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アオユメ

作者: Sukey

手に入らないものはない。

だからオレは決心した。



「え・・? 旅にでる?」

「うん」

「いつから?」

「明日」

「どこへ?」

「知らない」



言い捨てたオレをみてポカン・・と口を開ける。

なんなのそれ、とつぶやいてオレを見る。


だってわかんねぇもん。

しょうがないじゃん。

でも、飛び出したくてたまんねーからオレ、行ってみるよ。



「世界のどこかにアオがあるんだってさ」



小さいころから憧れてたもの。

誰から聞いたかも忘れた。

でも心に残ってたもの。

それを探しに出かけよう。


赤い空、茶色い月、夜の鳥、緑の砂、黒い朝、白い森。

そのどれも違う。どこにもないものがある。

この壁の向こうには見たこともないものが待ってる。


ただの伝説なのか嘘なのか・・。

確かめたい理由はたったひとつ。

怖くて誰も踏み込めなかった。

殺されるかもしれないよ。

オレたち、だから知らずに育って知らずに死んでく。



「そんなの悔しいじゃん」



外の世界にはそれがいっぱいあるんだって。

いろんなアオがあって、その中で一番キレーなのが「アオのアオ」。


なんだろなんだろ。

アオってなんだろ。

それ、食べれんの?

美味いのまずいの?

生きてるの死んでるの?

この指で 触れるんだろうか。

動くんだろうか。

背負って持って帰れるんだろうか。



「オレ、ずっと探してたんだ。

 でも見つからなかった。ここじゃ見つからない」 



村外れに住んでる自称、魔法使いのばーちゃんに聞いた。

お伽話か昔話か。

伝わる話は、誰かが言ったその話は真実なのか。



『むかーし、一度だけ見たことがあるよ。

 生きてるうちにもう一度見たいと思うけどねぇ・・』



それはなんとも美しく、

キラキラと輝いて人々を魅了してやまない。

しかし、脆くて壊れやすい。

触れようとするが届かない。

掴もうとするが空を切る。

手にしたとたん、透明になる。

塵となって風に消えていく。




―― 奪われる




この眼を、嗅覚を、心を。

一瞬にして奪われてしまうほど、綺麗。

おまえに見ることができるかねぇ?

いや、出来るかどうかは問題じゃない。

見たいんだから見に行く。



「信じる者には本物が見えるって言ってた。

 だから行くよ。どこへ行けばいいのかは

 わかんないけどさ。会えるような気がするんだ」



見つけられるような気がする。

っていうか見つけたい。

さわってみたい、食ってみたい。

手に入れて、それできっと帰ってくる。



「おまえにも見せてやるよ」

「・・あたしいらない」

「へ? なんで?」

「なんか怖いし・・・あんたいなくなっちゃいそうだし」

「はははっ。そんな心配すんなよ。だいじょーぶだって」



オレに任せろ!

魔物が出てきたって、イジワルな魔女に脅されたって負けない。

惑わされないし、へこたれない。



「アオ、持ってくる」

「無理だと思うけど」

「絶対だ」

「約束?」

「約束」

「破ったらどーする?」

「破らねーって!」

「もしもの話よ。もしアオを見つけられなかったら?」

「んー・・」



手ぶらで戻ってきたら・・・。

そんときは、



「おまえの言うことひとつだけ聞いてやる」

「なんでも?」

「なんでも」

「うん。よし。わかった。なににするか考えとくわ」

「あのな・・」



戻ってくるって言ってんだろ!

って言ったらおまえ、笑ってたな。



「いってらっしゃい」

「おう!」











そしてオレは出かけた。



「っ・・・」



よじ登って降り立った。

そこは果てなく大きな、大きな・・・・



「・・・・」



なんだろう。

なんて言えばいんだろう。

ただ、



「すげぇ・・・」



あまりに嬉しくて大声で叫んで走った。

すっごいな、セカイってこんな広いんだな、大きいんだな!


イキモノってこんなたくさんいるんだ。

こんなたくさんあるんだ。

その中に、この中にアオもいるんだ。



(ほしい・・・早く・・!)



オレは探した。

出会う人に訊きまくって探した。



「なぁ、アオ知らねぇ?」

「アオねぇ・・。早く手に入れたいって思うけど」



そう簡単にはお目にかかれないらしい。

うん、やっぱりな。

アオはすごいもんなんだ。

億万長者でも買えないものなんだもんな。


でもオレは諦めない。

ある人は言った。



「アオってどこにあるんだ?」

「それならほれ」

「あ?」



言われて上を見た。

広がるものが、高く高く広がるものが・・・・

ああ、これが空ってやつなのか?



