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着ぐるみを脱いだら、うきうきさんと。(ボイスドラマ化進行中)

作者: ねこたぽんちょ


「皆さんこんにちはー!“うきうきさんのつくらないあそばない”今日もノンフィクション、ノンおふざけで楽しく、わかりやすくニュースをお伝えしていきます。助手はぁー、グルリ」


私は人気子供向けニュース番組“うきうきさんのつくらないあそばない”でうきうきさんこと浮島さんの助手、グルリとして着ぐるみ姿でテレビに出ている


「グルリだよー…キャッ」


やばっ、転んだ。どうしよう。


「大丈夫?」

「ご、ごめんなさい」(素が出てしまう)

「グルリ?」(目が笑ってない)

「あっ…ごめんごめん~。よいしょっと。ありがとう~」

「はい、それでは今日はまず消費税増税について……」


また浮島さんに迷惑かけちゃった。


「以上で本日の収録は終了となりまーす」

「お疲れ様ー」

「お疲れ様です」


浮島さん行っちゃう。さっきのこと謝らなくちゃ。



「あの、浮島さん」

「あ?」

「先ほどは申し訳ございませんでした」

「謝るんだったらあんなミスすんじゃねーよ。この番組は俺が視聴率とってんだ。グルリの中身なんて誰も気にしちゃいねぇ。お前の代わりなんかいくらでもいるんだよ。」

「……」

「やる気がねぇならやめちまえ。」


足早にスタジオを出ていく浮島さん。


また怒らせちゃった…何でいつもこうなんだろう。


落ち込みながら着替え、片づけを済ませる。


「はぁ…ん?」


ため息をついた直後、ポケットの中でスマフォが震えた。


「“俺はまだ打ち合わせが残ってるから、先に帰ってろ。気をつけてな”」

「……」


思わず笑みがこぼれる。


「“わかりました、ご飯作って待ってます”っと」


仕事場ではいつも怒られてばかりだけど、私とうきうきさんは…一緒に暮らしている。


「ただいま」

「おかえりなさい、浮島さん。ご飯出来てますよ」

「家にいるときは、敬語じゃなくていいって」

「あ、ごめんなさい」

「謝らなくていいよ」


優しく頭を撫でる手が心地いい。


仕事中の私たちしか知らない人には、こんなことになってるなんて想像もつかないんだろうな。いつもあんなに怒られてばかりの私と、厳しくて怒鳴ってばかりのうきうきさんが一緒に暮らしていて、その…恋人同士だなんて。



-×××××-


「この番組…つくらないあそばないへの出演が決まったとき、どうしたら視聴率がとれるか必死に考えた。子供たちからしたらつまらない、ニュースを伝えなくちゃならない。悩んで悩んで、ようやく生まれたのがうきうきさんというキャラクターだ。おどけているように見せて、すべて計算してる。楽しく、元気に、そして何よりもわかりやすく伝えなければならない。」


私がグルリとして番組に出始めて少し経った頃、浮島さんが話してくれた。


「この番組がこうして高視聴率を保っているのは、うきうきさんがうまくいったからだ。それでも、ニュース番組と銘打っている以上、どんなに頑張っても真面目で退屈な雰囲気を拭い切れないときもある。そんなときに必要なのが…グルリだ。」


浮島さんが仕事に厳しいのは、この番組を成功させたい、子供たちにニュースを毛嫌いしないで楽しく学んでほしいという思いが強いから。


「スタッフも真剣にやってる。全員が必死で番組をつくってる。だが、実際にテレビを通して何かを伝えることができるのはうきうきさんとグルリだけなんだ。どういうことだかわかるか?俺たちの言動に、プロデューサーやスタッフたち全員の生活がかかっているということだ。だから絶対に妥協はできない。」


そして、自分だけではなく、仲間たち全員を支えているということを常に念頭に入れているから。だからグルリのときの私がミスすれば怒鳴るし、厳しい言葉も浴びせてくる。でもそれは、浮島さんが番組や関係者たち、そして何よりも楽しみにしてくれている子供たちのことを心から大切に思っているということの表れであって、それがわかっているから、私だって凹みはするけど浮島さんのことを嫌いになるなんてことは絶対にない。



「そうだっつーのに、番組が始まってから、たった半年でグルリの中身はもう何人も代わってる。それでいい。グルリというキャラクターとして存在するために全力を尽くせない奴なんか、グルリでいる資格はないからな。」


あぁ、もうクビだって言われるのかな。


「どいつもこいつもヘラヘラヘコヘコしやがって、ちょっと俺が口出しゃすぐにやめていく。」

「あ、あのそれは」

「でも、お前は違うんだろ?」

「へ?」

「お前は必死にグルリでいようとしてる。まぁ、ミスも多いがな。」

「えっと」

「いいか、この一度しか言わないからしっかり聞いとけよ」

「は、はい」


「頑張れ、お前ならできる」


「…!!」


いつもの厳しいうきうきさんの中に、優しくてあたたかいうきうきさんを知った瞬間だった。



―×××××-


「はい、今日の晩御飯はハンバーグだよ」


「ありがとう。お前のハンバーグ、大好きなんだ」


うきうきさんのときとは違う、ふわっと柔らかく笑う顔。


「あっ、浮島さん、ソース」

「え?どこ?」

「ほら、ここ」


私しか知らない、ちょっぴり抜けたところ。



「今日みたいなミスはもうするなよ。番組中に素を見せるなんて、絶対にあってはならないことだ」

「はい」


いつもの仕事に真剣なうきうきさん。


あぁ…どんなうきうきさんも


「だいすき」

「ちょっ、いきなり何言ってんだよ」

「へっ!?私今、何言った?って、なに赤くなってるの?」

「う、うるせー」

「ふふっ、可愛い」

「あーもう、うるせーっていってんだろ」

「きゃっ!なにいきなり抱きしめ」

「俺のほうが、大好きだよ」

「…!」


着ぐるみを脱いだら、うきうきさんと。


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