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004 火中の栗を拾おうとしたら俺自身が炎上した件

「人間よ!これ以上お前達の言うことは聞かない!私の身体をこんなにして!殺すなら殺せばいいわ!」

ヒールで治療する前の、ルートの言葉がまだ耳に残っている。

世界の全てを恨むような、あの憎しみの眼差し。


カノンとラキエルもそうだ。

レベルと引き換えにしないと命を長らえることができないぐらいに身体を痛めつけられている。

多かれ少なかれ、恨みを持っているはずだ。

それに俺の勘では、デタラメなレベルの魔王スキルと神スキルがあれば、多分、軽く世界を滅ぼせるだろう。

どちらにせよ、奴隷の制限を打ち破って俺を殺し、ありとあらゆる生物が根絶されるまで世界を破壊し尽くすことなんか朝飯前だと思ってる。

魔王スキルと神スキルにはそこまでの力があると、俺の勘が警告を発している。

ステータスウインドウからスキルの詳細が見れればいいんだけどな。


機会があれば3人の気持ちを聞いておきたい。


さて、まずは買い物だな。

その前に所持金の確認か。

ベッドに置いてあった俺のリュックサックを見たら、何故かパンパンになっていた。

このリュックは、俺が異世界に来た時に身に付けていたものだ。

しかも最近気付いたのだが、リュックのふたを左から開けると普通に使えるのだが、ふたを右から開けると異次元?につながるようになっている。

まどろっこしいので異次元側の方を『アイテムボックス』と呼ぶことにする。

ちなみに、通常通りのリュックの使い方をした時にだけ、リュックの膨らみが変わる。


リュックの中を確認したら何故かお金がザックザクだった。

今までにリュックの中で勝手にお金が増えることがあり、そういう時のための用意sた空の巾着袋をアイテムボックスから出し、お金を詰めていく。


いつもなら金貨、銀貨、銅貨を種類毎に分けて巾着に入れていくのだが、

今回は金貨ばかりで、金貨、金貨、金貨…と複数の巾着に金貨を入れていくことになった。

しかも初めて見る灰色のコインが何枚か混ざっていたので、それは選り分けておく。

金貨を全て巾着に入れた後、灰色のコインを見てみる。

銀貨に比べて輝きは落ちるけど、灰色で落ち着いた見た目になっており、描かれている模様が銀貨とは全然違う。


このコインについてステータスウインドウを開いてみる。


■白金貨

・金貨の1つ上の貨幣。

・金貨数千枚と同価値だが、金貨からの両替は不可。

・特定の店でのみ使用可能。


何かすごいの来た。

この白金貨12枚を巾着に入れ、全ての巾着をアイテムボックスに入れる。

そして自分のステータスウインドウを開いてみる。


■その他

・経験値0

・白金貨12(ギフト+12)

・金貨5281(ギフト+3274、奴隷購入-1200)

・銀貨17292

・銅貨2335

・奴隷3(購入+3)


条件がイマイチ分からないが、俺が何か条件を満たす行動をすると、ギフトという形で俺のリュックサックにお金が入るらしい。


とは言え、今回みたいにギフトで何千枚もコインが入るのは初めてだ。

いつもは多くても数十枚なのだが。

奴隷を仲間にしたことと関係あるのかな?