「わしはこのアオが一番好きだ」

「・・そらぁ・・・」



吸い込まれそうだった。

息をするのも忘れる。

なんって広大な、包み込む、この感情はなんだろう。

そして、



「アオならそこにあるじゃないない」

「そこって・・?」

 生きものがうごめく。それも確かにアオだった。

「海っていうのよ」

「海・・」



これもアオ、そこもアオ、あっちもアオ。

どのアオもアオで、ああ、アオって・・アオって・・・



「痛いな・・」

「そうね」



痛いくらい目に染みるんだ。

けど、こんなの見たことない。

心に這入り込んでくる。

アオ、ほしいな。



「はっはっは。そりゃ無理だよ兄ちゃん」

「なんで?」

「なんでも、だ。

 オレたちはいつアオを見つけるのか知らないからさ」



一生のうちで一度だけ、たったひとつ、

自分にとってのアオを見つけることができる。

死ぬ一秒前まで出会えないかもしれないし、

もう出会ってるかもしれない。

それは誰にもわからない。



「オレのアオが・・・」

「そう。あるんだよ、この世界のどこかに」

「おっちゃんはもう見つけたの?」

「ああ。見つけたよ」



いろんな人に訊いた。

どんな場所も探した。

知らない人もいた。

手に入れた人もいた。

でもオレはまだ、それを見てない。


空を知った、海を知った、絵の具を知った、花びらを知った。

天から降る雨を知った。

焦って青くなる人も見た。

宝石ってやつも見た。

作りだした「色」も見た。

でもオレだけの、オレだけのアオがいない。



(どこに・・・)



約束を、したんです。

アオ、おまえを連れて帰るって。

見せてやるって約束をした。


だから会いたい。

アオ、おまえに会いたい。

さらいたい。

ほしいほしいほしい。

死ぬまで待ってらんないよ。

今すぐにアオ、君がほしいんだ・・・









でも、ぼろぼろになって探してもアオはいなかった。

いろんなアオに出会ったけど

オレだけのアオはどこにもいなかった。

そして、オレはまた壁を越えた。



「・・ただいま」

「!」



なにやってたの!

どこまで行ってたの!

もう死んじゃったかと思ったじゃない!

おまえはそんな風に、大声でオレを怒鳴って叱った。



「ごめん・・・」



でもオレ、約束やぶった。

見つけられなかった。



「たくさんのアオを見たよ。どれも綺麗で愛しかった・・・」



けど、空は掴むことが出来ないことを知った。

水は手にすくうと色を失くすことを知った。

花はいつか枯れる。

絵具では二度と同じ色を作れない。

空は雨という涙を流すけど

太陽は必ずオレたちを照らしに来る。

人は白くなり青くなり挫折し、

でもまた生き返り頬を赤らめて笑う。

宝石は金まみれだし作ったアオはいつか壊れる。

でも言われた。



「お話し聞かせて? そして今度はあたしの約束を守って」

「・・なににするか考えたのか?」



アオを持って帰れなかったオレに

叶えてほしいことがある、とおまえは言った。

涙、いっぱい溜めて言った。



「もう、ひとりにしちゃやだ」



初めて見たおまえだった。

ぐしゅぐしゅ泣いて、



「あんたと一緒がいい。どこも行かないで。ここ、いて」



すっごい悲しい顔して言うんだ。

ぼろっとこぼして、ぎゅぅって掴んで言う。

オレ、そのときわかった。



「・・アオだ・・・」

「え・・」

「見つけた・・・」

「なに・・?」



ゆらゆら揺れる君の瞳の奥、その奥。

指先に落ちた涙、ひとつぶ。

そこに見えたアオ、青、蒼・・・・




あ、お





「おまえだったのか・・おまえがオレの・・・」

「あたし・・?」



こんなとこに

こんな小さいとこに

ずっと

オレを待ってたアオ


愛しいアオだ

愛するアオだ



「やっと逢えたな・・」



嬉しくって、笑いたいのに泣けてきた。


それは一瞬。

どんなに願ってもこの先、一生見れないアオなんだろう。


けど、オレは確かに手に入れた。

消えない君を、たったひとつのアオを、いま、この腕に。



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― 新着の感想 ―
[一言] 世界観が幻想的で素敵だと思いました。 アオ を綺麗な表現で 色々なもので表していたところが、 良かったです。 話の最後に感動しました。
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