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13 取り返しのつかないこと

各国の各所では八英雄物語でにぎわっている。魔獣と魔王軍との脅威のなか、民衆は希望を見出し始めていた。


ある酒場でも、冒険者たちやその他で話は持ちきりだった。


八本の剣を同時に使う大剣豪ガルダン。


大型の飛行する魔竜へと至りつつあった魔獣を雷撃の嵐であっという間に葬ってしまった轟雷仙ヴォルテクス。


何よりも固い巨人となってしまった魔獣を、巨大な赤い剣でもって一刀両断にした剛刃鬼クリムゾン。


飛翔する中型魔獣の大軍勢を一掃した、戦略級の竜巻をあやつる風陣王トルネアス。


聖なる鎧をまとい、あらゆる攻撃を無効化して巨大魔獣との格闘を繰り広げた鉄壁将アーマルド。


瘴気で蘇るアンデッドの群れを紫の業火で焼き尽くした魂焰師ファンタズマ。


魔獣のように暴走した遺跡をたちどころに崩壊させた影闇忍シャドワール。


次々とやってきた、英雄の吉報で盛り上がり、そうして集めた結果できたのが八英雄物語である。彼らが集うとき、魔王軍は消滅し、世界に平穏が訪れる、という風に謡われている。


大衆にとっては喜ばしい話だが、そうでない人もいる。マゼス王国、国王ゼムもその一人だ。


新しい英雄の噂を聞いた時には喜び調査だ!と威勢よく調べるも、空振り、空振り、空振りの連続なのだ。八英雄物語とまとまってもてはやされるようになったが、一向に誰一人としてその所在はつかめていない。


執務室で国王ゼムは嘆いていた。


「なぜだ!なぜ見つからん、そしてなぜ我が領土ではなく、国外でこうも英雄があらわれるのだ!」


マゼス王国は今や領土を半分失っている、王も気がおかしくなりつつあった。英雄を見つける前に自分たちが滅んでしまったら、いや、そもそも、失ったものは取り戻せないのである。


英雄の話も、いずれも魔王軍に対してはだいたい反対側の領土、前線には一人として登場しない、それがますます彼には腹立たしかった。まるで世界が意地悪しているかのようだ。


「陛下、そんなに頭をかき乱されては……髪がっ……」


「ヒィィイイイーーーーーー!」


執務室では絶叫がこだました。


リーディア商業連合国の東エストンディア領、大都市エレッツのギルド本部の執務室ではギルド長と一人の冒険者が話をしていた。


「確かに見たのだな」


「はい、無数の雷、それによる魔獣の討伐は事実です」


「風貌についてはどうだ?」


「それは、話に色をつけたかと、名前もですね。一瞬のことでどんな人物だったか、名前何てなおさらわかるわけもありません」


「大剣豪ガルダンの話はまゆつばだと思っていたが、案外そうではないのかもしれんな」


「一人目の英雄の話ですね。そちらも足取りはつかめないのでしょう?」


「そうだな、轟雷仙ヴォルテクスと違って、村とも交流をしているようにうかがえたが、その前後の足取りはまったくらしい」


「ギルド長はどう考えているんです?」


「姿を偽って、変えて、各所で魔獣を倒している……そんな一人の英雄を考えてみたのだが……それだと、能力の違いがわからん」


「使う能力を試してるってのはどうですか?」


「だとして、こんどは姿を変えている理由がよくわからんのだ。それに、そんな多様な能力をあつかえる偉人、聞いたこともない。古の勇者でも、万能ではなかろう」


「そうですね。何かを極めようとすると、どこかは諦める必要があります。破壊力があって、防御力があって、空が飛べて、高度な雷の魔術が使えて、とそんな存在がいるとは思えません」


