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転生版 歌姫公爵令嬢

作者: 音星楽

「オルフェ公爵家令嬢サリエラ、今、この場でお前との婚約を破棄する。そして、お前を国外追放とする」


ここは王宮のパーティ会場。貴族学園の創立記念日のパーティが行われている最中だ。婚約破棄宣言をしたのは、この国の王太子。その左手はピンク髪の男爵令嬢ピンキーの肩を抱いている。男爵令嬢ピンキーは露出度の高いドレスを着て、身体を王太子にぴったりと密着させている。


「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


私は、王太子の目を見て尋ねた。すると、王太子は勝ち誇った表情で言う。


「今更何を言っている。お前がピンキーに対して行った、数えきれないイジメに我慢がならないからだ。証拠も揃っている。言い逃れはできないぞ」


もちろん、私はそんなことはしていない。でも、私は内心の喜びを隠して返事を返す。


「承知いたしました。王太子殿下」


そして、完璧なカーテシーをする。それを見た王太子は満足げに何度も首を縦に振り、男爵令嬢ピンキーとそのとりまきたちは、勝ち誇ったように歌い、ダンスを踊る。それは露出度の高いドレスを着て大きく腰を振り、投げキッスをする煽情的なものだ。


王太子や貴族令息たちは、目をギラギラさせて、そのダンスを見ている。中には眉をひそめて視線をはずす貴族令息もいるが、その数は少ない。


私はパーティ会場を出ると、すぐに王宮内に与えられている自室に戻った。扉を開けると専属侍女のマリエが心配そうに出迎えてくれた。


「お早いお帰りですね、サリエラお嬢様。何かあったのですか?」


私は笑顔で答える。


「王太子殿下に婚約破棄を言い渡されて、国外追放の処分になったの。卒業記念パーティの時って予想していたけど、まあいいわ。こんな所から早くサヨナラしたいからね」


マリエもニッコリと笑顔になって返してくれた。


「それはよろしゅうございました。それで、これからどうなさいますか?」

「計画通りよ。ここを引き払って、まず公爵家のタウンハウスへ行くわ。この部屋の中の王太子殿下から頂いたドレスや宝飾品は残しておいて。私が持ってきた物の中から、ステージで使う衣装や宝飾品になりそうなものだけ持って行くわよ」

「承知しました。携帯魔法を使いますから、10分ほどお待ちください」


専属侍女マリエが準備をする間、私は窓から外を眺めていた。そして、これでやっとあの王太子から離れることができる、自分のやりたいこと自由にできる、と喜びをかみしめた。そして、どうしても歌いたくなって、万感の思いを込めて歌い出した。歌う曲は『喜びの歌』だ。


歌い終わって、私は前世の記憶がよみがえった日のことを思い出した。あれはお母様に連れられて、コンサートを聴きに行った日だった。演奏の途中でシンバルの大きな音が鳴り響いた時、頭が痛くなり、次々と前世の記憶が流れ込んできた。



前世、私は日本人だった。中学、高校で合唱部に所属して、高校卒業後はカラオケ店でアルバイトをしながら学校に通っていた。ある日、アルバイト帰りに歩道を歩いていたら、突っ込んできた車に跳ね飛ばされて死んだのだ。


気がつくと、そこは幻想的な白い空間だった。そこにいた女神様がおっしゃった。


「あなたを私の管理する世界に転生させます。何か欲しい能力やスキルはありますか?」


私は歌うのが好きだ。合唱部で活動していたから多くの合唱曲を知っている。アルバイトで働く店にカラオケ店を選んだくらいだから、昭和・平成・令和の日本の曲や外国の曲もたくさん知っている。私は女神様にお願いした。


「私の歌が人々の心に響くスキルと美しい歌声をください」

「わかりました。では、良い2度目の人生を送ってください」


こうして、私は公爵令嬢として転生した。




サリエラは幼い頃から歌が上手かった。変装の魔導具を使い、各地のコンクールに参加して、軒並み優勝していた。やがて魔音盤会社にスカウトされ、彼女の歌の魔音盤は飛ぶように売れて、大ヒット曲を連発し、歌姫と称えられるようになった。彼女の母親は、その稼ぎを商業ギルドのサリエラ名義の口座に預金していた。


