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戦う背中の後押しを

 スタジアムに甲高い笛の音が鳴り響き、試合が始まった。私も改めて応援に気合いが入る。

 紫と黄緑のユニフォームを着ているフォレザン花峰の選手達は、芝生の真ん中に置かれたボールをいったん後ろに蹴り、ボールを受け取った選手が思い切り前へと蹴り出した。高く飛んだそのボールを追うように、フォレザン花峰の選手達は一斉に走る。しかしボールを足元に収めたのは、白いユニフォーム姿の相手選手だった。相手選手はフォレザン花峰の選手がボールを奪いに来ても、冷静に自分の味方にボールを送る。サッカーのことを全然知らない私でも、フォレザン花峰の選手達がなかなか相手からボールを奪えないということは分かった。

 姫さんも私も、ゴール裏の応援歌に合わせて手拍子で応援し続ける。姫さんは手拍子をしつつ、おそらく苦しいであろう戦況を締まった顔で見つめていた。

 その時だった。フォレザン花峰のゴールキーパー、笹岡朝基選手がいる寸前まで、相手選手がボールを足元でさばきながら突進してきた。私達のいるメインスタンドからは緊迫したどよめきが起きる。相手選手は思い切り左足を振り抜き、ボールは弾丸のような威力でゴールへと吸い込まれる――のを笹岡選手が両手で上空へと弾いた。ボールは芝生の外に飛び、スタジアムは安堵のため息に包まれ、姫さんは「笹岡さんナイス!」と叫ぶ。しかし周りの観客の安堵もつかの間、スタジアムの空気はぴんと張りつめた。

「もうコーナーキックかあ……。失点するなよ……」

 後ろの席から聞こえた声に、姫さんの表情がいくらか曇る。旗が立っている芝生の角に相手選手がボールを置いて、そのすぐ近くのゴールの前には両チームのほとんどの選手が立っている。時に肩をぶつからせたり押し合ったりしながら、芝生の角からゴール前にボールが蹴り込まれてくるのを待っているようだ。

 芝生の角にいた相手選手が、手を挙げて合図をしてからボールをゴール前に蹴り込む。放物線を描いたボールに両チームの選手がジャンプして競り合い、ボールはゴールの中へと突き刺さった。

「笠木ぃ!」

 直後、メインスタンドのどこからか怒号が飛んだ。ゴールの反対側に位置し、相手チームのサポーター達が座る青色と水色に染まった観客席からは、中途半端な歓喜の声が上がる。ゴールの前ではフォレザン花峰の選手が一人、うずくまって頭を抱えていた。その選手の腕を花峰の他の選手が引っ張って強引に起こし、選手達は試合が開始した時と同じ位置に戻っていく。その選手の背番号は五番。姫さんのユニフォームと同じ番号、つまりは笠木法太選手だ。姫さんの方を見ると、姫さんは目を見開き、口を手で覆っていた。何が何だか分からない私の耳に、放送で女性の冷静な声が響く。

「ただいまのゴールは、オウンゴールでした」

 オウンゴールの意味が分からない私は、きょろきょろと周りを見回す。私の周囲にいる誰もが沈んだ表情をし、そこかしこから「また笠木かよ」「あいつ何回目だ?」「まったく反省してねえな」などという声が聞こえてくる。とにかく喜ばしい状況ではないことは確かだ。

「……オウンゴールっていうのはね」

 姫さんはうつむいたまま、私の手をぎゅっと握った。

「味方のゴールにボールを入れて、相手に得点を与えちゃうこと。今の場面では、花峰が守るゴールにボールを入れさせないようにほうちゃん達が守備をしていたんだけど、ほうちゃんの頭に当たったボールが運悪く花峰のゴールに入っちゃったの」

 スタジアムの大型ビジョンには大きく「0-1」と表示された。視線を戻すと、姫さんは下を向いて泣きそうな表情をしている。笠木選手を責める周囲の声に、ひたすら耐えているようだった。そして声を少しだけ大きくして、周りに訴えかけるようにこう言った。

