勇者と魔女と悪魔の花嫁と
2日目、僕が練兵場の更衣室に入った時だった。ムンとした汗のニオイが部屋に充満していて、清潔な騎士のイメージが壊れた。
一斉に視線を浴びる。
そこでは他の騎士達が僕の噂をしていたらしい。中でも大きな声でわざと僕に聞こえる様に今も言っているのは僕とパーティーを組むことになったアドルフ達だ。
「はっはっは、あのヒョロヒョロのガキ勇者、キュクロプスどころか、ゴブリンにすら汗だくになって逃げてやがんの。それで地面にぶっこけて、あんな良い剣持っていながら目潰しに土を投げつけたんだぜ?
まじウケるよな!」
「ゴブリンも倒せないなんて、童貞かよ」
「全くですね」
「えこひいきだよなぁ」
「モンスターを倒す以前に剣も握れないなんて、とても伝説の勇者とは思えませんね」
「……」
僕は何も言い返せない。彼らの言っていることが事実だからだ。
背を向けてただ淡々と着替え、聞いていないフリをする。
でも、周りからの視線を痛いほどに感じる。他の騎士達はどう接したら良いのかまだわからないんだろう。
僕が弱いのも、彼らが話している内容も紛れもない事実だ。
その通り、僕は弱い。
魂の自由は思っていたよりも難しいかもしれない。前途多難だな……
嫌だなぁ……
「あんなんで本当に魔王軍とやりあえるのかよ? 雑魚モンスターすらまともに倒せない勇者に、魔女狩りなんて絶対無理だろうな」
「一緒にパーティー組みたくねぇなぁ」
「きちんと仕事をしてほしいですね」
「おーい、聞いてるのか? 勇者サマ〜?」
そんな言葉を後ろから投げられ、僕は逃げる様に練兵場へと出た。
ちくしょう……
「気にしなくていいよ」と騎士たちから陰口を言われている僕を剣の稽古の相手をしてくれている騎士の1人、ローランが慰めてくれる。
「あぁ……ありがとう、ローラン」
けどまぁ、実際問題、その不満はわからないこともない。苦労して手に入れた騎士という役職、そしてそれに見合った装備、それらより良いものをこの僕に、自分より弱い者に与えられているのに不満があるのは仕方がない。
つまり、勇者に対する「えこひいき」というやつに気に入らないのだろう。今この国は農民の地位が上がってきていて、下級貴族はかなりしんどいらしい。
アドルフという率先して僕を目の敵にする騎士も下級貴族の1人だと聞いた。
復活の儀、つまり僕が召喚された後に皇帝からされた話はこうだ。
今、この世界には、およそ1000年に1度訪れる、魔王の軍勢なるものたちが、この国の北にある果ての大地から現れて、人間世界を滅ぼそうとしている。それを退けることで、世界の平穏と治世権を得られるのだという。それに失敗すると暗黒時代が訪れてしまうのだそうだ。
前回、それを退けることに成功したのはこの世界の主な宗教、「神聖教」を国教とする国々であり、その際は勇者を召喚したそうだ。
すでに、その魔王の軍勢の手先が各国で動き出していて、特に魔女の被害が大きいという。
そこで僕が復活祭で召喚されたってことだ。
彼らは1000年前と同じ勇者の英霊を呼び出したらしいが、メフィストの小細工でどうやら僕になったらしい。
というのがこの世界の問題だが、一番の問題は、勇者の僕が英霊ではなく、弱すぎる、ということである。このことはすでに帝国中に知れ渡っているらしく、騎士連中からは、召喚2
日目にして、さっきの更衣室のように白い目で見られているのだ。
この世界の住人は、世の中を変えて救うような、強いリーダーを求めていたんだ。こんな弱いやつが来て民はさぞ失望し、不平不満を漏らしていることだろう。