クエスト報酬とギフトで銀貨がかなり溜まったが、今回のギフトで金貨が大量に溜まったな。


さて、買い物に出掛けるとするか。

俺はあらかじめ入手していた、フード付きの全身ローブを3人に渡し、全身を隠すよう指示した。

奴隷商から買って、宿屋に連れてくるまでの間に部位欠損した状態の3人を多数の人に目撃されているはず。

ほとぼりが冷めるまでは、部位欠損レベルの怪我が治っていることを隠しておいた方が良いと考えての全身ローブだ。

部位欠損を治せること自体がとても珍しいことらしい。

それはマリアさんを治した時のアリスさんとアンナさんの反応から伺うことが出来た。

奴隷であることもある程度は隠せそうだし、ローブ便利。


そして俺達一行が最初に向かったのは、武器と防具を取り扱っている店だ。

まずはルートの装備を整えようか。

「店主、身軽なエルフに合う防具一式を見繕ってもらえますか?」

「あいよ、どの人のだい?」

「ルート。ローブを外して。」

ローブを脱ぐルート。


「こりゃ驚いた。奴隷のエルフなんて、余程の金持ちでないと買えないぐらい高価なはずだが…もしかしてあんた、貴族様かい?」

「いやいや平民ですよ。あ、あと武器は弓矢と小さめの剣を見繕って欲しい。」

「あいよ。」

よし、何とか話を逸らせた。


ルートが驚いた顔をしてこちらを見ていた。

が、何か思い付いたような顔をし、微笑んだ。

あー、教えられてもいないのに使える武器を当てられたことに驚いたのかな。

今までの俺の言動から、ルートは俺が他人のステータスを見ることが出来ることも気付いたんだろうな。


ルートには、軽くて薄いが頑丈な生地の服とローブにスニーカー。

ミニスカートなのは俺的にポイントが高…いや何でもないぞ。

店主が親指を立ててきた。この店主…デキる。

今まで裸足だったから、靴も見繕ってもらった。

あと弓矢を使う関係で胸当ても付けることになった。

弓矢や弓を引く時の腕が胸に当たるらしく、胸当ては必須らしい。


弓は矢が同時に最大3本まで撃てるものを見繕ってもらった。

小剣には、少し値が張るが、面白そうなものがあったのでそれを買うことにした。

ちなみにステータスウインドウで見るとこんな感じだ。


■魔法のダガー

・攻撃力80


■パッシブスキル

・MP自動回復1

・魔法の弓矢5


恐らく、魔法の弓と対になる武器なんだろうな。

魔法の弓を手に入れたら俺が使おうと思っていたが、ルートが使った方が良さそうだな。


次にカノンの武器と防具を店主に見繕ってもらう。

軽くて薄くて頑丈な生地の服とローブに靴、あと武器にはかざすとファイア1が発動するという杖を見繕ってもらった。

カノンの攻撃手段が、杖で殴るか、魔法スキルのダークウインドしか無かったので、ここを補強してみた。

この杖が役立つかどうかは、しばらく様子見だな。

ちなみにロングスカートだから期待はするなよ…って俺は誰に何を言ってるんだ?


