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25 王都崩壊

コルトこと星庭神成(ほしにわ のあ)とミリシアは、リビングで一つのノートパソコンをながめていた。ゲームパッドが接続されており、ミリシアがそれを持っている。


神成が、2Dアクションの簡単なゲームを作ったので、ミリシアに試遊してもらっているところである。


まずは左右への移動方法がボタンと共に明示され、そして進んでいくと、ジャンプの方法が示唆されるという定番のものだ。


「こういうの作れるんですね」


「そりゃそうだ、誰かが作らなきゃ存在しないわけだし」


基本的には単純なジャンプアクションゲームで、今のところ障害になる動く敵のようなものは存在しない。落ちるとゲームオーバーな穴などはあったりする。


「ふむふむ、視点を変えるとこれはコルト様の手料理ということになりますよね」


「恥ずかしいことを言うな」


「そうですか?それにしても、ゲームが作れる、作るという発想がなかったので意外です。私でもできるんですか?」


「そりゃ、時間をかければこれくらいなら誰でもできるだろう。インターネットで、ゲーム制作とかプログラミングとかで調べるといろいろわかると思うぞ」


「コルト様が教えてくれたりはしないんですか?」


「嫌だよ」


「いけずですね」


「インターネットがあるんだし、調べたらいろいろ出てくる。まーあれだ、どうしてもというなら先生の妖精なら作ってもいいが、プログラミングや開発は習うだけだとな」


「何か問題が?」


「結局は、やりたいことを思い浮かべたりして、それをどう実現するか、というのが開発なんだよ。知らないことも要求されるところを、どうするかっていう力が求められるわけだよ」


「習った家庭の味の料理を再現するだけじゃなくて、至高の、究極の料理を目指す、みたいな感じです?」


「だいたいそんなところだ。基礎をいったん習うのは良くても、独学ができないと、やりたいことをするじゃなくて、やれることしかやれなくなっちまう」


「手に届く範囲で満足する方が幸せだったりしません?」


「それはそう、ハードル高くするとゲーム作り切れなくなったりするね。だから敷居をめっちゃくちゃ下げて作ってみたのがこれだよ」


「なるほど、そういうことですか」


ほどなくして単純なステージ一面だけのゲームはクリアーされる。


海水浴以降、二人とも外にはまるっきり出ていない。ミリシアもインドアに染まってしまっていた。


#


マゼス新生王国の王都マゼウム、昼、雷雲が鳴り響く中、勇者の召喚に使われる神殿の上に一筋の光が天へと神々しく上る。それは、去年の秋にもみられた景色である。


次の瞬間、ゴゥっと地鳴りとともに王都マゼウムとその周辺が瘴気で覆われた。残っていた人々は瘴気に侵され次々と変貌、凶暴化し、互いに襲いはじめる。


そして神殿は大きな雄たけびと共に、一匹の翼をもった怪物が空中へと飛び出した。それは人間的な雰囲気のない怪物、悪魔とも言える姿だ。


王都マゼウムから逃げていた少女マチとおじいちゃんは、ルジャーナ聖教やその他の逃げ出た人々と共に恐ろし気に見つめていた。一瞬にして、王都が瘴気に飲み込まれてしまったのである。


マチはおじいちゃんにささやいた。


「大丈夫なの?」


「ほっほ、危ないから逃げとるんじゃ」


不思議と、おじいちゃんはいつにもまして元気だった。冒険者の血が騒いだのかもしれない。


いったん魔王軍の最前線まで引いたハナージャとレキストは、どういう結末になるか観測しろという命令が出てしまい、王都の周辺の丘で観測をしていたところだった。


「とんでもないことになったわね」


「おいおい、何をしたらああなるんだ、エンシュラティアでもあそこまで濃くないぞ」


二人は予想外の出来事に驚きつつも、冷静に全体を観察していた。


「奥の方に空を飛ぶ羽根つきの小型魔獣がいるわね」


「瘴気が濃くて、浸食が早いんだろうな……残ってる連中はあっというまに魔獣化していっちまってる」


「そういえば、人間ってどれくらい瘴気に耐えられるの」


「獣とかわんないよ、大きいほど遅くなるが、人間なら一週間は本来もつはずだ、それだけ瘴気が濃いんだな」


この未曽有の大惨事は、周辺国へも直ちに通達された。


魔王軍が一時侵攻を停止してこの現象ということもあり、魔王軍は遠隔で大規模な瘴気を発生させる秘術でも持っているのではと戦々恐々となる国もあった。原因がわからないゆえ、その矛先は当然、魔王へ向くのであった。


#


ルージェ村では避難民であふれ混乱しつつあった。さらに先の街への道も人であふれていることや王都マゼウムでの事件をきっかけに焦って我先に逃げようとしたひとで街道がパンクし、あふれる形でルージェ村にも人が押し寄せたのだ。