「でも、今まで剣を握ったことがないんでしょ? ぼくも初めてゴブリンと戦ったときは、本当に怖かったし、殺した後はご飯を食べられなかったからね」
彼はローラン・エルム。ローランは騎士の中で唯一僕をかばってくれるナイスガイだ。それに超が付く程の美少年で帝国最年少の騎士でもある。
騎士に馬鹿にされている貧弱な体格の僕よりも、更に少し小柄で華奢で、顔も中性的というか女性よりだ。はっきり言って女の子っぽい。正直、魔法鏡で全身を映さなかったら、女性だと言い張ってもわからないと思う。
だが剣の腕は確かで、細身の剣と短剣を同時に使い、可愛い顔をしていても魔物を躊躇なく倒すから、他の騎士からの信頼は厚い。
それにぶっちゃけ、それゆえに、つまり可愛いがために騎士連中もローランを恨めない。
彼女……いや、彼には2日目のさっきのモンスター狩りを兼ねたレベル上げの際にも助けてもらったし、今もこうして構え方から、剣の基礎を教えてくれている。
「あ、あんまり見つめないで……」
か、可愛い……
ダメダメダメ、深呼吸、深呼吸。彼を少し長く見つめ過ぎてしまった。
「ご、ごめん!」
「ううん、いいよ。そういえば明日、皇女殿下が魔女狩りの遠征から帰還されるそうだよ」
「皇女自ら出陣してるんだ?」
「帝国でも3本の指に入る剣士だからね。帝国、いや、世界でも女性で騎士をしているのは皇女殿下だけだね。しかも帝国騎士団副団長だよ。実力も確かだ」
女性は普通、騎士にはなれないらしいが、皇女の戦士としての才能を飼い殺すのは戦力と士気にも関わるので特別らしい。
「まぁ、陰では『悪魔の花嫁』として恐れられてるんだけどね」
「悪魔の花嫁?」
と剣を素振りしながら尋ねる。
「うん、剣技を発動するのにはマナを消費するってさっき教えたよね?」
「ああ」
さっきローランは教えてくれた。
「剣技は、元々はそれぞれの流派のただの剣の型だった。だけど魔女の援助を受けることで、魔法が付加された、威力もスピードも桁違いの攻撃になるんだ。この発見は騎士の戦術を変えるほどの大きな変化だったんだよ」
どうやらこの世界で剣技を発動するにはマナという魔力の源的なものが必要で、始めのうちは何より体のマナの出入り口の開け閉めを自由にできないから魔女の力を借りる必要があるらしい。
だから魔王軍の手先として狼藉を働く魔女を生け捕りにし、奴隷契約を結ばせ、戦場へはマナの供給源として連れて行くのが基本的な戦い方とのことだ。
「皇女殿下はマナドレインっていうスキルが生まれつきあって、パーティーとして行動する時、パートナーのマナを吸っちゃうらしいんだ。それに戦い方も激しくて誰もついていけないし、ヘトヘトになるから、他は後方支援だけで、基本は
1人で戦ってるんだよ」
「へぇ……」
「傍若無人でわがままだし、騎士団長と互角かそれ以上の剣の腕だから、一緒に戦うとなったら味方といっても震え上がらない騎士はいないね。あ、今のは内緒だよ?」
「う、うん」
僕の構え方を優しい手がそっと修正してくれていて、言いふらすどころの心境じゃない。ローランの手のひら、全然戦士っぽくないな……
腕も色白で細いし、女の子みたいだ。
ダメだダメだ、集中!
でも、要注意人物か。怖いな。気をつけておこう。
「さっ、今日はもう遅いしこのくらいにしておこう」
と満面の笑みで僕に言う。
「ああ」
「ね、ねぇファウスト、この後一緒に沐浴、しに行かない?」
と少し照れているような、上目遣いで聞いてくる。やっぱりカワイイ……
「えっ、沐浴?」
待て待て、動揺するな漢おとこファウスト。
ローランは男、ローランは男、ローランは男。
「あ、ああ、いいよ。さっぱりしよう」
「やった!」
やった……?
