34 懐かしい再会
魔王場の一室で、コルトこと星庭神成は妖精一体と共に、魔王レイズガットは側近二人と会談を開始した。
「要望を持ってきた。すぐではなく、もし思いついたらでもいい、あるアイデアが欲しい」
「ほう、なんだ」
「まず、俺の能力は妖精を作る能力だが、さて、俺が死んだら妖精はどうなると思う」
「高い確率で消えるだろう。妖精は結果ではないからだ。末永く続く封印のようなものも、限りがある」
「俺は、どうにかして妖精を残せないかと考えている」
「なるほど」
「古い秘術に詳しいあんたらなら、何かヒントをもらえるかもと思ってな」
「そうか、なかなか難しい話題だが興味深い、部下にも考えさせる」
「たのむ」
「貴様の思いは分かるものだ、誰だって後世に何かを託したい、残したい、そういうものはあろう」
「別に活きた証を刻みたいみたいなのとは違うけどね。せっかく起動に乗ってるんだ、残せるかどうか、挑んでみるのもいいだろう?」
「そうだな。話は変わってもいいか?」
「どうぞ」
「うむ、文化や娯楽を作っていくというのがいまいちつかめんでな、貴様はどう考える?」
「急速に育てるのはゼロからじゃまず無理だし、俺の世界では長い時間かけて、いろんな文化が入り混じって育ってった。だから、もしすぐとするなら、まずはそっくりそのまままねるのがいいと思うぜ」
「模倣か」
「食事でもなんでも、取り入れて、自分たちなりにアレンジして、都合よくして、せっかく既存の習えるものがあるんだから、使ったらいいさ」
ふと、そこで神成の連れていた妖精が話はじめた。
「もし文化を知りたいのでしたら、今メルポポで書物を集め、歴史などの情報を整理し、本にまとめて販売し始めています。そうした本をお譲りしたり、大衆に販売させていただく、というのも、間接的な異文化の交流になるかと」
「コルトは問題ないのか?」
「俺は構わない」
「面白そうだ。本の販売を許可する」
「承りました」
ほどなく会談は終了し、都市エンシュラティアでもメルポポ書店ができ本が販売されることとなった。
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リーディア商業連合国の西の小国であるキルクス王国、ホルーズオ大臣は執務室で苦虫をかみしめながら報告を聞いていた。
大使を派遣したメルポポでの交渉に失敗し、成果なしとなったからである。
キルクスは海に面した土地である、リーディアと異なり食品もまた異なるため、交易をするにはなかなか良い国である。それをメルポポは蹴ったのである。
そうなった理由はキルクス王国にある。リーディアへの対抗意識がつよいキルクスは、同じように共同研究を是が非でもねじ込まんと、そうでなければ交渉決裂だと強気に進めたのである。そうした結果、交渉は全く進まず、成果はなかったのだ。
「おのれぇたかが妖精、小さきものの分際でぇ~」
「どうしますか」
「交渉はもう一度行うが、それが失敗したならもうよい、技術なんぞ、盗めばよいのじゃ!」
どことも仲良くできるわけではない。そして、意にそわないなら無理に仲良くする必要もない。無理に仲良くするために、自分の価値を下げる必要はないし、それではあとあと不幸になるのだから。
ただ、彼らは知らなかった、妖精、その背後に勇者がいるということを。
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メルポポの交流区で、ブライは会議施設での交渉依頼を出した。多くは商売や発明についての相談となっているので、そういう受付かと考えていたのだが、どうやら広く意見を取り入れるための間口らしく、ブライは申請したのである。例えば、人間用居住区についてもここが起点となったのである。
会議施設の待合室にブライは立って待っていた。椅子が並んでいるが、座って待つというのは落ち着かない。
会議室の扉が開け閉めされ、人の出入りが何度もある。そこそこ、一人当たりの時間をとっているらしく、時間がかかる。まぁ、急ぐこともない。
そうして、ブライの番が回ってきて、会議室に入ると一人の妖精が宙に浮いていて対面することになった。
「ご用件をうかがいましょう」
「俺は剣士ブライ、ここでは強い魔獣を討伐できる妖精がいると聞いている。その者と立ち合いを所望したい」
「こちらのメリットは提示できますかな?」
「そうだな、立ち合いを形式化し、興行にすれば、金にはならねぇか、その試しのようなものとして」
「残念ですが、それをやるなら都市でのほうがよいでしょうし、その方向で産業を行う予定はありません」
「人が増えるのだろ、あるていど人間達が自ら守れる程度には強い者が集まったほうが良いとは思わねぇか?」
「その場合、人間の方々に師範もお任せしたいです。あなたが師範をしていただけるのですか?」
