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26 決断の行方

魔王レイズガットは、普段から連絡役の妖精を近くに置いていた。気に入ったのである。たまに何気ないことを話していたりする。といっても、基本的には彼から話しかけて、いくつか話せば終了というものだ。


その連絡役の妖精が突如自発的に話はじめた。


「緊急のため、魔王様に連絡させていただきたい件がございます」


「コルトからの連絡か?」


「いえ、我々で自発的に連絡が必要と判断しました」


「ひとまず聞こう」


「現在、王都マゼウムにて再び勇者が召喚されたことでマゼウムは瘴気に満たされ、勇者は魔獣化し暴走、吸収能力をもっているため大型化、砦ほどの翼持つ怪物になり果てており予断を許さない状況です」


「なんだと!」


「コルト様が動かれるか分からないため、魔王様が動きやすいよう連絡させていただきました」


「それは助かる、でかした。しかし、コルトは動かんか……」


「状況は知ってはいますがコルト様の性格ですので、どうされるかわかりません」


「わかった、こちらはこちらで打てる手を打とう」


こうして、急遽、側近を集め対応策の検討が開始された。


会議室での議論は紛糾した。何といっても吸収能力というのは対処が難しい。遠隔地から魔術を放っても、その魔術が認識されてしまえば、反射的に吸収される可能性があるのだ。自動迎撃のようなところまで進んでいなければ対処しようはあるが、安易に低く見積もるのは危うい。


本来、勇者の能力は最初は小さいものである。しかし、吸収能力のせいか、それとも魔獣化した影響か、ことのほか急速に成長してしまっているのも厄介であった。攻撃し、その方向へ誘導することで、狙ってほしくないことをそらすという消極的な案も出た。ただ、翼をもつという点で、そうした対応も難しいかもしれない。


また、魔獣化した存在をなだめ、友とする力があるのが魔族であるが、今回は吸収能力というものがあるせいで、認識されるだけで危うく、魔族が一人でも吸収された場合、周辺一帯の魔獣すらも従えてしまいかねないという問題があった。そうなれば、魔王軍が従えている魔獣すら乗っ取られてしまいかねない。


コルトに助力を願うにしても、そもそも彼の力でどうにかなるのかという問題があった。ただ力が強いというだけでは、吸収されておしまいなのである。助力を願うにしろ、対応策を考えたうえでないと意味がないだろうという話になった。


ひとまず、非常に危険な状態という認識の元、迅速な観測と連絡体制の構築が必要と判断し、議論を止め、そちらを優先した。状況の変化に素早く対応できなければ、ふとした瞬間に魔王軍は滅びてしまうかもしれない。


壁や砦の建設は停止し、一つに固まりすぎると危険なため、いくつかのグループに分け分散、中央の旧マゼス王国領土付近の大部隊は後ろに下がらせ、連絡体制だけに絞る方向である。


こうして魔王軍も動きはじめたのである。


#


コルトこと星庭神成(ほしにわ のあ)はリビングで頭を抱えていた。


彼にとってみれば、まったくもってとんでもない不具合、問題を発生させられて困ったものであって、そうしたことへの対応は昔は日常茶飯事であったが、だからこそやりたくもなかった。


そう、不条理に叩き込まれるのはもう、金輪際、一度たりとも御免こうむるのである。


さらに問題なのは、この火の粉、払わなければ、自分に降りかかってくる可能性があり、かつ能力が厄介でさらに暴走しているのだ。


この世界の事なんだからこの世界の人たちが何とかしろよと叫びたくなる。


しかし、召喚されてしまった、哀れなる同類にも思うところがないわけではない。自分がもし、召喚されたと思ったらいきなりゾンビ化みたいなことになったら神様を恨む。


そういう点では助けたくもあるが、だからと言ってなぜ自分がやらなければいけないんだという腹立たしさがあるのだ。


全てはあのゼムという男が悪い。あんにゃろう、生き地獄を味あわせてやりたい、死ねない体にしてグツグツ湯でたぎるかまに浸らせるなどの地獄のフルコースをおみまいしてもまだ足りないぞ。一体全体どうしてくれようか。そしてあの男の事を考えていても事態は前進することはないのでさらに腹立たしい。


うぎゃーとリビングで叫んでいると、ミリシアが部屋から出てきた。


「何かあったのですか?」


ということで、ミリシアに状況を説明した。


「それはまた面倒な状況ですね」


「だろ」


「はい、吸収と言えば、物語終盤のラスボス級が持っているのが定番です。竜見伝でも徐々に吸収系のボスになっていき、最終的には味方がどんどん取り込まれていきましたよね」


「そうそう、ただあれは接触の吸収だっただろ、今回は認識するだけで吸収できるんだ、さすがにズルイだろ」


「認識するだけは、さすがにないですかね。転生したらキノコだったも接触してましたし」


「技を見ればそれが盗める、みたいなのはある。忍者のマンガのやつだ」


「あぁ、独特の目が能力をもっているというあれは、視認とかそういう意味合いでしたね」


「だからといって、能力値や能力を吸収するまではなかったからな。正直、何もしたくないし、考えたくもないよ」


「Wi-Fiの電波みたいに認識できないもので何とかするというのはできないの?」


「元が人間だから、認識できない可能性はある、さらに厄介なのは倒せばいいという話ではないんだよ」


「そっか、コルト様の同郷か、似た境遇の人が魔獣化しちゃったんでした」


「吸収能力をかいくぐって、そのうえで魔獣化を戻すという難題なのでお手上げしたいよ」


「魔獣化はそもそも戻せるものなの?」


「あぁ、そういう能力をもった妖精をつくれば戻るよ。ここら一体の魔獣も全部狩ってるわけじゃないんだ。最初はそうしてたんだけど、あまりにも後処理が大変になっから、半分以上は戻してたりする」


