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18 妖精の里第二号

「皆さんお強いですね。ほんと助かります」


マゼス王国の街道で、ハナージャ達三人はたまたま魔獣に襲われている人間を見つけ、レキストの交流のチャンスだという進言で人間を助けたのである。


こうして、彼らは北上し、王都マゼウムに向かう行商隊の護衛を引き受けることとなった。


「かまいません、これもきっと何かの縁でしょう。我々も王都を目指していましたし」


と応えたのはマズルである。


ハナージャは少し考える。行商隊と行動できたのはもしかすると幸運だったかもしれない。王都に入るのに役立つだろうか。実際どうなるかは、わからないが、あまり構えなくてもよさそうな雰囲気だった。


行商隊が運んでいるのは、香辛料と使えなくなった鎧などの鉄部分を集めたものだ。鉄は王都へ行けば、戦争のためにまた武器を使うのに使えるとのことで、高値で売れるのだという。


八英雄物語は行商隊の人々もやはり知っているようだった。新しい情報としては、どうやら、それら英雄はいずれもマゼス王国では見られていないということである。一説には見捨てられたのでは、などという話も出始めているらしい。そして、その理由はルジャーナ聖教の不興をかったのではとかなんとか。もともと古き伝統ある王国としてマゼス王国は教会には強くでていたのである。そうした何かが働いているのでは、という推察があるらしい。その考えから、英雄はルジャーナ聖教の使徒なのでは、と言う噂も広がりはじめていた。のだが、魔王軍を止めた新たな英雄が現れたことで、いったいどっちなのか、真偽は闇の中なのだそうだ。


行商隊はいくどか魔獣に襲われたが、三人の活躍で危なげなく、やがて王都マゼウムへとたどり着いた。


三人は無事に王都マゼウムへ足を踏み入れた。この瞬間から、彼らの旅はさらに本格的な調査へと移り変わっていく。門をくぐるとき、ハナージャはたどり着いた嬉しさよりも緊張した。彼女たちのこれからの活躍が、魔王軍の命運を左右するのであるのだから。


#


星庭神成(ほしにわ のあ)は妖精想造の数などのキャパシティが有り余っていたので、せっかくだから何か、と考えていた。ちょっとしたまた新しい方向である。


彼自身の身の回りどうこうは解決しているので、いっそここは本当に別の場所に妖精の里なるものを作ってしまってもいいのではないかと考えたのだ。


執事や物知りの妖精に相談し、さらに調査と検討を重ねた末に、場所はリーディア商業連合国の北側の山岳地帯の一角とすることとした。近くにルージェ村のように村はあるが大きな町からはやや離れている。


その妖精にはあるていど自治を任せたいとも思う。そこで、妖精自身に妖精を作る能力を一部貸し与えることにした。第二の妖精の里の妖精上限を四十とし、能力の枠は五つ、どんな能力を設定できるかはホワイトリストを作っておきその中のみ、状況に応じて執事を通じて神成の承認をもってそのリストを更新できるというふうにする。


こうすることで、自動的に妖精たちが自分たちで自治をし、村を作り発展していくだろう。どうなっているか、状況は執事に確認を取ったり、投影の妖精に頼んで状況を見せてもらえばいい。


ルージェ村とも現状で上手くやれているから、悪いようにはならないだろう。


こうして第二の妖精の里計画はスタートしたのである。


#


ハナージャは王都マゼウムの城下町で、飲食店の給仕として働き始めた。生活費を稼ぐだけでなく、王都の情報を集めるためにもこの仕事を選んだのだ。彼女の愛嬌と手際の良さは評判を呼び、いつしかハナージャ目当てのお客が増え、店は大いに賑わうようになった。


ハナージャはどの種族も男というのは変わらないのだなと思いつつ、人間と魔族、一体何が違うのだろうと思い始めてもいた。


仕事自体は、持ち前の器用さで手早く覚え順調にこなしている。問題があるとすれば、異様に目立ってしまったことだ。密かな行動は他の二人に任せるしかなさそうだ。


彼女は、これまでやここでの交流で、人間やエルフ、ドワーフなどそういった存在への敵愾心というのが薄れていっていた。面倒な客もいれば、丁寧な人もいるし、親切な人もいる、そう、結局魔族の領土で暮らしていたときの人付き合いと変わらないのである。とはいえ、彼らから何度も耳にする魔王軍への敵対心には心にくるものがあった。あまり聞いていて心地のいいものではないが、我慢するしかない。それに、この場の人々を味方にしたいかというと、そうする気もないのだ。いずれ敵になる存在なのである。


一旦情報を整理しておく。まず、勇者については、召喚の儀式を行ったが失敗した、というのが王国側の公式発表であるが、勇者は実際に召喚されている。一般大衆は失敗したという告知をうのみにしていることから、勇者は表立って行動していないようだった。


