お好み焼きとビールとケンカ
昔の屋台の定番グルメ、と言ったらお好み焼き、やきそば、わたあめ、りんごあめ、たこ焼き、ベビーカステラという感じだった。
今は大分変わっているので、今の定番=何なのかはわからない。
もしかしたら、カラアゲ、チョコバナナ、フライドポテトと言う感じになっているのかも知れない。
だけどそう言われるほどに、お好み焼きの屋台と言う物は昔からある。
……つまりは何を良いたいかと言うと、昔からあるためお好み焼きはいろんなタイプに分かれていると言うことだ。
「んー、どの屋台にしようか……」
そう呟きながら、わたしは点々と点在するお好み焼きの屋台を見て行く。
殆ど、というかすべての屋台の具材はお好み焼きの粉と細かく刻まれたキャベツ、てんかす、紅しょうが、そして豚肉。
ある屋台では両手で抱え切れないほどの大型のボウルに粉とキャベツてんかす、紅しょうがを一気に混ぜ込み、大量に混ぜ込んだ物をお玉を使って油を引いた鉄板に落としていたり、またある屋台では抱き抱えるには少しだけ大きなボウルで粉を混ぜ込み……1度に6枚ずつ鉄板に乗せて行くのが見えた。
……と言うか、一度にドガッと作るのが主流なの?
浮かぶ疑問に首を捻りながら、見回していくと更に種類が分かれているのに気づいた。
それは大きさ。
ひとつはコンビニで売られているような大きさの物、そしてもうひとつはそれよりも1.5倍ほど大きい物だった。
大きく焼かれたお好み焼きは普通のヘラでは持ち上がりきらないのか、大型のヘラを使って裏返されているのが見えた。
「とりあえず、迷ったら……大きい物にしておこうかな」
決めるように呟き、大きなお好み焼きが焼かれている屋台に並ぶ。
すると、順番はすぐに回ってきたようで、わたしは注文を言う。
「一枚お願いします」
「はい、700円です!」
「じゃあ、1000円を出すのでこれで」
「はい、300円のお返しとなります。少々お待ちください!」
頭にタオルを巻いた男性店員から100円3枚を受け取ると、店員は焼きあがっているお好み焼きへとソースを塗りたくり始め、マヨネーズの容器を裏にすると小さい穴が開いているのかそこから細いマヨネーズが飛び出し……ソースが塗られたお好み焼きの上を波のような模様を描いていった。
そして、それをそこにソースが塗られた発泡スチロールの持ち帰り用容器へとヘラを使って入れられていく。……のだけど、大きすぎる上に厚すぎるからか、同じサイズの持ち帰り容器を上に被せて、輪ゴムを2本使って十字にして留められた。
最後に輪ゴムの間へと割り箸が挟まれ、ビニール袋へと入れられると差し出された。
「お待たせしましたー!」
「ありがとう」
「ありがとうございましたー!」
お好み焼きが入ったビニール袋を受け取り、今度こそわたしは帰路に付いた。
……ビール、あるよね?
◆◇◆◇◆◇
「ただいまー」
「あら? 帰ってきたの? でもご飯は無いわよ?」
「良いよ、お好み焼き買ってきたし。っと、はいお土産」
帰ってきたわたしを珍しそうに母が見るけれど、気分の問題だから良いでしょう?
