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24 思い出した夢

コルトこと星庭神成(ほしにわ のあ)は、海水浴をへてようやくそもそも自分が何をしたい人間だったのかを思い出した。


それは、ゲームを作りたい、というのが彼の夢だったのだ。


この世界に着た当初は何もそろっていなかったし、まして、そういう余裕もなかったが今は違う。電気もあればパソコンもあった。ないのはインターネットだけである。


そう、インターネット、インターネットが欲しかった。それがなければはじまらない。


というわけで、元の世界からインターネットをつなごうと考えたわけだが、この世界にはプロバイダーも何もない、電波をつなげることはできそうだが、つなげたところで、自身のIPアドレスは何者でしょう、みたいなことになってしまう。こちらの世界にルーターを作れても、やりとりするための身分証みたいなものが設定できない。これをやってくれるのが簡単に言えばプロバイダである。


少し諦めて、今あるパソコンでできることと思ってみたが、よく使っていたゲームエンジンは起動時にインターネットのアカウント接続が必要で使えなかった。原始的なプログラムは動いたが、動作方法やプログラムの書き方を調べたくなり、インターネットの必要性を再認識した。


そこで閃いたのは無料Wi-Fiである。通信速度は遅いが、どんな端末でも接続可能な無料Wi-Fiを活用する。もちろん、安全性はやや低いが贅沢は言わない。ともかく、こうして、ある地点の無料Wi-Fiとつなげられるよう、妖精さんを使ってなし、インターネットを開通させるということに成功したのである。


もともと、家の中はLAN配線が完備済みなので、あとでミリシアにも教えてあげよう。


お、これを活用すれば、オンラインゲームとかもできるのではなかろうか。夢が広がる。


そうしてさらに別のことを思いついたのである。実は元の世界に帰れるのではないかと考えたが、帰るべき理由が見つからず、ゲーム制作に集中することを選んだ。


ネットがつながったとはいえ、回線が細い。ゲームを作るにしろ、アカウント接続を有する環境でやるのは難しいと判断し、以前使っていたゲームエンジンとは別のアカウント接続が要らないものをいくつか調べて、そのなかでもメジャーなものを使ってみることにした。


いろいろインターネットで調べながら、サンプルプロジェクトを落としてそれぞれ使って実行してみる。


あるサンプルは、赤い三角形が表示されるだけだったり、立方体がクルクル回転したり、文字が表示されるタイマーみたいなやつや、簡単な2Dアクションゲームや3Dアクションゲームの基礎みたいなものなどを確認していく。おぉ、なんだか懐かしい気持ちだった。開発しているという感じがする。


仕事はもう嫌だが、もともとゲームが作りたくてシステムエンジニアにたどり着いたくらいである、好きなことなのである。


ついつい熱中し、オーソドックスブロック崩しを一ステージつくって、ほんの少し満足した。まずはただの一色の四角形が何種類かとボールを描くという単純なものではあるが、こういうところから少しずつ積み上げていけばいい。


こうして神成は、またしても引きこもるネタを見つけてしまったのである。


#


ミリシアはパソコン画面に映る膨大な情報を目にして、心が踊るのを感じた。その広大な世界に圧倒され、思わず笑みがこぼれた。そう、コルトから、インターネットへの接続方法を教えてもらったのである。


パソコンはアニメで知っていたが触るのは初めてで、まだまだ操作はぎこちない。とはいえ、彼女は世界が広がっていくのを感じたのである。


試しに、検索をして記事を読んでみたり、無料のメールアカウントサービスでメールアドレスを作ったり、動画サイトで動画を見てみたり、といろいろありすぎて何から手を付けていいか分からないくらいであった。まさに情報の大航海時代が到来したのである。


ただ、インターネット?の回線は細いとのことで、動画サイトも高精細に見ることは難しいとのことだったが、ミリシアにとっては些細なことだった。


そして彼女は初めて、恐ろしい地雷原にぶち当たってしまった。ネタバレである。ちょっと楽しみにとっておいた、アニメのネタバレを踏んでしまったのだ。


気になったから、いや気になるからこそ、タイトルを入力してみたわけであるが、思いっきり今後の展開、誰と誰がどうなるか、などいろいろざっと知ってしまったのである。


衝撃のあまり頭を抱え叫んでしまった。


何という罠だろうか。情報の海とは、全てが甘い蜜ではなかった、荒波だったのである。


#


一方で、この世界ではさらなる混乱が広がりつつあった──


混乱の末マゼス王国は三つに分裂した。もっとも嫌われた領地、魔王軍と接触している南の端側のバトス国。王都マゼウムを含む北西の領土を持つ王族が何とか守り通したマゼス新生王国。残り北東の貴族政のダルス国である。


