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2話

雨空雫の朝は遅い。幻想島の学習カリキュラムは選択式だ。故に、時間割の調節を行いやすい。雫は現在高校2年生。1年生の時に先取りで無理やり授業を取っていた雫は、午前中の授業をすべてカットしていた。


この島には大きく分けて5個の教育機関が存在する。それぞれに小学校から大学までが存在し、一般教養はもちろんのこと魔術の知識やそれ以外の知識も学ぶことができる総合教育機関だ。ただ、それぞれに特徴はあり一般教養に力を入れている『叡相学園』、魔術の研究に力を入れている『神聖学園』、魔術の扱いに力を入れている『青海学園』、すべてを満遍なく行うことを重視した『未来学院』、そして研究と魔術の使用に重きを置いた『ロキ・アカデミー』以上の5つがこの島に存在する教育機関だ。雫は未来学院に籍を置いている学生である。


日の光は目覚めの眼球にひどく沁みて、カーテンを開けた雫は涙目になるぼやけた視界の中に天を衝く火柱を見た。


「え?朝から決闘してるの?」


現在の時刻は11時、朝というには微妙な時間ではあるがそこは関係がない。問題は、火柱と爆音が未だに雫の視界と耳を驚かせていることだった。


決闘は基本的に放課後にしか許可されておらず、休日以外の決闘はそもそも推奨されていない。まあ、ルールとして守られているのは片方だけである。その片方もこうして破られたわけだが。


「あれ、学院の方角だね。自治委員会の胃が壊れそうだな~」


他人事のように一言。雫はキッチンの方へ向かいトースターを焼き、冷蔵庫からジャムを取り出す。


顔を洗って、トースターから飛び出たパンを取り出すとジャムを乗せて口に放り込んだ。


テレビをつける直前で着信。スマホを見るとそこには《明立》の文字があった。


「もしもし、こんな朝から何の用?」


「せ、先輩!もう無理です!助けてください!!!!!」


電話越しに聞こえてくる爆音と怒声に状況を教えられる。


「誰と誰が決闘しているんだい?件の転校生かな?」


午前中の決闘は禁止。このルールを知らないのは島の外の人間だけなので、今日転校してくる学生4人の内、誰かが犯人だと予測した。


転校生は全部で7人。うち島の外から来たのは3人。未来学院に転校してきたのは4人。島の外にいた転校生が二人もこちらに来たことに驚愕しつつ、状況を把握する。


「あの転校生たち、おかしいですよぉ~。強すぎます!びっくりです!危ないです」


「明立ちゃん以外の自治委員はいないのかい?」


「いますけど、出張で委員長とシャーロットは学院の外なんですぅ」


泣き顔で叫んでいる彼女を想像しながら、階段を上り屋上に向かう雫は最後の疑問を呈した。


「委員会以外の生徒に助力を乞えばいいんじゃないかな?魔術の無断使用は推奨されていないけど、今回みたいな状況では使うべきだと思うけど」


「そんなことしたら私たち自治委員会のメンツが丸つぶれですよぉ~!っていうか、これって先輩の掌だったりしませんよねぇ!」


「アハハハハハ。そんなわけないだろう?私は魔術師だけど別に神様ってわけじゃない。五芒星の中じゃ、一番の凡人さ」


「嘘だ………凡人は島の一角を消し飛ばしたりしないです」


雫は泣き言をいう後輩にため息をこぼしながら、屋上から決闘を止めるために人差し指を伸ばす。


「後始末は君がするんだよ。私はしないから」


「え………?」


「一門開放——————【狙撃爆弾スナイプ・シングル・グレネード】」


指先に浮かんだ幾何学模様の魔術式が収束し、光の弾丸となって放たれる。着弾と同時に爆風が辺りに吹き荒れる。


「「「ぎゃあああああああああああああ」」」


「ナイススナイプ!流石私ッ!」


おそらく半径10メートルは消し飛んだであろうが、雫は気にしない。魔術師なら死にはしないからだ。よっぽど弱くなければ。


「さて、今日は休校だろうし部屋の掃除しよ」











講義室より少し狭い執務室。その部屋には現在4人の人間がいた。一人は港で、テロリストの戦闘に巻き込まれた少年、槙原十六夜。一人は、竜胆音々。青い髪を結い上げ、首には白と青を基調としたヘッドホンを掛けてている少女である。


