33 剣士ブライの激闘
ハナージャ、マズル、レキストの三人は魔族領の開拓中の街で飲み交わしていた。最前線の砦から少し後方に作られた町である。
ひさしぶりに、瘴気味たっぷりの料理や酒に三人は満足していた。
「やっぱ地元の料理は最高だな」
「そうですね、まさか思わぬ強敵がいるとは思いませんでした」
「そうそう、私もずっと働きづめで気が狂いそうだった」
など、わいわいにぎやかに話している。
三人はここで、いったん人間達、エルフやドワーフなど含めての確認できた情報の取りまとめが次の任務となったのだ。
今後、魔族が発展するにあたって、文化、技術、儀式、風習、歴史など、いろいろなものを参考にしようという側面と、また、潜入部隊を作るための教育のためである。
そうした理由で三人はしばらく領土内での仕事となりそうであった。
また、それで足りなさそうな点は、先に増員していた調査部隊の何人かが情報を収集してきて、まとめ上げていく手はずとなっている。
教育方法、産業、娯楽など、これから発展させていきたいことは沢山ある、というのが魔王様の言である。
そうした一方で、これまで人間側憎し一本できていたゆえに反発する声もあり、まだまだ侵略したりないと思っている者は多い。ゆっくりと皆の意識を変えていくしかないのである。
とはいえ、魔族側が変わったところで、というのも残る。いまだに人間側とは交流をしているわけではないのだ。
三人はこれまでの苦労を話したり、今後の展望を語らいながら大いに飲み食いした。
世界は、きっと良い方向に変わっていくだろう。
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もうメルポポにたどり着くだろうという街道を剣士ブライとプルクエーラは歩いていた。そんな時、向かい側から少女がかけてきた。ラフな格好で走り込みをしているようだ。
その少女をみたブライは目を細める。体の動きがあまりに洗練されている。すっと通過するのを横目に、冷や汗をかいた。見ていないようでいてしっかりこっちを一望されている、彼はそう感じたのである。ただものではない。
「どうしたの?」
「あぁ、ちょっとな」
気を取り直して二人はメルポポへと進み入っていった。
メルポポは外の人達と交流するための交流区画と、関係者のための内区画の二つがある。さらに交流区画に人間側が開拓する居住区画が追加される、という構成になっている。
二人は交流区画で寝泊まりする宿を確保した。
宿の妖精に話を聞いてみると、内区画は、関係者と一部の指定された人間しか入れないらしい。関係者は主にリーディア商業連合国の研究員で、また、施設を見学したいリーディアの大使は案内されることもある。
「ひとまず、外から聞き込みや確認だな」
「えぇ、二手に分かれて、情報を交換するというかんじでいいかしら?」
「あぁ、そのほうが動きやすいし、ちょっと気になることがある」
こうして、二人は分かれそれぞれの調査が始まった。
プルクエーラは飲食店に向かい、周囲の声を聴きながら、まずはこれからお世話になる食べ物とご対面とした。食事はどうやらイリノ村の影響を受けているらしい、少しアレンジされている。
周囲の話はどれもこれも、商売や発明、技術についてだ。妖精と八英雄物語を結び付けた話はでてこない。確かに、ここまで来る人というのは、そういう人達に限定されるのかもしれない。
一方、ブライは入り口に立っていた。しばらくすると、一人のさっきすれ違った少女が戻ってきた。
「嬢ちゃん、ちょっといいかい?」
ふと、少女はブライを不思議そうに見る。
少女はそこそこの距離を走っていたし、なかなかの速度でさっき走っていたはずだが、全く息は乱れていないのに、ブライはやはりそうだと感じだ。
「嬢ちゃんは武術をやってないか」
すると、少女はささやかにうなずいた。
「俺はあっちこっちで腕の立つやつと試合して旅してんだが、少し手合わせしてみないか」
少女は空を仰ぎ見た。考えているようである。
「あなたのような持ってるようなちゃんとした剣はまだ使ったことがないの」
「あぁ、木剣でいいさ」
「じゃぁ……交流区の広場で」
こうして、二人は木剣を準備して広場で相対した。
「その、魔術みたいなかんじのは使わない?」
「俺は使えないが、そっちは好きにしな」
少女はこくりとうなずく。
「じゃぁはじめるぜっ」
ブライは軽く間合いを詰めて手始めに一振り、それを少女は軽く体を横にそらしつつ横へ少しステップしてわずかな動きで避ける。それを追撃する形で木剣をブライが追おうと思ったところ、少女からそれよりも早い突きが放たれそうになったのでとっさにそらした。
それからは、激しい攻防戦が続いた。ただし、少女は軽く避けるばかり。剣がぶつかるのはブライが受けるときだ。
