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008 天才軍師の罠により俺の地位が空高く炎上した件

カノンが誘拐された。


俺、カノン、ラキエルで路地裏を歩いていた時に、襲われた。

カノンとラキエルには弱い女性を振る舞ってもらい、俺はラキエルを守るように動いた。

結果、カノンは馬車に連れ込まれ、誘拐された。


ラキエルには普段隠している羽を出してもらい、空からカノンを追ってもらった。

夜なので、空を飛んでも目立つまい。


ルートが屋敷の外に出ないので、ルートを狙った誰かが痺れを切らして動いたところを、こちらが狙ってやった。

つまり、計画通り。


カノンはヒール持ちで、規格外の強さを持っている。

例え後ろ手にロープで縛られていても、牢屋にぶち込まれていても、自力で抜けられるだろう。


最初からそいつを潰すつもりでいた俺は、ラキエルが戻るのを待って、計画を次の段階に移す。


仲間が誘拐されたので取り返しに行く、という大義名分が出来たので、次は敵のアジトを襲撃する。


俺、ルート、ラキエルのグループ。

ジャンヌ、マリア、アンナ、アリスのグループ。

カチコミの際、この2グループに別れて動く。

ちなみにセイカさんはお留守番。この件に巻き込むのは気が引けたし。


敵のアジトは、やはり結構大きなお屋敷だった。


ラキエルが神眼のスキルでも使ったのだろうか、カノンの大体の位置を特定する。

俺のグループは地下に向かい、ジャンヌのグループは上の階の、一番偉い人が居そうなところに向かう。


地下には、牢屋がいっぱいあった。

そのほとんどが無人だった。

まずはカノンを見付け、牢屋を壊して合流した。


そして全ての牢屋を探ってみると…。

もう1人、牢屋に入れられている人がいた。


ナイスバディで全裸のエルフだった。

ジロジロ見てもアカンので、牢屋を壊した上で、ここは同じエルフであるルートに任せることにした。


ルートに渡したローブを着るエロフ…ではなくダイナマイトエルフ。


1階の屋敷の入口まで戻ったところで、上の階から、ロープで縛り上げた貴族を連れてきたジャンヌのグループと合流した。


「何をする貴様ら!」

貴族がそれはそれは文句を言いまくる。

「あぁ、こいつを誘拐したからな。お前の屋敷にいたのだから、お前主導の誘拐の犯人なのは間違いないな?」

「知らん!そんな女!」

しらばっくれる貴族。


ここでマリアさんが前に出る。

「私の前でも同じことが言えますか?」

「誘拐というのは何の…話…あ、あなた様はもしや…マリア殿下?」

誘拐の証拠もあり、国の王女であるマリアさんもいて、膝を突き観念する貴族。


もう1つの方も、確認しないといけないな。

「ルート、そちらはどうだ?」

ルートに、牢屋に入れられていたエルフの様子を聞く。

「エルフの女王様で在らせられました。一刻も早くエルフの村に帰りたい、とのことです。」


えーと、どうしよう。

少し考えをまとめ、行動に移すことにした。


「マリアさん、その貴族についてお願いできますか?」

「はい、それは構いませんが…ナツキ様は?」

「俺はこれから王様に会いに行きます。下手したら戦争に発展する可能性もありますし。」

「せ、戦争?」

「話は後で。」


あの貴族がエルフの女王を誘拐し、そして政治に利用か、何らかの交渉に利用しようとしていた。

例えばこういう構図だったら、エルフ達は激怒モノだろうし、人間と戦争になっても不思議ではないと思う。