「ほうちゃんは決してサボらないし諦めない。九十分間、全力で戦い続ける選手なの。だから際どいコースに入ってきたボールも必死にかき出そうとする。だからオウンゴールもするの。戦おうとしない選手はボールに触ることは出来ない。戦う姿勢を見せるからこそボールに触れるし、ミスもするの。だから、だから――!」

「応援、しましょう……!」

 私の口をついて出た言葉を聞き、姫さんは顔をばっと上げる。姫さんの大きな目は潤んでいた。

「オウンゴールは笠木選手が全力で戦っている証……なんですよね。それなら私は笠木選手をもっと応援したいです。姫さんと私で精一杯手拍子をして笠木選手にパワーを送れば、きっと必死に頑張っている笠木選手にも良いことがある。私はそう思います」

「あずのん……」

 先週の逆転勝ちした試合を「成功体験」と言ってしまえばそれまでだが、私は応援には不思議な力が絶対にあると思う。それが声援であれ手拍子であれ、ポジティブな気持ちで発した音は選手達に必ず作用するはずだ。だから今、私は一生懸命頑張っている笠木選手に精一杯手拍子を送る。姫さんが「運悪く」と言っていたが、それなら応援の力で笠木選手に幸運を呼び寄せたい。

「そうだよね……! 下を向いている場合じゃないよね! 私ももっと応援頑張らなきゃ!」

 姫さんの目に輝きが戻る。審判の笛の音が聞こえ、試合が再開された。私と姫さんは選手達のいる芝生の方へ向き直り、ゴール裏の応援歌に合わせて力強く手拍子を送る。失点したことでゴール裏の声量は落ちてしまったが、私達はそれを穴埋めする勢いで精一杯手拍子をした。

 その後、フォレザン花峰の選手達がボールを持つ時間が増え、相手のゴールキーパーに迫る場面も増えた。笠木選手もさらに気合いを入れて戦っていることが伝わってくる。フォレザン花峰は得点こそ奪えなかったものの失点を重ねることもなく、前半を0-1で終えた。

 スタジアムの大型ビジョンには「HALF TIME」という文字が映された。どうやらこの時間はハーフタイムというらしい。気付けば選手達は芝生の上からいなくなっており、周りの観客も席を立つ人が多い。時にため息や「笠木……」という恨めしい声が聞こえたが、姫さんの表情は明るくさっぱりしていた。

「あずのん、ありがとね」

 姫さんはペットボトルのお茶を一口飲み、私に笑顔を向ける。

「あずのんの言葉でハッとしたよ。私は戦う姿勢を見せ続けるほうちゃんが大好きなんだ、って。だからほうちゃんがミスをしても、周りの人が何を言っても、私は精一杯応援して後押しする。そしてフォレザン花峰を勝たせる。私、後半も応援頑張るよ!」

 姫さんの笑顔には、周囲の雑音を跳ね返す強さを感じた。そして、応援する気持ちはどの席にいても変わらないことも改めて感じる。笠木選手を、フォレザン花峰の選手達を、後半も全力で応援しようと私は決意を新たにした。

 ハーフタイムが終わり、両チームの選手達が芝生の上に戻ってきた。それぞれのチームの円陣が解かれ、試合が再開される。

 ゴール裏から聞こえる声援は、ハーフタイムを終えて少し声量が戻った。篠沢さんや西浜さんとまた一緒に応援したい気持ちもあるが、姫さんと一緒に手拍子で応援するのもまた楽しい。

 選手達をメインスタンドから改めてじっくり見てみると、笠木選手はもちろん、他の選手も真剣な顔つきで走り、食らいつき、戦っていることが分かる。高く飛んだボールの落下地点では両チームの選手達が激しく競り合い、ボールを持った相手選手には容赦なく体をぶつけ、足を出してボールを刈り取ろうとする。選手達はまさに戦闘モードに切り替わっており、気迫というより鬼気迫るものを感じた。それと同時に、こんなにも真剣で一生懸命な姿は、私が日常生活を送っている上ではそうそう見られないとも思った。何より、選手達が今こうして自分の持てる力を出し尽くしている姿は、本当に格好良いし心から応援したい。私は先週、仲間が欲しいという一心で応援していたけど、今日は全力で戦っている選手達の後押しをしたいという気持ちの方が強い。声援も手拍子も、選手の後押しになっている実感がある。