残り二人は、制服に身を包んだ明立という学生と不敵な笑みを浮かべる老人だ。


「それで?いったいどういう了見で決闘なんてしたのか教えてくれないかなぁ?」


「「喧嘩を吹っかけてきたので、つい」」


「ついじゃなぁぁぁぁぁい!!!!!!!!!!!!!!」


明立の怒号が執務室に響いた。それを見て横の老人が爆笑している。十六夜と音々は申し訳なさそうな顔をしているが、お互いに対する嫌悪感は消えていないようで険悪な雰囲気を醸し出している。


「フォホホホホ!この島ではな?放課後以降の決闘以外は原則禁止なんじゃ。本来であれば、罰則もあり得るほどにのぉ」


「今回は先輩が鎮圧してくれましたが、一般の生徒に被害が出れば処罰をせざるを得ませんでした。………あたりを吹っ飛ばした先輩を処罰したいですけど」


処罰という単語を聞いて、二人は顔をしかめるが明立のセリフを聞いて安堵したように脱力を見せた。


「あの馬鹿げた魔術を使ったのはその先輩ってやつ?」


「はい、そうですねぇ。五芒星の一星、我らの女王、雨空雫先輩。あの人の魔術です」


「………五芒星」


「一応、この島のおさらいをしておきましょうか。この島に存在する決闘と研究システム。そして、序列システム。決闘と研究の実績により順位が決定し、上位2000番以内から何かしらの報酬が望めます。順位は高ければ高いほど、報酬が高くなりそのトップが五芒星、上位5人の学生です。彼らはこの島の管理者とほぼ同等の権利を有します。ちなみに、この学院の平均順位は2000です。結構すごいんですよぉ」


「五芒星になるにはどうしたらいいわけ?」


音々が問いかける。結構生意気だなぁと感じつつ、明立は必要最低限の情報をまとめて話す。


「方法は二種類。一つは順当に序列を上げて、6位になること。そこから、上層部に申請を出して通れば五芒星になれますね。もう一つは、決闘祭で優勝すること」


「決闘祭?」


「はい。毎年10月に開催されるお祭りですよぉ。島中の学生が参加し、覇を競い合うんですぅ!ここで優勝した学生は五芒星に挑む権利を与えられます。見事、五芒星を打ち負かした者は、五芒星に入れ替わる形で入れるんですねー」


「なるほど」


音々は納得した様に頷いて見せた。


「研究で成り上がるのが前者で、力で成り上がるのが後者ってわけね?」


「そうですねぇ。理解が早くて助かりますぅ」


「決闘祭は毎年激闘でのぉ。死者が出る時もあるから、出たくないのであれば出ない方がよいぞ?」


実感のこもった言葉を受けて、二人は僅かに体を揺らした。


「それに五芒星に挑むのはお勧めしませんよぉ?優勝を狙うのは結構ですが、あの人たちは文字通り格が違いますからねぇー。格上に挑むときは減少ポイントはかなり少なくなりますけど、死んだら意味がないですし」


その言葉を聞いて音々は疑問を言語化する。同時に十六夜も同様に疑問を投げかける。


「「明立先輩は何位なんですか(なわけ)?」」


血の気の多い後輩たちにため息をこぼすと、明立はない胸を張ってどや顔で言い放つ。低身長の明立がやるとまるで小学生のように見える。


「私?私の順位は480位。この学院だと上位30%に入りますよぉ」


「「ふーん」」


「何で興味なさげなんですか!?聞いてきたの貴方達ですよね?」


明立の嘆きをスルーして、十六夜は流れるように質問をする。明立は半分泣きそうになりながら、説明を始める。


「今の五芒星はどうやって決まったんですか?」


「………一人は6位からの上伸で。三人は決闘祭で。あの人は、まあ色々ぶっ飛んだことをやって、最終的には五芒星全員を決闘で倒してなりましたね」


二人はその言葉に反応する。しかし、明立は慌てた様子で付け加える。まるで言ってはならないことを言ってしまったかのように。


「で、でもですよ!?あれは例外中の例外です!先輩がどうやって五芒星への挑戦権を勝ち取ったのかは公表されていませんし、正攻法で目指さないと最悪消されかねませんよ!」