どちらにせよ、エルフの女王をすぐにエルフの村に戻さないといけないだろう。


「…と考えており、事の重大性から、王様にご報告差し上げた次第です。」

王様との謁見の許可が下りた後、俺の考えをすぐさま王様に伝えた。

「ふむ…エルフの女王よ、ワシの国の者が大変申し訳ないことをした。」

頭を下げる王様。

「あなた達は取り返しの付かないことをした。後で後悔すると良い。」

「な、ナツキ殿、後は任せた。」

あ、王様、逃げたな。


「それでは女王様。今日はもう遅いので私の屋敷で休んでもらい、明朝エルフの村にお送りいたします。」

「うむ。」


翌朝。

俺、ルート、カノン、ラキエル、女王様でのエルフの村への道中。

馬車の中の空気が重い。


「女王様。我々に何か出来ることはありませんか?」

「私の村を見て、あなた達が何をしたのか、理解してください。」

取り付く島が無い。


「女王様。ご主人様は信用に値する人族の1人です。」

「奴隷の同胞にそういうことを言わせるなんて、最低ですね。」

ルートがフォローを入れてくれようとしたみたいだが、逆効果だった。


道中ずっとこんな感じで、険悪な雰囲気の中、馬車はエルフの村に着いた。


エルフの村。

なぜこんな状況になっているのだろうか。

村のエルフ達の身体が溶けていて、血の臭いが蔓延していた。

中には、関節部分が溶けて、手や足が身体から離れている重症なエルフもいるようだ。

目、耳、指先などが溶けて痛々しく見えるエルフもいるようだ。


「女王様。これは何か病気の感染ですか?」

何か危険なウイルスが蔓延しているとしたら、俺達もかなり危険だ。

「私が来た時点で症状の進行は止まりますが、身体は元通りになりません。」

女王様は続ける。

「これが、あなた達がした、取り返しの付かないことです。」


なるほど。ここまで重症な人がたくさんいると、もうどうにもならないな。

普通なら、の話だが。


「可能な限り、俺達で治療してみます。」

女王様の返事を待たず、俺達は動き出した。


回復スキル持ちは…。

俺のヒール。レベル不明。

ルートのヒール2。

カノンのヒール10。

ラキエルはヒール無し。


「ルートとカノンは一緒に行動してくれ。ルートのヒールで回復できればいいが、ダメならカノンのヒールで治してくれ。」

「「はい。」」

「ラキエルは俺と一緒に行動だ。」

「お、おう。」


次々とヒールで治していく俺達。

だがいかんせん、治すべきエルフの人数が多過ぎる。

俺のMPはステータスウインドウでは30と表示されていて、ヒールを使うたびに1ずつ減っていき、0になっても、ヒールを使い続けることが出来た。


いつまでヒールを使い続けることが出来るだろうか。

そんな不安の中、俺はヒールを使い続けた。

途中ふらついたりもしたが、それでもヒールを使い続けた。


案の定、限界が来た。

見える範囲で最後の1人に対しヒールを使った時、それは起こった。

意識が無くなる感覚。

「ラキエル、後は頼んだ。」

俺はそう言い残し、抱き止めるのを期待してラキエルの方に倒れ、完全に意識を失った。


目が覚めた時、俺はベッドに寝かされていた。

周りの明るさから、もう俺が倒れて翌朝になったことが伺える。

上体を起こし、周りを確認しようとするも、頭が痛くてそれどころではなかった。

頭を抱えているところに、ルートが抱き付いてきた。

「ご主人様、無理しないでください。」

「わ、分かったから…頭痛い。」

「すすすすいませんご主人様。」

ルートが離れる。

あぁ、つまりあの感触も離れ…ん?今俺、何を考えていた?