ラキエルの武器と防具を店主に見繕ってもらう。

カノンに見繕ってもらったのと同じように服とローブと靴、あと武器にメリケンサック。

魔法使い系の武器が拳ってどうなんだろうな。

でも拳1のスキルがある時点で仕方が無いわけだが。

こちらもロングスカートで以下略だ。自分で何を言ってるのかよく分からないぜ。


あと俺は、予備に安物の剣と、盾と斧を買ってみた。

盾と斧のスキルがあるのだから、持ってても損はあるまい。

斧については、樹を切ることに特化したものを見繕ってもらった。

これで木の上にある素材を、樹を切ることで取れるんじゃないかなと。


店主に代金を支払い、お腹も空いてきたので、昨日マリアさん達に奢ってもらった食事処『ピンク亭』で昼食だ。

3人とも先程買った装備品のローブで、フードで頭も隠しながらの食事となったが、少し周りからジロジロと見られたな。


宿に戻り、部屋で落ち着いたところで。

「ご主人様。豪華な食事をありがとうございます。しかし私達奴隷の食事は…」

申し訳なさそうな顔をするルート。

多分、主と奴隷が同じ食事なのはありえないとか、奴隷の食事はもっと質素なものだとかって話だろうな。

「食事については遠慮しなくていいし、できれば慣れて欲しいかな。」

「か、かしこまりました。善処いたします。」


食事してる時に指摘してくれてもいいのにな。

あ、みんなの前で指摘したら俺に恥をかかせてしまうからか。


先程の武器防具屋で100本の矢を買ったが、半分をリュックのアイテムボックスに入れ、また買い物に出る。


次は雑貨屋に行くことにした。

店主に敷布団と掛け布団を3セット見繕ってもらう。

買った後3人に持ってもらい、近くの路地裏まで移動する。

「ご主人様、一体何を…?」

「あまり人目に付くと困るからね、こうすれば運ぶのが楽になる。」

俺はリュックをアイテムボックスモードで開く。

「ここに布団を入れて。」

3人とも俺のリュックに布団を入れていく。


早速宿に戻り、部屋でアイテムボックスから布団を出し、畳んだ状態で部屋の隅に置いておく。

その後俺は宿屋の受付で、3人分の宿代を先払いしておく。

1部屋で1人分だったのが4人分となり、宿代が増えて店主が大喜びだった。

店主が言うには、奴隷だからと宿代を値切ろうとする輩もいるらしいが、そんなことを一切しない俺の態度に漢気を感じたと、敬意を払ってくれた。


落ち着いたところで、今朝考えたことを3人に聞くことにした。


「3人に聞きたいことがある。言いたくなければ言わなくても良いからね。」

まずはルートから聞くことにした。

「やはり人間を恨んでいるよな?」


ここから、ルート無双が始まった。

「恨んでいましたが、ご主人様と出会ったことで…ご主人様の優しさに触れたことで考えを改めました。」

「人間の中には、ご主人様のような方もいらっしゃれば、理由も無く私の身体を傷付ける人もいます。」

「全ての人間が悪いというわけではないことを知りました。」

「ご主人様に出会えたことで私のボロボロの身体が全快しました。」

「ご主人様に出会えたことが私の幸せなのです。」

「ご主人様になら私の全てを差し上げられます。」

「ご主人様ご主人様ご主人様…」

ルートはヤンデレ属性か?

俺に抱き付き、ご主人様を連呼する。


「ルート、落ち着いて。」

「ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様…」

仕方ない、他の話題に移すか。

俺はルートの耳元でささやいた。

「エルフ王の証」

「え!?あっ、その…お休みなさい…スースー」

触れられたくない話題だったか。

ルートはあからさまに寝たフリをしてきた。


俺に抱き着いていたルートをベッドに寝かし、次はカノンに話を聞くことにした。

「俺の勘だけど、その気になればカノンは奴隷契約を打ち破り、世界を破滅に導くことができるよね?」

「ふふっ、それは秘密ですが、命を助けてもらい、スキルの制限を解いていただいた恩人に対して不義理なことはいたしません。魔王の名に掛けて。」

「そ、そうか…では最後の質問。魔眼で一体どこまで見えてる?」

俺が異世界から来たことを見抜いた魔眼スキル。

俺のステータスウインドウを見る能力でも見えなかった情報。

「私の魔眼には様々な能力がありますが、その1つとして、対象が周りに対して1番隠したいと思っている情報を暴くことができます。」

…何だそのトンデモスキルは。

でも俺はその言い方に違和感を感じた。

ステータスウインドウを見る能力というよりは、どちらかというと人の心を読む能力に近い気がする。

ちょっと試してみるか。


俺は心の中で、大声で叫んだ。

俺の心が読めない奴は右手を挙げろーーーー!!


結果、3人とも右手を挙げて、少しして『しまった』という顔をしていた。

何このコント。


「とにかく3人とも、人の心を読むなとは言わないが、俺達4人の助けになると思った時だけその力を使うようにしてくれると有り難いかな。」

「「「はい。」」」

シュンとするルート。心なしかカノンとラキエルもあまり表情に出ないが、シュンとしているように感じられた。


さて、最後にラキエルに話を聞くか。

「ラキエル、これは俺の勘だが、いつでも奴隷契約を無効化でき、その気になればこの世界を作り変えたりできるよね?」

「さ、さぁ何のことだか知らねーなー。」

あらやだ、この子、嘘が下手。

「ただ、カノンと同じように、ご主人様からの恩を仇で返すようなことはしねーから安心しな。」


魔王カノンは礼儀正しくしゃべるが、神ラキエルは乱暴な口調だ。

これ絶対に、魔王と神の性格が逆だよ。

ま、でもこちらの世界ではこれが常識なのかもな。


翌日。

俺の顔に、何か柔らかいものがあった。

触ってみると、そこには2つのお山が…ん?

