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10 引きこもりは悪い事かい?

星庭神成(ほしにわ のあ)はルージェ村から少し離れた場所に建てた家に引きこもっていた。


食料など村への買い出しは、指示は執事の妖精に任せ、買い出し自体も妖精に任せてしまったのである。そう、お家にこもって村の食材や物資を購入できれば、こちらからの販売も執事にお任せしている。順調にハルド銀貨が増えて、彼はなんだかうまくやれてて俺すげぇ、やっぱり天才だわと感じていた。


剣術や運動はどうしたのかというと、シミュレーターの妖精の逆の発想で、自由に空間を作ってくれる存在を作る妖精だったり、シミュレーターの中に入れるようにしてしまえば事足りた、というか、それの方が色々できて便利だったのだ。


妖精に作ってもらった仮想世界なら、本物そっくりの獣だけど、攻撃を受けてもダメージゼロで安全と調整もできるし、行動パターンを固定にして試したりと自由自在なのだ。魔術の練習も同様で、こうして外に出る必要が無くなった。


剣術や魔術も順調に成長している感じがして彼としては気分が良かった。遭遇した魔獣をシミュレートして対戦したところ、一人でトラ程度のサイズまでなら、いい勝負ができるようになってきており、最初の何もできずに敗北していたころを思うとその成長は素晴らしいものだと彼は感じていた。


妖精想造も進化しており、シミュレーターの妖精はもちろん、数も三十体まで増え、できる幅が広がった。妖精を維持できる範囲も五十キロメートルほどになり、おかげで村周辺に出没する魔獣を適切に刈り取ることができていた。細かいことは彼は把握しておらず、詳細を知るのは執事だが、ルージェ村から苦情は来てないようなので問題はなさそうだった。


ルージェ村からのやり取りは、直接はなく、妖精の執事を通すだけで済んでいるようだった。大きな問題があれば、家までやってくるだろう。守護者にまつわる諸問題も無事解決し、指南役の冒険者の手配もうまくいっているらしい。順調である。


彼がひきこもっているのは、そうした外に出る必要性がどんどんなくなっていったこと、そして問題もたいして起きていないようだということが大きい要因である。さらに、本の解読遊びもそれに拍車をかけているが、そうした点以外にも彼が根っからのインドア、ビデオゲームやパソコンを何時間もぶっ続けでやっていても平気なほどの性格を持っていたことが最大の要因かもしれない。


自転車で走って風が心地よいとか、バイクに乗っての疾走感や、自動車に乗ってのだの、山登りやキャンプだの、そういったことよりも、いろいろ工夫をして成果を出したり、発見をしたりといったことが好きだった。前者が嫌いかというと嫌いではない。ただ、優先順位の高い順にできることを埋めた時に、それらはこぼれてしまうのが彼なのだ。もし、彼に今ここに友人がいて、恋人がいて、外に出るきっかけがあったなら違ったのかもしれない。


彼がこの世界に来てから、よくよく気さくに話をしたのはマゼス王国のマチという少女だけではなかっただろうか。それでも、ほんのわずか、彼女がボロ屋敷に遊びに来た時くらいではあるが、それが最大値なのである。


わざわざ買い物に行く必要がないなら、やりたいことを優先するのではないだろうか。そう、彼はやりたいことを優先し、そして、やるべきことは自分が生きること以外は基本的に放棄してしまっているのである。


彼にも感情がある。だから、ルージェ村については気に留めている。だからこそ、妖精に気を配らせているのだ。彼は思う、ここまでしているのだから十分だろうと。


#


剣士ブライは、ルージェ村で武術教練の先生として、村の若者に剣術と弓術を教えていた。今は剣の型の稽古で、それぞれの型をゆっくりとしたペースで順に切り替えさせており、それらを真剣に彼は見ていた。


仕事だからというより、やるならとことん、それが彼の考え方だった。遊びでも仕事でも女でも、一つ決めたら全てを集中させるのが彼の性分である。それで失敗もしたし、人生を一つのことに突き進んできたかというとそうではない。もともと彼は剣の道でもなかった。


そんな性分だから、たとえ慣れない教練役だとしても、いや、だからこそ全力でやるのだ。どう伝えればちゃんと相手が咀嚼できるか、どう伝えると意欲が上がるのか、それとも下がるのか。教練の成功は各自がそれぞれちゃんと成長するかどうかだと彼は考えている。脱落者など作る気は毛頭なかった。脱落しそうなものがいれば全力でフォローした。食事でもいい、酒でもいい、肩をもんでもいい、教える側だから偉そうにするとかそういう先入観は捨てて、全力で個人の成長だけを見つめていた。


だから、彼は皆の一挙手一投足を見極め、それぞれにあわせて指摘し、ときに称賛する。


ここ数週間ではあるが、教えてみて感じたことは、ことのほかどこの修練場の教え方もでたらめだったなということだった。視点が変わればこうも見え方が変わるとは思っておらず、面白い発見ができたと感じていた。


彼は、根性論でもなく、感覚肌でもなく、理を追求した剣の達人だった。そしてそれを、他の事にも応用して考え、実践する。


例えば「今の動きは良かった」と成果を褒めても、なかなか成長にはつながらない。成長させたいなら、どういう動きにどうもっていけてよかったのか、過程に焦点を当ててやっとどうやら得心してもらえるらしい。もちろん、成果を褒めれば、喜ばれはするし一時の気分の高揚はやる気につながる、だが、どうやら成長には遠いらしい。