ルージェ村は去年から人が増えてきたこともあって、少し開拓はしていたが、こんな事態は想定しておらず許容量を超えていた。寝床の場所も不足していれば、食料や物資も足りておらず、このままでは村自体にも損害が出かねなかった。


困った村長ジョウツォはコルトの元へ行くことを決断する。


ジョウツォは前回と同様二人の側近をつれてコルトの家へとおもむいた。久しぶりに着たその場所は、外のイスや机こそ変わっていなかったが、家は増築され様変わりしていた。


彼らは客間に通され、コルトはラフな格好で入ってきた。


「このたびは急な来訪に快く受け入れていただきありがとうございます」


「細かいことは調べてないんだ、状況や要望を言ってくれ」


「はい、マゼス王国の王都マゼウムが瘴気にのみこまれるという事態を受けて、混乱があり、抱えきれないほどの難民がルージェ村まで押し寄せております。寝床などの場所の確保や食料面でお力添えをいただけないでしょうか」


そう言うと、コルトは投影の妖精を呼び出して、村の現状を確認した。


「なるほど、かなり混乱しているね」


「はい」


「できることはあるけど、そうすることでこっちに人が来るということは避けたい」


「そうですね」


「以前も、二人か、来ちゃったんだ」


「そうなんですか」


「目立ったことをするのは、避けたいんだよ」


悩んでいると、執事の妖精が話はじめた。


「でしたら、北ノスティア領のメルポポの妖精達の支援、ということにされてはいかがでしょう、あちらとも連携はとれますし」


「なら、あとは妖精の追加人数がどれほど必要かだけど」


「百体は必要かと思われます」


「最近限界を試してないから、どれほど維持できるか分からないね」


「最悪、三日を限界と定めて動いてみましょう」


「どうだろう、今の話の流れで、俺やここは関係ないってことで動くのは」


「はい、よろしくお願いいたします」


そうして村長ジョウツォ達は村へと帰っていき、神成は一時的にメルポポの妖精の枠を百体追加し合計で百四十とした。


「あとは任せてもいいか」


「はい、あちらの村長と連携し適切に対応いたします」


「うん。あ、その前に、原因は何なの?」


応えたのは物知りの妖精だ。


「マゼス王国は政変があり三つに分割されました。そのさい元国王ゼムは逃亡、マゼス新生王国が一部を引き継いだわけですが、混乱していたため情報が引き継げておらず、二度目の勇者召喚を行ってしまいましたのじゃ。その結果、不足分のマナを強引に地中から吸収、地下深くの瘴気もろともつかっての召喚となったのじゃが、吸収の余波により地中の瘴気が地上に一気に登ってしまったのでございます」


「つまりそれって……自業自得ってこと?」


「情報の失伝の責任は元国王ゼムとしますと、現王に責を問うのは酷じゃと思いますじゃ」


「そうだね……はは、なんか覚えがある」


前任の人が急に抜けた穴を頑張って埋めるときに、情報がなくて困る、などということは経験として神成にはよくあり理解できた。責められるべきはゼムに違いないと。


ふと、執事の妖精が話はじめる。


「どうやら、召喚された勇者も瘴気で魔獣化、怪物化してしまっているようで、気がかりでございますな」


「それってどうなるの?」


「異能力は、能力吸収です。能力というのは、異能力や技術、またゲームてきな攻撃力的なパラメータの意味も内包するようで、放置するとどんどんと凶暴化していってしまい、手が付けられなくなります」


「一番ヤバイ能力じゃん!」


「現時点でも人間側で対処できる存在はいないようです。そもそも、認識されるだけで奪われてしまうので、対処のしようがないと」


神成は崩れ落ちる。勝手に召喚された挙句、怪物にされてしまった勇者の事を思うと、可愛そうだと思うし、そして、手が打てるのは自分だけなのかと思うと、やりたくないとも思うのであった。さらに、残念なことに、放置すれば、彼自身の平穏も危うい。


「あのバカ元国王、なんて状況にしてくれてんだ!」


#


ハナージャとレキストは恐ろしいものを見ていた。


「こりゃ逃げよう、もうどうなるか分かんねぇ」


レキストがそう叫ぶのも当然だった。王都マゼウムには砦よりも巨大で小さな翼をもつ怪物が蹂躙しているのだから。遠くからでもやすやすと視認できる。そのうえ、それはこれまで小さな存在だったのが、どんどんと大きく膨れ上がってきているのだから恐ろしい。


「あんなに急速に大型化するなんてへんよ」


「だからこそだ、巻き込まれる前に撤収、いったん報告したほうがいい」


「そうね」


二人は、大急ぎで魔王軍の前線へともどった。


王都マゼウムでは、巨大な怪物によって建物が壊されている。飛行能力もあり、非常に危険な状態だった。


これは、遠くで監視していたルジャーナ聖教の騎士たちも確認できていた。彼らは冷静に最悪な状態であると各所に報告していく。


もはや魔王軍どころの騒ぎではなくなっていた。

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