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5.

 初めて柴田さんと出会った時の第一印象は“気の強い後輩”、(しか)し今は違う。

出っ歯とガンギマった垂れ目を備え付けたウェルダン焼きの化け物、『ロスジェネの逆襲』の読みすぎて自身をエリートマンだと信じてやまない昼行灯、白痴さえ“理解に苦しい”と言い切れる癇癪野郎───これ以上話せば反社会的な目でみられるだろう、とにかく即座に思い付く侮蔑があれば直ぐ様吐き捨てたい程僕は彼を憎んでいたし、既に軋轢(あつれき)な状態であった。

然し、苛々していても事が始まらないのは知っているので僕は彼を自ら我に帰る事を期待していた。けれど、どうもそうはいかないらしい。

 照合を一段落終わらせると次はPCで照合に当てはまらなかった本の確認をする。

照合表に書いてあるタイトルとPCでの表示が異なったり、照合表での表記に焉馬(えんば)がないか再度確認するためである。

誤字の例を挙げるならば、ゲーテの『狐のライネケ』という本のタイトルを何やら響きだけで打ち込んだらしく『狐のライスケ』と入力していたのがある。正直、僕は狐が大好きだった上に面白い間違え方だった為今でもしっかり覚えている。

大まかな流れは、入荷した順に振られる“図書番号”、その次に本のジャンルごとに仕分けされる“分類番号”、そして本のタイトル、最後は著者名の順に調べる。

エクセルは便利だ、やり方や裏技さえ覚えとけば新本の入力は勿論のこと、データの整頓や検索も簡単に出来て(こころよ)はかどれる。僕はこの作業を含め是非とも引き継ぎたいと思い有りと所在あらゆるスキルを教えた。

柴田が機械音痴なのは承知の上だが、“図書係員”としては重要な工程である為杜撰な事は起きてはならない。

少しでも間違った操作をしてしまうと表が大いに崩れたり消失したりしてデータとしての機能が失ってしまう。そうなったら図書係一同は勿論、図書委員会や図書コーナーの利用客に大打撃を食らう。

ある日、いつも通り事務室に入りPC作業に取り組もうとした。

併し、エクセルを開いて僕は吃驚びっくりした。何故か欄の名前が変わってたり、半角で打つ筈のところを全角で入力されてたりと全体的に余計な事をされてレイアウトが滅茶苦茶になっていた。

僕は柴田に問い詰めた。


小泉:柴田さん、これはどういう事だ。

柴田:何って、やり易いように変更しただけですよ?

小泉:では、何故こんなに崩れてんだ。

柴田:仕方ないですよ、分かりますよね僕が機械に弱いことを。それを教えるのが先輩の役目ですよね?僕はただ引き継ぎやすいように試行錯誤しただけです。

小泉:…顧問には許可を得たか。

柴田:許可を得るも、少し整理しようとしただけですよ?

小泉:…そうか、このデータに関しては僕がやります。だから、データの仕様を変えたい時は先輩か顧問の先生に通してからやってくれ。


───しかし、あまりに乱雑な有り様で元に戻るのに苦労した上に、柴田は無鉄砲な性格な故に(また)無断で工程を改変する為、それ以降は2年生のみでの図書データの使用を禁じた。

正直、こんな決断はしたくなかった。

2年生にもデータ管理のスキルを身に付けてほしく指導したかった。

けれど、柴田の無鉄砲むてっぽうさがあまりに酷かった為、む無かった。

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