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短編

電子の海に火を放つ

作者: 牧田紗矢乃

 インフルエンサー仲間の一人が炎上した。

 毎日コツコツと動画を編集したりSNSを更新したりと努力を重ねてきて、それがようやく世間にも認知され始めた矢先の出来事だった。

 炎上の原因は、数ヶ月前に彼女がSNSへ投稿した些細なひとことだ。


“すし放題のお寿司はやっぱり美味しいな”


 大人気のチェーン回転寿司店の店内で、一貫の寿司を頬張りながら幸せそうな笑みを浮かべる彼女の写真と共に投稿された文章。

 その言葉尻を捕らえて揶揄する者が現れたのだ。


“すし放題の寿司「は」ってことは他のお店の寿司は美味しくないって言ってるんですか?

 それは失礼だと思います!”


 お門違いなそのコメントをきっかけに、擁護派と否定派の小さな言い争いが勃発した。

 取るに足らないほど小さな火種はインフルエンサーとして注目され始めた彼女にとって日常茶飯事の些細なもので、特に気にも留めることはなかったという。


 事態が動いたのは彼女よりも認知度が高くゴシップネタを主に扱っている人物がそのボヤ騒ぎに目を付けた瞬間だった。


“人気の女性インフルエンサーさん、「すし放題以外の寿司はまずい」と発言!?”


 そんな文言と共に投稿されたのは、彼女の投稿と、それに対する否定派の中でも過激なことを書いているコメントのスクリーンショット。

 それを見た人たちの中でも賛否両論が巻き起こり、気が付くと炎はもう彼女の手には負えない大きさとなって襲い掛かってきていた。


 炎上に気付いた彼女は必死の弁明に回ったが、時すでに遅し。

 何を書いても炎上してしまう状態だった。


 私を含め、これまで仲良くしていたインフルエンサー仲間たちはその炎が自分のところにまで燃え広がってくることを恐れ、彼女の身に起きた惨状をただ見守ることしかできなかった。

 中には彼女のSNSをブロックすることで無関係をアピールしようとした人までいたらしいと後日になって聞いた。


 結局、三日三晩の業火に焼かれた彼女のSNSは焼け落ち、真っ黒なアイコンになって“事の重大さを(かんが)み、無期限で活動を休止します”というひとことを残して姿を消した。

 噂では、精神を病んで入退院を繰り返しているらしい。


 炎を煽ってさらに燃え上がる様子を楽しみながら見ていた人々は、あっという間に彼女のことを忘れた。

 そしてまた新しい火種を求めて今日も不毛な言い争いを続けている。


 需要に応えるべく私は今日もフォロー中のインフルエンサー仲間を吟味する。


「誰かいい火種を持ってないかしら?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。タイトルとか終わり方 いつも切り口斬新ですね。
[良い点] ネットの世界にも炎上という言葉がありますが、 こういう「放火魔」は実際にいそうなのが恐ろしいですね。
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