「ご主人様、失礼します。」

ラキエルが顔を近付けてくる。

これはキスする流れかと思ったが、ラキエルの目が一瞬光っただけで終わった。

そうこうしている内に、頭の痛みが引いてきた。

「私の神眼で、ご主人様の頭痛を何とかしてみました。」

「おお、そうか、ありがとうな。」

神眼ってこういうことも出来るのか?便利だな。


「よし、じゃぁみんな、帰るとするか。」

エルフの女王様をエルフの村に送り、もうここでやり残したことは無いはず。

と、帰り支度をしていたところに、エルフの女王様が入って来た。

また辛辣な言葉をいただくことになるのかな。

「まずは昨日の数々の非礼について、お詫び申し上げる。」

女王様が土下座しながら謝罪してきた。


大慌てで俺は女王様を起こす。

女王様に土下座させたとあっては、エルフと人族の間で、本気で戦争になりかねない。

「女王様が我々に土下座する理由は無いと思いますが?」


「本当は、我が民の惨状を見せ付け、取り返しの付かないことをしたと思い知らしてから、後悔させてやるつもりでした。」

エルフの女王様は語り始めた。

同胞を奴隷にし、大怪我させた貴族。

それをネタに、貴族に連れていかれることになったこと。

しかしエルフの奴隷なんてどこにもいなかったこと。

本当のことかどうか怪しいが、貴族が言うには、一時的に奴隷商に売って後から買い戻すつもりだったが、既に買い手がついてしまっていたとのこと。

すぐに村に戻る予定だったのに、貴族が女王様を監禁してしまったこと。


エルフの村では、長期間女王が不在だと、エルフ達の身体が溶けるという原因不明の病が蔓延する。

これはエルフの村限定で、他の街に行ったエルフ達には影響がないとのこと。

これはエルフ限定で、エルフ以外の種族には影響がないこと。


この病が発症したら、段階を踏んで悪化していく。

第1段階:身体の節々に激痛が走り、身体を動かせなくなる。

第2段階:身体の節々の感覚が無くなる。

第3段階:関節の細い部位(腕、足、手首、足首など)が、溶けて分離する。

 また、目や指先など、神経の末端に当たる部分も溶けていく。

第4段階:出血多量、またはショック症状により死亡する。


第3段階まで進行すると、上級ポーション(ポーション、レベル3)でも治せなくなる。

第2段階までに治療できたとしても、女王が不在の場合だと再発してしまう。

女王が村に戻ると、この病が新規に発症しなくなる。


しかし、この絶望的な状況を俺達がひっくり返してしまったことにより、状況が大きく変わってしまったこと。


「まずは、民全員を治療いただき…しかも倒れるまで尽くしていただき、感謝いたします。」

「それは人族の尻拭いをしたまでのことで、感謝される謂れもありません。むしろこちらが謝罪すべきことであり、あの治療でどこまで以前の状態近くまで戻せたのか…。」


エルフ達の惨状については、あきらかに人族に責任がある。

本当は件の貴族のせいなのだが、エルフ達がそれで納得するわけでもないだろうし。

そしてたまたま、状況を覆せる俺が来て、状況を覆しただけの話。


「それでも、あなた様に何か釣り合うものをお渡ししたいのですが、お渡しするものが…。」

「俺がしたことは、人族がしでかしたことに対するケジメだし、礼は不要です。」

「でも、それでも…。」


最初に比べ、大分丸くなった感じのする王女様。

ルートの時も同じだったな。

エルフというのはそういう種族なのかもしれないな。


「ではこうしましょう。エルフ族と人族の関係が良かろうが悪かろうが、俺達がこの村を訪れた際は客として迎え入れて欲しい。」

実はこのエルフの村は、他の街と行き来する際に便利な場所にある。

「あなた様は、エルフ族と人族の改善を望まないのですか?」

それはもっともな質問だな。

「それは女王様とアゼニア国王との間で解決すべき問題です。今俺がそれを望むのはフェアじゃないでしょう。」

「…分かりました。少々お待ちください。」


女王様は少し考えた素振りを見せ、部屋の外に出て行く。

そして20分ぐらい経っただろうか。


「お待たせしました。村を訪れた際、ナツキ様は私の友人として優遇いたします。」

「ちょっ、女王様の友人ってそれ程高望みは…いえ、いいです。」

単なる客人で良かったのだが、友人でもいいか。

「そしてこれをアゼニア国王にお渡しください。」

女王様から手紙を渡された。


「最後に…エルフの村に入るには、森の結界を抜ける必要があります。」

エルフの村は巨大な森に囲まれており、入っても元の場所に戻されるとの噂だったが、結界か…。

「森の結界を抜けるための加護を、これからナツキ様に授けます。」


おもむろに女王様が俺に近付いて来て、両手でがっしり顔を掴む。

そして近付いてくる顔。

先程のラキエルみたいに、目が光ったりはしなかった。

そして…。


ズキューーーン!

