幕間 レヴィアの悟り
「ふう……」
浴室にて、まばらに落ちる熱い雨の音が響いていた。
それを浴びるくすんだ金髪の女、レヴィアは未だに現実感を感じられていなかった。
「本当に生きてるんだよね、私……」
拳を開閉させる。体を伝う湯の熱は確かだ。
確かに、生きてここに居る。
自分が本当に、自分から付いて行きたいと感じた人を見つけて。
「私が護る、支える。じゃないと……」
レヴィアの目にはヒョウの姿が鮮烈に、力強く映った。そして、同時に儚さも。
一瞬だけ燃え盛り、即座に消えてしまう火種の様な。
勝手に決めて勝手に動き、最後には勝手に居なくなってしまう様な。
「強くならないと」
足りない。今の自分ではその望みを叶える事が出来ない。
あの二人の後ろに立ち、怠惰に過ごしてきた今の自分では。
「二人は、どう思うかな」
子どもの頃からの付き合いだった。自分の生きる導になってくれた。今日まで何の選択もしないまま、流される様に生きてこれたのは二人が居たから。
なのに、頬を伝う流れに涙は無い。
自分はこんなにも冷血だったのかと、火照った体でレヴィアは自嘲した。
「私はただ祈ります、か」
ふと目に入ったのは壁に刻まれた文章だ。
双璧の英雄の一人、エマ・ステムリドラが、人類を救う旅の中書き残した日記の序文。
今でも国民にその偉業は語り継がれ、敬慕を抱く者は多いが、ベルナール家のそれはレヴィアから見て最早信仰に近かった。
こうして、家のあちこちにエマ由来の物があるぐらいには。
「エマ様。ーー私が祈る先、見つけました」
エマがその生涯で良く口にしたのが、祈るという言葉だったという。
そして、今も尚議論が続く言葉でもある。
ーーエマは何に祈っていたのか?
人類の安寧か。もう一人の英雄か。超自然的な何かか。
彼女は何に祈り、何に祈る事を我々に望むのかという議題は、明確な解決に至っていない。
レヴィアも疑問には思っていたが、特に個人の意見を持っていたという訳ではなかった。
そして今、レヴィアはその問いに対する自らの答えを出した。
エマの意図はどうあれ、レヴィアは自らの祈る先を見つけた。
自ら進む為の、生きる理由を。