 試合は両チームの選手達がバチバチとぶつかり合い、時に両チームの選手達が揉めることすらあった。スタジアムは緊迫した空気に包まれ、私達の応援にもよりいっそう熱が入る。

 その後も両チームともに得点は挙げられず、時間は刻一刻と終了に近づいていく。フォレザン花峰の選手達には焦りの色が見えてきて、観客席には諦めムードが漂ってきた。大型ビジョンには「3分」という表示が出る。試合の残り時間が三分あるということだろうか。

「笠木のオウンゴールで終戦かよ」

 私の耳に入ってきた、ため息まじりの言葉。それまでずっと手拍子応援に集中していた姫さんの目がキッときつくなる。そして、姫さんは思いきり息を吸ってこう叫んだ。

「大丈夫、まだ時間はあるよ! 焦らずに行こう! みんななら出来る!」

 私は姫さんがため息まじりの発言に対して怒るのかと思った。しかし姫さんが選んだのは、観客に怒りをぶつけることではなく、選手達の方を向いて応援することだった。そうだ、まだ時間は三分残っている。先週の試合みたいに、逆転することだって可能だ。

 私は手がジンジンしてきたが、手拍子応援をやめようとは思わなかった。むしろ、もっと強く手拍子の音を、プラスのパワーを選手に届けたいと思った。姫さんの色白で細い手も、手のひらだけは赤くなっていた。

 体感で三分近くが経ったその時、フォレザン花峰の選手がボールを足でさばいて、相手のゴールへ猛然と突き進む。芝生の上にいるほとんどの選手が同じ方向に走る。スタジアムのボルテージは一気に上がり、姫さんも「いっけー!」と必死の形相で叫ぶ。ボールを持った選手はゴールの前で思いきり足を振り抜いた。

 先週とまったく同じ光景だ。威力を持ったボールは、先週の逆転ゴールと同じように相手のゴールキーパーの手を弾き、ゴールの白い枠に当たり――、ゴールの外へと飛んでいった。

 相手ゴールキーパーの雄叫びが聞こえ、その直後に笛の音が三回響き渡った。スタジアムのボルテージは急降下。相手選手は笑顔を見せ、フォレザン花峰の選手達は皆一様にその場でうなだれる。観客席のそこかしこからため息が聞こえ、皆早々に帰り支度を始めた。

「0対1で、ヴェレジーク船岩の勝利です」

 無感情な男性の声がアナウンスされる。そこでようやく、私はフォレザン花峰が負けたことを思い知らされた。そうか、フォレザン花峰は負けたんだ。私達の応援の力が届かなかった……。

 呆然とする私の肩を姫さんがぽんぽんと叩く。私が姫さんの方を向くと、私の頬を姫さんの指がぷにっと突いた。姫さんの顔には疲れの色も見えていたものの、笑顔を浮かべていた。

「私達が応援を頑張って、選手達も必死で戦ったから最小失点で済んだんだよ。同じ負けでも0-1で負けるのと、0-3で負けるのは違うからね。私達の応援はちゃんと力になっているんだよ」

 姫さんの前向きな考え方に、私は救われる思いだった。私がゆっくり頷くと、姫さんは花が咲くような笑顔を見せた。

 試合を終えた選手達はスタジアム内を一周し、最後に私達のいるメインスタンドに来た。その頃にはすでにメインスタンドにいる人はまばらだったが、私と姫さんは全力で戦い抜いた選手達に精一杯の拍手を送る。笠木選手は終始沈んだ表情をしていたが、姫さんに気付くと深々と頭を下げた。姫さんは泣きそうな表情でこくこくと頷きながら、笠木選手を拍手でねぎらった。