効果音で表現するなら、多分これだろう。


俺はあっさりと女王様に唇を奪われてしまった。


「これでナツキ様に『風の加護』が付いたと思います。そして次に…。」

またしても女王様にキスされてしまった。

今度は俺も引き剥がしに掛かるが…無理だこれ。上手く腕に力が入らない。


「エルフの女王である私、リーフは、ナツキ様に結婚を申し込みます。私の全てを差し上げたいと思います。」


1分ぐらい経っただろうか。

誰も何も言えなかった。


「えーと『風の加護』ですね。あと手紙。これで用件が済んだ。ヨカッタヨカッタ。」

俺は無理矢理沈黙をぶち破り、結婚がどうとかというのを無かったことにしようとした。


「あと結婚のお返事もお忘れなく。」

無かったことにできなかったーー!!


「女王様、俺は結婚なn…」

「私のことはリーフとお呼びください。」

「えーと…ではリーフさん、俺は結婚して誰かの人生を背負うには、覚悟とか、いろいろと足りないものがあるので、今は誰とも結婚はできません。」

俺は今の自分の気持ちを正直に話した。

「『今は誰とも結婚はできない』のですね。それだけ聞ければ十分です。」

意味ありげなことを言うリーフさん。


そういえば『風の加護』とやらが手に入ったんだよな。

自分のステータスウインドウを開いて確認してみる。


■パッシブスキル

・神の黄昏1

・勇者の黄昏1

・魔王の黄昏1

・魔人の黄昏1

・他言語翻訳1

・風の加護1


おお。増えてる増えてる。

ルートは確か、風の加護のレベルは5だったよな。

さすがに贅沢は言えないか。

というか本当にレベル1なのか怪しいけどな。


こうして俺達はエルフの村を出発することになった。

馬車なのだが、途中、すれ違うエルフ達に深々と頭を下げられた。


アゼニア国。

国王にエルフ王女リーフさんからの手紙を渡した。

手紙に目を通す国王。


「…明後日、代表者会議を開く。ナツキ殿も参加するように。」

「えーと、不参加というわけには…?」

「ナツキ殿は、ナツキ殿が思っている以上に、この国への強い影響力を持っているのじゃが、その自覚はあるかの?」

「いえいえいえいえ、俺なんかにそんな影響力があるわけないじゃないですか。」

「ナツキ殿の影響力は最早ワシですら無視できない程、大きいものになっておる。だからこそそれを自覚してもらうため、代表者会議に参加して欲しいのじゃ。」

「わ、分かりました。」


とても代表者会議の参加を拒否することが出来る雰囲気ではなかった。



少し話が逸れるが、この国では、大まかに星の形で街が配置されており、その中心に城と城下町がある。

城の南方にエルフの森が広がっており、その中にエルフの村がある。

エルフの森には結界が張られているため、許可なき者には、エルフの村に行くことはおろか、森を通り抜けることすら不可能となっている。

そのため城から南西または南東の街に行くには、エルフの森を迂回しなければならず、西ないし東の街を経由するような経路となる。


ちなみに北の街はイスニア。

城(国)の名前はアゼニア。


…俺は誰に説明してるんだろうな。



代表者会議。

街毎に、重要な役職に就いた者たちが集まる。

主に領主やギルド長などが集められる。


さすがにルート達を連れて来るわけにも行かず、俺1人だ。


「マリアさん、俺の場違い感。」

「ナツキ様、大丈夫です。」

「もう帰っていいよね?」

「私と結婚していただけるのでしたら、そう取り計らいましょう。」

「アカン、マリアさんが意地悪する。」

「ふふっ、観念して私と結婚してくださいね。」

「結婚しないけど助けて欲しい。」


などとマリアさんと冗談を言い合っている内に、会議のメンバーが集まってくる。

見知った顔といえば…イスニアの冒険者ギルド長のジャンさんと、受付のミラさんぐらいか。

ん?ギルドの受付の人でも出席するのかこの会議?

王族は、王様、女王様、そしてステラさん、レイナさん、マリアさんの3姉妹で全員出席か。


なお、机は王族用と、街毎に別れている。

で、なぜか俺はマリアさんの隣に座っており、つまり王族用のテーブルに座っている。


会議の開始時間となり、王様が話し始める。

「忙しい中での集まり、大儀である。そこで皆に報告がある。ナツキ殿。」

急に名前を呼ばれて、慌てて立ち上がる。

「この者に大公の地位を授け、タンブル伯爵の資産を全て引き継がせるものとする。」


王様、何言ってるの?