バトス国はルジャーナ聖教を後ろ盾に、魔王軍の侵攻を防ぐ防衛ラインとして期待されている。しかし、国民の多くが避難を始めたため、軍の再編が難航している。


なんとか王室は守ったものの、マゼス新生王国は貴族を追い出した形もあり、追い出された貴族は東側のダルス国へと移動し、兵力もそっちに移動してしまっているという状態である。


マゼス新生王国には、若い第七皇子のナドが国王に担ぎ上げられ、摂政メンデルスが補佐役となった。


王都マゼウムでは、戴冠式が開かれたもののなかなかにして閑散たるもので、マゼス新生王国の未来は暗いものになりそうだと感じさせられた。それゆえ、王都マゼウムの民もさらなる不安が募ったのである。今は力強いリーダーが熱望されていたのである。


反面、ダルス国は、力強き国として兵力再編と力を取り戻すことを盛大に掲げ国を大きく盛り上げようとした。今は非常時、国民が一致団結して軍備を支えるべきだとして、軍国化を唱えたのである。それは、追い立てられてやってきた人々には共感される反面、国民にさらなる税や兵役をかすことを示すため、不安に思うものもいた。


摂政メンデルスは、状況を打開するため、国王ナドのもと勇者の召喚の再挑戦を試みるように打診した。前回の失敗は何か準備不足やマナが不足したか何かではないかと考えたのである。そう、彼は知らなかった、勇者の召喚自体には成功していたということを。逃げた元国王ゼムとその側近たちは召喚のその詳細については、高度に隠匿しており、情報が引き継がれていないのである。


ハナージャの働いている飲食店も人がずいぶん減ってしまった。忙しさが減ったのは少し嬉しいが、その理由から喜べるものではなかった。まずマゼス新生王国に対する不信感だ。いったいあのような若い王に何ができるのだと不安視されているし、王室事態に信用がなくなりつつもあるようだった。といって、隣国のダルス国は軍備強化、税も重くなるだろうという側面で行きたい先ではなく、どちらでもない北側へと逃げ出していく人が多いようである。


レキストは冒険者として仕事を再開し始めたところ、冒険者ギルドの掲示板には、兵員募集の張り紙がでかでかと貼られており、兵力の不安がにじみ出ていた。


「あんた腕が立つんだからどうだい?」


と、レキストは別の冒険者に話しかけられる。


「そこまで金に困っちゃいねぇし、生憎、俺にはマゼス王国を思う気持ちはないよ」


#


ルジャーナ聖教の大神官に不吉な神託が下った。王都マゼウムが亡びるという神託である。これを重く受け止めた教会は、王都マゼウムの市民に避難を呼びかけた。ルジャーナ聖教はリーディア商業連合国へ協力を要請し、リーディアへと脱出する方向で話を進めるのだった。


これに怒ったのはマゼス新生王国の王室や摂政メンデルス達である。王都が亡びるなどと流布するなどとは何事かと反発し、ルジャーナ聖教は魔王に通じる邪教であるとまで言わしめたのである。


その結果、王都マゼウムでは教会は動けなくなり、避難を誘うことも困難になる。ルジャーナ聖教側は苦々しく思いつつ、逃げてきた者たちをリーディアへ橋渡しするよう努めるのであった。


王都マゼウムの民は混乱し、多くの人は逃げ始めていた。


少女マチは、おじいちゃんと家で話しをしていた。


「おじいちゃんどうしよう?」


「なに、まずは旅支度じゃな。食糧はもちろん、冬になったときのことも考えて布もきちんとな。いやぁ、ヒザカユカユ病の薬も十分に欲しいところじゃが、しばらく我慢せねばならんかもしれんの」


「邪教だとか言われているけど?」


「ルジャーナ聖教は邪教ではないぞ。ちょっと頑固すぎるところもあるが、本当に神を信仰しておる厳粛な連中じゃ。ま、そこが軋轢を無視して動いたんじゃ、真実じゃろうなぁ」


マチは旅用の保存のきく食料を買いに外に出た。


一方、ハナージャとレキストはどうするか部屋で相談していた。


「町の皆大騒ぎよ。でも、魔王軍がここを攻めるとかそういう話はないのよね?」


「ない。飛び道具は無くはないが、今は守りを固めているし、魔王様はどちらかというと進軍を止めたがっている。気味が悪いな」


「どうしよう、マズルとはここで落ち合うという話にしているのに」


「いったん魔王軍の前線まで戻ったほうがいいと思うけどな。マズルはかなり離れたリーディアの北側にいってるんだろ」


「そうね。でも何なのかしら、王都が亡びる理由って」


「天変地異とかそういうのってのはどうだ、地震とか火山とか?」


「なら私達も危ないわね」


「そうだ、わかんねぇけど危険だってお触れが出てるんなら、いったん離れようぜ」


王都マゼウムは想定外の混乱に見舞われたのであった。

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