練兵場にある沐浴場から、僕は裸足で自分の部屋に帰った。ブーツが無くなっていたからだ。
この日からだった。日を追うごとに騎士達の嫌がらせがエスカレートしていった。
3日目、どうやら騎士たちの勇者嫌いは本格化してきたらしい。アドルフ達以外の騎士も、今日は昨日までの申し訳なさげな言葉遣いと違い、少しずつ横暴になって来ている。
例えば道を訪ねること1つとってもそうだ。城はなんと言っても広い。だから道を聞くのはまだ仕方がないと思う。だけど皆はあまり僕と話したくない様子で、避けられている。話しているところを見られたら嫌なのか、誰かが来たら話の途中でも「失礼します」と言い残し颯爽と去っていく。特に女性がそうだ。
これには結構傷つく……
そうする内に、すれ違う人の笑い声や笑みが自分を指して笑っているのだと思ってしまうようになった。とんだ自意識過剰ぶりだ……
今日も近くの森でレベル上げだ。まだ剣技は使えないし、近辺のレベルなので他の騎士の奴隷魔女も連れていない、5人のパーティーだ。僕とローラン、リーダーのアドルフ、ラルフ、槍使いのデニスで、みんなそれぞれ貴族らしいが、家名は長くてさすがに忘れた。歳もほとんど一緒だろう。
僕の歳は、正直わからない。だが見た目的にはこの世界では成人をとっくに越した、10代後半から20歳あたりだ。
帝都の門を抜けながら昨日教わった基本を思い出す。
身体は正中線を中心に意識して半身に開き、膝は軽く曲げて重心を少し下げ、軽く剣を握り、斬るときに力を瞬間的に込める、だったか?
モンスターを前にして、呼吸を乱してはダメで平常心が肝心だという。
とはいうものの、やはり緊張はしてしまう。何せ少し気を緩めれば大怪我をするし、騎士達もローラン以外、助けてくれるつもりはないらしい。
彼らは命令で仕方なしに僕とパーティーを組んでいるだけで、僕とローランを先頭に、後ろでずっと世間話をしながらついてくるだけだ。
人付き合いも難しいこと極まりない。正直、辞めたい。
「この剣捌き、さすが英霊様だ」
「ワオ! やるじゃねぇか、童貞!」
「いやいや、さすがですね。あのゴブリンを一撃で」
僕が少し動けばこの調子で皮肉を言ってくる。
まぁ、このくらいなら全然耐えられるし、僕が弱いのは確かだ。
国の金と労力を注いで召喚した勇者がこの程度じゃ、皮肉も言いたくなるだろう。
気づけば日が暮れかかっていた。
その時、
「全員、止まれ!」と、パーティーリーダーのアドルフが小さい声だが確かな緊張感とともにそう命令を下す。僕たちは一気に緊張感に包まれる。
「あれって魔女じゃないか?」と森の奥を指差しながら身をかがめる。
微かに光る物体があって、そこに3人の人影があった。僕は全然気がつかなかった。見事な索敵スキルだ。
「確かに……うん、森の精霊と交信しているようだね……どうする?」とローラン。
「まずいな、奴隷魔女を連れて来てねぇぞ」
「まさか、こんな帝都近くにも現れるとはな」
「それに、3人だけか? あいつらは4人1組で行動するはずだろ」
「何人だろうが、私たちには勇者様が付いていますから、安心ですけれどね」
声を殺して笑っている。
全然面白くないんだが。でも魔女狩りが僕の仕事になるはずだったのは確かだ。
「やり過ごそうか?」とローラン。
「いや、放っては置けねぇ。2人だけだぞ? いい機会じゃねえか。そろそろおもちゃを新調しようと思ってたところだ」
「だな。ここで狩っておくか。2人なら生け捕りもできそうだ」
「楽しみが増えましたね」
「神よ、どうか我らを悪魔から守りたまえ」
騎士達は不敵な笑みを浮かべている。頼もしいが、僕はどこか怖さを覚えた。
「ではでは、勇者様は少し離れて我々の戦いをご覧になっていてください」
「そうさせてもらうよ」正直魔女は僕にはまだ無理だ。
ゆっくりと4人が魔女に近づいて行く。僕は音を立ててしまうのが心配でその場に残って見守るしかない。
アドルフがジェスチャーで合図を出す。
戦闘が始まった。
放たれる魔法の光をローランが剣で突き返す。そしてそのまま斬りかかるアドルフだが、もう1人の魔女に吹き飛ばされる。速い。戦いが見えない。
魔法の速度も目で追えない。それにあれは……木の根っこか?