王様の言葉の意味が、頭の中に入って来ない。

王族以外のこの場の全員もザワザワとしている。


「うむ、ナツキ殿の6つの功績を説明する。」


「我が娘マリアの切断された足の治療。」

「魔人ガンドロの討伐。」

「魔人ガンドロに殺された我が娘ステラとレイナの蘇生。」

「我が城下町のタンブル伯爵が監禁したエルフ女王の奪還。」

「エルフとの戦争の回避。」

「エルフとの交渉窓口役。」



王様の説明によると…。

マリアさんはカニ型のモンスターに足を斬られ、大量出血で命を落とすところを、俺の治療によって助かったこと。


マリアさんのパーティではとても魔人ガンドロに敵わないところを俺が倒して、国が助けられたこと。

ちなみに事情があって魔人ガンドロは公式にマリアさんが討伐したことになっているが、実際には俺が討伐していること。


魔人ガンドロに殺されたステラさんとレイナさんを俺が生き返らせたこと。


タンブル伯爵が監禁したエルフの女王様を俺が助けたこと。


俺がエルフの女王様とうまく交渉して、人族とエルフ族との関係を大きなマイナスから、ゼロ近くまで戻したことにより、戦争を回避したこと。


人族とエルフ族との関係が改善されたが、それでもエルフは人族に対して一切の交渉事を受け入れないことを明示している。

ただしエルフの女王様の、唯一の人族の友人である俺が窓口になるのであれば、交渉事を検討しても良いこと。


王様の説明ではこんな感じだが、一部、事実と違うような…でもこの方が説明としては分かりやすいのかもしれないな。



そして、王様は残りの説明に入る。

「ナツキ殿には、我ら王族に次ぐ地位である大公に任命する。」

「つ、謹んで拝命いたします。」

王様直々に勲章のような物を渡されそうになり、断れる空気でもない以上、俺はそれを受け取るしかなかった。


「次に、エルフの女王を監禁していた件で、タンブル伯爵からはその資産と爵位を没収とし、牢入り3年の刑に処する。」

あー、あの貴族、こういうことになったのか。

「そしてタンブル伯爵から没収した資産を、ナツキ殿…いや、ナツキ大公に全て引き継がせる。そして最後に…。」

ん?まだ続きがあるのか?

「タンブル伯爵が引き受けていた公務も、ナツキ大公に全て引き継がれる。」

な、何だってーー!