それは、魚が取れてよかったね、で喜ぶのに似ている。でも、そうじゃない。どういうふうに頑張ったから、どうやったから魚が取れるにいたったか、教える側はそこを見て、提示することが肝要らしい。


声を張り上げて叱咤すればいいというのも違うようだった。あれは、言ってしまえば、もともとできる人間を見つける方法に近い。できない人間ほど、強く叱責すれば、できない分だけ辛くなり、根を上げ、結果的に、できる人間が残るのではないかと思われる。つまり、誰も取りこぼさないようにと考えるなら、その方法は違うし、そもそも、できる人間なら、彼は見ればわかると思っているのでそんなふるいにかける必要はない。彼は、できない人間をできるようにいかにするかを任されているととらえていた。


そんな感じで、どんなことにもやると決めたら熱が入ってしまう彼は、この村を出立する機を逸してしまっていた。


稽古が終わると彼は、魔獣が倒されたという場所で一息つく。彼は気づいていた、噂されてるほど大きな魔獣ではないということに。それでも、一人で倒せるような魔獣ではない。


幾人かの村人に尋ねたが、確かに魔獣を倒した剣士はいたのだという。だが、その男はどうやらガルダンとは名乗っていないらしい。たまたま、噂に近しい現象が起こった論拠のある村があったことで、本当の村を見失ってしまっているのだろうか。そうした思いもあるが、この村の魔獣を倒した剣士にも興味がわいていて、後ろ髪をひかれてしまった。そうこうしていると、稽古が興に乗ってしまい、中途半端にはやめられないなと至っている。


この村は、大剣豪ガルダンの話で、リーディア商業連合国の国の調査隊や、彼と似た腕自慢の冒険者がそこそこやっては来たが、残ったのは彼と国の調査員一名だけだった。


本来、今の情勢ならどこの場所でも魔獣が出現し、その依頼でどこに行っても冒険者は仕事に困らないはずだが、ここでは拍子抜けするほど仕事がない。そう、しばらく滞在しようにも、冒険者は仕事がないのである。それも不思議なほど。


もともと、村の防備や荒事をやっていた守護者という組織がいなくなったというのに、その荒事がここ一帯ではさっぱりない。その結果、冒険者はお金のあるうちに別の街に行くしかなかったのである。たまたま、剣士ブライは先生という仕事を得ていたが、そうでなければ立ち去るしかなかっただろう。


とはいえここの暮らしが悪いかというとそうでもない。なんでも、近くに妖精の里があるそうで、たびたびやってくる妖精の食材を使った料理が珍しく、また美味しいのである。


たまに村で見かけるが、短刀よりは大きいかどうかという背丈の種族で、見るのは初めてだった。エルフや小人ともまた違ったひょうきんな雰囲気があった。残念なことに、細々と暮らしているということらしくよそ者とはあまり関わってくれないようだ。リーディア商業連合国の調査隊は話はできたようだが、内容までは分からない。


ふと、村長のジョウツォが話しかけてきた。


「いつもありがとうございますブライさん」


「なに、任せてもらったのは俺にとってもいい経験になっている。報酬ももらっているしな」


「あなたに任せてよかったと思っていますよ」


「それはありがたいが、長くいすぎると俺の剣が鈍っちまいそうだ」


「それはそれで困りますね。まだまだ、いざというときはあなたを頼らせて欲しいです」


「そうかい」


ブライはどこともなく遠くを見てそう言った。


彼は思う、なんともここは奇妙に平和な村だと。


#


星庭神成(ほしにわ のあ)は一つの成長と一つのアイデアにより、ある実験を試したくてしょうがなくなっていた。


成長とは、同じ能力の重ね掛けである。これまでは、複数の能力、剣士と盗賊、のようなことはできたが、剣士と剣士にしてめっちゃ強い剣士、みたいなことはできなかったのだ。


それがこの度、二つまで重ねられるようになり、自由度がかなり広がった。ならば、その強さ、試してみたくなるのは研究者の性分か、それとも開発者の性分だろうか。


さらに、妖精を派遣する距離をうんと伸ばす手法を思いつき成功したのである。通常だと彼自身が、妖精派遣エリア五十キロメートルをもっているわけだ。こうしたものを広げる良い方法と言えば、電波の中継局、そう、ルーターなら中継の無線ルーターやハブといったように、エリアの延長をしてくれる妖精を作ればよいのだ。


派遣できるエリアがどっと広がったというより、とがった遠隔地への派遣もできるようになった、といったところだ。さて、これと、妖精さんの自動で魔獣探索してもらうのを組み合わせると周囲の危険な魔獣位置もいい感じに特定できそうなのである。


というわけで、強い妖精が作れたかもしれない、ぜひ力を試したいし、強そうな魔獣も見つけられた、なら、ぜひ試してみたいじゃないか。


そうして今見つけている最大級の魔獣にぶつけてみることにした。失敗しても問題はない。妖精が負けるだけだ。


作る妖精は、熟達の魔術師、熟達の魔術師、熟達の騎士、熟達の騎士の能力四つ、二つずつの重ね掛け。その姿をイメージし、彼は胸が高鳴った。さぁ、どんな結果になるだろうか。


戦闘は立体映像で投影してくれる妖精さんによって、家で立体大画面で見ることができる。実に素晴らしい。


そうして彼は全身全霊を込めた妖精を一体作り、それは目的の場所へと飛び去ったのである。

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