「あん、ご主人様、朝から積極的ですね。」

ルートの声が聞こえてくる。

だんだん目が冴えてきて、よく見てみると…そこにはルートの身体が。


「ルートさんや、そこに座りなさい。」

「はい。」

「俺のベッドに入っちゃダメ。」

俺はルートの頭に軽くチョップをかます。

「あうぅ…はい。分かりました!」

嬉しそうにルートは返事する。

本当に分かってるのか、この子は…。


「今日やることを説明するね。」

俺は3人に、今日の予定を伝える。

「冒険者ギルドで討伐系クエストを受け、そしてクエストをこなしつつ、みんなの腕前を見せてもらう。」

3人とも首を縦に振る。

「あと、周りに人がいる場合は、基本的にローブのフードで顔まで隠し、極力声を出さないこと。ただし俺に伝えた方が良いことがあれば、声を出してオッケーだ。」


と軽く説明したところで、冒険者ギルドに向かう。

全身ローブにフードの3人を連れた俺は、街を歩くだけでかなり目立っているようだった。

やはりこれは異様な光景か。しかしこの目立ち方なら、今後の生活にも支障はないだろう。多分。


冒険者ギルドにて。

「ミラさん、このクエストを受けたいんだけど。」

いつも通り、複数のクエストをギルド受付のミラさんにお願いする。

「ナツキさん、ちょっとちょっと…」

ミラさんが手招きをし、近付いたところでヒソヒソ話になる。

「もしかして後ろの3人って…奴隷ですか?」

「はいそうですよ。もしかして何か登録が必要ですか?」

「いえ、奴隷は主の持ち物の扱いなので、登録は要らないですよ。」


…ははは、そういうことか。

俺は自分のステータスウインドウを開く。


■その他

・経験値0

・白金貨12

・金貨5339(ギフト+58)

・銀貨12014(武器防具食事宿代-5288、ギフト+10)

・銅貨2338(ギフト+3)

・奴隷3


奴隷がお金と同列の扱いになっているのは、奴隷が俺の『所有物』だということだからか。


…ふざけるな。


………ふざけるな!


この世界ではこういうシステムになっていて、これが当たり前で、これが常識なのだろう。

奴隷がモノ扱いで当たり前の、この世界。

分かっている。分かっているが。分かっていても、頭に血が上ってしまった。


強く握りしめる拳をルートがやさしく両手で包み込み、俺は正気に戻った。


「ナツキさん、大丈夫ですか?」

「あ、え、ええ、大丈夫です。クエストに行ってきます。」

「はい。お気を付けて。」


ミラさんには、どうやら俺の感情の変化に気付かれず、うまく誤魔化せたようだ。


今回受けた討伐系クエストは、どのモンスターも街の東の森に出るものに集中させた。

森の中、結構進んだところで、俺はみんなに説明する。

「ここら辺から、モンスターが多くなってくるから警戒してね。あとフードは取ってもいいよ。」

みんなフードを外して、臨戦態勢を取っていく。

「あと、ルート、さっきはありがとう。」

「いえ、恐らく私達のために、何かに対して怒りを感じていただけたのですよね?ありがとうございます。」


みんなの準備ができたところで、まずは…。

「あっちからモンスターが1匹来た。まずは俺がやるから見ててくれ。」

そしていつも通り、安物の剣でモンスターを真っ二つにする。


「俺がやるとこんな感じだ。みんなも1人ずつ…ど、どうした?」

3人とも目が点になっている。

「剣を振ったことに気付きませんでした。」

「魔眼で見ていましたが、腕の動きしか見えませんでした。人間ではありえない早さです。」

「神眼をもってしても、振り出しと振り終わりしか見えないとか…ご主人様は本当に人間なのか?もしかして異世界人はみんなこうなのか?」

うお、神や魔王にすら驚かれる程なのか。


なるほど。魔眼には様々な能力あるとか言ってたが、解析か見切りのような力もあるのかな。

神眼もどうやら複数の能力がありそうだ。


とか考えてる内に、もう1匹モンスターが襲ってきた。

狼…たしかウルフという名前のモンスターか。

「こいつも俺がやる。ワザと攻撃を受けるので、みんなは手を出さずに見ていてくれ。」

そして俺はワザと左腕を噛み付かせた。


「ご主人様!……え?」

ルートが心配そうな声を上げるが、噛み付いて離れずに俺の腕からブラブラとぶら下がるウルフを見て素っ頓狂な声を上げる。

右手の剣でウルフを真っ二つにする。


「さて、そろそろ俺のステータスをみんなに見せる時が来た。」

ワザとらしく仰々しく言ってみたが、まぁ3人とも神妙な顔をするだけで、言ってるこっちが少し恥ずかしくなってきた。

俺はリュックのアイテムボックスから水晶玉を取り出した。

街の入口や冒険者ギルドに置いてあった水晶玉と同じもので、ステータスを簡易表示するものだ。


水晶玉を左手で持ち、前に突き出し、3人に見せる。


■ナツキ(男)