「期間は?」
「三年」
「いいだろう」
「わかりました。道場の建築の手配をいたします。そこで、ご希望の妖精と試合ができるようにはからいましょう」
「あぁ」
ブライは少し焦って決めてしまったかと思った。三年、勢いで差し出すには大きすぎるだろうか。だが、妖精の強さが見極められる、それも、魔獣を一撃で葬れる存在と戦えるような機会、三年に何度作れる?いや、つくれまい。
そうしてブライはこれから建設される交流区の道場の師範となることになった。
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もう秋が到来していた。星庭神成は、自室で懐かしく思い、少し外に出てみた。もうすぐ一年になる。
召喚されて一年、早いものだ。いろいろあったな。
最初は王様に勇者を断って放り出されて、でも少女とおじいさんに助けられたんだったか。それでボロ屋敷にしばらく住んで。税金をどうしようって盗賊からお金を盗んだことでまぁ、騒ぎになって狙われたんだったか。その後、こっちに逃げてからもいろいろあった。
周囲を見渡しながら、家を見渡しながら、感慨にふける。あの頃はまさか魔王と話をするようになるだなんて思ってもいなかったな。魔族の同居人もできたし。
そうした初心を思い出そうという雰囲気で、森を歩き、ルージェ村へと向かった。
なんだか森を歩くのも懐かしい、そういえば前に歩いたのは春になってすぐだったか。半年くらいたっているのかもしれない。村の様子は投影の妖精でたまに見てるからか、なんか、わりと知っている気がしちゃうんだよな。
村にたどり着けば、知っての通り昔とは様変わりだ。まだ避難民でごたごたとしているが、あのときを思えばずいぶんおさまったものだ。変わったよな。戦もあれば、妙な事件もあったし、そういうことがなければ、もっとのどかに変わっていったんだろうけど、どちらがいいも悪いもないか。そもそも、俺も変化の原因である。
中に入っていくとしっかりした飲食店がある。そういえば、相談にのってくれたあの剣士さんはまだいるのだろうか、お礼をしていなかった気がする。
ふらふらと思い出に浸りながら歩いていると、こっちをびっくりしてみている少女がいた。
「お兄さん!」
それは、懐かしい顔だった。王都マゼウムで、いろいろ話した少女マチだった。
「久しぶり」
「えぇ、お元気でしたか?」
「ま、大変だったけどな」
「今ではこの村の秘密の守り神みたいな感じですか?」
「そんなたいそうなもんじゃない。妖精に任せてるだけだ」
「そうそう、お兄さんの名前なんなんですか?」
「こっちじゃコルトって名前で通してる」
「あー、偽名、ですよね」
「そうそう」
縁とは不思議なものだ、たまたまふらりと久しぶりに村に立ち寄ってみれば、懐かしい少女に出会えたのだから。
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ミリシアは自室で少女漫画を堪能していた。コルトの世界のものを妖精を使い召喚できるようになったことで、これまで入手できなかったものが手に入れられるようになったのである。
彼女がこれまで入手出来ていたゲームやアニメなどは、コルトのおすすめとその周辺のモノに偏っていた。それは当然である。
インターネットを使えるようになったことで前々から知ってはいた女性向けジャンル、それに興味をもってしまった。男性向け、それよりの異世界ハーレムなど、なるほど男性が喜びそうなのはこういうのかぁというのを知っているので、それが自身をターゲットにするようなものとはいったいどうなるのか気になった。
ただ、インターネットで、となるとどうしてもお金が使えないと満足に読めないし、クレジットカードなるものがないと購入ができない。それはコルトの世界で住所などがあって初めて入手できるものだ。これまでは、チラチラとその片鱗を見て、もどかしい思いをしていたがそう、やっと入手できたのである。
最初はよく分からなかった。なにせ、ついつい少年漫画やバトル物、サスペンスなどに浸っていたこともあり、どう受け止めていいかつかめなかったのだ。だが、彼女はそういった吸収力、順応性があった。よってしだいに面白くなり、熱中し、ほとんど引きこもっていて、最近お風呂にも入っていない。臭いって言われたらどうしよう。
といって、まだ言語化できるほどわかってはいない。ただ、とりあえずは感じ入るものがある。
話は変わって、妖精想造の力については、イマイチ使いこなせていない感じがしていた。
モノが欲しい、だからこんな妖精を。知りたいから、だからこんな妖精を。ということはできるのだが、コルト様はそうじゃない。もっと何というか、任せる、勝手にさせているのだ。それはいったいどういう考え方の違いからくるのだろうと、ふわっと思ったりしている。