 選手達がスタジアムの周回を終え、私と姫さんもメインスタンドを後にする。外は薄暗くなってきており、フォレザン花峰のサポーター達は肩を落として足早に帰っていく。

 階段を下りてスタジアムを出たところで、私は大事なことを思い立った。

「姫さん。申し訳ないのですが、ちょっと一緒に来てくださいますか?」


◆◆◆


 疲れた。勝った試合はアドレナリンが出るから、立ち応援を何時間しても平気だが、負けた試合はアドレナリンが出ないから疲れるだけだ。

 スタジアムを出て駐車場へ向かっていたその時、スマートフォンの短い着信音とバイブレーションが鳴った。画面を開くと、今宮からメッセージが来ていた。俺の心臓がとくんと高鳴る。

《「すこやかな青少年の像」の前に来てください。お話したいことがあります。》

 すこやかな青少年の像……? 俺が画面を見たまま考えていると、隣から「メインスタンドとゴール裏の中間にある、あの銅像のことじゃない?」と西浜さんの声が聞こえた。西浜さんは俺のスマートフォンをまじまじと覗き込んでいた。

「ちょっ、人のスマホ、見ないでくださいよっ」

 俺は慌ててスマートフォンの画面を消す。すると西浜さんは筋骨隆々とした腕を俺の首にぐいっと回してきた。

「梓乃ちゃんにちゃんと謝ってくるのよ。じゃないと私、承知しないからね」

 低い声でそう囁かれてぞわっとした。そして俺の首に回された腕が解かれたと思うと、直後に西浜さんは思いっきり俺の背中を叩いて送り出した。俺は前につんのめって転びそうになる。力の加減がまるで出来ない西浜さんを、俺は振り返って睨んだが、西浜さんはシッシッという手振りで俺を追い払う。俺は言い返すこともできず、前を向いて小走りで今宮が指定した場所に向かった。

 メインスタンドとゴール裏の中間にある「すこやかな青少年の像」はすぐに見つかった。先週、今宮と待ち合わせた場所にあるあの銅像のことだったのだ。銅像の前には今宮と姫が立っており、俺を真剣な眼差しで見つめていた。

「悪い、遅くなった」

 今宮は返事をせず、俺もばつが悪くて次の言葉が出てこない。姫も何も言わない。しばしその場に沈黙が流れる。

「……篠沢さんっ」

 今宮は胸の前できゅっと手を結び、上目遣いで俺の顔をまじまじと見つめる。そのいたいけな姿に、俺の心拍数は跳ね上がった。

「今日一日、姫さんとメインスタンドで応援をして気付きました。ゴール裏で声援を送る以外にも、応援の方法はたくさんあること。そしてゴール裏での声援も、メインスタンドでの手拍子も、確実に選手達の力になっていることに気付いたんです。だ、だから……」

 今宮はそこで口ごもる。俺は続きを聞きたくて何も言わないでいると、姫が後押しをするように今宮の肩にそっと手を乗せる。今宮は姫の方を向いてこくんと頷き、俺の目をもう一度見る。

「だから、篠沢さんにも分かってほしいんです。応援する気持ちがあれば、どの席にいても誰もがサポーターだと、仲間だと。……だから私、篠沢さんとも姫さんとも仲良くしたい。色々ぎくしゃくしてしまったけれど、皆さんとずっとずっと仲間でいたいんです!」

 今宮の心からの訴えに、俺もこみ上げるものがあった。それをどう言葉にしたら良いのか考えていると、今宮の隣にいた姫が「あ、あの……」と気まずそうに口を開いた。

「篠沢くん、あずのん、ごめんなさい。私が二人の話に割り込んで、あずのんを強引にメインに誘っちゃったのがそもそもの原因だよね。初めて花峰サポーターの仲間ができると思ったら私、見境なくなっちゃって……。本当にごめんなさい」