・人族

・無職

・レベル1

・HP29/30

・MP30/30


■ステータス

・攻撃力1

・防御力1

・魔法力1

・素早さ1

・運1


「「「この水晶玉、壊れてませんか?」」」

まぁそうなるわな。

「冒険者ギルドにある水晶玉でも結果は同じだった。水晶玉は正常だ。」

「いえいえいえいえいえいえいえ、あの剣の攻撃をこんなステータスで、というかご主人様のレベルが1!?え?これ何ですか?この水晶玉壊していいですか?いいですよね?」

「どーうどうどうどうどう…」

興奮気味のルートの頭を撫でまくる。

効果は抜群だ。

「カノンとラキエルは、この現象について何か分からないか?」

2人は目を伏せ、首を横に振る。


「あともう1つ。俺はどうやらダメージを受ける際、0か1しか受けないようになっているらしい。」

「いえいえいえいえいえいえいえ、防御力1なのにそれは!やっぱり水晶玉を壊…あううぅぅぅ」

またルートが暴走しそうだったので、また頭を撫でて落ち着かせる。

「ご主人様、確か金属系のモンスターに、攻撃してもダメージが0か1しか与えられないのがいます。」

「アイツ、なんて言ったっけ?えーと…メッタメタのギッタギタ?」

「ちょっ、待った!今、俺の中で何か嫌な予感がしている。それ以上言ってはいけない、と。」

「ご主人様がそう仰るのであれば…。」

とりあえずカノンとラキエルを制しておいた。


「と、とにかく俺は攻撃を受けてもそんなにダメージは受けないわけだ。だから俺を回復させるよりも3人の回復を優先してくれ。」

「えっとそれは…」

ルートが不満そうな顔をする。

「俺自身ヒールを使えるし、そんな顔をするな。」

「わ、分かりました。」


「そういえば、魔眼と神眼に索敵能力ってあるの?」

「魔眼では、視認できれば200メートルまでの敵の存在が分かります。」

「神眼では、視認できなくとも半径50メートル以内の敵の存在が分かります。」

「なるほど…ちなみに敵の名前とかは分かる?」

「「そこまでは分かりません。」」

2人がハモッて答える。


「あの、ご主人様、よろしいでしょうか?」

「ん?何だ?」

ルートが珍しく会話に割って入ってきた。

「私にも、風の力で悪しき者の存在を感知することができます。」

「…風の加護、レベル5のことか?」

「やはりご主人様は、本人ですら知らないスキル名とレベルまで見えていらっしゃるのですね。」

「ん?もしかして、ステータスが見れる水晶玉以上の情報って、誰も見ることができないというのがこの世界の常識だったりするのか?」

「はい、その通りです。」

そ、ソウダッタンデスネー。

「この件については後で改めて説明する。とりあえず今日は狩りをしよう。」


危うく本題を忘れるところだった。

「次モンスターに遭遇したら、ルートが倒してくれ。弓、ウインド、ダガーでの攻撃を見てみたい。」

「分かりました。仰せのままに。」


しばらく歩いていると、ウルフ5匹と遭遇した。

ウルフに気付いた途端、速攻でルートは弓で3本の矢を射る。

今日買った弓は、3本の矢を同時に放つことができる優れものだ。


それぞれの矢がウルフに向かって一直線に流れる。

2本はそのままウルフ2匹を貫通して倒したが、残りの1本が面白い動きをした。

ウルフが横に回避したはずだが、その動きに合わせて矢も横に動き、ウルフを捕らえたのだ。

その後、接近戦となり、ダガーでウルフを1匹仕留める。


最後の1匹は警戒して距離を取るが、そこにルートがウインドを放つ。

風の刃が、ウルフの逃げ場がないよう、四方八方から襲い掛かり、八つ裂きにする。


「ルート。上出来だ。良くやった。」

更に頭を撫でつつ、ルートに耳打ちする。

「カノンとラキエルの力を見て、自分と比較して落ち込むことを禁止する。」

「え?」

「あの2人は魔王と神なだけあって規格外の力を持っている。」

「えーと?ご主人様。一体何の話を…?」

「とにかく、ルートがパーティにいてくれて俺は助かってる…それだけ理解してくれれば良いよ。」

「は、はい!」


「よし、次はカノン。ダークウインドと杖での攻撃を見せてくれ。杖での攻撃が辛いなら、ラキエルと交代。」

「ラキエルは、ファイアとライトイーター、あと拳での攻撃を見せて欲しい。」


宿屋の自室。

今日のモンスターとの戦いについて、反省会を開いていた。