八英雄物語については情報は変わらない、そもそも当事国ではないからしかたがないかもしれない。


マズルには荷運びの仕事をしてもらい、別口で人脈を作って調査してもらっている。


レキストには冒険者登録をしてもらい、そちらも別口での人脈を作ってもらっている。


また、いったんそれぞれ宿は別でとるようにし、定期的に落ち合う、という形へと変更した。これは、誰かが諜報員だとしられた場合の保険である。


勇者召喚の隠匿についての調査はどう切り込んでいいか悩んでいるところだ。ただ、一般大衆は失敗を疑っていないことから、もしかすると、勇者と王室は仲たがいをしているのかもしれない。現に、勇者自身は第三者という立場を表明しているとのことだった。そう考えると違和感はないように思う。


なお、これまでの道中でもそうだったが、人間達の食べ物は味気ない。それの理由は瘴気味にかけるからである。どうやら魔族と味覚が違うらしい、どこかで魔獣を狩って焼いて食べたい。


#


国王ゼムは非常に重大な決断を迫られていた。ことによっては人間同士の争いに発展する可能性もないではない。


それは、謎の飛翔体の行き先がリーディア商業連合国ということが分かった事と、そしてそれ以上の調査は、リーディアに無断で潜入し踏み込まねばできそうにないということだった。


リーディアそのものが裏切っていれば、国の存亡に関わる事態となるだろう。魔王軍と挟み撃ちにされる形で奇襲を受ければ、王国は一瞬にして崩壊しかねない。だが、真相を解明するためには、リーディアへの潜入調査が避けられない。その危険性を承知の上で、国王ゼムは重い決断を下す必要に迫られていた。


「うむ、リーディアへの謎の飛翔体の極秘調査は行おう」


「しかたありませんな。場合によってはリーディアが敵ということもございますれば」


「ことは一刻を争うやもしれん。このままではおちおち正面の魔王軍に専念することもかなわん」


こうしてマゼス王国から、調査隊が出立した。


#


マズルはたまたま仕事で荷物運びをしているときの世間話で不思議な話を聞いた。


「妖精ですか?」


「そう、去年の秋ごろに盗賊団のお金を盗んだんだったかどうだったかで街中をとびまわってな、そんな騒動も、なんだか懐かしいのぉ」


「盗賊団や妖精はどうなったんです」


「それがまた妙で面白い話でな、暴れた盗賊団は次々捕縛されて結構な大きな組織だったんだが、その後内部崩壊したらしい。妖精は、盗賊に切られたんだがなんとその時持っていたはずのお金が石ころで、まぁ、盗賊達は騙されて惑わされてたってんで、あのころは珍事件として結構盛り上がっていたよ」


「妖精って、近くに住んでるんですか?」


「いやいや、ああいう小さいのは、ここいらじゃ聞いたことも見たこともないよ」


「切られた妖精はどうなったんです?」


「それが忽然と消えちまったのさ、不思議な話だろ」


マズルは、妖精という言葉にひっかかった、そしてもう少し深く聞くとどうやら小さなカバン程度とのこと、魔王様の玉座の間で見た、連絡役に勇者が置いていったとされる妖精に符合するところがあるのではないだろうかと。


そうしてマズルは、次の集会で妖精と盗賊団の騒動をハナージャとレキストにも共有した。二人も気になるとのことだった。


#


リーディア商業連合国の北ノスティア領の山岳地帯に第二の妖精の里がぞくぞくと妖精によって自発的に作られつつあった。


妖精たちは『わっせわっせ』と小さな体で岩山に横穴を掘り、整地し、削り取った岩を器用に組み立てていく。こうして妖精サイズの家々が並ぶ集落が形成される一方で、人間客の訪問を見越した大きな建物も、慎重に設計されていた。近くで魔獣を狩ってきた妖精がそれを運搬して持って買ってきて、解体班に渡したりもしている。


そう、本当に、完全自立の妖精の里が動きはじめたのである。


村長役の妖精が全体指揮を執りつつ運営をしている。それはまるで小さな町づくりシミュレーションゲームを見ているかのようでもある。十人ほどの人数で、ほんの少し細かい命令、岩を掘れ、建物を建てろ、壁を作れ、道具を作れとか、もしくは文化や技術の発展の研究をさせたりできるもの。そして、それぞれ個性があって、建築に強かったり、武力に長けていたり、火が好きで危ないなど残念な能力があったりするのをうまく管理する、そんなゲームだ。


だが、これはそのゲームとはまたことなる。なんといっても全自動なのだ。村の発展ですらもうお任せである。


ほどなくして、取れた鉱石が近くにあるイリノ村へと持ち込まれ、村人たちは珍妙に思いながら対応するのだった。


第二の妖精の里はメルポポと名付けられた。


全自動、それは何とも魅力的なことばである。楽をするためにそれを目指すことはたいせつなことだ。だが、いきなり運用して上手くいくかというとそういうわけではない。自動車が、まずはマニュアル車からオートマになり、自動運転も段階的にとなったように、そう簡単にいかないのがシステムの常である。さて、メルポポは、いったいどうなるであろうか。

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