「以上だが、何か質問や異議などはあるかの?」

「魔人を討伐する程の力、部位欠損の治療、死者蘇生の3点について、にわかに信じられない。実際にその力を示して欲しいが、どうだろうか。」

「大公の地位というのも反対だが、しかしその力を示してもらえれば反対する者もおるまい。」

やはり俺なんかが大公とか反対だろうと思っていたが、王様の言うことが全て本当なら、受け入れてくれる準備があるような感じだった。


「他に異議などはあるかの?」

しーん。

と効果音が聞こえてきそうな程、みんな沈黙してしまった。


「それではナツキ大公にはその力を示してもらうということで満場一致じゃな。」

「これについては、俺から提案があります。」

方向性が決まったところで、俺も自分の考えを示すことにした。


「部位欠損した人や、事故などで丁度死んでしまった人などが、そうそう都合良く現れたりしないですよね。」

周りの人々を伺い、半分ぐらいは首を縦に振っていた。

「そこで、信頼の置ける者を何人かしばらくの間、俺に同行してもらい、該当する場面に出くわしたら俺が力を使い、同行者に判定してもらう、というのはいかがでしょうか。」


「わしもそれで良いと思う。」

おお、王様の同意を得られた。

「あとは、誰を同行者に任命するかじゃの。」


しばらくの沈黙の後…。

「あー、俺はイスニアの冒険者ギルド長ジャンだが、このミラを推薦する。」

「ちょっ、ギルド長!」

突然推薦され、焦るミラさん。

「ミラは、イスニアの冒険者ギルドの受付担当だが、真面目で仕事をコツコツと確実にこなすタイプだ。」

「あい分かった。イスニアのミラとやら。頼めるかの。」

「わ、わ、わ、分かりました。この不肖ミラがお勤めさせていただきます。」


「あとは…そうじゃのぉ…タンブル伯爵の担当していた憲兵詰所の、憲兵長に見てもらうのはどうかの?」

「魔人を討伐できる程の力があるかどうかを見極めるのに、丁度良いと思われます。」

憲兵詰所…って俺の屋敷の隣にあるじゃん。

あそこも今後は俺の管轄になるということか。


「では、ミラと憲兵長には、同行者として任命する。憲兵長にはナツキ大公から指示をするように。これで代表者会議を終了する。」



大公とか、どうしてこうなった。

色々と考えることはあるが、まずは…。

「ミラさん、明日、俺の屋敷まで来てもらえるかな。」

「はい、分かりました。ナツキ大公様。」

「ミラさんも意地悪ですね。今まで通りナツキさんでいいですよ。」

「ばれましたか。分かりました。ナツキさん。」

ミラさんも結構冗談を入れてくるなあ。


よし、次にやるべきことは…。何だ?

…とりあえず屋敷に戻って一休みだ。


「ご主人様、お疲れ様です。」

ルートが俺の肩を揉みながら労ってくれる。

「ところで、エルフの女王様とはお楽しみでしたね。」

「あ、あれは風の加護を受けるためであって…。」

「いえ、別に羨ましいとは思っておりません。」

後ろから抱きしめてくるルート。


俺はルートを自分の前に持っていき、膝の上に座らせる。

そして頭を撫で撫で撫で撫で。

「ちょっ、ご主人様、何を…ふにゃぁ。」

頭を撫で撫で撫で撫で撫で撫で撫で撫で。

「そんなことで誤魔化され…ふにゃぁ。」

かなりの力技だが、嫉妬モードやヤンデレモードになったルートを治すにはこれは1番。

「ご主人様。分かりましたからお止めください。」

頭撫で撫でを止める。

「それはずるいです。もー。」


「それはさておき、俺の独断でルートに酷いことをした奴を懲らしめた。」

「え?それはどういう…」

「リーフさんが監禁されていた屋敷は覚えてる?」

「はい。カノンさんが連れていかれた先ですよね?」

「あの屋敷の主、タンブル伯爵こそが、ルートの右目と左腕をダメにした張本人だ。」

「あ、あの屋敷…が…。」

「本当はルートと同じ目に遭わせるつもりだったが、リーフさん監禁というエルフとの戦争が起きかねない状況になってしまったから、そっちの方で罪を償わせることにした。」


「つまり、タンブル伯爵は牢屋入りとなり、例え外に出たとしてももう権力がないただの一般市民だから、もし心配だったとしてももう心配する必要はなくなる。」

「………」

俺の膝の上に座っているルートがこちらを向き、無言で抱き付いてきた。

そんなルートの頭を優しく撫でてやった。


ルートが落ち着いた頃、俺は次の行動を起こした。

次にすべきことは…。


ルート、カノン、ラキエルを連れ、タンブル元伯爵の屋敷に行く。

ルートには辛いかもと思ったが、ルート自身が志願したので、同行することになった。

歩いて行くつもりだったが、さすがにマリアさん側のメイドに呼び止められ、馬車での移動となった。


タンブル元伯爵の屋敷の入口で、メイドさんに声を掛けられた。

「ナツキ大公様、お話は伺っております。今すぐ全員集合させますね。」


余談だが、ある程度のお金持ちの屋敷では、通常のメイドを雇うのではなく、奴隷を買ってメイドの役割をさせることが多いらしい。

長期間の場合、奴隷を買った方が安上がりになることと、奴隷の場合は屋敷内での窃盗などの心配が無いのが大きな理由らしい。


タンブル元伯爵の屋敷では、奴隷のパターンだった。

メイドさん達全員が奴隷であり…そういえばなぜ全員集合させたんだっけ?


