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31 メルポポブック

「コルト様、私決めました、わたしもコルト様の妖精を作る能力が欲しいです」


星庭神成は、ミリシアにとんでもないお願いをされたと思いながらも、彼がやってしまったことや何でもするといった手前、断ることができなかった。


「わかった、ただ、最初はあまりたくさんの妖精は作れないので、そのへんは……その……ご了承ください」


「はい、あれですね、勇者の能力は育っていくという奴ですね」


「そうだ」


そして、能力を与える妖精を作り、彼女に妖精想造(メイクフェアリー)の異能力を与えたのである。


彼はうなだれながら告げる。


「はい、能力を授けさせていただきました」


「コルト様ありがとうございます!」


魂の抜けたように、神成はリビングで崩れ落ちていた。懺悔してからここ最近はこんなかんじであった。


そんな神成を放置して、ミリシアは自室にこもった。さっそく、妖精想造を使ってみたいからである。


ミリシアは自室で、コルトの妖精のようなものをイメージしてひとまずは物知りの妖精を作ってみようとした。


するとポムンと、コルトとは雰囲気の違う妖精が現れたのだ。賢そうな先生みたいな感じだ。


「お話しできる?」


「はい、できますよ」


「私の名前はわかる?」


「ご主人様の名前はミリシアでございます」


「おぉーっ」


ミリシアは感動していた。


「それじゃ、コルト様はどんな女性と付き合ったことがありますか?」


と、ミリシアは、またしてもコルトの秘密を根掘り葉掘り引き出し始めたのである。


#


王都マゼウムの惨状を見たマズルは、ハナージャとレキストの安否を心配し、危険であるが瘴気の中へと駆け込んだ。


瘴気だけであれば、魔族だから問題ない。しかし、この都市の破壊されたありさまは尋常ではない。巻き込まれていれば無事では済まない大破壊が広がっていた。


ふと、都市に入ると、破壊の音が聞こえてくる、それを隠れて追ってみるとどうやら魔族が破壊活動をしているではないか。


マズルは状況を確認するため、変装を解いて、その魔族に話しかけた。


「俺は調査隊のマズル。北側に調査に行っていて、ここの状況がわからない、どういう命令で動いている?」


「俺も調査隊だ、ゼッゲン、新しく増員されたんだ。あんたは、最初の三人だな」


「そうだ。八英雄物語の調査にメルポポ付近までいっていて報告に戻ったところだ」


そうして、ゼッゲンからマズルは、この状況の経緯と、今破壊活動をしている理由を聞いた。


「なんとも人間は愚かなのだな」


「あぁ、だから、二度とできないようにって壊して回ってるのさ」


その後、マズルはハナージャとレキストとも合流でき、相談した結果マズルが一度、最前線まで帰還する運びとなった。久しぶりに魔族側の領土に戻りたいというマズルの思いもあった。


魔王軍の最前線から都市エンシュラティアまでの伝達速度は以前にもましてスピーディになっていた。王都マゼウムの件で連絡体制を整えたことと、壁や砦など領土内の整備をしていたことが影響している。


こうして、魔王レイズガットは八英雄物語の七体について妖精であるかもしれないという情報を獲得した。


魔王レイズガットは執務室で側近と軽く言葉を交わす。


「メルポポの妖精はリーディアとは我々との戦いについての武力協力はしないとのことだったが、もし八英雄物語の残り七体がメルポポの妖精とすると、敵対するつもりがない、と考えてもよいのか」


