閑話 プロローグの裏側で
いつの頃からだろうか?
眠ると、ある特定の人物の人生を夢に見るようになった。
不思議な事に、その人物は実際に今生きてるかの様に様々な場面を見せてくれ、しかも、住んでる所は見た事も聞いた事もないモノで溢れていた。
ある時、その人物が恋に落ちた。何故かモヤモヤした想いを抱えながら、恋人となった女性の恥ずかしげな笑顔を見た瞬間、繋がった。
コレは、僕だ!!
そう、夢に見ていたのは、自分自身の前世だったのだ。
前世を思い出した僕は、夢を見るのが楽しくもあり、また辛くもあった。
何故なら恋人となった女性は、後に妻となるが、二人生まれた僕たちの子供がそれぞれ結婚をし、どちらの初孫がもうすぐ生まれる、ってところで急に帰らぬ人となってしまったから。
原因は今でもわからない。
その日も僕は何時もと同じように仕事に行き、お昼に妻の作ってくれたお弁当を食べ、何時もと同じように
『お弁当美味しかったよ♪ありがとう♪愛してる♪
今日は19時には帰れるかな?』
ってメールを打ち、何時もならすぐに返ってくる返信が、なかなか返って来なかったが、たまに友人と長電話をしてて返信に時間がかかる事もあったので、今回もそうだろうと、昼休みが終わるまでに返って来なかった返信を気にしながらも、午後からの仕事に戻った。
仕事中、携帯を切っていた為に会社の代表番号にかかってきた娘からの電話。
その後、自分がどうやって家にまで戻って来たのかも、覚えていない。
泣き腫らした顔の娘と、急遽かけてつけてくれたらしい娘婿。
何か話し掛けられたが、まるで耳に入ってこない。
促されるまま寝室に向かうと、ベッドにはうっすらと微笑んでる様にも見える妻がいた。
ベッドの周りには、妻が趣味にして愛読しているラノベが何時もの様に積まれ、飲みかけのお茶もそのままで、声をかけると
『あ、お帰りなさい。ごめん、寝ちゃってたみたい。すぐご飯にするね』
と、起きてきそうだった。
「ただいま。帰ったよ?」
声をかけ、妻の頬に手を触れる。
何時もなら僕を見て幸せそうに、少し恥ずかしそうに微笑んでくれる妻が、瞳も開かず、僕の手にも温もりは届かず、冷たい感覚だけを伝えてくる。
「嘘だろ?なぁ、嘘だって、何時もの冗談だって・・・目を、目を開けてくれよっ!!」
身体を揺さぶり、抱き締める。
何の反応も返さない、冷たい身体。
僕は、死亡の確認の為に医者が来て、無理矢理引き離されるまで、妻を抱き締め続けた。
急死であった為、検察官による検死も行われたが、結局原因はわからなかった。更に詳しく調べる事も出来るがどうするかと聞かれたが、僕はもう妻と離れたくはなかったし、静かに休ませてあげたかったので、すぐ家に連れて帰った。
家に帰ると、悲痛な顔をした息子夫婦も来ていた。
娘や息子によって慌ただしく葬儀の準備が進められ、気が付けば納棺の手前までになっていた。
これが妻に触れる事の出来る最後。
たくさんの花に囲まれた顔は、生花があまり好きではなかった妻がしかめっ面をしそうに思え、少し笑ってしまった。
最後にもう一度、頬に触れる。
しかめっ面だったのが、少し微笑んでくれたように思えた。
「ありがとう。今までもこれからも、ずっと、例え世界が変わろうと、君を愛してるよ」
荼毘にふされ、再び僕の手に戻って来た妻は、両手に抱えられる程の大きさになっていた。
まだ、もう少し続きます