28 トラップ
王都マゼウムの大型魔獣消滅の知らせが各所に回っても避難民は帰ることはしなかった。それは瘴気が残っているという点と、不吉な国であるというイメージがついてしまったからである。
マゼス王国はここのところ不運が立て続けに続いていた。魔王軍の進軍は止められず、勇者の召喚は失敗し、好機と見ての突撃で大敗、さらに今回の騒動である。呪われているのではないかといううわさも出ている。
ルージェ村で仮住居に寝泊まりしている人たちも、順次、リーディア商業連合国の都市部か、その他周辺国へ流れていくことを考えていた。
剣士ブライは、まだまだ訓練の広場が空きそうもないこともあり、村長ジョウツォと相談し、村を出ることを決めた。彼の次なる目的地はメルポポである。かの妖精は魔獣の退治依頼もこなしているという話である。なら、剣の達人の妖精もいるかもしれないし、そうでなくとも、大きな武力をもった妖精はいるはずだ。
旅支度を終えたブライは、避難民に紛れゆっくりと街道を進んだ。
「こりゃ、いつたどり着けるかな……」
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マゼス王国に侵入した勇者召喚の儀式場を破壊するよう命令された魔族達は、まず城とその付近にある施設をしらみつぶしに念入りに破壊してまわった。
人がいないため、聞き込みをして確認もできない。あるていど事前の情報で城付近であることしかわかっていないのである。瘴気が充満しているため、魔族たちにとっては非常に力を発揮しやすく、破壊自体は順調に進んだ。厳密に施設を特定できない点は不安が残るが、瘴気が残っているうちにやりきるしかなかった。すぐに消えるものでもないが、瘴気を消し去ることは不可能でも、人間側が、瘴気を移動させるようななにか技術を持っているかもしれないので、時間は限られているとして行動したのである。
ハナージャは破壊活動をしながらも、馴染みつつあった街並みが無残な状態になっていることに言いしれない思いが湧き上がっていた。もう、以前のようにここで給仕として働いていた、賑わっていたあの風景は戻ってこないのだ。各所を破壊してまわりながら、思い出がよみがえり、心が重くなった。
さて、そんな破壊活動はルジャーナ聖教の騎士団に大まかだが観測されていた。大型魔獣消滅後も、いたるところで建築物が破壊されて行っている、という程度であるが、何らかの魔獣がまだ潜んでいるのだろうと騎士団は推測していた。そしてその魔獣がいかような存在か、近づいていいものか判断できないため、警戒を続けるしかなかったのである。それは彼らからすると不気味であった。まだ何か起こってしまうのか、大型魔獣の消滅は、ほんのひと時の安らぎでしかないのかもしれない、そんな不安が付きまとうのである。
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星庭神成は自室のパソコンにUSBを接続し、ミリシアから受け取った圧縮ファイルを解凍する。その内容は彼女が作ったというゲームである。
作ったから、時間があるときに遊んで、とのことだった。
起動すると『これは危険なファイルです、実行をキャンセルしました』と表示される。わりと自前で作ったものは、こうした警告が出ることが多い。定番のゲームエンジンで作ってもこの警告は案外出たりするのである。いつも通り、詳細を表示のボタンを押して強制的にプログラムを実行させる。
表示されたのはタイトル画面、そこに操作説明も書いてあって、スタートの文字と終了の文字があり、それぞれ選択できるようになっている。なかなか、はじめてにしてはしっかり勘所を抑えた作りになっている。
感心しながらゲームパッドをもって始めると縦スクロールのシューティングゲームが始まった。いわゆる弾幕ゲーかと思ったが、さすがにそこまで敵の攻撃の弾が乱射されるようなものではなかった。それでも、敵を倒せばスコアが増え、たまにアイテムが出現し、取得すると武器がパワーアップする。武器は通常弾を放つボタンのほかに、定番の爆弾という回数制限の強力な攻撃ができるものもあった。まずは定番を簡単に作ってみようという試みはなかなかに良いと思う。
当たり判定は長方形ではなく円でやっているような気がする。
背景はない、敵は何種類かいて移動や攻撃をしてくる。敵の攻撃は、こっちを狙うもの、まっすぐ下方向、左右などなどだ。敵の配置、ひとまず置いてみたという感じだと思う。と分析的に見てしまっていた。
そしてボスまで到達すると、なんと円状に弾を連続で射出するではないか。おぉ、これは弾幕ゲーに一歩近づいている感じがしてそれっぽい。三回ダメージを受けて復帰しつつ何とかクリア―した。最後にはスコアがクルクル回ってドーンと結果が表示されるという小さく一ステージ作ったという流れになっている。ちなみに音声はない。