そう思いつつ、母へとお土産のベビーカステラを渡すと「あら良いのに」とお世辞を言ってから、一個食べ始めていた。
そんな母の様子を見てから、わたしはお好み焼きを食べることにした。
「それじゃあ、いただきます」
小さくそう言葉にし、ビニール袋から取り出したお好み焼きの容器の輪ゴムを外す。
ぎりり、と伸びていた輪ゴムは発泡スチロールの容器を擦りながら元の大きさに戻り、指の間に収まった。
そして蓋を開けると……お好み焼きの熱が容器の中を蒸らしていたのか、蓋の上部に水滴が溜まり……ホワァとお好み焼きのソースの甘い香りが漂ってきた。
トンカツソース寄りのこの甘い香り、その匂いが鼻を擽り……口の中に涎が溜まってくるのがわかる。
味に期待をしながら、割り箸を割ると食べ易い大きさに切るべく、お好み焼きへと突き立てた。
「わっ、軟らかい……多分、山芋がたっぷりと使われているのかな?」
突き立てた箸がお好み焼きに沈み、スッと箸が動いたのを見て、わたしは驚きの声を上げる。
ス、ッス……と端のほうを角に切り、それを持ち上げると黄色がかった焼かれた生地の中にキャベツの白と薄緑色、紅しょうがの赤が見えた。
それを見ながら、先ずは一口……。
「あむ……っ。ほふ……!」
口に入れた瞬間、程好い熱さが口の中へと広がり、フワッとした食感が口の中に広がった。
同時に噛み締める度に広がって行く熱されたキャベツのザクサクとした食感と淡白な中に感じる甘い味、それと刻まれた紅しょうがのさくさくとした食感とピリリとした辛酸っぱい味わい。
それらが甘くどいソースの味と混ざり合って何とも言えない味を生み出した。
「……ここはこんな感じなのね。軟らかい食感だからペロっと行きそうだわ」
呟きながら、二口目を口に含み……ゆっくりと咀嚼しながら席を立ち、目当ての物を手に入れる。
冷蔵庫に冷やされたキンキンに冷えたビール。
そのプルタブに指を掛け、曲げた。……すると、パカッという聞き慣れた音が響き渡り、中の圧力に押されるようにシュワワと白いビール泡が洩れ出してきた。
おっと、勿体無い。洩れ出したビール泡を飲むために、口を付けるとぷつぷつと泡が口の中で弾ける食感とビール独特の苦味が口の中へと広がった。
溢れ出る泡を飲み干し、そのまま缶を手に取ると軽く傾ける。
すると黄金色の液体であるビールが中から溢れ出し、わたしの口の中へと広がって行く。
すると口の中に感じていたお好み焼きの味わいがビールの苦味に押し流されるように口の中はビールの味でいっぱいになり……それを一気に飲み干して行く。
ごく、ごくっ、ぐびっ……、まるでテレビCMにあるように喉を鳴らしながら、ビールを半分ほど飲み干し……ぷはぁとビール臭い息を吐いて一息ついた。
「お好み焼きとビール、良い組合せよねー……っと、これもあったんだったわー」
思い出した思い出した。
そう思いながら戦利品の入ったビニールを取り出し、からあげを外へと出す。
すると、カラアゲ独特のニンニク臭が周囲に漂うけれど、お好み焼き・カラアゲ・ビールという組合せがあるのだから気にしない。気にしなーい♪
「ビールの次はお好み焼きー♪ はむっ、はむはむっ……んん~~♪」
軟らかくふわっふわな食感とソースの味を楽しみ、カラアゲのカリカリっとした食感と辛味を楽しみ、それらを一気にビールで押し込む。
ふはぁ……。たまんないわぁ~~! ひっく。
「……あんたねー、お酒弱いんだから飲み過ぎないようにしなさいよ?」
「わかってるわかってる~~、あ、おにくおにく~~!」
心配そう、というか呆れ返っているお母さんにそう言いながら、わたしはフワッフワとし始めた気分の中でお好み焼きの豚肉を発見しベロ~ンと剥いた。
べろ~んと豚肉を剥かれたお好み焼きは焼かれた表面とソースを剥がれたため、そこだけ中身が丸出しとなってしまっていた。何と言うか悲惨だね~。
悲惨な現状にちょっとばかり心で涙を流しつつ、剥いた豚肉に口を付ける。
表面は焼かれてカリカリで塗られたソースの味が染み込み、裏面は蒸らされてぷるっぷるとした食感。2つの味を楽しみながら、肉をちゅるちゅると吸い上げ、モグモグ咀嚼。
「そしてビールを~~……んぐ、んぐっんぐっ……ぷはぁ~~!!」
新たに開けたビールの缶に口をつけて一気に飲み干そうとするけど、一気飲みは無理だったので缶を口から放して一気にビールとソース臭い息になっている息を吐き出した。
あ~~……、本当たまらないわ~~。
そう思いながら、お好み焼きとからあげを食べていると……遠くのほうからトントコトンと太鼓の音が聞こえ始めた。
「あ、そろそろこの近くのケンカ始まるみたい」
「そうねー。……行くにしても、酔っ払って迷惑をかけないようにしなさいよ?」
「わかってるー」
お母さんにそう言うと、わたしは家から飛び出すようにして外へと出た。
……と言うか、母ではなくお母さんといってる時点でわたしは酔っ払ってるだろうなー。
◆◇◆◇◆◇
――トントン、トントコトン。
――トントントントン、トントコトン。
2つの太鼓台が太鼓の音を鳴らしながらゆっくりと移動し、わたしたち観客の前を通り抜け……少し移動した町の一角で一定の距離を取ると両町内の太鼓台は向かい合った。
そして、太鼓の音が鳴り止むと――。
『エイヤサー、エイヤサーーッ!!』
『エイヤサー、エイヤサーーッ!!』
男たちの熱い掛け声と共に太鼓台は左右に揺さぶられ始めた。
その勢いは、片方の車輪が宙に浮き上がり……地面に落ちるともう片方の車輪が宙にという激しい勢いだ。更に中央に付き立てられたそれぞれの町内が用意した松の木や竹がバッサバッサと葉と提灯を激しく揺らし始めた。
これは所謂、威嚇行動というものだ。そして威嚇が終わると……。
『『エイヤサーー! エイヤッ! サーーーーッ!!』』
――ドギャンッ!!