「長命なエルフでも難しいものなのか?」


「魔術には秀でるでしょうが、大きな剣や、頑丈さの方向は伸ばしにくいのが彼らですし、エルフでも空を飛べるのは一握りですよ。

 それより、今度は八人の勇者が召喚されたのだ、とか、そういうことじゃないんですか?」


「マゼス王国は、勇者の召喚術は偽りのもの、発動しなかったと公言している。それが嘘だったとして、八人というのはどうなんだ?」


「それだけ、魔王軍が強いから、とかですかね」


「ふむ、このままだと、君には本格的に調査を頼む事になるかもしれんぞ」


「やめてくださいよ、雲をつかめ見たいな仕事」


「はっはっはっはっは、まったくだ」


#


コルトこと星庭神成(ほしにわ のあ)は冬も終わりに近づき暖かくなったことで、久しぶりにルージェ村に行ってみようと執事を呼び出した。


「ほほう、それは良いですな。ご主人様には少しお伝えしておきたいことがございます」


「お、どうした?」


「はい、ご主人様が外界と隔絶し、優雅に暮らせますよう。この場所は妖精の里、という話になってございます」


「まぁ、確かに、嘘ではないな」


「そして、ご主人様は村に行く際は、妖精とは無関係のただの旅人としてふるまって頂きたいのです。村長になられたジョウツォ様と個室でということであれば、ご理解されているので問題ありません」


「どういうことだ?」


「妖精の里とのやりとりで、特殊な品が村に入っています。いろいろと付きまとわれる可能性があります」


「なるほど、いろいろ気をまわしてくれてるんだな、助かる」


「いえいえ」


「ということは、外では妖精想造は使わないほうがいいんだな」


「さようです。妖精を見ても、見慣れてないという態度を取られるのがよろしいかと」


「なんかややこしそうだ、執事は枠あまってたか…よし、俺との念話能力を付与しておこう」


そして、念のため、心の中の言葉を飛ばす、念話、テレパシーの能力を執事に着けた。能力付与の妖精を作って、自分にも念話の能力を与える。


『これで通じるか?』


『はい、ご主人様、良好でございます』


よし、何かあったら、定番であるが、どこでも話せるこの能力は便利だよな。


こうして、神成は意気揚々とルージェ村に向かったのである。


#


コルトとして久しぶりに訪れたルージェ村は、以前と変わらないくらいの人口のような雰囲気で、奥からは訓練の掛け声がし、穏やかそうな場所だった。


「お兄ちゃん久しぶりー」


と、少年が手を振っているので、彼は手を振り返す。少年はボールで皆と遊んでいる途中だったらしく、それに戻っていった。


コルトも、人が嫌いかというと完全にはそうではない。ただ、お願いされる、仕事を任される、期待される、そういうトリガーになりかねないところが嫌なのである。


ほどなく歩くと村長になったジョウツォが挨拶に来てくれた。


「あまりおもてなしはできませんが、ゆっくりしていってください」


「構わない。どうやら順調そうだな」


「ええ、おかげさまで。ただ、コルトさん周辺を調べて探している人がいるので、注意してくださいね」


「そうなのか……まぁ、わかった」


そして二人は軽く小話をしていると、訓練の先制をやっているブライがやってきた。


「見ない顔だな」


「えぇ、冬前くらいにちょっとご縁があったんですよ」


ブライは、見知らぬ男に興味をもった。今の言葉も少し引っかかったが、村長とどうも親身に話している点、そして彼の体の動かし方だ。武術を、それも相当やっている人間というのが分かったのだ。また、旅人というには軽装すぎた。


「そっか、俺はブライってんだ冬くらいからここで武術の先生をやってる。あんた、ちったぁ腕立つだろ、ちょっと手合わせしてみないか?」


その要求にコルトは唖然とした。まさか、思っても見なかったのである、いきなり手合わせを所望されるとは。仕事は嫌だし、基本的に断りたいというのがコルトの心情ではある。ただ、これまで、実践というのをしてこなかった、そう、自分自身は安全なシミュレーターで強くなっているつもりではあったが、実際どうなのか、というところに興味があり、試してみたいという好奇心もあった。


「お手柔らかにお願いしますよ」


コルトは、これはどちらかというと、仕事というより、一緒に遊ぼうぜ、そんな感覚なのではないかと思うことにした。


そうしてコルトとブライが手合わせするというので、ちょっと人が集まったのだ。見物人は、訓練に参加している人達、村長、調査員プルクエーラ、カインなどの子供たちだ。


コルトは木剣を受け取ると、心がワクワクしてきつつ、それでいて、周囲が妙に盛り上がっているので気恥ずかしさと緊張感など、いろいろな気持ちがないまぜになっていた。


少年カインは心配だった。カインは知っているのだ、コルトは妖精使い、妖精が強いのであってコルトはただの人だと。だから、子供たちはひそひそと「お兄ちゃんだいじょうぶかな」と心配していた。


