第6話:依頼主は領主様
〈〜こんこらむ:6〜〉ラン②
沈着冷静で無愛想。だが無口という訳ではなく、気分がいい時は自慢話をしたりする事もある。悪意に敏感。
妹のユリとはずっと一緒に育ってきた為、姉妹仲は良好。口論する事はあっても喧嘩にはならない。
マスミと出逢ってからの3年間、共に過ごす内に何か思うところがあったらしく、最近はマスミありきの思考になっている。
目の前に、豪華なお屋敷がある。
私たちは依頼主に会う為、男に案内してもらった。そうしてたどり着いた場所が、目の前のお屋敷だ。こういうの、ヨーロッパの写真の風景で見た事ある。もしこの世界の文明レベルが中世ヨーロッパ時代とか同等なら、これ程の屋敷をもらえる人物は相当位が高いはずだ。最低でも伯爵位はあるだろう。
門の前まで行くと、衛兵2人が手にした槍で門をふさいだ。
「何用か?」
「オレだ。旦那の依頼を受ける冒険者をつれてきた」
「⋯⋯了解した。領主様に確認を取る、しばし待たれよ」
「あぁ」
話を聞き、衛兵が確認を取りに中へと入っていった。というか、聞き捨てならない単語を聞いたぞ。
「⋯⋯なぁ。今『領主様』と言ってなかったか?」
「あぁ。オレ達の依頼者はこの街の領主様だぜ。言ってなかったか?」
「⋯⋯聞いてないぞ」
「ふむ、思ったよりも大物だな。面倒事にならなければ良いが」
「⋯⋯それ以上喋ると現実になるぞ」
などと話していると、さっきの衛兵が戻ってきた。
「確認が取れた。中に入って良いぞ」
「おぅ。ありがとよ」
ようやく中に入れたな。頼む、普通の護衛依頼であってくれ⋯⋯。
屋敷内に入ると、メイドたちが出迎えてくれた。そして応接室へと案内された。中へ入ると⋯⋯。
「初めましてだな、諸君。よく来てくれた」
とってもダンディな男が出迎えてくれた。見た目は40歳前後に見える。金髪のオールバックに切れ長の眼、黒を基調としたスーツ姿。まさに貴族を体現したかのような男だ。
「私はヴェルマン・フォン・ルーズベルト・マルベラ。この街の領主をしている。貴族階級は伯爵だ。よろしく」
自己紹介をして一礼。所作も完璧で、非の打ち所がまったく無い。
「⋯⋯」
「どうしたのかね?」
「いや⋯⋯。自分が思い描いていた貴族とは大分違うから⋯⋯」
「ふむ。尊大な口調でふんぞり返っている傲慢貴族でも想像したのかね?」
「⋯⋯ッ」
図星を突かれた。洞察力が凄い。
「その認識は正しい。この国の貴族の半数以上はそんなものだ。しかもそれらは苦労を知らず、常に王都でぬくぬくと暮らしている。同じ人の上に立つ者とは思いたく無いがね」
ヴェルマンさんは吐き捨てるように言った。ずいぶん苦労しているのだろう事が窺い知れた。⋯⋯なんだか、一気に親近感が湧いたな。
「⋯⋯ところで、君たちは面白いパーティー編成をしているな。子供が1人とエルフの双子とは⋯⋯。しかもリーダーは君なんだろう?」
「⋯⋯まぁ、一応は」
確かにリーダーではあるけど、今の私の見た目は子供だ。侮られたり、驚かれたりするのは仕方のない事だ。
「⋯⋯まぁ良かろう。合格だ。ここまで来たと言う事は、実力は問題無いだろう。人柄についても、こうして直に見て問題無いと判断する」
「⋯⋯良いのか? そんな簡単に信用して⋯⋯」
「これでも、人を見る目はあるつもりだよ。でなくては領主など務まるものか」
「⋯⋯ありがとう」
自信たっぷりに断言され、無事依頼を受ける事に成功した。
「では、仕事の話をしようか。あぁ、君はもう下がっていいぞ」
「あいよ、旦那」
そう言って男は部屋から出ていった。
「依頼内容は護衛。だが、護ってもらうのは私ではない」
「違うのか?」
「ああ。護衛してもらうのは、私の友人だ。名前はニット。ここから東へ馬車で2日のところにあるダンロットという街へ商品を輸送するらしい。彼と、彼が運ぶ商品を護る事。それが今回の依頼だ」
「了解した。⋯⋯道中には、魔物とかは出たりするのか?」
「あぁ、出るぞ。ゴブリンやらシルバーウルフとかな。だが問題はそこではない」
「⋯⋯何かあるのか?」
「最近、このマルベラとダンロットを結ぶ道沿いに盗賊が出るという情報がギルドから寄せられた。魔物よりもこちらの方が厄介だろう。私が依頼を受けた冒険者を品定めする理由がそれだ」
「⋯⋯確かに、誰でも良いわけじゃ無いな」
魔物はともかく、相手が同じ人間だとやはり戦いづらいだろう。人を選ぶのも納得がいく。
「まぁ依頼の内容についてはこれくらいだろう。報酬については、向こうの街のギルドに行って依頼達成の報告をあげれば良い。根回しは済んでいるのでな」
「了解。それで、いつ出発するのか聞いてもいいか?」
「出発日は5日後だ」
「⋯⋯少し日が空いてるな」
「まぁな。冒険者を選ぶ時間を考慮して、早めに依頼を出したのだ。そこそこ時間がかかると思っていたのだが⋯⋯。まさか依頼を出した翌日に決まるとは思ってもみなかったがね」
「⋯⋯」
「という訳だ。それまでは自由行動で構わない。当日きちんと来てくれればいい」
「分かった」
出発は5日後。つまり4日間は暇になったという事か。
「⋯⋯すまない。少しいいかな?」
「⋯⋯何か?」
ヴェルマンさんはずっと気になっていたのか、質問してきた。
「その、そちらの2人には、意見を聞かなくても良いのかね?」
⋯⋯あぁ、そうか。ランとユリがずっと黙ったままなのが、おかしいと感じたのか。
その質問の意図を察したかのように、2人は口を開いた。
「問題無い。私はマスミの物だ。彼が決めたのなら、それに従うだけだ」
「アタシも同じでーす。マスミが決めた事なら、反対しませーん」
2人とも、何の迷いもなく言い放った。というか、ランが今もの凄い事を言ったように聞こえた気がしたのだが。
「⋯⋯凄いな。エルフの2人がそこまで言うとは。余程信頼されているのだな」
「⋯⋯まぁ、な」
2人の発言に、ヴェルマンさんはとても驚いていた。いや、私自身も驚いている。いつから私の『物』になったんだ⋯⋯?
今回、やや会話を多めにしてみました。会話だけでもストーリーを動かせるか、試してみたかった為です。
あと、ランの性格が少しづつ壊れ始めている気がします。ユリも少し⋯⋯。⋯⋯気のせいでは無い、ですよね?