挨拶にブランクなし。
前回までのあらすじ
翔太は悩んでいた。裕哉との同盟を結ぶかを。裕哉は急に戦いを仕掛けてくる奴だ。本当に信じていいのだろうか?そんな折、翔太は同盟を結ぶか否かノートになにやら書き込みだした。
「おはよう。」
翔太は、いつも通り校門を通過し朝の挨拶をする先生に返事を返した。
「はぁ〜」
大きな欠伸が出る。
それもそのはず、昨日は夜更かしして考えていたのだ。ーそう、同盟を結ぶかどうか。
欠伸を繰り返しながら、翔太は自分のクラスへと入った。
「よう、翔太!」
「おはよう」
クラスの友達が翔太を見るなり挨拶をしてくれる。翔太はクラスでそこそこ有名人だった。彼は、その明るい人柄で人を笑わせるのが得意だった。
だから、昨日の高橋さんの話をした際も、翔太の得意の『お笑い』かと流したのだ。
まぁ、そんなわけで誰も翔太に昨日の話に踏み込む者は居なかった。
……ただ1人を除いて。
そう、裕哉である。
彼は翔太が学校に着くよりも早く席に着いていた。それも自分の席に座るでもなく、彼は翔太の席に座っていた。
そして、翔太をみつけるなり
「おはよ!」と声を掛けてきた。
…ウザ
それが翔太の心中だった。
ニコニコ笑う裕哉の笑顔にムカついた。勝手に自分の席に座られていることにムカついた。
何より、裕哉のせいで昨日寝不足になったのに全く、当の本人はそれを意に介さない振る舞いでムカつきを通り越し呆れていた。
「おはよう。」
まぁ、色々言いたいことはあったが翔太は裕哉に挨拶を返し、「そこ俺の席ね。」と言った。
すると、裕哉は「うん、うん。分かってるよ。それよりさ、どう?」と返してきた。
分かってるならどけよ…とは、思ったものの、翔太はそれを口には出さない。
出すだけ無駄だと翔太は知っていた。
それより重要なのは裕哉の「それより、どう?」という質問だ。
裕哉が聞いてくることなど一つしか無いのだから。
翔太は無言であのノートを裕哉の前で広げた。
「なにこれ?」
裕哉は突然目の前にノートを出され困惑した。
しかし、すぐさまノートに書かれた内容を読んで、「ほ、本当に?」 と返した。
翔太は「あぁ、本当だ。」と返した。
「やったー!同盟成立だー!」
裕哉は大きな声で叫んだ。
クラス中が裕哉を見たが話し相手が翔太だと知ると、また翔太が面白い話でもしているのだろうと気に止める者はいなかった。
翔太のノートには『同盟を組む。』と書かれそれを囲むように赤いペンでグルグルと丸がされていた。
その下にはなにやら落書きのような物がある。
裕哉は「その下に書かれてるのは?」と聞いた。
「クジだ。」翔太は質問に答える。
その落書きのようなものは、あみだくじだった。縦棒が3本引かれ横棒が無数に引かれている。そしてスタートになる縦棒線の上には1〜3が書かれ、ゴールとなる対には、『結ばない。結ぶ。結ばない。』と書かれていた。
結ぶ、結ばないは同盟のことだ。
「なんで、あみだくじのゴール2つが結ばないなの?」
裕哉の言う通りだ。同盟を結ぶか結ばないの二択なら、縦線を2本引いたあみだくじを作ればいい。それなのにノートに書かれたあみだは縦棒3本で、3分の2が『結ばない』だった。
翔太は考えていた。本当に彼を信じていいのかと。
そしてもうよく分からなくなり、同盟を結ばないという選択肢を多くすることで結果を受け入れることにした。
そして、あみだくじの結果は3分の2の確率で『結ばない』へと導かれた。
「…てか、結ばないになってるけど。」
裕哉は自分の指であみだをなぞり、答えを確認する。「うん、間違ってない。」と呟いて。
「あぁ、確かにあみだくじは結ばないに辿り着いた。」
翔太は夕べの事を思い出す。
「うーん、やっぱり結ばないになったか。」
翔太にとって目の前の結果は予想していたものだった。それもそのはず、3分の2で『結ばない』に行き着くのだから。
それでも翔太は、結果を受け入れることができなかった。
何故だろう?考えれば考えるほど分からなくなる。メリットは沢山ある。けれど裏切られるリスクもある。
「あみだくじの結果はなんだったんだ。」翔太は頭を抱えた。
ふと、頭を抱えた右手を見やる。
そうだ裕哉は言っていたじゃないか。
クラスで、翔太が嘘つき呼ばわりされたとき、彼だけは信じてくれた。まぁ、今思えば裕哉も駄菓子戦争を知っていた訳だが、それでも彼は最後にこう言った「友達だ。」と。
それが同盟を結ぶ決定打となった。
「俺たち友達だろ!」
翔太はそう言うと裕哉に右拳を突き出した。
「今度は裏切りなしだ!」そう言って戸惑う裕太の右手にぶつけた。
「同盟成立だ。」
翔太はにこやかに言った。