サリエラの父、オルフェ公爵がお金に困っていたのではない。それどころか、領地には金や鉄の鉱山があり、土地は肥沃で農作物も多く生産されていた。そして、それらの販売のために設立した商会は、国でも1,2を争う大商会になっていた。


公爵家の、その豊かな財力に目をつけたのが王家だ。公爵家令嬢のサリエラと王太子を婚約させて、オルフェ公爵家を王太子の後ろ盾にしよう、としたのである。王家からの婚約申し込みをオルフェ公爵は断った。しかし、王家はしつこく、最後は王命を出して婚約を成立させた。それはサリエラ12才の時だった。


オルフェ公爵の不服そうな態度に不安を感じた王家は、サリエラに王宮に住むように命じた。サリエラが逃げないようにするためだ。サリエラは黙ってその通り、王宮に与えられた部屋に引っ越した。


そして、貴族学園に通いながらの厳しい王太子妃教育も必死でこなした。王太子妃としての話し方や振る舞いを身につけなければならなかった。国内の貴族家だけではなく、近隣諸国の貴族の家紋や領地の場所、話されている言語の習得も義務づけられた。それらは並大抵の苦労ではなかった。ただし、王太子との接触は極力避けて、必要最小限にした。


サリエラがそのような行動をしたのには、理由があった。真面目に王太子妃教育に取り組んだのは、王太子の虚言以外のサリエラの非を無くして、実家のオルフェ公爵家に迷惑をかけないためだ。具体的には、王家からの婚約解消の賠償金をしっかりともらうためだ。王太子との接触を極力避けたのは、王太子の人物、性格を知っていたからである。


王太子は思慮が浅く、無類の女好きであった。サリエラは、前世で王太子のような男を知っていた。その経験から、自分が距離を置けば、他の貴族令嬢にすり寄っていくだろう。そして、自分に愛想をつかして婚約破棄を言い出すだろうと予想したのだ。


サリエラは、計画通りの行動をする一方で、専属侍女マリエの協力を得て、たびたび王宮を抜け出して、変装の魔導具を使っての歌姫活動は続けていた。サリエラは、自分の歌を聴いて喜ぶ人たちの顔が見たかったからだ。



「お嬢様、準備が整いました。後はお嬢様の着替えだけです」


専属侍女マリエから声をかけられた私は、変装の魔導具をセットした。マリエに手伝ってもらって、パーティ用ドレスを脱いで装飾品を外す。そして、侍女服を着る。これで王宮脱出の準備完了だ。長い廊下をしずしずと歩き、偉そうな人が廊下の反対側から来たら、壁際に立ち、頭を深く下げる。そんなことを繰り返して王宮の外へ出て、門に辿り着いた。これまで歌姫活動のンサートに行くために、何回も繰り返してきた行動である。


