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歴史的瞬間

作者: 雉白書屋

「やーやーどうもどうも、みなさん。

記念すべきこの日にお集まりくださり、どうもありがとう」


 快晴の空の下、博士が一歩前に進み出てそう言うと

観衆の声は一層大きなものとなった。

 その理由、博士のうしろにあるもの。タイムマシンである。

そう、ついに世界初、タイムマシンの完成発表、そのお披露目の時というわけである。

 博士は鼻をプクッと膨らませ、笑顔でシャッターと歓声を浴びた。

ファンファーレとダンス隊が踊る踊る。

 この博士。元々、その知と功績から歴史上の世界の天才たちと

肩を並べると称されるほどの人物である。かかる期待も注目も大きい。

すでに何年も前から公開実験を行っていたから実は嘘でしたなんてオチもない。

集まった報道陣や国の役人、企業、各界の大物も空振りの心配はないわけである。

 博士に媚びへつらい、是非ともご贔屓にといったところ。

 とは言え今日、タイムマシンに乗せて貰えるわけないことは全員わかっている。

 タイムマシンは一人乗り。

膝を曲げて座り、足を伸ばすことはおろか立ち上がることもできない。

 だが、それが何だという話である。いずれは大人数。

もっと手軽に過去や未来を行き来できるようになるであろう。

これはその第一歩。その場に立ち会うことができたことだけでも誉れというものだ。

 博士もそれをわかっているから遠慮はしない。

そう、タイムトラベル第一号は開発者である自分。これぞ特権。揺るがない。

行き先は過去。それも歴史上でも他にない大きな出来事があった場が良い。

写真に収め、戻ってくるのだ。

 未来に行くことも考えたが、どうなっているかわからないだけあって危険が大きい。

着いた先がビルの壁の中という事も有り得る。

あるいは荒廃した世界。力だけが物を言うなんてことも。

 過去ならば地形や状態が分かっていることに加え

服装さえ気をつけていれば溶け込める上に

いざという時はスタンガン等、現代の武器で簡単に制圧できる。

 尤も、そのいざは避けたいところ。

この先、タイムトラベルのルールを細かく制定する必要がある。

第一条は『過去を変えてはならない』だろう。サッと見てサッと帰る。

自分がまずその手本となる。博士はそう考えていた。

そう、取り巻く群衆に紛れ……紛れ……。


「博士、あの、博士?」


「あ、うん?」


「ささ、ぜひ、マイクの前に立ち、お話を」


「ああ、うん」


 博士は司会の男に促されマイクの前に立ち、とうとうと語り始めた。

 

 タイムマシンの仕組みの説明や苦労話、そして有名人のスピーチや

音楽隊の演奏などを終え、いよいよその瞬間が訪れた。

 タイムマシンに乗り込んだ博士が扉を閉めると一同黙り、唾を呑んだ。

時折、シャッターの音と光が飛んだが、それもタイムマシンの起動によって掻き消えた。

波打つような光がタイムマシンを包み込む。

おおおっ! と上がる声。手に汗握る。笑みが浮かぶ。いよいよだ。

光は一段と激しく、そしてタイムマシンは……


 爆発した。


 博士は吹き飛ばされ、ズザザザと背を地面で擦った。朦朧とする意識の中

青空に向かって立ち昇る黒煙と回転しながら舞い落ちるタイムマシンの破片を見た。

自分の肌を食らい続ける火の音を聞いた。悲鳴と慌ただしい足音を体で感じ取った。

 皆、訳がわからぬまま、とにかくその場から離れようとしているのだろう。

パニック。原始的な反応だ。しかし……。


 博士は首を動かし、辺りを見た。

 先程気になった、観衆の一角。やはりだ。あの集団。

他の観衆とはどこか違った笑みを浮かべていた彼ら。そうだ、あれには既視感があった。

 花火大会の観客、あるいは仕掛けた悪戯に

対象が引っ掛かる瞬間を待っているようなあの笑み。

 そうだ、どうなるか、何が起きるか知っていたような、あの顔。


 これは……そうか。


 混乱の中、腕時計のような装置を弄り

スゥーと姿を消していく一団を見て博士は確信した。

 これも歴史に残る事件の一つというわけだ。

タイムマシンの、その礎となる大きな一歩の……。

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