「女の子向けのアクションアニメって敵を浄化する系統多いわよね」


「穢れやお祓いって考えると、日本の神道……あぁいいや、うん、まぁ、浄化自体はできる」


「神道?あぁ、巫女さんとか安倍晴明とか?」


「安倍晴明は陰陽師だから違う。いや、結局な、俺は、他人のしりぬぐいを強制される理不尽がいやなんだ」


「そうですね、親しい人でも抵抗あるのに、今回は憎い人ですもんね」


「そうだぞ、俺を追放したうえに暗殺部隊まで差し向けてきた連中だ、あぁ腹立たしい」


「ひとまず解決したうえで、刑の執行についてはあとで考えたらどうでしょう」


「やっぱりやらなきゃダメー?」


「はい、こっちに被害がでてからではもったいないじゃないですか」


「やだなー」


「コルト様ならできますよ」


「できるかどうかじゃないんだー」


こんな感じで神成はリビングでうだうだし続けるのだった。


#


ルージェ村へは、妖精の里メルポポからの妖精達の救援によって、木の伐採、整地が迅速になされ、妖精達が持ち込んだ布も利用して続々と簡易住宅が作られていた。


その作業には避難民や村の人達も一部参加するが、妖精達の無尽蔵な労働力には全くかなわない。それを遠目に見ていたブライは妖精の見事な動きと持久力に感心していた。訓練は訓練場にも人があふれてしまい休みである。


村の子供たちも興味があってのぞき込んでいた。村の広場も人が増えてしまって遊びにくいという側面もあった。


「ブライさんはあれ運べる?」


少年カインが指さしていうのは、枝を切っただけという丸太を垂直に持ち上げて移動している妖精の姿である。


「あんな芸当無理だ、曲芸師でもできねぇよ」


そのこえに、やっぱりすごいんだぁと子供たちは感激する。


整地された別の場所では、飛行できる妖精がひっきりなしに積荷を運び込んでおり、どしどしと積みあがっている。それは食料だ。ブライはそれを見て、一体全体どこからかき集められてるんだろうと不思議だった。金額で考えてもかなりのものだ。以前のルージェ村だったら、冬を三回は越せるくらいに集まっている。


さて、これらの施策はルージェ村の村長ジョウツォと、執事の妖精、メルポポの村長の妖精の三者で話し合いの末に実行されたものである。


実はちゃんとした住宅を建てていくということも可能であった。しかし、あまりに大人数が永住する運びになってしまうと問題になりそうだったので、あくまで仮に寝泊まりできる程度の家にとどめたのだ。問題というのはまず村側の問題だ。そうでなくても急に拡大している村は、人が増えてきて統制をとるのに苦労していた。人が増えれば問題も増えるしそのための仕組みも緩やかに増えれば対応しやすいが、急速な拡大は対応がこぼれやすくなり、やがて多くの人から不満が出る。


また、ルージェ村が大きくなりすぎ、本格的に発展してしまうと、妖精達が目立ち、星庭神成の平穏が脅かされる可能性が高くなってしまう。


そうした理由から、周囲への分散を促しつつ、一応寝泊まりできる状態にもっていくということにしたのである。そのため、食料も、品質のいいものではなく、安いものをたくさん集めている。それは避難民にとっては迷惑な話かもしれないが、村には村側の理由があるのだ。


完成した簡易住宅に順次人が割り当てられ、混雑していた村は少しずつ落ち着きを取り戻しつつあった。


#


星庭神成は現実逃避をしようとシアタールームでアニメを見ていたが、一向に没頭できず、イライラがつのっていくばかりであった。理不尽である。


今彼が見ているアニメは最後には主人公がなかば自己犠牲のような形で、皆の平穏を願い、人という姿を捨て去ってしまい、平和が訪れるという物語だ。


物語としては非常に面白く、段階やロジック、最後の逆転の発想の思いっきりの良さなどがダイナミックで心地よく面白いが、彼は自分はそういうふうには振舞えないし、なりたくもないと思うのだった。


仏教でいうなら、阿弥陀如来になりたいか、みたいな感じである。救う側にまわるのではなく、救われたかった。


理不尽には理不尽を突き返したくなるのが彼だった。礼には礼を、悪には悪を、目には目を、歯には歯を。


だからこそ誰かのために無償で、それも願われることなく、自発的にやるということは性分に合わない。そんなのは自分ではないと思うのだった。


正義の味方は小さな子供のころに諦めたのである。


いや、大人になって仕事についてから、この炎上プロジェクトを救ってやるぜ、なんて息巻いているときもあったかもしれない。もちろん挫折したわけだが。


「私このアニメ、リアルタイムでいろいろ想像しながら見たかったです」


そう言うのはミリシアだ。


「あぁ、一週間、次の話がはじまるまでに皆であーでもないこうかもしれないと発信しあうのはなかなか楽しいもんだよ。いいアニメはとくに最終話がいい感じに期待を超えてくれて皆で大感動して、またその感動を分かち合うんだ。絵とか描いたりしてね」


「今やってるアンドロイドのやついいですよね」


「あぁ、盛り上がってるみたいだね」


「見てないんですか?」


「いま、見れる気分じゃないから……」


「そうでした、だから見たことのあるやつで心を休めているんでした」


残念ながら心の鎮痛剤にはなりきれていなかった。


しばらくして、感動的なラストシーンが流れる。しかし、彼のはらわたは煮えくり返ったままだった。


そして、血が上っていった頭は急激に沸騰した。


もう、やるよ、やるしかないんだろ!後であの王室の連中には生きることすら後悔する絶望に突き落とし苦しみもがき生き続けさせてやろうじゃないか!

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