「どうでしょう、妖精が交渉のカードとして残しているとも考えられます。楽観視はできないかと」


「たしかに。こうも妖精妖精と今回は妖精のオンパレードだ」


「これまではどうだったのでしょう」


「勇者の能力が特筆すべきキーワードではあったが、これまで妖精がどうしたというのはない」


「そういえば、ルージェ村付近の妖精は、魔王軍から逃げてきたと言っていましたが、我々はそもそも妖精を観測はしていませんでしたよね」


「そうだ。妖精という存在の話が出てきたのは今回の勇者、コルトが召喚されてから、ということになる」


「実はすべてコルトの妖精である、としたらいかがでしょう」


「あり得る話だ。ルージェ村の妖精使いはコルトとは容姿が違うとのことだが、いろんな妖精が作れるのなら、変装もできる……か」


「そう考えると一本につながりますね」


「だが、だとすれば、なぜこうも混沌とした形になっておるのだ」


「おそらくですが、人間側に協力したくないコルトは、能力を使いつつも自分の存在を隠すように動いているのではないでしょうか」


「なるほど、確証はないが、後はコルトに直接聞いてみてもよいだろう。二人目の勇者についてもどうなったのか聞いておきたい」


「そうですね、会談の準備をしましょうか」


「うむ」


こうして、魔王レイズガットはコルトとの会談の準備を進めるのだった。


#


リーディア商業連合国で特許の運用が成立したことと、メルポポに本が集まってきたことで。メルポポは次なる新しい試作に出た。


リーディアの各大都市の商人と交渉し、それぞれ小さな店を出させてもらうことになった。内容は伏せているが、それは書店である。


大量にあつめた本をもとに、それを整理し、文庫本のように画一化した形態で活版印刷技術で量産、それを販売しようというのだ。


書店には人間の店員さんに働いてもらい、妖精は本の配達まで行う。売れる本を把握しつつ、戦略的に販売を広めていくつもりである。本の運搬は転移を使うので、あっという間に展開できる。


まだ文字の読み書きができる人も少ないことから、そうした読み書きにまつわる入門書も作成した。


さらに、子供向けのマンガも販売を予定している。そのネタ集めとして、この世界の各地の歴史や伝承についてもまとめていたりする。


新聞を作ることも考えたが維持コストを考慮し、人間への技術提供による収益という方向で考えている。


こうして、メルポポはさらなる発展の一手を打ち始めたのである。


#


剣士ブライとプルクエーラは、リーディア商業連合国の北ノスティア領イリノ村にたどり着いた。


「なかなか、活気があるじゃねぇか」


イリノ村の入り口では妖精や商人たちの運搬がひっきりなしである。中に入ると建物がいろいろ建築中のようで、まさに発展しているといった雰囲気がルージェ村に似ていた。


見渡していると新装開店のメルポポ書店があるということで、プルクエーラが気になり立ち寄ることにした。


中に入ると、極めて安い値段で本が売られている。


「すごいわ。表紙は薄いのですけど、本一冊がこんなに安いなんて」


「本は一品もの、模造であれ専門の人間が必要だ、どういうこったい」


「わかりません」


二人は、置かれている本を思い思いに閲覧してみる。


「剣術の歴史書、こりゃ定番のやつだが、借りて読むのがせいぜいだったぜ」


「魔術書もなかなかのものがそろっています。これを、大衆が手に入れられる時代が来るとしたら、世界が変わりますわ」


「これは俄然、興味がわいて来たぜ」


#


コルトは妖精一体を連れて、魔王レイズガットは側近を二人連れての会談がはじまった。


「王都マゼウムでの魔獣化した勇者の件について、礼をいわせてもらおう」


「いや、こちらにも降りかかる火の粉だった」


「コルトは妖精を使い手広くやっているようだな」


「手広く?」


「あぁ、ルージェ村やメルポポ、八英雄物語などいろいろやっているようではないか」


「あれは一部は実験、あとは妖精に勝手にやらせていることだ」


「指揮はとっておらんのか?」


「ルージェ村は、大まかにゆっくり過ごせるように整えさせている。メルポポはどう発展するか、実験しているといったところで、アリの巣をそだてるように思ってくれればいい」


「アリの巣か……なるほど、今回は、先の件で礼がしたいことと、二人目の勇者についても確認を取りたい」


「礼か、そう言われてもな」


「今すぐでなくとも、考えておいてくれ。我らにとってはあの脅威による被害のないうちに事を済ませてくれたことは感謝しているのだ」


「わかった」


「あとは、二人目の勇者は結局どうなったのだ?」


「魔獣化はもどした、生きているよ」


「我らとしては危険は見過ごせんのだ」


「そういうことか。まず、吸収の能力は使えないよう封印してある、その点の危険はない。後は」


と、コルトは妖精を見て、そして妖精が話はじめた。


「メルポポで療養しております。第二勇者には王都マゼウムについては伏せ、メルポポ付近で倒れていたと伝えています」


「どういうわけだ?」


「はい、どこかに召喚された、というのであればコルト様の関与を第二勇者が考えることはありません。コルト様の存在を隠しておきたいのです」


「理解した。つまり、能力は封じ、勇者として担ぐようなこともしていない、そう考えてよいのか?」


「さようでございます」


「聞きたいことは聞けた。コルトよ、礼の内容、考えておいてくれ」


「わかった」


こうして、会談は終わった。


コルトこと星庭神成は悩みながら。そう、お礼と言われても、何を要求したものかと。

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