表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白金の道  作者: 遅筆屋Con-Kon
1/18

第〇話:プロローグ

2作目にして、本編『青緑の川』の外伝的な作品です。

「⋯⋯だから、何度言ったら分かるんだ!」


 私は倉葉真澄(マスミ)、22歳。現在とある一流ホテルで正社員として働いている。部署はフロント。お客様をお迎えし、部屋へと案内する『ホテルの顔』である。週休2日。給料は月25万円。現状の生活自体に不満はない。


「おい!ぼさっとしてないで、早くお客様をお迎えしてこい!」


 ホテルに勤め始めて4ヶ月。大学を出たばかりの社会人1年生に、会社の洗礼はかなり堪える。が、仕事が出来ないのは事実なので、特に不満はない。


 ⋯⋯そう、不満はないのだ。



 ――――――――



「お疲れ様でしたー」


「おう、お疲れさん」


 午後8時。仕事が終わり帰宅する。

 今日もたくさん文句を言われたが、ミスをしたのは自分の落ち度なので仕方がない。私は特に不満を感じなかった。


 ―――――私は小さい頃からずっといじめられてきた。小学校、中学校、高校ですらもいじめを受けた。受け続けた。教科書を破かれたり、体育の授業で制服を隠されたりと、色々だ。その為、私は未来に何も思う事は無かった。


 大学に入れば何か変わるかと思ったが、何も変わらなかった。いじめは無かった。だが、それだけだ。新発見がある訳でもなし。色恋沙汰がある訳でもなし。友人も出来ず、無為に4年が過ぎた。


 そんな過去があってか、私の目には色が消えていた。街の風景も、人だかりも、全てが色褪せて見えた。


 将来への夢も希望もない。ただ、無為に時を生きるだけ⋯⋯。



 ―――――――



 帰宅の前に、高台にある小さな公園へと立ち寄った。


 自宅からわずか5分のところにある小さな公園『紅い鳥公園』。遊具など何もない。ただ周囲に柵を立てて囲っただけの、空き地にしか見えない公園。


 そこに、私は毎夜通っていた。理由は、夜空がキレイに見えるからだ。ここは丘の上。街の外れにあり、周りには街灯すらもない。夜になるとここは真の闇が訪れるのだ。私はこの暗闇と、晴れた空に広がる夜空を眺めるのが好きだ。この時だけは、世界に色が感じられる。現実の喧騒から離れ、この一時だけの夢の世界に浸る。これが私の唯一の癒やしだ。


 いつもの通り、公園の中心で夜空を眺めながら缶コーヒーを飲んでいると⋯⋯。


 《⋯⋯か⋯⋯⋯⋯て》


「⋯⋯ん?」


 声?こんなところで?


 周囲を見渡す。だが、人影は見当たらない。そもそも、ここでは街の喧騒も届かない。音がしたらすぐに分かるはずだ。

 だが⋯⋯。


 《⋯⋯が⋯⋯⋯⋯た⋯⋯》


「やっぱり聞こえる⋯⋯」


 空耳じゃない。確かに聞こえた。誰かの声だ。


「⋯⋯誰だ。誰が呼んでいるんだ⋯⋯」


 《⋯て、⋯⋯⋯の⋯⋯い⋯⋯て》


「⋯⋯⋯⋯っ」


 くらっ。


 視界が歪む。眠気が襲ってきた感覚と似ている。だが、それの非じゃない。一気に意識を持っていかれる。




 からん。からから⋯⋯。




 その場には、中身が少しだけ残った缶コーヒーだけが残されていた⋯⋯。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