と、一通り堪能した。一つ目でここまでできるのならなかなかたいしたものではないだろうか。素直に感動し、すごいと思った。
もっと単純な、物理エンジンを使ったパズルとか、四択クイズとか、ワンボタンゲームとかをイメージしていたので予想外だったのである。
負けてはいられないなと、感じたのである。
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ミリシアは、パソコン上にみごと目的の通知が届きガッツポーズをとった。そう、成功したのだ。
「ふふ、ふふふふふ、はははははは」
彼女は不気味に笑っていた。
人体にも侵入するウィルスというのもあるが、パソコンにも侵入する外的としてウィルスがある。彼女はゲームにウィルスをくっつけておいたのである。起動するとパソコンはウィルスに感染する。
ウィルスにもいろいろ種類があるが、彼女が選択したのは、パソコンの中身をのぞき見できるウィルスである。
「ふふふふふ、知っていますよ、『俺が死んだらパソコンを壊してくれ』というアニメでもよくあるセリフ、そしてその真意を、ふふふふふ」
ミリシアのパソコンには、星庭神成のフォルダ構成が映し出されていた。
「コルト様、あなたのお宝画像はどこですかー」
さて、まずウィルスソフトは決して作ってはいけません。そして、人さまのお宝画像は決して覗くものではないのです。
とはいえ、ウィルスはどこから入ってくるかわかりません。皆さん、注意しましょう。
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マズルはメルポポ調査のため、付近のイリノ村にたどり着いた。そこでは、ルージェ村のように妖精もまた荷物の運搬をしているのを横目に村に足を踏み入れた。
ひとまず、イリノ村で宿をとることにした。イリノ村は開拓されつつあるようで、新しい宿に泊まることができた。この規模の村にしては珍しく冒険者ギルド出張所というのがあるようで、そこで、冒険者に依頼を出したり、メルポポの妖精に依頼を出したりできるようだ。
宿にの持つを置いて冒険者ギルド出張所に向かってみると、ドワーフの受付が一人と妖精の受付が一人がいて、冒険者用に張り紙がいくつも張られていた。張り紙には雑多な依頼が村からと、そしてメルポポからも出ているようだ。妖精達からの依頼もあるというのがなんだか不思議なものだった。
張り紙を見ていると妖精から声をかけられた。
「ご案内しましょうか?」
「えぇ、妖精さんの依頼はどんなものかと気になってみていました」
「はい、我々では入手困難なものや、人間さんがお持ちの本についてなどが主ですね。メルポポでは研究が盛んですので、いろんな本が求められています」
「なるほど、依頼品の受け渡しはここで?」
「そうです。鑑定なども行いますので、ささいな本でもいちど持っていただけますと嬉しいです」
「メルポポへの立ち入りなどは、決まった人じゃないといけないとか、許可証などが必要だとかあったりするのですか?」
「一般に開放されたスペースまではどなたでも歓迎していますよ。一部、リーディア国と共同開発している施設など指定の研究員のみと限定させていただいております」
それを聞いたマズルは、以外に開かれているんだなと感じた。ルージェ村の妖精の森は、人を寄せ付けなかった。ここまで開かれているなら、自らいかなくとも八英雄物語との関連について、すでに情報は出回ってるかもしれなかった。まずは、この村で調査してもよさそうであった。
「そうかありがとう、お金が必要になったらまたくるよ」
そうして、マズルは外に出て、食事などの買い出しに向かった。ルージェ村の妖精と印象が大きく異なった、妖精にも集団ごとに特徴があるのかもしれない。
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上司から、プルクエーラはメルポポへの調査許可が下り、喜んでいた。
「人員は増やせん、また一人だが頑張ってくれ」
「ありがとうございます。それにしても、人員、減らしていっているという話ですけど」
「難民が増えていてな、そっちに人手が回されていて雲をつかむ話はいいだとさ。あれだけ急かしといて勝手なもんだぜ」
「そうですね。英雄は魔王軍打倒の切り札になるはずです、その調査は重要なことだと考えています」
「うむ、君はまじめだな」
「当然です。このまま魔王軍が北上ともなれば、人類は終わりですから」
そうしてプルクエーラは建物を後にして、旅支度を開始した。やっとメルポポへ行ける。それだけでも嬉しい。
残りの英雄は、いずれも大剣豪ガルダンと異なり、その規模については保証されている。その存在が明るみにできれば、人類の希望となりうるだろう。それに、ぜひともそんな存在にあってみたい。砦ほどの大きさの魔獣を葬ってしまう圧倒的な存在に。