門を警備している騎士が問う。


「待て、誰だ。そして何処へ行く」


答えるのはマリエの役目だ。


「オルフェ公爵家の侍女でございます。サリエラお嬢様の御用で公爵家へ参ります」

「よし、通れ」


私は、マリエに合わせて頭を下げる。こうして門を無事に通過できた。門から十分離れてからクスクス笑ってマリエに言った。


「どうして簡単に門を通過できるのかしら?」


マリエもニッコリして返す。


「これまでに何回も繰り返していて、もう顔なじみですから。いわゆる顔パスですよ」


5分ほど歩くと、公爵のタウンハウス近くに来た。私は変装の魔導具のスイッチを切る。門には警備の騎士が2人いた。


「「お帰りなさいませ、サリエラお嬢様」」

「ただいま。あなたにお願いがあるのだけど、いいかしら?」


騎士の1人に話しかけると、騎士は背筋を伸ばして答える。


「もちろんです。なんなりと申しつけください」

「執事長のレイモンドに伝えて。このタウンハウスに今いる使用人さんたち全員を、ダンスホールに集めるように。そして、あなたもダンスホールに行ってください」

「かしこまりました」


騎士はすぐに屋敷の玄関の方へ走り去った。残った騎士にも話しかける。


「いつもご苦労様。これからも頑張ってね」


騎士は胸に手のひらを当てて、返事をした。


「やさしいお言葉ありがとうございます。これからも励みます」


私は玄関へ歩きながら、マリエに話した。


「私は使用人さんたちに、お別れの挨拶をするわ。その間にあなたは、新しい暮らしに必要な物、ベッドやテーブル、イス、鏡台などを携帯魔法に入れておいて。もちろん、私の物だけではなく、あなた自身が必要な物もね」


「承知しました。私の携帯魔法は、このお屋敷の半分くらいの容量がありますから、必要な物すべてを入れておきます。食料や水はいかがしましょうか?」

「食料や水は、次にこの屋敷の転移陣を使って転移する、公爵領のカントリーハウスで準備すればいいわ」

「承知しました」


玄関に着くと、執事長のレイモンドが待っていた。


「お帰りなさいませ、サリエラお嬢様。使用人全員をダンスホールに集めています。何かあったのでしょうか?」

「詳しいことはダンスホールで話すわ。さあ、行きましょう」


ここでマリエと別れて、レイモンドとダンスホールに向かう。途中で私とマリエに必要な物は持って行くことを伝える。


ダンスホールには、たくさんの使用人さんたちが集まっていた。彼らに座ってもらってから話し出す。


「皆さん、お久しぶりです。皆さんには幼い頃からお世話になりました。ありがとうございました。先ほど王宮のパーティで、身に覚えないことを理由に、私は王太子殿下ら婚約破棄を宣言され、国外追放となりました」


ここで一旦話を区切る。使用人さんたちは、目を大きく開いたり、口をパクパクさせたりしている。私は話を続ける。


「安心してください。この国では女性も爵位を継げますから、公爵家は妹が次期当主となります。妹には婚約者がいますから、王家に婚約を迫られることはありません。皆さんは安心して、これまで通りこのお屋敷で働いてください。私はマリエと一緒に隣国へ行きます。ちゃんと生活できる自信があります。心配には及びません。では、最後に皆さんに1曲送ります。お聴きください」



私は惜別の情と感謝を込めて『感謝とお別れの歌』を歌う。歌っているうちに涙が流れ出て来た。使用人さんたちも目を潤ませたり、涙を流したり、うつむいていたりしている。


歌い終わった私は、たくさんの人たちに見送られて、マリエ1人だけをお供にオルフェ公爵領のカントリーハウスへと転移した。



サリエラが公爵領に転移してから1時間後、パーティが終わった王太子は、王妃陛下の部屋にいた。


「王妃陛下、オルフェ公爵家令嬢サリエラとの婚約を破棄して、国外追放処分にしました。そして、男爵令嬢ピンキーと婚約したいと思います」


それを聞いた王妃陛下は驚き、顔色は青くなり、次に真っ赤になった。そして、控えていた側近に命じる。


「すぐにサリエラをここに連れてきなさい」


そして、王太子に告げた、いや王太子を怒鳴りつけた。


「婚約は王家と公爵家が結んだもの。あなたに婚約破棄することはできない。この国の中で王太子妃、王妃になれる貴族令嬢はオルフェ公爵家令嬢サリエラ以外にはいない。男爵令嬢ピンキーが王太子妃、王妃になったら、この国は滅んでしまうわ。あなたは自室で謹慎していなさい」


王妃陛下の怒りに王太子はブルブル震え、退出する。その時、サリエラを連れて来るよう命じられた側近が帰ってきて報告した。


「サリエラ様は自室にいらっしゃいませんでした」


王妃陛下の顔色は再び青くなり命じた。


「探しなさい。王宮内すべての場所を探しなさい。見つからなかったら国中を捜しなさい。なんとしても、サリエラを探し出すのです」


しかし、どんなに探してもサリエラを探し出すことはできなかった。


お読みいただきありがとうございます。

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