両町内の青年団の男性たちの掛け声と共に太鼓台は走り出し、どの重たい太鼓台を力いっぱいぶつけた。
渾身の一撃と言う感じに思える。
事実、ビールを飲んで既にハイテンションになっているであろう彼らは腕や脚から血が出ていても、興奮していた……。
…………それで良いのか青年団? あと、高校生交じっていないことを祈るよ。ビール的な意味で。
そう思っていると、もう一度激しい体当たりが繰り広げられ……松の木の枝がバキッと折れ、地面に落ちていった。
うわ、折れちゃったよ……。
けれどそれは毎度のことなので周りは気にせず、折れた木はその町内の太鼓台の中へと入れられ……その町内の太鼓台は再び練り歩きを再開したようだった。
そして竹が挿された太鼓台が先程松の木を挿していた太鼓台の位置に立つと、青年団の手で回転させられる。
……向かい合うは、杉の木を挿した町内の太鼓台。
『ァエイヤサー、エイヤサーーーッ!!』
『ゥエイヤッサー、エイヤッサーーーー!!』
そして再び始まるドッタンバッタンとした激しい威嚇行動、からの太鼓台同士の体当たり。
それが各町内毎のぶつかり合いとなっており、それを見ているわたしを含めた他の人たちは一種の興奮を抱いているようで、おぉっと言う声が聞こえたり行け行けと煽る声も聞こえた。
わたし? わたしはある程度何の気無しに見ているだけだから、特に理由は無かった。
まあしいて言うならば……、持っていたビールをチビチビと飲みながら観戦していた。
それから30分ほど、並ぶように移動をしていた太鼓台がこの場で全てぶつかり終えると、ガラガラと牽かれながら移動を開始していった。
他でもケンカを行うのだと思う。事実、わたしよりも観戦しているのが好きであろう人たちが疎らだけどぞろぞろと歩いていくのが見える。
そんな太鼓台を追いかける彼らを余所目に、わたしは持っていたビールを飲み干すと……近くにあったゴミ箱に捨てると家に向かって歩き出した。
「ん、んん~~……! あ~、みたみた。とりあえず、明日も仕事だからはやく寝ないとな~…………はあ、明日休み出してそのまま朝から祭り満喫したいわ……」
酒に酔っ払っているからか、ここ最近の仕事の異常さに文句を呟きつつ、わたしは歩く。
……明日は何食べようかな~?
鮎の塩焼きも食べたいし、串肉も食べたい……、ああチョコバナナも食べたいかも。
食べたい物が多いなぁー……。
「……ま、明日仕事終わって祭り行ってから決めようかな?」
小さく呟きながら、わたしは家の扉を開け中へと入った。
こうして、わたしの趣味であるお祭り散策の一日は終了したのだった。
とりあえず、これで終わりにします。
この後に、鮎の塩焼きとか色々食べてるのでも書いてみたいと思っています。
ちなみに太鼓台のイメージは1.5mほどの四角形で高さが1mほどある物と思っていただければ嬉しいです。
……きゃらにおきかえるってむずかしいね。