「—————その辺でよい。二人とも、詳しいこの島のルールはスマホで確認するとよい。儂はそろそろ定例会があるでな。今日のことは御咎めなしじゃから、教室に戻るのじゃ」


そう言って、老人は明立を含め十六夜たちを退出させた。外に出た十六夜たちは、一つ聞き忘れていたことを明立に問う。


「「あの老人誰ですか(なの)?」」












夜、散歩をしていると奇妙な男に出会った。淀んだ金髪に無精ひげを生やしたその男は、おそらく研究員だろう。白衣をまとっているからだ。


「よう、お嬢さん。いい夜だな?」


「今日曇ってるけど?」


「………俺はザックレイ。北東にある研究所で働いている研究員だ」


「私は、通りすがりの住人Aです」


こいつ意外とイケメンだ。僅かな月明かりに照らされたその顔はダンディなバーテンの様だ。


「そんな誤魔化ししなくてもあんたのことは知ってる。この島で知らない奴なんていないだろ?」


無駄に決め顔で話すザックレイに腹が立つ。


「…ザックレイ君。それで何の用なのかな?」


「ああ、その前に俺の話を聞いてくれ。俺には娘がいるんだが、反抗期らしくてな。なかなかいうことを聞いてくれないんだ。でも教育とはいえ娘に手を上げるなんて俺にはできなくて………家出したんだ」


「………え?君が家出したのかい?娘じゃなくて?」


驚愕の事実だ。親子げんかして親の方が家出するのか………。娘も戸惑っていいることだろう。


「ああ、色々耐え切れなくてな。そしたら、俺はこの罠に嵌まちまったんだ。だけど、このままじゃ俺は、娘に会えなくなっちまう!だから俺をここから助け出してくれ!」


確かに彼は罠にはまっていた。公園にある大木から宙吊りにされている。ご丁寧に手首も縛られているため、脱出できないのだろう。誰かが悪戯で仕掛けた罠に引っかかたというところだろうか。魔術師が決闘を行うこういった場所ではありえなくはない。


「………ちょっと待ってくれ。今どうするか考える」


「悩む要素ある!?」


「知らない人と話しちゃいけないって教えられたから」


「もう話してるからノーカンでしょ…」


「私みたいな子供に助けを求めて恥ずかしくないのかい?」


「プライドなんか持ってたら大人ってのは務まらないんだぜ?」


お前実はちょっと余裕だろ?何遠い目をしてるんだ?かっこよくないからな?お前今、宙吊りになってるんだぞ。何してもイケメン度が削がれてるぞ。


「なんかむかつくから放置していいかな?」


「理不尽!?いや、あのほんとお願いします」


「大人は信用できない」


「過去に何があったんだよ!?」


ため息を吐いて、風の魔術で縄を斬る。ただの縄ではなく、鋼鉄製のロープに見えたので強めに魔術を振るった。その余波で、ザックレイは吹っ飛んでいく。


「こ、殺す気か!」


「いや、この島の人間はこの程度じゃ死なないだろう?」


「俺は魔術の使えない一般人だぞ?」


「でも研究者でしょ?」


「研究者にどんな幻想を抱いているんだ…?」


おかしいな。俺の勧誘を任されている研究者は、拳銃で撃たれても俺の魔術で攻撃されてもピンピンしているんだけどなぁ。


「あ!やべえ!もうこんな時間か。明日も仕事なんだ、恩に着る!今度何か礼する」


そう言ってザックレイは俺の前から走り去っていったのだった。

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