ほどなくしてブライは対応を一段階上げる。剣術のみだったのに格闘を加える。足払い、肘打ちなど複合させつつも、少女は動じずペースは崩れない。突然変えたにもかかわらず、さも当然と対応されたのだ。いつぞやのルージェ村の誰かとは格が違った。
ふと距離を開けたと思ってからの木剣の投擲は、なんと少女も投擲してはじき、すかさずやろうとしていた足払いをそっくりそのまままねされて激突。さらに、何をしたのか少女は手に木剣をもって追撃してきた。いつ手に持ちなおしたのかわからず、ざっとさがってブライは両手を上げた。彼女の木剣は首筋に当たりかけていた。
「降参だ」
それを見ていた周囲から歓声が上がる。
これでも、少女はまだ、息を乱していなかった。
「これでよかった?」
「あぁ、ありがとう」
少女は何事もなかったように走り去っていった。
ブライは唖然とするしかなかった。はっきり言って手も足も出ていないと思う。あれは手加減されていた。圧倒的な実力差がある。
「はは、ここにきてこりゃスゲェやつに会えたもんだ」
彼は嬉しくなった。そう、まだまだ、高みは目指せそうなのだから。
駆けて行った少女、蒼月采蓮はなかなか楽しかったと思った。妖精さんの時以上の強さで、体格が人間でというのが良かった。そのうえで、いろいろやれて楽しかった。あと剣だけじゃなく、格闘も入れる実践的なのも新鮮だった。そう思うと、よりいろいろと実践してみたいと思った。そうするなら、この場所を離れないといけないのかもしれない。なかなか難しい。
采蓮は自室に戻ると、タオルをほーいと能力でもってきて、服を脱ぎ汗やほこりをタオルで拭く。そうして近くにある着替えをふわふわ浮かせてぱさっと着ていく。もうずいぶんとこの能力にも慣れたものである。
彼女はふと思った、あの剣士さんにまた会えるかな、と。
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ルージェ村に馴染みつつあった少女マチは村の子供たちと一緒に遊ぶようになった。
少年カインがやんちゃ坊主というか、何かをやろうぜと引っ張っていく形で、今日は久しぶりに森への探検だ。
「森は危なくないの?」
「マチは知らないかもしれないが、ここら一体で危ない獣も魔獣も心配ない。ちゃんと、帰り方だけ少し気にしておけば問題ない」
「そそ、妖精さんが守ってくれるからね」
「妖精さん?」
「うん」
マチとしては、妖精は気になるキーワードである。村についてから、少し気になっていた、懐かしい雰囲気のする妖精を。
そう、王都マゼウムにいたころ、ボロ屋敷に住んでいた妖精使いのお兄さん、その妖精に、ルージェ村で見かけた妖精は凄く似ていた。
「ねぇ、ここの奥には妖精使いの人がいるの?」
「おぉっさすがマチ、そうだぜ、ま、秘密だけどな」
「そうだぞ、秘密なんだぞ」
「このまま進んでいくと会えるの?」
「いや、進んでみると、まぁわかるから」
そうして進んでいくと、いつの間にか村近くの小道に出てしまった。
「あれ?」
「な、行けないんだ」
「妖精の里は、秘密の場所、でも村に何かがあったとき、行けたんだよね」
「そうそう」
「そっか」
なんとなく、マチはその妖精使いは、知っているお兄さんのような気がする。人と関わるのが面倒という感じの人だったのだから。
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星庭神成は、魔王レイズガットへの要望を悩みつつ、少し視点を変えて、そういえば妖精想造も、ここのところ成長や発展をさせてないなと思った。
もはや限界まで自身の能力は引き上げてしまったので、あとは運用面であるが、実験しているメルポポの完全自動な発展も順調であり、また別系統というのはイメージがついていない。
どちらかというと、ゲーム作りをやりたいなとも思ってもいるし。
妖精想造は一つ、ぼんやりと、どうにかできないか、と考えている限界もある。それは自分が死んだ後も妖精を残せるようにするにはどうすればいいかということだ。
きっと妖精は自分が死んだら同時に消滅するだろう。意識がなくても寝ていても動くのはきっと俺が、自動的に休まずいろいろやってくれる存在、プログラミングならサーバーとネットワークサービスのような存在として求めたからだと思う。以前は能力を酷使したあと、維持できる妖精が一時的に減ったりもしていた。疲れた、みたいな感じか。
そこらへんはもしかすると何度も転生し復活する魔王の秘術とか何とか、そのあたりを調べるとヒントになるかもしれない。
せっかく妖精の村が、この世界に定着していっているのなら、俺が死んでも、残っていってほしいではないか。
といって、それをお願いしても、対応できなかろうが。ん、アイデアくらいはくれるかな?
そっか、それでいこう。