村長ジョウツォはコルトを試合に誘ったブライの思惑が分からず、気になったのである。


「動きやすいように、上着、脱いでもかまわねぇぜ」


ブライはコルトに言う。そう、コルトは試合だからと、服をどうこうしたりはまったくしていない、そのままの格好だった。


ただ、コルトは、早く始めたかったので、そのあたりはどうでもよかった。


「なに、すぐに始めたいからいいさ」


「面白れぇ。いくぜっ!」


すると、そこからはカカカンとお互い木剣を打ち込んでの激しい戦いがはじまった。コルトも驚いているが、一番驚いているのは村の人達だ。なにせ、彼を妖精使いだと認識していたのだから、彼自身が剣術ができるとは思っていなかったのだ。だからこそ、子供たちは「すげぇ!」と湧いた。


さっとブライは後退すると木剣を投擲しつつ、死角から足払いを放とうと思ったところ、コルトが投擲に反応できていないのを見て、木剣を回収、足払いを中断した。


「悪い、ちょっとムキになった」


コルトは唖然としていた、木剣が彼の目の前で当たる寸前だったのだ。世界は広いと思い知らされた。


「いや、ほんと面白いよ。俺の見立てだと、獣や魔獣を中心にすえた経験が豊富、反面、人はからっきし見たいだな」


「そういうのが分かるのか、はは」


「そういや名前、聞いてもいいかい?」


「コルトだ。手合わせしてくれてありがとう」


そうしてコルトとブライは握手をした。


ブライはふとここでも疑問に思った。剣士の手にしてはコルトの手が柔らかすぎる。なんとも奇妙な野郎だと彼は感じた。


プルクエーラは、手合わせを見ていて、さすがにコルトが探し人ではないだろうと感じた。剣士としては気迫に欠けるし、なにより、ブライに負けたのだ。おそらく、あの魔獣を倒した剣士はブライに並ぶかそれ以上のはずだ。ただ、なかなか筋がいいとは思った。


コルトは、久しぶりのルージェ村、せっかくなので晩御飯を食べて帰ろうと思い、飲み屋に向かった。


#


ルージェ村はこのご時世でも魔獣に怯える日がなく平穏である、そんな話で疎開してきた人達も増えて、今では人が増え、食べ物屋では吟遊詩人が歌うほど繁盛していた。


コルトは適当に食事を頼み、周囲を見渡す。彼は、皆が元気そうで楽しそうだ何よりだと思った。なにせ、魔獣が出た時はなかなかにひどい景色だったのを知っているのだから。


出てきた食事に舌鼓を打っていると、吟遊詩人が歌いはじめる。


それは、八英雄物語、コルトは最初、まぁこんなご時世だし、英雄登場を望む大衆音楽的何かだろうと考えていたが、内容が理解できるにつれ青ざめていく。


彼は動揺していた。八英雄物語に登場する、それらの英雄、それは全部、もしかして、自分が作り出した妖精が元ネタなのではと?


そんなはずはないと、もう一度歌を思い出してみる。


一体一体確認する。


否定したかった。いろいろ違う部分があるからきっと違う存在だよなと思いたかった。でも、八体だ、それだけの数、発生させているやった魔獣討伐には記憶がある。


認めていいのか、いや、認めるしかないのか。もう、分かっているはずだ、ただ、認めたくないだけなのだ。そう、だってそうだろう、俺の妖精ですなんて絶対に言えない。知られたくない。働きたくない。皆、そんな願うように歌わないでくれ。


え、これって、ここだけで歌われてるの?え、どう?


吟遊詩人は歌った後にこんなことをいった。


「いやぁ、最近どこもかしこもこの歌が人気でさぁ。八英雄様がそろったとき、世界が救われるといいですねぇ」


嘘だ!嘘だと言って!、いや、まった、八英雄はそろわないから、俺、頑張らないから、世界救いませんから!


気が付けば、コルトはほうほうのていで村を出てとぼとぼと帰っていった。


えぇ……嫌だな、俺に期待なんかしないでくれ、だれか、本当の真なる英雄様よ、現れて。いやぁ、頼むから現れてほしい。皆に期待させて持ち上げておいて、何もしません見たいな酷い人間にはなりたくないけど、頑張りたくもないぞ。

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