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「何てことだ!
やはり私が戦うしかないのか…」
神崎 岬は部隊がテロリストの罠に落ちるのを見、嘆いた。同時に少しでも彼らが助けてくれるのを期待した自分を恥じた。
忘れてはいけないのは、ここが創作世界だということだ。現実世界ならああいった部隊に全てを任せるべきだが。
「映画だとああいうのは全滅する。この世界でもそうなのか…!」
岬はグロック26を握りしめ1階の守衛室まで移動した。アカリ・キャンベル・ヘビィウェイトを撃退したとて、そのまま人質、いや友人のいる補習教室に突入する程、岬は無鉄砲ではないつもりだ。
「鉄砲なら持ってる」
守衛室では学校中の防犯カメラの映像をモニターで見れるのは生徒である岬でも知っていた。
守衛室へと向かい岬ではあったが言うまでもなく何らかのトラップを予想していた。
「…これはッ!」
果たして岬が目撃したのは台風対策のように木の板を釘で打ちつけて閉鎖されたドアだった。これでは開けることなど出来ない。しかしここで諦めたら終わりだ。
1度、外へ出て校庭の物置きへ。そこからバールを持って来て岬は木の板を外しにかかる。
「誰だ?」
守衛室の中から警備員のジョンが何事かと声をかけた。
「私はテロリストではない!今、出してやるからな」
そして障害物を取り除いた岬は守衛室のドアを蹴り開けた。
「助かった。これで逃げられる。
奴らグロックも持ってない警備員のおれを閉じ込めやがった。
グロックも持ってないのにどうやって戦えるか聞いてやりたいが逃げるのが先だ」
ジョンは車のキーをポケットから出した。
「何っ!
ガードマンがグロックを持ってないだと…!」
岬は驚きのあまり目を一杯に見開いた。
「そうだ。頭の出来が悪くてグロックを持たせてくれないんだ。
アンタは逃げられたらお勉強を頑張るんだな。おれのようにならないようにな。
おれは帰ったら防犯カメラのモニターを見るだけの仕事に戻るつもりだ」
岬は、この年齢の人間はエネルギーであふれている。それがこんな負け犬のようなセリフを聞かされて何も感じない訳がなかった。
「ガードマンが戦わないでどうする!?貴様が守るべき私の友人は今もテロリストの奴らの監視下にあるんだ!」
そして岬はモニターにテロリストが仕掛けた機械に気付いた。そこからアンテナが伸びていたからモニターの映像をテロリストが持っているパソコンか何かに送るものだと分かった。
それをこの警備員は放置していた。
その怒りをグロックの弾丸に乗せて機械を撃ち抜いた。
「こんなもの!」
機械はバラバラに砕けた。ケーブルを抜けば良いだけだったが岬は熱くなっていた。
「何するんだ?テロリストがこっちに戻って来るだろ」
「敵はまだ残っている!
貴様はガードマンになったその瞬間から市民の安全を脅かす輩と戦う決意をしたんじゃないのか!?」
ジョンは別にそんな決意はしてないし、やる気も沸かなかった。だが口は上手い。
「お嬢さんの言う通りだ。
だけどおれが本当に守るべきものは家で待っている家族だ。テロリストとは戦えない。
そこで間をとって車をいつでも発進できるようにしておく。それで良いな?」
要するにジョンは隙を見て逃げるつもりだったが岬は汚い大人を見たことがなかった。
「そうか。無茶を言って済まなかった。そうしてもらえると助かる。
私は何としても友人を連れて来るから、それまで待っていてくれ」
岬はジョンと固い握手を交わし、その手でグロックを握りしめた。
そして作戦を立てるべくモニターで校内の様子を確認した。