「ラキエル。今後ライトイーターは俺の許可なく使用禁止。あれは燃費が悪い上、あの光景を見た人は下手したら一生モノの心の傷を負いかねない。」

「分かったぜ。」

「これはラキエルが悪いわけではない。今後の効率の良さを求める感じだな。冒険者ギルドで俺が受けるクエストで、ライトイーターを使うような強敵は出てこないからね。」


反省すべき点はこれぐらいしかなかった。


「3人とも、個々で戦っても強いし、パーティ組んでのバトル初日なのに連携も即興で対応できてたし、とても良かったと思う。」

俺は更に続ける。

「後は全員、いくつかレベルが上がれば、目的のクエストに挑戦したいかな。」

「目的のクエストですか?」

「あぁそうだ。洞窟の調査なんだが、みんなで行かないと無理だと俺は判断している。」

「そうでしたか。」


「それはそうと…今日の水晶玉の話は覚えているか?」

「はい。」

「俺の目に映るみんなのステータスは、これでも見ることができる。」

ステータスが見れる手鏡…ステータス手鏡と言えばいいだろうか。

それをルートに渡す。


「これは何ですか…あ、何か出てきました。」


■ルート(女)

・エルフ

・奴隷(弓使い)

・レベル10(LVUP+5)

・HP70/100(LVUP+20)

・MP34/180(LVUP+30)


■ステータス

・攻撃力7(LVUP+2)

・防御力7(LVUP+2)

・魔法力30(LVUP+10)

・素早さ60(補正+20、LVUP+20)

・運30(LVUP+10)


「あの、ご主人様、これ、下の方に続いてるみたいですけどどうすれば…?」

「あ、あぁ、こうするんだ。」

ルートにフリップ操作を教える。


■物理スキル

・弓10

・小剣2(スキル+1)


■魔法スキル

・ウインド2(補正+5、スキル+1)

・ヒール2

・キュア2


■パッシブスキル

・幸福になる資格100

・エルフ王の証10

・風の加護5

・竜殺し1


マジマジと手鏡を見るルート。

「ご主人様…この手鏡と同じものが、手鏡を使わずに見ることが出来るのですか?」

「あぁ、そうだ。」

「物理スキル、魔法スキル、パッシブスキルの情報は、分からないのが常識です。つまりご主人様のその能力とこの手鏡のことが知れ渡ると、ご主人様の身が危なくなってしまいます。」

「なるほど。じゃあこのことも誰にも言わないようにした方が良い、ということだな。ありがとな。」

俺はルートの頭を撫でる。

「えへへへ…」


「あの、ところでご主人様…エルフ王の証については何も聞かれないんですか?私、あの手鏡を見たことで言い逃れできないんですよ?」

頭を撫でられ幸せそうな顔を元に戻し、真剣な顔で聞いてくるルート。

「聞いたら下手な芝居で誤魔化すぐらいには答えたくないんだろ?言いたくなったら聞いてやる。」

「わ、分かりました。ご配慮いただきありがとうございます。」


「さて、カノンとラキエルもこの手鏡で自分のスキルを確認してみるといいよ。」


2人が手鏡を使っている間、俺も3人のステータスウインドウを開き、確認してみる。


まずはルートだ。


■ルート(女)

・エルフ(!)

・奴隷(弓使い)

・レベル10(LVUP+5)

・HP70/100(LVUP+20)

・MP34/180(LVUP+30)


ん?種族がハーフエルフでなく、エルフになってるな。

ビックリマークのところを開いてみる。


■ルート(女)

・エルフ(!)-ハーフエルフ

・奴隷(弓使い)

・レベル10

・HP70/100

・MP34/180


なるほど。何故か分からないが、ハーフエルフが隠し種族扱いになったみたいだ。

ちなみに以前カノンやラキエルを水晶玉でステータス表示した時に分かったのだが、ビックリマークのところは隠しパラメータになっているようだ。

つまり俺の能力じゃないとビックリマークのところは見れないようだ。


続けてカノンのステータスウインドウを開いてみる。


■カノン(女)

・人族(!)-魔王

・奴隷(回復術士)

・レベル2

・HP40/40

・MP140/200


■ステータス

・攻撃力3

・防御力3

・魔法力8

・素早さ2

・運10


■物理スキル

・杖1


■魔法スキル

・ヒール10

・キュア10

・リザレクト10

・ダークウインド15

・レベルダウンスモールヒール1


■パッシブスキル

・魔眼3

・魔王120


ん?レベルが2のまま変わってなくない?