騎士達は陣形を何度も変えながら戦うが、すぐに崩される。僕なら瞬殺されるだろう。
ローラン達はかなり苦戦している……
これが、魔王軍の精鋭部隊、魔女。そして魔女狩り……
すごい……
でも、徐々にだが、押している。ローランの剣が魔女を掠かすめた。
いける……!
「森の命よ」
突然、背後から微かな声がした。
え……?
すると木の根が伸びてきて、抵抗する暇も与えずに僕の体を縛り上げる。僕は力なく宙吊りにされた。さらに根が首に巻きついていく。
息がしにくい……苦しい……前にもこんなことがあった気が……
「こんな見え見えな場所で後ろから不意打ちをするつもりだったのかしら? バカね。さぁ、いくつか質問するわ。答えなさい」
フードを深く被っていて顔はよく見えないが、一瞬目が合った。かなり若い女の子みたいだ。
まずい……拷問され、殺される。あの目は本気で殺すつもりの目だ。
こんなに若いのに、なんて恐ろしい目つきをしているんだ……
罠だったのか? いや、そんなこと気にしてる場合じゃない。
動けないから片目の端で確認するが、僕と騎士達との距離はすぐに詰められるものでもないし、まだ激戦が続いていて僕の状況に気付いていない。
「召喚された勇者は今どこ? 帝都?」
やはり偵察していたのか。
今ここ、目の前にいるなんて言えないしな……
黙ったままでいると、締め付ける力が強くなった。
「時間が無い。早く答えなさい。殺すわよ」
「て、帝都だ……」
「そう。レベルは知ってるの? 遠征の予定は?」
「し、知らない」
「そう、じゃあ死んで」
「――――っ!」
そう言った途端巻きつく力が、呼吸ができなくなるほど強まった。苦しい。体にも全く力が入らない。
あぁ、まただ。でも今度は騎士団長もいない……
前と同じように意識が朦朧として、視界も暗くなっていく。
血が頭に回っていないんだろう……
あぁ、死んだな、これは。
確実に。
冷静に、そう判断できた。
死――、走馬灯なんて見れるほどの人生はこの世界では過ごしてないな……3日だけか……
刹那、何かが動いた。ように思われた。
人……?
「かっ――――」
僕は地面に勢いよく崩れ落ちた。
酸素が肺全体に広がっていく感覚が心地良い。喉が潰されそうなほどきつく締め付けられていたから、息をすると痛む。
心臓がばくばく鳴っている。
「キミ、帝都に潜り込んでいたのかな? 安心して。ボクが捕まえてあげるよ」
女性の声……? 僕は膝をついて四つん這いになり顔を上げて確認する。
軽装だけど、剣を持っている。この人が、根を切って助けてくれたのか。僕は助けてもらってばかりだな……
そしてその女性が魔女に対して剣を向け、今まさに飛びかかろうとしたその時――、
「お前……!」
彼女は何かに気付いた様子で動揺している。
「グォォォォォォォォォォォォ!」四方から一斉に咆哮が聞こえる。
「「「「「!!!」」」」」
「キュクロプスだ!」
「数は!?」
「……7体!」
向こうの騎士達が声を張って確認し合う。
魔女が呼び寄せたのか?
後ろで何かが動く気配がする。
振り向くとそこにも巨躯がずしりと立ち、僕を睨め付けている。
「いや8体だ! こっちにも1体いる!」
「少しの間だけ耐えられるかい!?」ローランは言う。
「やってみる!!」
その間に、魔女は既に逃げていなかった。
やばい、やばいやばいやばい……前に戦った時は手も足も出なかった。
でも構えろ。平常心だ。焦るな。――と決意した時、その女性が動いた。
怪物の首が、僕の足元に転がってくる。
見開かれた1つの目は、やはり見ていて気持ちが良いものでは無い。
え?
