閑話 プロローグの裏側で その2
「・・・・それじゃお父さん、また来るから。ちゃんとご飯は食べてね?無理なら、水分だけでもいいから」
そう言いながら、娘と娘婿は帰っていった。
身重の娘にまで心配をかけて、申し訳ないとは思うが、何も手につかず、食欲もわかない。
もちろん、話し掛けられたのはわかっているが、頭の中を素通りしていって考える事が出来ない。
取り敢えず、横にはなろうと、まだ妻の最後が鮮明に残っている寝室に向かう。
辛くて苦しくて、頭をガンガンと殴られてるみたいな目眩に襲われ、目を閉じて壁に寄りかかった。
ふと、目を開けると、通夜をする為に娘が片付けたのか、妻の愛読してたラノベが目に入った。
「そう言えば、あいつが熱心に勧めてきたのがあったなぁ」
何でも、その作家は作中には出て来ない裏設定を後書きによく書くらしく、密かに本文より、そっちの方が面白く人気があるらしい。イチオシしてきてたのは、妻が読んでる時にお茶を吹きそうなって、物凄く大変だったと、僕が仕事から帰って来るのを玄関先で待ち構えて、ぷりぷりしながら話していた。
その時は、妻のその怒り方が可愛くて、つい抱き締めてしまい『話を聞いていない!』って、余計に怒らせてしまった。
そんな事を思い出しながら、妻のお勧めを探してみると、それは一番目立つところに置いてあった。
「そういや、これが一番手元にあったから、最後に読んでたのはこれじゃないか、って言ってたなぁ」
と、さっき帰っていった娘の言葉を、思い出していた。
「まぁ違っていても、どれも楽しそうに読んでたから、読んでみるか」
一番のお勧めは、やっぱりこれであってたようだ。妻が言ってたように、後書きで、つい吹いてしまった。
妻はもうどこにもいない。もう、笑えないと思っていたのに、かけがえのない妻との想い出は、ここに溢れていた。
泣きながら目を覚ました僕は、夢の中で読んだ話に奇妙な一致を見つけていた。
それは、僕の名前ともうすぐ出産をする妃の名前。
作中で一度しか出て来ず、しかも主役ではなく相手役の、それもその相手役の両親と言う、物凄い脇役と言えば脇役。
だが、まだ子供は生まれていない。
もし、生まれた児が男の子だったら・・・
あの作中に出て来た名前を付けるのも良いかも知れない。表向きは僕たち二人の名前から、って言うのはおかしな事ではないから。まあ、この世界にわかる人間はいないだろうから、フルネームもちょっと笑いそうにはなるが、いいだろう。
そう色々考えてると、産気付いてた妃が、先ほど男児を出産したとの知らせが来た。
僕は急いで、分娩の場となった妃の私室へと向かった。が、まだ処置をしてるとかで、直ぐには部屋に入れなかった。
しばらく待たされ、ようやく部屋に入り、妃の元へ向かう。
流石に疲れた顔をしているが、元気そうで良かった。
話の中でちょっとした提案をした時の恥ずかしげな顔が、僕に訴えかけてくるものがあった。
児の名前をどうするのかと問われ、用意してあった答えを言う。
僕の名前『アルフレッド』と妃の名前『ソフィリア』から『アルフォンソ』
フルネームは『アルフォンソ・オブ・アレキサンドリア』だと。
一瞬目を見張り、慌てて取り繕いつつも吹き出しそうなっているのを、僕は見逃さなかった。
ああ、君は・・・!!
君もこの世界に生まれ変わってきてくれたんだね。
今は疲れているだろう君の負担にならないように、侍女頭の言う事を聞いて部屋を出るとしよう。
君に話したい事がたくさんあるんだ。
そして改めて君に誓うよ。
『今までもこれからも、ずっと、例え世界が変わろうと、君を愛してるよ』
皇太子視点のお話でした。