 姫は深々と頭を下げる。今宮は慌てた様子で「そんな、謝らないでくださいっ」と姫に頭を上げさせた。姫は何も言わない俺を見て、口をきゅっと結んで視線を落とし、申し訳なさそうな表情をする。

 俺はカッコいいことは何一つ言えない。でも、だからこそ俺も自分の本当の気持ちを伝えたい。そして今宮と姫の言葉に、想いに、真摯に応えたい。

 俺は今宮と姫を一人ずつまっすぐ見つめた。もう俺に迷いはない。

「俺の方こそ悪かった。俺の誤解と不甲斐なさのせいで二人を悩ませて、謝らせて……本当にごめんな。俺も二人と仲間でいたい。これからもずっと花峰サポーターとして、一緒に感情を共有したい。だから、これからもよろしく頼む」

 言い終えた瞬間、頬がカッと熱くなり、俺は思わず二人から視線を逸らして頬をかく。柄にもなくカッコつけてしまった。でも、これが俺の本当の気持ちだ。

「こちらこそっ! よろしくお願いします!」

 今宮は頬を紅潮させて目を細め、首を少し傾げて満面の笑みを浮かべた。これが天使か、と思ったら体温が一気に上がり、今宮を直視できなくなった。

「篠沢くん、あずのん、ありがとね。二人とも、これからよろしくね」

 姫も顔を赤らめ、にっこりと笑う。良かった、これで完全に和解できた。仲間になれた。

 「すこやかな青少年の像」の近くに立っている外灯に明かりがつく。試合は負けたけど、今の俺の心は明るく晴れやかだった。

「わーたーしーはー!?」

 その時、遠くからねちっこい声が急速に近づいてきた。耳元まで近づいてきたかと思うと、俺達の目の前に誰かが割り込む。西浜さんだった。今宮は目を丸くし、姫は数歩後ずさり表情も若干引いている。

「私のことも忘れないでぇ~! ……あら、あなたが姫さん?」

 西浜さんの目が姫を捉え、姫はたじろいで頷くのが精一杯といった様子だった。今宮をメインスタンドにさらった姫に対し、西浜さんはどう出るのか……。

「私、西浜成雄。いつもタルくんと一緒にフォレザン花峰を応援している熱烈サポーターよ。よろしくねっ!」

「か、加賀野莉璃ですっ。よろしくお願いします」

 姫はハッとしてぺこっと頭を下げ、西浜さんは姫にウインクする。いつもどおりの西浜さんで、俺はほっと胸をなでおろす。

「何はともあれ、仲直りできたようで良かったわね。じゃ、仲直りのしるしにみんなで写真を撮りましょ! 大丈夫よ、私は入らないから」

 西浜さんは俺達の返事も聞かずに、自分のスマートフォンを取り出した。そして俺達から少し離れて地面に片膝をつき、スマートフォンを横向きにしてレンズをこちらに向ける。俺と今宮は戸惑っていたが、姫は「せっかくだから撮ってもらおうよ!」と意外と乗り気だった。

 今立っている位置で西浜さんの方を向いて撮ってもらおうとしたが、西浜さんは左手でジェスチャーをしながら「みんな、もっとくっついて!」と催促する。今の配置は俺、今宮、姫。今宮と姫はくっついたが、俺と今宮はなかなか距離を詰めることが出来ない。なぜだか分からないが、今宮を意識するたびに心臓の鼓動がどんどん速くなる。今宮の方から距離を詰めれば良いのに、今宮自身も俺と接近することをためらっているようだ。

「も~う、早くしてっ! 撮っちゃうわよ~!」

 西浜さんが口を尖らせて再び催促すると、姫がいたずらっぽい笑みを見せて今宮の背中に手を置いた。

「えいっ!」

 姫が今宮の背中を押す。そして――。



挿絵(By みてみん)


 俺達の笑顔と汗と涙のサポーターライフは、この瞬間から始まることとなる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 梓乃ちゃんてこんな感じの女の子だったんだ~ 次回からこのイラストが脳裏に浮かぶね!
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