「我々はナツキ大公様に譲渡されるとのことですので、改めて奴隷契約を結び直します。」

ちなみに、奴隷の首輪を付けた者が主従契約の旨を口頭で誓うと、契約が完了となる。

こうしてタンブル伯爵の奴隷だったメイドさん達、総勢40名が、俺の奴隷となった。


「タンブル伯爵がしていた仕事を全て把握している者から話が聞きたいのだが。」

「かしこまりました。ご主人様。」


そんなこんなで、タンブル伯爵がしていた仕事の内容を確認することができた。


■公務

・憲兵の運用(詳細は憲兵詰所にて。)

・教会の運用(詳細は教会にて。)

・地下下水道の管理(詳細は下水道管理棟にて。)

・エルフ族との折衝


■公務以外のお仕事や収入等(詳細は商人ギルドにて。)

・特定区画の露店の土地使用料徴収

・特定の建物の土地使用料徴収

・特定の建物の使用料徴収または家賃収入

・奴隷転売

・野良奴隷の確保と売却


野良奴隷の確保?何か危険な臭いがするな。


「で、裏の仕事についても何をやっていたか教えてくれ。」

タンブル伯爵は、法に触れるような仕事もやってたんじゃ?と俺の勘が働く。

「…かしこまりました。」


■裏のお仕事

・教会に引き取られた孤児を奴隷化して売却

・スラムにいる身寄りの無い子供を拉致、奴隷化して売却

・犯罪者の逃亡幇助(地下下水道による逃亡ルートの確保)

・その他多数


裏の仕事って本当に犯罪じゃないか。


俺はメイドさん達を全員集め、確認とか宣言とかしてみた。

「まずは、タンブル伯爵が主だった時にやっていた裏のお仕事については、今後は一切やらなくていいです。やれと命令を出さないし、むしろ禁止します。」

メイド達が互いの顔を見合わせ、そしてこちらを向き、深々と礼をする。


「次に、例えば今俺が指示を出さなくても、みんなは大丈夫かな?仕事が無いって人はいないかな?」

「それは大丈夫だと思います。」

メイドが一人、一歩前に出て発言する。

「君の名前は?」

「私はエレノアと言います。リーダーではありませんが、一番の古株になります。」


「そうか。では次の質問だが、この中に、敷地外に出て働く人はいるかな?」

「食事担当が食材の買い出しに行くことはありますが、それ以外は敷地内での労働となります。」


「なるほど。では、敷地内ではどんな仕事をしているか、教えてもらえるかな?」

「分かりました。」


エレノアが言うには、清掃、洗濯、ご主人様のお着替え。

食材の買出しと3食の食事の用意。

夜伽。

夜と深夜の見回り。

待機、仮眠、労働無しの休日。


これらをローテーションしてるとのことらしい。


ん?お着替え?夜伽?


「エレノア、今後、着替えと夜伽は無しにしてもらえるかな?」

「以前のご主人様に仕込まれたこの技、ご主人様にもご満足いただけると思いますが…ぎゃふん!」

エレノアにチョップを食らわしたら、すごい声が出てきた。

「すまん、軽くやったつもりだったが、痛かったか?」

エレノアの頭を撫でる。

「いえ、大丈夫です。」

エレノアの頭を、撫でる撫でる。

「あのご主人様…?」

エレノアの頭を、撫でる撫でる撫でる。

「えーと…ご主人様、そろそろ…。」

「おお、やりすぎた。で、何だっけ?」


「言葉が足りなくてすまんな。俺はこの屋敷でなく、元から所有している屋敷の方で寝泊りするから、着替えと夜伽は不要だ。」

「つまり、そちらの屋敷で夜伽をすれば…ぎゃふん!」

すかさずチョップを入れる俺。


何回か似たようなやり取りをした後、エレノアに着替えと夜伽が不要だと理解してもらった。

疲れたよ俺。


「よし、そろそろ帰るが、何かあるか?」

「いえ。今のところは大丈夫です。」

「分かった。そう言えば、俺達が住んでいる方の屋敷の場所は知ってるか?」

「えぇ、憲兵詰所のお隣でしたよね。」

「何か緊急の用があったら来てもいいからな。」

「ご配慮、ありがとうございます。」


こうして俺達はタンブル元伯爵の屋敷…いや、俺の第2屋敷を後にした。



それにしても、思わずには居られない。

どうしてこうなった、と。


大公って何だよ。

俺、王族を除いたらナンバー1の地位だよ。


もしこれでマリアさんと結婚したら、王族の地位まで手に入るし。

さすがにそれはコウメイ…いや、王様の罠だろうけど。


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