合わせして完敗した少女ではないかと。どういうことだと思いつつ、また一つ気になるのは彼女に妖精が『様』とつけて読んでいることだ。特別らしい。


采蓮は驚きより嬉しさが強かった。また会えたことに胸が高鳴った。ここで暮らしていて、武術については一番奥深くやりあえた人でもあったし、交流区は走り込みで通っているが、交流した事のある人は彼だけなのだ。


ブライは、気持ちを切り替え剣を収めて、こちらに向かってきた。


「ブライという、また会ったな」


「は、はい……えっと……」


采蓮はたじろいだ、急に緊張感で満たされたのだ、どうするんだっけ、なんていうんだっけ、何を言うんだったか、あれ、今どんな場面で私はいったい何しに来たんだったか。


それを落ち着いてブライは待ち、そして観察していた。ブライはルージェ村で人を見るために待つことを覚えたのである。自分から積極的にどうこうすると、かえってその人本来の姿は見えなくなる。


「わ、私は、蒼月采蓮……です。よろしくおねがい、します」


「あぁ、よろしく」


と、ブライは握手をもとめ、手を差し出した。采蓮は恐る恐る、ゆっくりと手を握った。


「はい」


ブライは考える。剣の腕は素晴らしいが、性格はどうやら人を引っ張っていくタイプではなさそうだ、人との交流も苦手かもしれない、おそらく行動は受け身なのではないか、とすると、肩を並べて補佐をするということとは違う方向になりそうだ。まぁ、違う強い方針をもった人間だと、やりにくいかもと考えていたが、これはこれで、考えなければならない。とはいえ、できないなら、自分ができるようにさせればいい、そんなふうにも考えた。


「アオツキはここの出身なのか?」


「いえ、その、近くで倒れていたらしくて妖精さんたちに助けてもらったんです」


「アオツキ様はまったく別の場所からいらしたみたいですね。帰りようがないため、今は私達が保護しています」


「そうなのか、苦労してるんだな」


「あぁ、いえ……」


采蓮は、苦労しているかというと、ここに来てからは平穏なので、正確には苦労していた、が正しいきがする。


「アオツキ様も、お披露目会では妖精と剣を交える予定です」


「なんだと!」


ブライは驚愕し笑った。彼女が戦うのか、その力の極限、見てみたくもある。いや、これほど心躍る勝負がどこにあるだろう。妖精がもし、俺以上に強い場合はさらに面白くなる。


「せっかくだアオツキ、お披露目会の勝負のため、訓練に付き合ってくれないか」


「うん、私もやってみたい」


そうして、二人の特訓がはじまった。


#


リーディア商業連合国、東エストンディア領の大都市エレッツの町では子供たちが一つの本に皆で読みあって楽しそうにしていた。


それはメルポポ書店から販売されているマンガである。セリフの文字もかいているが、読みやすいよう簡単な表現にされつつ、それが分からなくても絵でだいたいわかり、それでいて絵に迫力があったりひょうきんだったりして面白い、そんな作品なのだ。


それは、妖精に選ばれた勇者が共に旅をし、仲間を集め世界をめぐり巨大怪獣と戦う物語である。妖精はどことなくメルポポの妖精達に似ている。世界樹が瘴気で枯れはてていき、世界はおかしくなった、聖なる剣を選ばれし勇者が目指して旅する、そんな物語である。


子供たちに人気で、持っていることが一つのステータスになっていた。そして、それを回し読みして楽しむのである。


一部の大人も手に取って、童話や子供に話すおとぎ話に近いと感じつつ、イラストの奇麗さや迫力、たまにみせる登場人物のひょうきんな顔などの表現がコミカルで楽しいと感じる人達もいた。


さらにはメルポポ書店には隠された秘密の商品が存在する。


それは、大人な紳士のためのもので、店員にあるキーワードを言うと購入することができる、週毎に新しいものが出る薄めの本である。密かにこの本も人気になり、ゆっくりと波及していっている。


#


星庭神成は自室でゲームを作っていた。


RPG、ロールプレイングゲームだ。定番では剣と魔法のファンタジーで、戦士や魔術師、僧侶などの職業があって、魔物を倒して強くなり、ラスボスを倒すのを基本に、いろんな物語を添えていき、ものによっては人と魔王ではなく、人間同士の争いを舞台にしたりと様々に広がるゲームジャンルの一つである。


それの、とても簡単な、ひとまず戦闘画面があって、会話シーンがあって移動はそこでの選択で決まるというダンジョンやフィールドマップなどもない簡素なものをまず目指している。


といっても、それでも思いのほか大変だった。


RPGを作るなら、RPGツクレールなど、もっと特化したものを使ってもよいのだが、システムエンジニア魂というのだろうか、きっとそうだ、そうした理由から、ゲームエンジンで独自にシステムを作ってやりたいと思って進めているのである。


これを、車輪の再発明、ということもできる。一種の、すでにあるのに使わないのはもったいないぞ、無駄に時間をかけてどうするんだ、というやつだ。これは半分正しい。ゴールのために使えるモノは使って素早くコストを減らし別のことに注力できた方が良いものができるし、何でも作っていたらソフトウェアはなかなか完成しないのだ。


こと、ゲームとなるとプログラムでシステムを作るだけではなく、絵、映像エフェクト、音楽、効果音、敵のデータ、物語、バランス調整、などなどやることは山ほどあり、減らせるものは減らしたほうがいい。だからこそ、RPGツクレールでよいなら、そこでやる方が良い。


とはいえ、車輪はどうしても決まった形のモノしか作れなくなる。自由度があっても、どうしても制限がある。その制限からはみ出したいとき、結局、この車輪じゃダメで、自分でゼロからやらなきゃだめだ、となるケースはあったりする。


例えば、市販のカレー粉で、理想のカレーライスが作れるかどうかだ。もし、少しの調味料を加えたりしてできるなら市販のカレー粉を使えばいい。でも理想にそれではとどかないなら、各種香辛料の配分を研究して、自分でカレー粉を作るしかないわけだ。


つまり、自分でカレー粉を作っているのが今である。だからこそ、大変なのだ。


だからこそ、ダンジョンなど一部諦めて、戦闘シーンを中心に作る構成にした。


これだと、装備変更、アイテムショップ、そうしたシステムもいらない。こうして、ひとまず簡単なものを作ってみて、ゆくゆくは、ダンジョンなどもあるゲームが作れたらと思う。


今はいい時代になっているので、キャラクターのイラスト素材などはいろんな方法で入手、作成することができる。


とりあえず、コマンドで『たたかう』を選択し、敵を選択すると、キャラクターが少し前に出てザシュっと効果音が出るところまでできた。なかなか、開発ってすぐにはできないもんだよな。ゆっくりゆっくり着実にだ。

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