9.
文化祭の話に戻す。
少し触れた通り、柴田の身勝手な言動により僕は予期せぬトラブルを受け続ける羽目になった。
景品の一つである栞の作成は図書業務を終えた隙間時間でやっていたのだが、柴田の無茶な提案が原因で手軽に行える筈の作業が出来なくなった。
先ず栞の型を取るのだが、縦は127mm・横は65mmというサイズを定規とカッターナイフで切り取らないといけなかった。当然、柴田が勝手に定められたものだ。
正確性を求められおり少しの歪も許されず、見つけ次第で即ボツにされ延々と切り続けられた。
始めは「定規にあてて切れば上手くいく」と思っていた。
然しそれは厚いフラットファイルの表紙での話で、色画用紙の場合は全く話が違う。
繊維があり薄い色画用紙で作るとなると、先ずカッターナイフとの相性が断じて悪い。
使う紙が薄い為、刃の入り具合が良くなく安定せずズレやすく真っ直ぐ切りにくかった。
そして一度に切ろうとすると色画用紙の繊維が絡まり刃先に皺が溜まる。そして時にそれが元で破れる。なので同じ箇所を何度も切りつける必要がある。
フラットファイルの表紙と比べ難点が多すぎて文句を言おうとしたが、既に山積みの量まで出来てしまった為引き返す事は不可能だった。
なので僕は綺麗に仕上がった栞に絵を描く事になった。何せ汗と涙で切り取った紙切れだから。
だが、あまりに生産性が悪く勝手に工程を変えていたこともあり最終的に顧問の先生から急遽中止命令が下された。
今まで切っていた栞も、必死になって描いた絵の入った栞も、全てお払い箱になった。
栞だけじゃ物足りないと柴田が次に提案した景品は、折り紙だった。
釣りゲームで渡すもので、一同はパクパクや騙し舟などを折っていた。
僕も色々折って作っていたが、集まった折り紙達を見て皆して一つ無いものに気付いた。
─────折り鶴だ。
僕はそうだと分かった途端、早速取りかかろうとしたが何故か周りの人は一向に折り鶴を折ろうともしなかった。
それもその筈だ、2・3年生の事務員20人で折り鶴を正しく折れたのは僕1人だけだった。
僕は困惑したものの、1人ではどうにもならないので折り方を教えながら人数を増やす事にした。
一方、仕切りたがりの柴田は簡単な物しか作れず、仮に教育をしようと思えど彼だ此だ指図されるのを目に見えてる為僕はシカトした。
そして、最後に10周年祝いとして頼まれていた学園メモの表紙についてだ。
僕は多年使用できるように、在り来り乍ら個性的で洒落を効かせたイラストを肝脳絞って描いた。
具体的に何を描画したか?─────簡潔に説明しよう。
・三角形で構成した幾何学の花5輪のイラスト、このイラストは栞にも描いている。
・学園で使用している教育用ノートパソコンを2台据えたイラスト(内1台はディスプレイに校章が映っている)。
・動物4疋(狐、狼、狸、利加狼)が学園名が散佚に書かれた看板を持ち構え並んでいるイラスト(余談だが、このイラストを仕上げる為に補欠として利加狼を一から生み出した)。
・2人でババ抜きをしているシーンを自分視点で描かれたイラスト、自分の手札の右下に描かれてる数字の羅列を良く見るとローマ字で学園名になっている仕掛けを隠している。
・セロハンテープで学園の名前を作ってるイラスト、これはロジスティクスだからという軽い発想で描いた。
───他にももう3枚イラストを手掛けたが、何を描いたが遥か以前の話なので覚えてない。
と、ここまで描いたイラストの詳細を述べたが…結論から言えば公に出ない侭お蔵入りにされた。
何故だと思うが僕もそうだ。遅筆であり乍ら8枚も描いたのに1枚も採用されず誰も目に触れない侭闇に葬る等、嗜虐の悪魔が行う所業だと強く感じた。
でも理由は単純だ、後輩たちに振り回され倦ねに倦ねた所為で忘れ去られたからだ。
気付いた時には既に文化祭は終わり、学園メモは充分に納品されてる為、断腸の思いで事務デスクの抽斗に封印された侭になった。
僕は頓挫され落胆した。
恰も『ごんぎつね』を読み終えたかの様な、心に創痍付けられたと思うほど酷く悲痛した。
暫時、その事で業務中も引き摺っていた。