ルートは5もレベルアップしたのに。

続けてステータスウインドウをスクロールさせる。


■その他

・経験値99991/100000


レベル2から3にあがるのに、どんだけ経験値が必要なんだよ。

というかあともう少しだったのか。帰る前に確認すべきだったか。


ラキエルのステータスを見てみる。


■ラキエル(女)

・人族(!)-神

・奴隷(前衛型魔法使い)

・レベル2

・HP30/30

・MP220/300


■ステータス

・攻撃力2

・防御力2

・魔法力20

・素早さ1

・運120


■物理スキル

・拳1


■魔法スキル

・ファイア5

・アイス5

・サンダー5

・ライトイーター20

・レベルダウンスモールヒール1


■パッシブスキル

・神眼10

・神90


■その他

・経験値99989/100000


こっちもかぁぁぁ。

魔王と神は伊達じゃないということか?


すぐレベルが上がると思っていたカノンとラキエルだが、予想に反し、5日掛かってやっとレベルが上がった。

経験値が1増えるのにすごい時間が掛かった感じだ。

ちなみに俺の経験値は0のままだ。


3人のステータスを見て、俺は目的のクエスト…魔法の弓が報酬のあのクエストがクリアできると判断し、挑戦することにした。

ちなみに3人のステータスはこんな感じだ。


■ルート(女)

・エルフ(!)-ハーフエルフ

・奴隷(弓使い)

・レベル13

・HP120/120

・MP250/250


■ステータス

・攻撃力8

・防御力8

・魔法力45

・素早さ70(補正+20)

・運40


ルートは、敵の攻撃を避わしながら弓で攻撃したり、ダガーでヒット&アウェイをするような、遊撃担当になりつつある。

次にカノンのステータスは…。


■カノン(女)

・人族(!)-魔王

・奴隷(回復術士)

・レベル3

・HP530/530

・MP1500/1500


■ステータス

・攻撃力206

・防御力150

・魔法力1301

・素早さ20

・運11


次にラキエルのステータスを見てみる。


■ラキエル(女)

・人族(!)-神

・奴隷(前衛型魔法使い)

・レベル3

・HP1250/1250

・MP840/840


■ステータス

・攻撃力460

・防御力207

・魔法力1440

・素早さ15

・運4150


カノンとラキエルはレベル2から3に上がっただけで、極悪なステータスアップを果たしていた。

これ、もしロールプレイングゲームだったらヌルゲー必至じゃね?