「うーん、キュクロプスだね。こんなところにも出るなんて、世も末だね。キミもそう思わない?」
と、突然、女性が僕に話しかけてきた。
「え、キュく?」
放心状態で彼女の言葉が聞き取れなかったし、さっき無理して大声を出したせいで、話すと肺と喉が痛み、むせる。戻ってくる感覚に、鳥肌が立つ。
気分が悪くなって嘔吐した。
「キュクロプスだよ。知らないの?」
「うん……あ、いや、知ってるけど……」
僕は口を拭いながら答える。
普段はここに存在しないモンスターなのかな?
「大丈夫?」と彼女は何かの砂糖菓子取り出し、かじりながら聞いてくる。
え、めっちゃ強いな、この人。と遅れながらにぼんやりと思う。
全く見えなかった。
「皆、頑張ってるねぇ。もう少し様子みよっかなー」と騎士たちの方を見ながらその女性はつぶやく。
だんだん理解が追いついてきた。
そうだ、ローラン達も戦っているんだ。
ずっと放心していたが、まずはさっきのお礼を言わないと。
「あ、ありがとう、助けてくれて。死を覚悟したよ」
「だね、あれは死ぬ目だったよ。だから全力で走ってきた」
遠くから僕の死んだ目が見えたのか。
「あー!」彼女は突然声を張り上げる。
なんだ!?
びっくりして飛び跳ねてしまった。僕は戦場ではすぐに動揺してしまう。
「わかった! キミが復活したっていう伝説の勇者だ。この辺でモンスターを狩ってるって聞いて飛んできたんだけど、5人パーティーだし、そうでしょ?」
そう言いつつ、品定めするように遠慮なく上から下へと視線で舐めまわされる。彼女はブーツの底の高さ分を差し引いても、僕と同じくらいの身長があって、見下ろされているような威圧感を覚える。
「そうだけど」
「ふーん、キミ、弱いね」
僕が答え終わらないうちにそっぽを向いて躊躇なく言う。
「この世界は弱肉強食、弱い奴は生きていけないよ。お、あっちも片付いたか」
騎士達が駆けつけてくる。
「ディアスキア様、お帰りになられたので」とリーダーのアドルフがこの女性に対して跪き話しかける。他のみんなもそうしている。
「カタイなぁ、立ったままでいいよ。ボク、そういうの気にしないから」
1人称が「ボク」の、ディアスキアと名乗る彼女は、ローランが昨日言っていた「悪魔の花嫁」と恐れられる皇女殿下だった。
その後城に戻る途中で僕は気絶してしまい、眠っている間に帝都一番の治療師に怪我を治してもらって、朝を迎えた。
魔女が帝都近くの森で出現したことはすでに騎士達の間にも広まっていて、僕が死にかけたことの責任問題も同時に上がっていた。金をかけて呼び出した勇者が大きな利益も出さずに3日でいなくなるなんて、さすがにもったいな過ぎる。
結局はパーティーリーダーだったアドルフが責任を負い、謹慎処分となった。しかし、元はと言えば勇者の僕が力足らずで、1人で魔女1人も相手にできない本人の責任だという言い分が騎士の間では支持された。言っちゃなんだが、もっともだと思う。
「今回は予想外だったし、仕方ないよ。2人だけだと見誤ったぼくたちにも責任はある」
と、ローランは言ってくれたが、自分の弱さには、ほとほと嫌になる。
自分の命は自分で守らないといけない、弱肉強食の世界だ。分かってはいるが、現実として、同世代の女の子に助けてもらった始末である。
皇帝や騎士団長からの僕への評価は……まだ保留中とのことだ。
この件をきっかけにして、僕に対する騎士達の態度の硬化が加速した。