3.
柴田の父親は、自衛官である。その為、凛とした情熱家の持ち主である。
僕は最初は、彼に技術のスキルを受け継ぐのは吝かではないと思い優しく且つ易しく指導した。勿論、百崎さんも事務室の維持を保つべく同じく指導した。
併し、ある出来事を機に僕は柴田を戦くようになってしまった。
事務室には印刷機が一台設置している。
内部外部問わず依頼してきた内容に応じて印刷物を生産している訳なのだが、多忙な時は印刷機の取り合いになることは数ある。
そんな時、本来は教師のみが利用する4階の“印刷室”を許可を得て使用している。急用の場なので稍狭隘であるが機械を扱う者にとってはどうと思わない。
その日も後輩3人を連れて印刷室で作業していた。
僕1人で指導するのはこれが初めてだったので、いつも以上に緊張していた。
小泉:今回は指示書に書いてある通り、A4の片面印刷を150部刷るんだ。やり方は事務室の印刷機と同じだ。
僕は一緒に作業しつつ、後輩の手際さと態度を観察していた。何せ、人によって適切な指導の仕方が異なるので僕は注意深く一瞥していた。
柴田:畜生、製版ミスしてしまったぁ!!
…柴田は機械の操作が苦手だった。なので分かりやすく説明する必要がある。
小泉:落ち着いてください、まぁ初めての操作なので仕方ないです。先ず、製版する紙は印刷したい面をガラス面に向けて置きます。そして枠のガイドと紙の位置を合わせて用紙と同じ向きに置きます。後は製版と試運転で異常が無いことを確認して印刷します。
柴田:ありがとうございます。
…ここまでなら良かった。
何せ、操作をしながら説明したので一層分かってくれた。
小泉:いえ、君にも一人前にさせたいからさ。
柴田:そうですね…僕は機械音痴なので面倒に思っちゃいますよね。
小泉:大丈夫ですよ、僕も口下手で本当に説明できるか心配でしたし…。
柴田:なに弱音吐いてんですか?
小泉:いや、それは…。
柴田:弱いところ見せたら僕たち不安になりますよ??
小泉:…。
その瞬間、僕は噤んだ。
良かれと思った事を全否定され、どう対処すればいいか必死に考えていた。
だけど、“思い付かない。”
“切り出せない。”
“どうしよう。”
“僕はどうすれば良かったのか。”
…そんな事を脳内で探っていく内に、僕は流涕した。
切羽詰まった涙が不意に流れてきて、僕は部屋を出て真っ先に御手洗いへ走った。
そして狭隘な個室で肩を震わせて泣いた。
“何故だ、何故なんだ。”
“僕はどうすれば良かったんだ”
“何故僕は泣いているのだろう”
僕は暫く籠っていた。
───これが最初に植え付けられたトラウマである。
僕と柴田は同じ図書委員である。
本来なら僕は図書委員長になる心算だったが、柴田が真っ先に副委員長を勤める事になった為なくなく断念した。
今を思えば、勇気を出して挙手をすればこの図書委員会は平凡な侭になっていただろう…と後悔している。