2人がレベルアップした翌朝。

そんてことを思いつつ、冒険者ギルドに到着する。


「ミラさん、とうとうこのクエストに挑戦します。」

「あ、ナツキさん、パーティ3人推奨のところを4人で挑戦ですね。でしたら私からの注意事項は特にありません。頑張ってください。」

「はい、ありがとう。」


クエストを受注し、俺達は例の洞窟に進み、そして奥にカニ達のいる石扉に到着した。

「ご主人様、気付かれていらっしゃいますか?」

ルートが俺に確認してくる。

「あぁ、だからこそ、みんなフードを被ったままにさせている。」

索敵スキルの持たない俺でも気付いてしまうぐらい、下手な尾行をしている奴らがいた。


ルートに弓を引かせ、俺は大声で尾行者に声を上げる。

「10数える内に出てこない場合は、敵対行動とみなし、攻撃を開始する!」

これで大人しく出てきてくれるといいのだが。

「1!」

「2!」

「3!」


ここで3人の女性が岩陰から姿を現した。

神官のマリアさん、剣士のアンナさん、魔法使いのアリスさんだった。


「で、なぜ尾行を?」

「その前に、そのお三方のことをご紹介いただけませんでしょうか。ナツキ様。」

「マリアさん、話を逸らさない。あと様はやめて。」

もう20分になるだろうか。

こんな感じでぐだぐだなまま、尾行の理由を話してくれない3人。


「じゃぁ俺達はもう行くから、ついて来ないでね。」

「お待ちください。ナツキ様!言います!言いますから!」


そう言うとマリアさんは尾行の理由を話してくれた。

マリアさんが言うには、自分の配下の1人が、実は人間に化けた魔物であることを偶然見てしまったとか。

マリアさんの家に伝わる文献によると、この洞窟には、悪しき者の真なる姿を映し出す宝剣があるという。

言い逃れできないよう、その宝剣で魔物の正体をみんなの目の前で暴きたい、とのことだった。


「しかしマリアさん達ではあのカニの大群に太刀打ちできないですよね?」

「ですから、あのクエストを受けたナツキ様と同行できれば…」

「マリアさんの話から推測すると、カニの大群は『ふるい』だと思う。ここを通れなくば、先に進む資格ナシ、という意味の。」

「お願いします。ナツキ様と同行させてください。お礼なら何でもしますから。」

「何でも?」

特に何をするわけでもないが、マリアさんに意地悪に聞き直してみた。

「それなら私とアリスが代わりに何でもするぜ。」

「ちょっ、アンナ、勝手に…。でもマリアを守るためなら…。」

アンナさんとアリスさんが、マリアさんの身代わりになるような方向で話が進みそうだ。

というか何の身代わりなんだろうね。と、俺は心の中ですっとぼける。


「そ、それ以前に、カニの大群を通り抜けた先で、多分、カニの大群よりも強い何かがいるはず。マリアさん、アンナさん、アリスさん、死ぬ覚悟は出来ていますか?」

ビクッとするマリアさん。

カニに殺されかけたんだから、トラウマになってても不思議ではないだろう。

「もももももちろん覚悟なら!」

足をガクガクさせながら答えるマリアさん。

これはアカン。


「マリアさん、身体の震えを止められたら、一緒に行っても良いですよ。」

止めてもきっと付いて来るだろうし、アカンな。

「ほ、本当ですか!?」

一瞬で身体の震えを止め、真剣な顔をするマリアさん。

自分の家に紛れ込んだ魔族を本気でどうにかしたい、というのは何となく伝わってきた。


「それでは、カニの部屋の扉を開けるよ。」

マリアさん達と軽く打ち合わせをした後、俺達はカニの部屋に入った。

俺が先頭、左右にカノンとラキエル、しんがりにルート。

俺達4人に囲まれるように、マリアさん、アンナさん、アリスさんを中央に配置。


俺は前方のカニを瞬殺しつつ、カノンはダークウインドで、ラキエルはサンダーのスキルで左右のカニを殲滅する。

ルートには、後ろや真横から追い付いてきそうなカニと、余裕があれば俺達の遥か前方のカニを弓で倒してもらう…いわば遊撃ポジションと言ったところだろうか。


その様子をポカーンとした顔で見るマリアさん、アンナさん、アリスさん。

この3人には、ぶっちゃけカニ達に太刀打ちできないから何もさせな…いや、力を温存してもらうことにした。


途中、ルートの矢の本数が少なくなり、武器をダガーに切り替えたり、ウインドのスキルを使い始めたりということがありつつも、俺達は無事、カニの部屋を通り抜けることができた。


「ちょっとお待ちください!!」

冷静沈着(?)なアリスさんが珍しく声を荒げる。

「ナツキさんの仲間を紹介いただけますでしょうか。」

「それはダメです。」

マリアさん、アンナさん、アリスさんにも隠し通すため、ルート、カノン、ラキエルには今もなおフードで顔まで隠させている。

「3人とも、魔法が上級スキルより明らかに上なのです。マリア、アンナ、これは異常事態です。」

「アリス、余計な詮索は無しよ。」

「ですがマリア…」

「こちらはいろいろと助けて戴いてる身。これ以上迷惑を掛けられないわ。」

「…分かりました。マリア。というわけでナツキさん、今のは忘れてください。」

なんか自己解決したみたいだ。


カニの部屋からは1本道で、ちょっと歩くと行き止まりにぶつかった。

そこには祭壇があり、1本の剣が突き刺さっていた。

その剣は、刀身が青い炎に包まれているように見えた。


「ありがとうございます。ナツキ様。これがきっと文献にあった宝剣だと思います。」

そう言ってササッと剣を抜きにかかるマリア。

罠とか大丈夫なのかこれ?


マリアさん、アンナさん、アリスさんが試したが、誰も剣を祭壇から抜くことは出来なかった。

自分の家にあった文献がどうとか言ってたのだから、てっきりマリアさんの一族にしか抜けない剣かと思っていたが、そういうわけでもないのか。


というわけで俺に白羽の矢が立った。


まずは刀身の青い炎に触ってみる。

熱くない…か。

念のため自分のステータスウインドウを開きっぱなしにしてみる。

そして剣の柄を握り、軽く引っ張ってみると…。

アッサリ抜けた。


その瞬間、刀身の炎が大きく膨れ上がり、俺の身体がその青い炎に包まれた。


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